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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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閑話 その頃のカラメルネーゼさん

 この時、ゴルゴライの領境を犯して攻め寄せたブルカ同盟具の軍勢は一五〇〇〇にも及ぶ大軍だったらしのです。
 らしいというのは、婿殿の奴隷ベローチュさんの指示によって情報収集活動に携わっていた傭兵モンサンダミ―が、詳細がもたらされたからですわ。
 彼は傭兵という立場を利用してブルカ同盟軍側の一隊の中に紛れ込んでいたらしいのです。

 ブルカ領軍もその寄騎である辺境諸侯たちも、ドロシアさんとの決戦が将来不可避と判断された時点で、あちこちから冒険者や傭兵たちを自軍に組み入れようと募集をかけていたそうですわね。
 ただしブルカ辺境伯の軍隊ほど、他の同盟軍の諸侯たちは臨時募兵は上手くいっていなかったのです。

「理由は簡単だ。辺境伯さまはブルカの街という都会を領内に持っているから傭兵や冒険者も集めやすいし、領民の数も頭ひとつ飛び抜けてる。逆に俺たちの故郷なんてのは、畑があるだけで他に何もない田舎だからな、賃金の払いが悪いので、ひとも集まりにくいってわけだ」

 モンサンダミーさんがある諸侯の募兵に応じて志願したところ、あまりにも応募者の集まりが悪いのを見て質問してみると、面接を担当した村の幹部がそんな事を言ったらしいのですわ。
 村の幹部とは言っているけれどそいつも元は雇われの傭兵らしく、たまたま帰省しているところに捕まってしまったのだとか。

「なら、今から俺が志願したんでも間に合う問いわけか」
「そうだぞ。この戦争はブルカさまの大勝利というのだけは揺るぎないものだからな。ブルカさまのおこぼれを期待した連中はみんなブルカさまの傭兵になったし、一攫千金を狙う傭兵どもはサルワタさまの方に夢を見てそっちにいったぜ」

 だからあんたみたいなのは珍しいんだと笑って面接した幹部が教えてくれたらしいのだ。
 最初はブルカ辺境伯の傭兵募集に参加して情報収集していたモンサンダミーさんなので、いったん情報を届けるために離脱した以上、もうブルカ領軍の傭兵に応募する事は出来ないのです。
 しかも戦闘職種の募集はすでに停止していたらしく、好都合なことにモンサンダミーさんはギリギリになっても人数の集まらない領主のところに応募したわけです。

 その領主の所領というのが、ツダ村だったのですわ。
 この夏、ドロシアさんに呼ばれて訪れたあの村です。ドロシアさんとカーネルクリーフ騎士修道会総長が会見を行った場所ですわね。

 ブルカの街中で王国兵団と騎士修道会が戦闘になり、あげくカーネルクリーフ猊下が暗殺されるという前代未聞の政変になった舞台裏を探るためには、やはりブルカにごく近い場所で情報収集するのがいいとモンサンダミーさんは考えたらしいですわね。

 反対に婿殿はそこまでの事情を考慮していない段階だったので、ほぼドロシアさんがモンサンダミーさんを送り出した同時期にニシカさんとわたくしを情報収集に送り出したけれど、ブルカの街の中に踏み込んで事実確認をする事は困難でした。
 戦時下であるからブルカの街に入るのは容易ではないけれど、ブルカ近郊の村ならば上記の兵員不足の事情もあって近寄りやすかったというのもあります。

 しかし面白い事もあるものですわね。
 というのも、戦時下に移行して街への人間の流入を厳しく制限を設けたブルカには、通常の方法でわたくしたちが侵入することが不可能だとわかったのです。
 だからわたくしも、モンサンダミーさんと同じ方法をとるべくブルカ近郊の村を訪ねて回っていたのだけれども、そこで偶然にも傭兵に志願したモンサンダミーさんと鉢合わせになったのです。
 傭兵としてブルカ同盟軍側に参加するのであれば、上手く接触して兵士たちから集めればいいのだと、わたくしは思ったのですが……

「偶然の一致とは面白いものですな、こんなところでカラメルネーゼさんに顔を合わせるなんて」
「それはわたくしのセリフですわ。それであなたははここで傭兵として雇われたというわけですか?」
「まあそういう事になりますな。ツダの村長さまは、どうもブルカさまの寄騎をしているものの、あまり快く協力しようという気分ではないらしい事はわかっていますぜ」

 ツダの領主さんは、カタチ格好がつく程度の募兵を済ませて軍勢を整えたところで、ブルカ同盟軍の集結命令に従ってブルカの郊外に向かう事になりました。
 わたくしも貴族軍人の端くれ、出自は隠すにしましても戦場経験があると言えば募兵に加わる事ができました。

 こうしてブルカの市壁が見える場所までわたくしたちがやってきたところ、あれを見てください、とモンサンダミーさんが言いました。

「ブルカさまの命令と、それから新しい騎士修道会の総長という人物からの命令で、教会堂の司祭さまたちが従軍する様に命令が届きましてな」
「カーネルクリーフさまがお亡くなりになって、騎士修道会や聖堂会の内部でも今後どうするかというのに大きく二派に別れて対立をされているという事ですわね……」

 ガンギマリー卿がそれを聞けば、激しく心を痛めたことでしょう。
 ブルカ辺境伯に味方する事を決めたブルカ聖堂の残留組たちは、新たな人事を発令して後任の総長を勝手に選出し、そしてブルカ同盟軍側の支配地域ではブルカ辺境伯へ戦争協力を命じられたらしいのです。

「ツダの村の司祭さまというのは、何でもサルワタの司祭さまとは同期で仲がいいらしいですな」
「そうですわね。カーネルクリーフ卿との会見がツダで行われたのも、その縁があっての事らしいですわよ」
「なるほどなあ。村長の騎士爵さまというのも熱心な女神信者らしくて、正直なところを言うとかなり困惑しているという事らしいですぜ」

 ツダ村の村長も司祭も、カーネルクリーフ派とでもいう立場だったのでしょうね。
 戦争に駆り出される事になったツダ村の宗教関係者たちは、普段の法衣の上に鎖帷子を着こんで槍を持ちながら行軍に参加していましたわ。
 みなさん微妙な顔を並べて、嫌々ながらブルカ郊外の大兵営に整列するために歩かされているという雰囲気ですわ。

「騎士修道会の反乱はもちろん、司祭さまの言葉を聞いている限りブルカさまのでっち上げです。というよりもツジンという男があちこちで暗躍していた事がわかっていますからな。サルワタやゴルゴライでも見かけられたという例の男です」

 情報は届いていますかね、とモンサンダミーさんが傷だらけの顔をわたくしに向けたところ、ええもちろんですわと返事をしておきました。
 その名前は稲妻作戦に参加していたメンバーにもたびたび届いていたし、やはりこれも作戦の神様などと言われているツジンの仕業なのだとモンサンダミーさんは確信したわけです。

「それでニシカの姐さんはどうしているんですかい? あの方も一緒にブルカに来ていたと言っていたじゃないですか」
「あの方はですね、ブルカの城郭を超えるのならば夜の方がいいと仰って、途中から別行動になったのですわ」

 わたくしは蛸足の猿人間です。
 お恥ずかしながら人間の体に八本足の触手がプラスされている体なので、隠密行動で城壁を乗り越える様な事は簡単にはできません……
 なので当たり前に城門を通過できないとわかった段階で、別行動を選択せざるをえなかったのです。

「へえ、ニシカ姐さんならまあ出来そうではあるけど。あのひとを独りにしてしまって平気なのですかね?」
「わたくしがどこに向かったかは存じておりますので、必要な情報を得た後には戻ってくると思いますわよ。それにしても、」

 一五〇〇〇という軍勢は、わたくしたちが当初予見していたブルカ同盟軍側の動員力を、はるかに上回る兵士の数でした。
 それがブルカ市壁を前にした広い平野部に集結して、各諸侯ごとに隊列を整えていたのですから、壮観のひと言でしょう。

 そのうちの半数がブルカ辺境伯の領内から集められた戦士である事も、ミゲルシャールの支配力がいかに強大であるかを物語っていますわ。
 ここだけではなく、その時点で前線にはそれとは別に一万余りの軍勢が張り付けられているのです。常備の戦士だけでなく西部国境地帯に供出していたブルカ兵の最精鋭部隊を加え、さらに傭兵や冒険者からなる臨時の雇い部隊も加えてこの数なのです。

 そして残りの軍勢も、ブルカの街から本土へと続く比較的安定経営が行われている辺境西部の諸侯たちが、大小の戦士たちを率いて駆けつけてきたのだから恐ろしい。
 彼らがこれだけの軍勢をブルカ伯のところへ届けてきたのは、それだけブルカ辺境伯の影響力が辺境で並ぶものがいないというのもあるのでしょう。
 と同時に、カーネルクリーフ猊下の失脚が起きた事でより協力的な姿勢をブルカ同盟軍に参加した諸侯たちは示していたのですわ。

「勝ち馬に乗らなければ、領地経営もままならない。貴族とはさもしい生き物に成り下がってしまいましたものですわね」
「しょうがねえですよ。物事ってのは一面しか人間には見えねえんです。ブルカさまとツジンという男が何をしているのかまで知れば、また別なんでしょうけどな」

 この時点でブルカ伯の独立建国という野心を知っている人間は、盟主連合軍側にしかいない。
 もちろん檄文を作成して辺境各地や王都中央への訴状も送り出されていたけれど、それを真に受けた人間がどれだけいたのか謎ですわ。

「もうまもなく王国に盟主連合軍の有力諸侯が署名した起訴状が届いている事ですけれども、政治力学によって揉み潰される可能性すらあるのですわね」
「そしてそれが揉み潰される様な事になれば……」
「わたくしたちの勝利が遠のく事になりますわ。それをさせないために、ニシカさんにはわたくしの商会に充てて書状を持たせておりますの。ご安心下さいましな」

 実家が本土に領地を持つ子爵家で、奴隷商人をやっているわたくしだから出来ること。
 同じく実家が宮廷伯をしているマリアツンデレジアの手管だけでなく、経済界方面からの伝手を使って訴えを上げるというのは、これはきっと何かの形で効果が出るはずだ。
 わたくしはそういう風に考えて自信の色を見せました。
 作戦とは常にいくつもの可能性を考えて手をうち、そのうちのひとつでも成果が出れば幸甚というものですわ。
 ドロシアさんは政治的な物事を毛嫌いなさっている傾向が非常に強いのですから、ここはわたくしが家族としてサポートに徹するべきでしょう。
 ここでわたくしの価値を示す事が出来れば、当然シューターさまからも……
 ふふふ、あはは。おーっほっほっほっほ!

「どうしましたかい、カラメルネーゼさま?」
「な、何でもありませんわよっ」

 奴隷商人は戦時下になるととたんに忙しくなるビジネスのひとつなので、ここを上手く使えば本土と辺境、あるいは前線と辺境のやりとりはかなりやりやすくなる筈ですわ。
 そんな事を考えながらわたくしが整列するブルカ同盟軍の兵士たちをぼんやり眺めていると、

「オレンジ色の髪をした騎士さま? ブルカ辺境伯のお身内ですかしら……」
「ああ、確かなことはわかりませんが、ブルカさまのご嫡男でフレディマンソン卿という青年だそうですぜ。ブルカさまには奥さんだけで三〇数人いるという事ですが、今のところ後継者と目されているのがあの方ですや」

 三〇人もご夫人のいる殿方などと、どうして結婚したがる女がいるのでしょうね。
 わたくしにはさっぱり理解できない話ですわ!
 そうしてモンサンダミーさんがアゴで示したフレディマンソン卿と思しきオレンジ髪青年騎士を見やっていると、その側に眼鏡をかけたひとりの修道士の様な壮年がいるのを発見しましたわ。
 軍馬に乗る姿は修道士とは思えない様な異様な闘志をまき散らしている。
 かといって修道騎士の様に武人肌の宗教家という風でもない。

 大きな額はある意味で知性的な雰囲気をもたらしているけれど、その一方で不思議なガラス玉の装飾を鼻にかけている。
 ガンギマリーさんと同じものであるそれを見た時に、ふと背筋が戦慄する様な思いに至りました。

「も、モンサンダミーさん」
「どうしたんですかいカラメルネーゼさま、急に俯いて」
「あれはもしかしてシューターさまの仰っていた……」

 作戦の神様?!



     
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