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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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271 ゴルゴライ街道口の戦い 7


 ふてぶてしい顔をしたオレンジ長髪のハゲたおっさんは、俺に向けてニヤリとしてみせた後に金属グローブを握りしめやがった。
 俺は即座にトドメをさすべく剣を逆手に持ったけれど、そうするとおっさんが片手で俺の顔を押しのけようとしながら、反対の金属グローブで殴り掛かって来る。
 この間わずかに数秒の事だったが、剣を突き立てる瞬間に顔を捻りながらのパンチは的確な動きだった。

「うおっ、何しやがる!」

 金属グローブのパンチをまともにもらってしまえば、脳みそを揺らされることは間違いない。
 トドメを刺すのは後回しにして、俺はただちにそれを回避しながら、その代わりに相手のアゴをめがけて膝の攻撃を喰らわせてやることにした。
 ガツンと膝を突き立てながらすぐに立ち上がり、剣を改めて構えなおして今度こそトドメをさそうとする。

「ぐぬっ若ぇのやるじゃねえか!」
「お前がミゲルシャールだな!」

 短剣を引き抜いたオレンジハゲのおっさんに俺が激しく肉薄した。
 だが逆手に構えたのが失敗で、この構えは映画や時代劇ドラマで見ればかっこいいスタイルだが、恐ろしく動きが限定される。
 周囲の敵が急いでオレンジハゲを助けようとしたものだから、おっさんが転がっているうちにトドメを刺す事に失敗した。

「くっそ邪魔するなよ!」

 それがオレンジハゲを立ち上がらせるスキになってしまい、あわてて構えなおすスキを突いて距離を詰められると、何度も激しく撃剣を叩きつけられるハメになった。
 距離が接近すると、長剣のメリットはあまりない。

「そういう若ぇのは何モンだ、んっ?」
「俺の名はシューターだ! 全裸を貴ぶ部族とか全裸の守護聖人とか言われているけどなッ」
「はんっ?!」

 それで十分に俺の立場が理解できたのだろう。後頭部の長いオレンジ髪を振り乱しながら今度は俺から逃げようとけん制しつつ、攻撃を何度か仕掛けてきた。
 明らかに相手が悪いと俺のことを思ったのだろう。

「貴様が売女騎士の情夫野郎かよっ。こんなところでバッタリ遭遇とはな!」
「運が悪かったな、大人しく死ね! 死ね!」

 だが問題はこの壮年のおっさんは六〇絡みと聞いていたのに、かなり快活に動き回ってくれやがる。
 いや、それだけオレンジハゲのおっさんも必死なのだ!

「おらよ、力んでると剣が届かないぞっ」
「ちいっ」

 短剣を巻き上げてやれば、もはやオレンジハゲに勝ち目はない。さあここで改めて張り倒して、止めを刺そうと激しく肩からオレンジハゲの胸に体をぶつけてやった。
 どうっとオレンジハゲは重たい甲冑のまま、吹き飛ばされることになる。
 これで混戦の中で、こいつの息子と同じ目に合わせてやる。首級を刈り取ってやるのだ。

「総指揮官さえ討ち死にしてしまえばお前の軍勢は終わりだ!」

 だが俺がオレンジハゲのおっさんを攻撃する事は二度となかった。
 なぜならばこの混戦のブルカ同盟軍本陣の中に、ふたたびフルプレートを着こんだ騎士たちの集団が飛び込んできたからだ。

「辺境伯さまをお守りしろ! 全員抜剣、接争ッ!!」
「うおおおおおっ!」

 まさに鉄塊の集団である。
 これまでどこに隠れていたのかと文句を言いたくなるが、そんな派手な出で立ちのフルプレート集団が俺だけをめがけて突撃してきたものだから、俺はあわてて剣で連中の攻撃を跳ね上げながら距離をとった。

 武器にこだわるな!
 敵はみんな防御力の高いフルプレートメイルを着用しているが、という事は逆に防御力を重視するあまり機動力に欠けるはずだ!
 実際、俺に向かって駆け込んで来た甲冑集団は、勢いこそあったけれど個々に見れば動きは鈍いものだった。

 軍馬にでも乗っていれば話は別だが、ひとまず最初に俺のところに来た敵の剣を引き落してやりながら、体当たりで思い切り横に飛ばしてやった。
 返す剣で、攻撃が通じる事などまったく期待せずに、むしろ剣の腹を使って別のフルプレート野郎の腕をしたたかに叩きつけてやる。
 そのまま足を入れて転がし、次に攻め立ててきた敵の剣撃をどうにか受け太刀してやったのだ。

「ご主人さまをお守りしろ! シューターさまに指一本触れさせるなッ」
「ミゲルシャールさまをお救いするのだ、命を惜しむな!!」

 ほとんど同時にそんな言葉がブルカ同盟軍本陣で敵味方から沸き起こる。
 一方は間違いなく男装の麗人のもので、それに呼応した様に、短弓を射ち放ったけもみみの姿が視界の端に映り込んだ。そして荒々しく剣を振り回しながら男装の麗人や、雁木マリたちが駆けつけてくるのがわかった。
 反対にフルプレート戦隊は、何が何でも総指揮官であるオレンジハゲをお守りするために、こちらに向かって決死の突貫を繰り広げていた。

「くっそ、邪魔するんじゃねえおら!」
「絶対にここは通す事まかりならんっ。ミゲルシャールさまお逃げくだギャー」

 重武装の敵にぶつかっていき、勢いで足をかけて張り倒したり、首を持って投げ飛ばしてやる。それでも仲間の犠牲など気にしない勢いで、あべこべに体当たりをしてくる重装騎士たにち、あと一歩、あと少し先にいるミゲルシャールを、連中に引きずって逃げられそうになってしまう。

「マドゥーシャ、やれ! あれを止めろっ」
「え、でもこれだけ敵味方が入り乱れていたらさすがに……」
「あれを逃したらこの戦争に負けるんだ、やるんだ! 大爆発させろっ」
「は、はっはい!」

 俺の叫び声は、少し離れた個所から強力な魔法を得意としている女魔法使いにすればささやかな攻撃だけに推しとどめていた彼女に、しっかりと届いたらしい。
 目の前で重装騎士の盾を形成してオレンジハゲを逃がそうとしている敵に、何としても足止めをさせなければいけない。
 俺もタックルを切りながら剣で追撃をしたり、その剣では攻撃が通じないと見るや蹴りを入れて、どうにか前に追いすがろうとするのだが、

「行かさん、行かさんぞ……」
「どけっ糞ッタレめ!」

 足に縋りつく重装騎士を蹴り倒してその首に剣を指し込んだ瞬間に、女魔法使いが護符をめらめらと燃やして、魔力を集中させ始めたらしい。
 眼の前の敵はどうか。
 スクラムを組む様にして妨害しているフルプレート戦隊の向こうで、ブルカ騎士数名が駆け寄って来るのが見えた。
 やばい、あれを見過ごしたらミゲルシャールを助け出されてしまう。

「い、いいですかシューター閣下? そろそろ魔法が発射できますけどっ」
「ここであのハゲを見逃したら、次にこんな機会はないぞ! 俺たちは負けてしまうんだ!」
「わわっわかりました、それでは――」

 そうしてマドゥーシャは、大地を震わせる様な激しい魔法を使ったのである。

「フィジカル・マジカル・アンタッチャブル!」

 何だその魔法はと、全員が思ったかもしれない。
 突然空間にひずみのようなものが出来たかと思えば、そのひずみはどす黒く周囲の光を吸い込んでいくように濁り、最後にはそのひずみが逆転する様に衝撃波を射出したのである。

 俺は確かに何もかもを無視して攻撃をしろと命じた事は確かだ。
 ともすれば俺自身も巻き込まれてしまうかもしれないし、家族にも怪我が発生するかもしれないとは思った。
 けれど、さすがにこのファンタジー世界で、戦術核弾頭や燃料気化爆弾の様な、周辺の何もかもを破壊してしまう様な凶悪な魔法が存在するとは思っていなかったからだ。
 してみるとこのアンタッチャブル魔法は、文字通りアンタッチャブルだったらしい。

 空間がひずんだ様なそこから打ち出された衝撃派みたいなものが、スクラムを組んで通せん坊でもしようとしていた重装騎士を丸ごとその一撃で、かき飛ばしてしまったのである。
 もちろん俺も、近くで弓を構えていたけもみみも、そして男装の麗人も、その衝撃はによって地上から浮かび上がり、そして空気圧だけでぶっ飛ばされたのだ。

     ◆

 意識はこの瞬間に途切れてしまった。
 たぶん空気の塊の様なものを顔面に受けた時に脳震盪でも起こしたに違いない。
 ついでに、そのまま天幕も何もかも、軍馬も人間もありとあらゆるものを巻き込んで空気が爆散した。
 生きているという事は、炸裂規模だけは燃料気化爆弾でも爆発したような衝撃に(経験した事はないけど)巻き込まれたものの、燃焼して空気まで奪われて苦しんだわけではないらしい。

 燃料気化爆弾は気化した燃料に引火して、周囲一帯の空気を根こそぎ燃やし尽くして、ついでに爆発威力と、その後の失われた空気の場所に暴風が襲いかかるという、滅茶苦茶な威力があったはずだ。
 近くにいた人間は酸欠で死ぬとかも聞いた事がある。
 モノの本によればそういう結果が描かれていたと思うが、もしかすると俺の記憶違いかもしれない。

 俺は運がいい。
 生きている事は重たい瞼を持ち上げたところで理解できた。
 周囲にいたはずの雁木マリの姿やけもみみ、男装の麗人の姿を探し求めて首を動かそうとしたけれど、それがすぐには叶わなかった。
 さすがに、無傷というわけにはいかないんだろうね。
 でも不思議と痛くない。
 もしかすると首か背中をやってしまって、不随になちゃったのかもね。

 しかし、しばらく眼をパチクリしていると、そこには俺の顔を覗き込んでいるみっつの顔が見えた。
 大正義カサンドラと、女領主アレクサンドロシア、そして野牛奥さんのタンヌダルクちゃんだ。

「お兄ちゃん、わらわもそろそろ膝がしびれてきたのだがのう?」
「あのう、シューターさん。これはいったい何が起きたのでしょうか……」
「本当ですよう旦那さま。いつの間にか全裸になって倒れているし」

 爆風によって俺はどうやら全裸になってしまったらしい。
 たいへん遺憾だ。今回こそは全裸にならずに大勝利するつもりでいただけに、とても遺憾だ。いかんねえ。いかんいかん。

「いやあ、マドゥーシャに命じて逃走を図ったオレンジハゲにとどめを刺そうとですね……」

 俺は言い訳をしてみた。
 どうやら体を動かすのは難儀でも、口はしっかり流暢に動き回るらしい。

「それがどうしてこうなるのだお兄ちゃん。あそこでガンギマリーも全裸姿で陣頭指揮を執っているんだがな。どう説明してくれるんだ」
「え?」

 俺が女領主の言葉につられて首を動かそうとするが言う事を利かない。
 すると女領主がフムと鼻を鳴らして、強制的に首の向きを変えてくれた。

「すまないねぇ奥さん」
「妻として当然の事だからな。見えたかの?」

 してみると、視線を向けた先で生まれたままの姿になった雁木マリが、何やら女魔法使いを正座させて説教している姿が見えたのだ。

 意外とみんなピンシャンしているらしく、吹き飛ばされて全裸になった男が別の誰かを助け起こしたり、敵の全裸ブルカ兵や全裸ブルカ騎士と思しき人間を拘束している姿が見えた。
 全裸で両手を頭の後ろにまわして、集団で整列しながら移動している捕虜らしき姿も見える。

「どういう事ですかねえこれは……」
「シューターさん、それはわたしたちが聞いているのですよ?」
「そうですよう旦那さま」

 俺の驚きに対して、とても嫌そうな顔をした大正義カサンドラと、最近義姉に表情がタンヌダルクちゃんが睨み返して来たのだ。
 女領主は膝がしびれるのだがと、繰り言を呟いていた。
コミックマーケット参加のため、数日の更新お休みをいただきます。
帰宅後改めて更新を再開予定です!
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