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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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267 ゴルゴライ街道口の戦い 3


 軍勢と軍勢が、互いに釣られ合う様に進軍を開始する。
 まさにゴルゴライ領へと押し寄せるブルカ同盟軍側の戦力は、アレクサンドロシア隊を目指して領境を犯しながら進撃を開始していた。
 時刻は黎明を抜け出して徐々に陽は高く昇り始め、周囲を包み隠していた霧を晴らしはじめつつあった。

「ガンギマリー隊、先行してアレクサンドロシア隊の側面に布陣を開始中! 後続のベストレ隊がアレクサンドロシア隊の後方で隊列を整えつつありますっ」
「俺たちだけが突出すると、一気に揉み潰されてしまう。側面は誰が配置についている?」
「わが軍の右翼にッヨイさまの軍勢も支援射撃を実施するために前進中です。タンクロード隊はッヨイ隊の攻撃で切り口を切り開いたところに、攻撃を仕掛けるつもりの様ですね」

 いったん突撃態勢を取るために馬足を緩めて再整列を開始したアレクサンドロシア隊のみなさんである。
 俺が霧の晴れつつある周囲を見回しながら大きく質問を飛ばすと、男装の麗人が近づいてきて長剣で指し示しながら解説を加えてくれた。

「左翼はどうした?」
「我が左翼には現在、マリアツンデレジア隊が前進しつつあります。デルテ隊は兵数が少ないため、マリア隊の後方近くで再集結中です。たぶんですが、一度ぶつかり合いになると、デルテ隊はマリア隊の側面から強引に押しあがって来るものと思われます」
「あのう、あの方の性格ですと、そういう風になるでしょう」

 男装の麗人の側で不慣れな軍馬を必死に操っていたカサンドラも、そんな風に感想を述べた。
 確かに、デルテ騎士爵は武門の生まれで血気盛んなところがあるからな。
 すでに稲妻作戦においていくつもの勲功を立てているのだから、この戦争で仮に勝利したとなれば、盟主連合軍の話し合いで、新たな領地を得られる可能性は極めて高いだろう。
 そうなれば無理にここで戦って自信を危険に晒す事は無いのだけれど、デルテ卿の性格を考えれば前に前にと前線へ突貫をする姿が容易に想像できる。

「力と力がぶつかり合う様な戦いになれば、どうしても戦下手の部隊が押し負けてしまいますからね。デルテ隊がマリアちゃんの本隊を抜いて前進してくれるのなら、かえってこちらも好都合だ」
「しかし心配をすべきなのは、アレクサンドロシア奥さまではないでしょうか。やはり後方に下がって頂く様にどなたかが意見具申をしていただきませんと、ここでアレクサンドロシア奥さまが怪我でもなさいますと、さらなる士気の低下になります」

 戦運びをまるで知らないツンデレのマリアと、そのマリアちゃんが率いるリンドル兵は、敵味方すべてがその事実を知っている弱兵中の弱兵だ。
 だから総指揮官である彼女が前線に出る事はまずありえないのだけれど、事実上、指揮権を移管されている女領主の方は違う。
 今もちらりと再集結を実施している味方の軍勢を見る限り、前線を睨み、時折振り返って叱咤を整えながら、自らも敵の攻勢に盾となって立ちはだかる覚悟のある人間の顔をしていた。

 どうも俺の中ではワイバーンが村を襲った時の女領主の事が記憶に残っていて、どこか危なっかしいという印象がぬぐえないのだ。
 けれど、男装の麗人ベローチュの意味する言葉は違ったらしい。

「あの方は大変な戦上手ですから、敵も狙うのであればまず間違いなくアレクサンドロシア奥さまひとりに絞り込むはずです。事実上、盟主連合軍の号令はアレクサンドロシア奥さまのご威光によって行われているものです」

 なるほど、女領主奥さんは、俺が思っている以上にみんなから凄い戦上手と思われているらしい。
 すると大正義カサンドラが馬を落ち着かせながら俺と男装の麗人の顔を交互に見やった。

「では簡単ですよベローチュさん。旦那さまが前線でより注目を集めれば、アレクサンドロシアさまに注目が集まる事は無くなります。シューターさんなら可能ですよね?」
「ははは、カサンドラは面白い事を言うな。確かにその通りだ」
「もちろんシューターさんも決してご無理はなさらず」

 無茶なことを簡単に言ってのけられてしまったが、奥さんの前でかっこいいところを見せたい一心で、ついおれはニッコリ笑って「大丈夫だ」と返事をしてしまった。

 お互いの軍勢たちは陣形を維持しながらも次々と接近を開始する。
 近頃遠くまで見える様になった俺の視線にも、ブルカ同盟軍側の前線に飛び出しつつある部隊が、騎射弓兵である事を確認できた。
 このまま俺たちの方向に近付いて制圧射撃を試みようとしているのがわかる。
 もう一度改めて周囲を見回せば、一番霧が晴れているのは俺たちアレクサンドロシア隊の周辺だからな。
 狙われているのだ。

「敵の攻撃が来るぞ、それぞれ隊列を改めて前進するぞ。お兄ちゃん、騎射隊を蹴散らしてくれるか?!」
「わかった! エルパコ、ベローチュ行くぞ! マドゥーシャもついてこいッ」

 女領主の命令で、俺たちは一斉に敵の騎射弓兵たちに向けて前進を開始した。
 待ち構えていれば、そのまま好きなように射撃を許してしまうからな。
 その前に敵の射撃体勢を完成させる直前に、少しでも早く接近して攻撃を狂わせる必要がある。
 アレクサンドロシア隊は全員が騎馬というわけではないので、機動力を持った仲間を少数集めて、まずは敵に俺が先制攻撃をかけるのだ。

「ご主人さま。ジグザグに馬を駆け走らせてください! 相手の狙いが定まらない様にしたところで、最後に一気に切り込みましょう!」
「シューターさん。ダルク義姉さんたちも続いているよ」

 俺の号令を聞いた者たちの中で、自主的に続いた人間たちがいたらしい。
 ひとりは軍馬の扱いも手慣れたタンヌダルクちゃんだ。いつぞやブルカで購入したメイスを握りしめた俺の野牛奥さんは、そのブルカ産の武器でブルカ側の兵士を叩きつぶすつもりらしい。
 それから騎馬傭兵のみなさんやラメエお嬢さまたちオホオ村の主従も続いている。
 本来は女領主の護衛をしていなければならないエレクトラまでが加わっているのを見て、俺は顔をしかめてしまった。

「何でみんなついてくるんだよ! みんな与えられた役割を守りなさいっ」
「旦那さまのお役に立つことが妻の務めですよう。ラメエちゃんもここで戦働きをして、妻として認められるように頑張りましょうねえ!」
「はい、ダルク義姉さまっ」

 駄目だこりゃ。
 せめて奥さんたちだけでも後方に下がってもらっていてた方が俺としても心置きなく暴れられるのだが、例えばカサンドラだけ後方にやっておいて、馬の扱になれて猟師としても優秀なエルパコは前線に出すというのも、ちょっとおかしな贔屓目になってしまう。

「大丈夫ですよう旦那さまぁ。どのみちここは戦場なのだから、どこにいたって危険です。それなら旦那さまのお側にいる方がずっと安全ってものです!」
「全裸卿が全裸最強の辺境不敗である事に期待しているわっ!」

 口々にタンヌダルクちゃんとラメエお嬢さまが言うものだから、俺は閉口した。
 ついでに俺はラメエお嬢さまを養子にする方向で考えていたはずなのに、家族のみなさん、特に奥さんたちは嫁として迎えるつもりらしい。
 言い返している場合ではないので、馬を加速させながら気持ちを振り切る様にして、天秤棒を構えなおした。

「エルパコ、あそこの弓を構えている騎士を狙え!」
「わかったよっ」
「ベローチュもあいつを確実に仕留めろ、指揮官をまず潰すんだ!」
「おまかせを!」
「マドゥーシャは何処でもいいから、固まっている敵に一撃加えてくれ!」
「承知しました。ボーナス弾んでくださいねっ」

 敵も同じ様に俺を狙っている事だろうが、俺も敵の突出した指揮官を仕留める様にふたりに命じた。
 ニシカさんならば馬上でも確実に射抜く腕を持っているけれど、さすがにけもみみとベローチュはそこまで期待できないかも知れない。
 だが相手が回避行動をするだけでも、勝機を見出すチャンスにつながるはずだ。

 敵の射撃が開始された。
 ほとんどあてずっぽうに前方に向かって射ちました、という程度の勢いのない弓が俺たちめがけて飛んでくる。
 やはり馬術が下手な俺は、右に左に進路を振りながら回避する事だけに集中した。

 こちらも反撃開始だ。
 マドゥーシャが狙いすましたようにすぐ後方からおちんぎんビームを発射して、勢いこちらに突出してくる騎射弓兵の数人を巻き込みながら魔法が爆発する。
 すると次はけもみみと男装の麗人が放った弓が、敵の指揮官らしき騎士に降り注いだ。
 問題はあっさりとそれを避けられてしまった事だが、すでに次の射撃を用意していた女魔法使いが、連発式おちんぎんビームでその男を倒してしまった!

「会敵、抜剣!」

 本来は俺が叫ぶべき言葉だったのだろうけれど、短弓を放り出した男装の麗人が長剣を引き抜いて、俺に代わって号令を飛ばしてくれた。
 俺も目の前に迫る騎射弓兵たちに向けて、すくい上げる様に天秤棒で攻撃した。

 ドガン! と接触の瞬間に激しい振動が腕に伝わった。
 最初の一撃が敵の鎧のどこかにぶつかったらしく、勢いでおれも天秤棒もすさまじい衝撃を受けたのだ。
 それで接触したブルカ騎兵は吹き飛ばされ、あわや俺までもっていかれそうになるところを必死で耐えた。
 すると別の個所からブルカ騎兵がすれ違いざまに剣を差し向けてきたのが解って、あわてて馬上で体を伏せる。
 返す天秤棒で相手の背中を突いてやり、そのまままた加速した。

「スルーヌ騎士爵シューター推参! 腕に覚えのあるものは俺と勝負してみやがれ!」

 本当は、来なくていいです! と言いたいところだが、今仲間たちは勢いに乗っているのだ。
 勝ち馬に乗るという言葉があるけれど、勝てる時は勢いに任せて敵を圧倒しなければならない。
 攻撃を集中させて、一点突破さえしてしまえば、そのまま敵の総指揮官を倒してしまえばいいのだ。
 簡単なお仕事ですね!

「おのれ貴様が噂の全裸将軍か。ヤツを討ち取った者は勲功一等だぞ!」

 誰かがそう叫んだ様だ。
 それに釣られて敵の軍勢に斬り込んだ俺に群がる様に、次々とブルカ騎士たちが集まって来るではないか。
 ひとり、ふたりと山を返しながら天秤棒で敵をなぎ倒してみたものの、キリがない。
 次々と後方から馬を並走させて来るブルカ騎士のひとりが、とうとう身を乗り出して俺に飛びついてきたのだ。

 たぶん五人は天秤棒の餌食にした後に、今度は俺がその勇敢なブルカ騎士の餌食になってしまった。
 だが死んでたまるか!
 俺は斬られ役のバイトをしていた事があるので、馬から転げ落ちてもただではすまさない。
 自分自身はしっかり受け身を取りながら、ドサリと落ちる瞬間にブルカ騎士を下にしてすぐに立ち上がった。
 即座に白刃を引き抜いて敵の首を斬り、そのまま駆け出して次々飛び出してくるブルカ兵を斬り伏せる。

「どうした、その程度か!」

 相手も俺が全裸不敗とか言われている噂を聞いているのか、ビビって動きが鈍いのがよかった。
 剣を構えて前進するだけで、槍を引き上げて恐怖するブルカ兵の顔が目に映る。

「勝てる、勝てるぞ!」

 そんな調子に乗った気分で、相手の隙を見逃さない様に剣を振りかぶって肩から叩き伏せると、団子になっている連中めがけて今度は横薙ぎ一線の攻撃をした。
 だがその次の瞬間。
 俺の体にとんでもない衝撃がズガンと肩にぶつかって来たのである。

「?!」

 うおっ、体が張り倒される。
 ほんの一瞬の事で、俺自身は何が起きたのかさっぱりわからなかったのだが……
 チラリと俺が視線を落とすと、そこには図太い矢がミノタウロス式の甲冑にある肩パットに突き刺さっているではないか。
 今の衝撃が、弓だと?!
 魔法で空気の弾丸をぶつけられたような衝撃だった!

 あわてて剣を構えなおしながらどこから弓を飛ばして来たのかと周囲警戒をしたところ、またもう一本が直ぐにも俺の体に吸い込まれていくのが見えた。

 矢が俺に刺さり、そしてそのまま完全に吹き飛ばされる。
 何という破壊的な弓矢だ。ニシカさん並の剛弓を使える敵がいたというのか?!
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