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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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268 ゴルゴライ街道口の戦い 4


 凄まじい衝撃とともに俺は吹き飛び、そして背中をしたたかに打ち付けた。
 ミノタウロスの甲冑を着こんでいたので振動が体全体に広がるのだが、そのまま勢いに任せて後転しながら起き上がって見せた。
 運がよかったというか、どうにか衝撃を利用したから出来たというべきかもしれない。
 その間に鎧の胴体に刺さった矢は折れていたが、どうやら胸元の野牛の顔を模した張り出しに見事に刺さっていたらしい。
 ここは厚みがある場所なので、鎧を貫通する事が無かった様だ。
 いいね!

「何だ、生きているぞ……!」
「あの全裸将軍というのは無敵なのか?!」

 敵は俺が刃広の長剣を構えなおしている姿を見て、何事か囁き合っていた。
 だがそんな事を気にしている場合ではなく、また次にどこからともなく強烈な強弓が襲ってくるとも知れない。
 あえて敵味方が混戦になれば狙撃も難しくなる事を、アドレナリンによってやや冷静さを欠いた思考の中で俺は判断した。
 だから肩担ぎに剣を改めたところで、密集したブルカ兵の集団に斬りかかった。

 騎射弓兵の後続からやって来たブルカ勢が、次々と俺たちアレクサンドロシア隊のみんなと激突している。
 俺もそうしたブルカ兵のひとりを力任せに肩から斬り伏せると、隣でビビった顔をしていた男を前蹴りで蹴り飛ばしたところに、長剣を突き出してトドメを刺した。
 そのまま右に左にと剣を振り回してさえいれば、もう俺を狙う狙撃は来ないはずだ!

「何っ?!」

 というわけにはいかなかったらしい。
 またぞろ鋭く衝撃のある矢が襲いかかってきたのである。
 ただし今度は運がよかったのか、咄嗟に体が動いたのかは知らないが、恐怖の色を浮かべながらも俺に襲いかかって来たブルカ兵の腕を掴んで、そいつを盾にしてやった。
 見事にその哀れなブルカ兵の胴体を貫いて、鏃の先端を体外にまで突き出す弓勢である。

「ご主人さま、ご無事ですか?!」
「何処かに狙撃兵がいるぞ。全員散開しろ!」
「シューターさん、敵の攻撃はあっち側から行われているよッ」

 短い間に男装の麗人と俺、そしてけもみみが叫びながらやり取りした。
 こういう時にニシカさんがいれば、どれほど頼りになっただろうと思う。
 確か触滅隊を討伐する時のニシカさんが、まさに今俺が喰らっている様な狙撃を、単独行動でしながら敵を大混乱に陥れたのを目撃している。

「お兄ちゃん、何をまごついておるのだ!」

 馬上からアレクサンドロシアちゃんの叱咤する声が飛んで来た。
 すでにガンギマリー隊やッヨイ隊の攻勢が開始されたと見えて、俺たちアレクサンドロシア隊の側面からも前進を開始しているマリアツンデレジア隊やデルテ隊の姿も見えている。
 俺たちの周辺も、すでにブルカ兵どもが押し返されて味方ばかりの姿が目立っていた。

「アレクサンドロシアちゃん、狙撃兵だ。敵の中から、あの方向、あちらからかなり腕のいい弓兵が狙撃を加えてきている」
「狙撃兵だと? 案ずるな! そこな魔法使いよ、わらわと協調してそれを潰すぞ!」

 俺はあわてて彼女に頭を下げる様にと助言したつもりだったが、まるでどの様な攻撃も自分には絶対に当たらないという表情で、自信満々に背筋をピンと敵方向を見据えている女領主である。
 ご氏名を受けて馬を近付けた女魔法使いは、直ぐにも新しい護符を両手に持ってアレクサンドロシアちゃんの指示する方向に構えて見せた。

 いざとなればアレクサンドロシアちゃんの盾となる事を求められているのだ。男装の麗人が連れてきた俺の馬に急いで跨る。
 しかしミノタウロスの甲冑は防御力が半端ないな……

「あそこだよ! 変なお化粧の、オレンジ色の髪の毛をした騎士が見えるよ」
「何っ?! おい女、特大の魔法を射込んでやれ敵の攻撃を妨害できればそれでよい」
「ははいっ」

 けもみみの指し示した方向に、何か先ほどの強弓を使った相手が存在しているらしい。
 俺は男装の麗人や後続から来たタンヌダルクちゃん、ハーナディンたちとうなずきあって、女魔法使いの攻撃と共に飛び出す用意をする。
 女魔法使いも荒い言葉遣いの女領主に圧倒されながら、必死で護符を燃やして特大のファイアボールを発射するのである。

「よしあそこに突撃だ、次の矢を討たせる前に仕留めるぞ!」

 女領主の命令に従って、俺たちは駆け出した。
 最初の勢いが潰されたブルカ兵側である。騎射弓兵隊たちは数十騎の小集団で俺たちが揉み潰した後だから、歩兵のブルカ兵を相手にこちらがアレクサンドロシアちゃんの魔法で血路を切り開きながら突貫だ。

 女魔法使いベローチュが、普通では考えられない大火力魔法を護符を使って連発可能という特性を生かして、俺たちはオレンジ髪の狙撃兵に何もさせない様にしながら接近した。
 馬術ではこの中でたぶん一番下手か、カサンドラに次いで下手な自覚があったけれど、他のみなさんは戦いながらなので速度だけに気を使っていいわけではない。
 一方の俺は右にベローチュ、左にエルパコと馬術巧みなふたりに加えて女魔法使いがブルトーザーの如く道を切り開くので、どうにかそれについていけばいいという状況だった。

 そしてついにオレンジ髪の狙撃兵というのを目撃した瞬間に、すぐ横に馬を並べて走っていたアレクサンドロシアちゃんが激昂したのである。

「やはり貴様はマリリンマーキュリーであるか! お兄ちゃん、あれを始末しろ!」

 突然豹変した態度で恐るべき顔をした女領主であるけれど、その言葉、怒りに乗せて強烈なファイアボールを両手で射出した。
 アレクサンドロシア怒りの熟女ビームは、おかしな顔をしたピエロみたいな男に向かって発射されたのだ。
 そう、女領主が激昂した相手というのは本当にピエロみたいな顔をして頭のおかしい狙撃手だったのである。

「クックック、サルワタの売女騎士とこんなところで顔を合わせるとはねえ! だが俺っちはこんなところで死ぬわけにはいかないんだぜーっ」

 アレクサンドロシア怒りの熟女ビームは、一撃が道化野郎の肩口をかすめて不発に終わった。
 二発目の熟女ビームは、その執念からか振り返って逃げをうちはじめた道化野郎の背中に、確実にぶつかった気がする。
 だが平気な具合で、いや本当に平気かどうかはわからないが、馬を走らせてなおも逃げようとしている。

「ヤツはオレンジハゲめの、ミゲルシャールの息子のひとりだ。ここで逃せば後々になってやっかいだぞお兄ちゃん!」

 魔法攻撃のために槍をお股に挟んでいたアレクサンドロシアちゃんから、その豪華な槍を俺は奪い取った。
 もちろん無言でだ。
 そのまま後先も考えずに馬に鞭を入れると、大混乱で逃げ回る敵などお構いなしに俺は単騎で駆けだした。
 マジかよ、こんなところでミゲルシャールのご子息とご対面かよ!

「ご主人さまお待ちくださいッ」
「旦那さまあ、馬列を揃えて向かいましょうぅ」
「シューターさん!」

 背後から俺に追いすがる家族たちの言葉は聞こえてくるが、自然と俺は何かのスイッチが入っていた様だ。
 たぶん周囲から見ればかなり無様な馬の疾走姿だったに違いない。
 それでも我武者羅に、それこそ追いすがる様にして馬を叱咤し、己を叱咤しながらオレンジ髪をなびかせる狙撃兵に迫った。
 背後周囲に仲間たちがいる事は感じているが、ここでこの男を仕留める事がいかに重要なのか、何となく直観的に俺はそれを悟っている気がしていた。

 眼前を走る馬は少しずつ近づいてくる。
 この瞬間にもどうやら味方が魔法攻撃などをして、馬の進路を妨害したりオレンジ髪の狙撃兵の背中に攻撃を仕掛けたりしているのだ。
 だから徐々にその距離が狭まって来るのを実感して、俺はいよいよ馬上からその男の背中に向かって飛びかかったのである。

「逃がすかおら!」
「糞ッ何なんだよお前ぇはよう?!」
「俺の名はシューターだ、覚えていやがれ」

 そう叫んだところで強引に体を振って、道化野郎の馬に飛びついたところから地面に引きずり落としてやる。
 俺もしたたかに地面に叩きつけられたが、息が詰まる様な思いなのをぐっとこらえながら槍を構えた。
 アレクサンドロシアちゃんがどこからか仕入れてきた、とても重厚な造りの槍をぐっと握りながら、道化野郎が剣を引き抜くよりも早くにその肩口に深く差し込んでやった。
 相手が痙攣したり、槍の柄を握ろうとする前にそれを引き抜いてやる。

 完全に驚いた顔をした道化野郎の顔は、暴れて地面に叩き落された時に化粧顔が歪んでいて、不気味な形相になっていた。
 そこへ、俺がもう一度槍を繰り出す。完全に道化野郎の首に槍が深々と刺さり、今度は体重を乗せて勢いよく叩き倒す格好で押し込んでやった。

「敵将マリリンマーキュリーを、スルーヌ騎士爵シューターさまが討ち取ったぞ!」

 そう叫んだのは誰だろうか。
 俺は肩で荒い息をしながら槍を手放すと、長剣で周辺にいたブルカ兵を斬り倒しながら威嚇していた。
 もはや意識よりも先に体が反応して戦場に立っているという感じだろうか。
 素早く駆けつけたタンヌダルクちゃんが馬から飛び降りると、荒い息を繰り返している俺の周辺で必死の抵抗をしていたブルカ兵の数名を撲殺していた。
 どうやらエルパコとベローチュも同じ様に馬を飛び降りると、素早く道化野郎の首を斬り落としている様子だ。

「やったなお兄ちゃん、敵が総崩れになったぞ! いっきに押し込んで倒す!!」

 そんな風に馬上から手を差し伸べてきたアレクサンドロシアちゃんの声が聞こえた様な気がした。
 俺はたぶん鬼人だか狂人だかになったような表情をしていたらしく、その手を差し出したものの女領主の顔をが引きつ入っているのが視界の端に見えた。

「大丈夫だ、俺は大丈夫だ。このまま敵を押し込んで、ミゲルシャールの首を取ろう」

 すでに激しい戦闘を繰り返していた俺の体は、矢を受けた左の肩パットが脱落し、そのまま鎧の一部が欠損しているという地獄からよみがえった様な格好をしていた。
 幸い、この強靭なミノタウロスの甲冑のお陰で、怪我らしい怪我はまだ受けていないらしい。
 だが俺の乗っていた馬は、残念ながら敵の槍によって刺し殺されてしまった様だ。

 アレクサンドロシアちゃんの馬の後ろに乗った俺は、そのまま戦場全体を見回した。
 猛気持ちはまだ収まるところを知らず、ともすればまだ暴れたりないという想いが沸き上がって来る。
 まるで俺のそんな気持ちが伝播した様に、騎士修道会の主力を率いているガンギマリ―隊が、つむじ風の様にひと塊になって俺たちアレクサンドロシア隊の脇をすり抜け、俺たちが穴をあけた突破口へと雪崩込んでいく姿が見えた。

「どうしたお兄ちゃん、まだこの平野部での決戦は終わっていないのだからお兄ちゃんの出番はまだまだあるだろうの」
「俺、そんな顔してますか? まだまだ暴れたりないという顔を」
「そうだのう。まあわらわも似た様な顔をしているのであるの。この辺境の一大巨頭たるミゲルシャールめを討ち取る決定的なチャンスだ。ここで勝てねば、わらわたち盟主連合軍に勝利は無いからの」

 俺の胸板に頭を預ける様にして振り返ったアレクサンドロシアちゃんがそう言った。
 敵の前線は切り崩す事が出来たが、まだ倍以上の敵がここにいるのだから、油断は禁物だ。
 最後に立っているのが俺たちだった場合、やはり俺も恒例の全裸姿になってしまうのだろうかね。
 まだ鎧は半分健在だけど、出来ればそのまま全裸卿の不名誉は返上したいものだ。

 俺はみんなの注目が前線に向かっている事をいい事に、尻に食い込んだヒモパンの位置を調整しながらそんな事を思った。
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