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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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265 ゴルゴライ街道口の戦い 1

遅くなりましたが更新です!

 夜通し降り続く雨は、女領主が予見した通りに朝を迎えると濃密な霧を発生させた。
 石塔の監視台から見渡せるのはわずか十数メートル先の視界だけで、恐らく俺たちがゴルゴライをあわただしく進発した事は、ブルカ同盟軍側に知られる事は無いだろう。

「この霧の中では敵味方の識別をするのは要ならざる事だ。敵も条件は同じだが、わらわたちも当然ながら味方がどこで何をやっているのかを、戦場で即座に判断するのは不可能だ」

 自ら奇襲作戦の陣頭指揮を執るために軍馬に跨ったアレクサンドロシアちゃんは、愛馬の背中を撫でる様な仕草を見せながら、馬を寄せた俺たちに向かって号令をかけた。

「したがって、味方同士が固まって行動することは得策ではない。集結予定地点までは集団で行動し、以後は出来るだけ各々に与えた攻撃目標に向けて各自奇襲を実施すること。もしも霧が晴れる兆候が見えた場合は、迷わず後退を実施せよ」

 ここでまごついていると敵の追撃部隊に捕まって全滅の恐れがある。
 俺の顔を見やりながら特に気にかけてそう発言したアレクサンドロシアちゃんに、俺は深くうなずいてみせた。

「敵が混乱から回復した場合、逆襲行動を実施すると思われるのが戦争の常道だ。退路についてはまっすぐにゴルゴライ方面を目指せばよい。増援部隊として街道口から突き上げる戦力はマリアツンデレジア隊、デルテ隊、それにガンギマリー隊とベストレ隊だ。各自部隊が前線で衝突する形になった場合、敵は間違いなく平野部での決戦を意図して包囲、あるいは戦力の集中を企画して後方より次々に部隊を送り出してくるはずであろう。当然、あのオレンジハゲめも前線に出てくる可能性が高まる」

 女領主は護衛騎士のエレクトラとダイソンに視線を送りながら言葉を続けた。
 すでに諸隊を率いている諸侯との間では、昨日のうちにこのやり取りはすませていたけれど、どこにブルカ伯側のスパイが潜んでいるとも限らないので、実際お大きな戦闘の流れを仲間たちに打ち明けるのが今が初めてだ。
 絶対に女領主を守り切る事を任務としているエレクトラとダイソンは神妙な顔をしてこの会話を聞き続けていた。

「あのう、アレクサンドロシアさま。わたしたちのお助け部隊が揃ったとしても、ブルカさまの軍勢に比べて半分の数しか兵士のみなさんが揃わない事になりますけれども」
「よい質問だ。そこでわらわたちはブルカ同盟軍側の圧力に押される形で、徐々に戦線を後退させる事になるだろう。だが、北の森林地帯にはッヨイが指揮をする伏撃部隊が待ち構えている手はずになっている」

 おずおずと仲間たちを代表して質問をしたのは大正義カサンドラだ。
 正妻の質問はこれすなわちみんなの疑問なのである。すると女領主はニヤリと破顔してみせると言葉を続けるのだった。

「野牛の騎兵と騎士修道会の精鋭ばかりを集めた側面突破部隊だ。騎兵による突撃を実施した後に、わらわたちも反転し、これに呼応する」
「カサンドラ、重要なのは敵をどれだけの時間、決戦場に張り付けておく事が出来るかが今回の肝だからな。連中は時間をかけて包囲し続けていれば、それだけで俺たちが時間経過とともに不利になる事を理解している。だから、決定的な局面を餌として差し出さない限りは、釣れないって事だ」

 ブルカ伯が前線をゴルゴライ街道口に押し上げれば、それだけで不眠不休で背後連絡線を突くために進撃ちゅうの男色男爵・ドラコフ男爵の連合軍が、決定的局面をモノに出来るのだ。

「側面からの伏撃と、背後連絡線の遮断を持って、わらわたちは全力で前線を押し返すつもりである。この戦いは恐らくまる一日をかけて決するものであるから、各員命を安く勘定する出ないぞ。無理だと思えば素直に引き下がって、次の機会にしつこく食いつく様に」

 アレクサンドロシアちゃんは最後に俺の顔をやった後に満足の表情を浮かべて、そして号令を下す。

「よし。敵の前線を攪乱させるぞ、進撃開始!」

 深い霧の中に山の向こうから顔を出した太陽が差し込むと、それはとても幻想的な世界を作り出した。
 はじめそれは青みがかった様な霧であったものが陽の高さが上がるにつれてほんのりオレンジ色に少しずつ染まっていく。

 奇襲部隊の先頭を行く俺の側には、しっかりとアレクサンドロシアちゃんが馬を並べて駆けている。
 後続する俺の奥さんたちは明らかに戦場に不慣れなカサンドラを守る様に固まっていた。
 けもみみは俺のすぐ後ろにあって片時も離れないつもりで追従していた。

「緊張しているのかアレクサンドロシアちゃん」
「フン、そういうそなたはまるで緊張感の無い顔をしておる。お兄ちゃんはいつもそうだ」
「これでも冷や汗で背中がびっしょりなんですけどねえ。けど、やると決めた以上は俺は自分の役割をしっかりとこなすまでだ」

 ここにニシカさんの姿があれば完璧だったのだろうけど、今頃はカラメルネーゼさんと共にブルカの街中に侵入を果たしている頃だろうか。
 潜伏任務にふたりを送り出すにあたって俺たちは期限を区切って指示を飛ばしたわけではない。
 何かの有益な情報源をひとつでも手に入れれば、勘の鋭いニシカさんが引き上げ時だと判断して戻って来ることを期待しているが、果たしてブルカの街で何が起きているのか、今の段階ではその詳細は知れない。

「そうだの。スルーヌ騎士爵シューター卿のやるべき事は、最大限この奇襲攻撃で目立ってもらう事だ。たいへん危険な任務である事を重々承知の上で、わらわたちはそなたを送り出す事を求めたのだ。戦いが終わればわらわたちは、いか様にも罰を受けなければならないだろうの」
「罰なんて別にいいさ。それに俺が今、みんなの前で不安な顔を浮かべていれば、奥さんやみなさんが本当にこの作戦が成功するんじゃないかと心配になるだろう?」
「まあ、そうだの……」

 本当は俺だって死ぬほど恐ろしいし、この作戦が失敗したらどうなるだろうと考えれば背筋が凍る様な思いだった。
 そりゃそうだろう。
 辺境不敗とか全裸最強とか、奥さんたちや盟主連合軍の諸侯たちは大きく膨らんだ噂と、たまたま幸運が重なった事だけを根拠に俺に対して全幅の信頼を置いているんだ。
 本来の俺は様々な職業のフリーター経験があるだけのバイト戦士に過ぎず、戦争をしったのはこのファンタジー世界に来てからの事である。

「まあ、なるようになるさ。だがそのためには、自分の役割を必死になってこなすだけの事だよ。アレクサンドロシアちゃん」

 馬を並べていたアレクサンドロシアちゃんが微笑を浮かべた様な気がした。
 気がしたと思ったのは少しばかり伏し目がちにしていたので、正確な表情の機微までは読み取る事が出来なかったからだ。
 それのこの朝もや、視界が定まらない状況なのだから仕方がない。

 お肌に水蒸気をたっぷりと受けてしまい、俺の着ているミノタウロスの民族衣装もべったりと水分を蓄えてしまっている。
 それは重たく体に張り付く様な感覚をもたらして、気分までも重苦しくさせてしまう。
 女領主以外の俺の奥さんや奴隷のみなさんたちはみんな俺と同じ様な格好をしていたから、きっと近頃ではサルワタ騎士たちの代名詞になりつつある深紅に染め上げた野牛の紋章入りマントは相当に重たくなっているだろう。

 口が図も少なくなってしばらく静かに前進をしたところで、朝もやの中にぼんやりと照らされた、いくつかの松明を目撃する事が出来た。
 視界数十メートルの中で見えるそれは、恐らくゴルゴライの領境を超えた向こう側に広がっている、ブルカ同盟軍の陣地がある場所だろう。

 アレクサンドロシア準女爵が直卒する軍勢は二〇〇余り。
 ハーナディンの指揮する騎士修道会の騎士隊と、サルワタの主要メンバーで構成された先鋒だ。
 女領主が無言のうちに振り返って槍を突き上げて見せると、俺たちは一斉に馬足を速めた。
 次々に隊列を改めながら修道騎士たちが剣を引き抜きながら加速していく。魔法によって陣地に一撃を加えた後に、敵の陣中を駆けまわって混乱に陥れるのだ。

「目標、あの物見のやぐら! 火力を一点に集中させて叩き崩してやれッ」

 自らも巨大な火炎を現出されたアレクサンドロシアちゃんは、自分ひとりで十分だというほどの火球をまず石塔に向かって射出した。

「ベローチュ、俺に続け。陣地の背後まで一気に回り込んで敵は手当たり次第に殺して回る」

 俺は背後に向かって叫ぶ。
 奴隷親衛隊を男装の麗人が自称している直属部隊たちが、俺の加速に合わせて追従している事を目撃して満足した。
 男装の麗人はもとより、おちんぎん大好き女魔法使いやクレメンスも見える。そして完全に文官として雇い入れたはずのモエキーさんまでは、不似合いな槍を持って追従しているのが見えた。最後尾にッジャジャマくんがいるが、彼は戦場で果たして役に立つのだろうか。
 そもそも奴隷親衛隊の半数以上が奴隷ですらない。
 ハーレム大家族軍団とその護衛はすぐ後ろに固まってついてきているはずだ。

「ご主人さま。マドゥーシャには天幕を片っ端から燃やしてもらいましょう。いいですね?」
「わっかりました先輩ッ」

 重たく張り付いた服が朝の秋風によって冷える。
 だがもはやそんな事に構っている場合ではないので、エルパコがどこからか調達して来た天秤棒をぐっと握りしめた。
 棒切れさえあれば最強だと信じているみなさんの、せめて槍は無いのですかと言いたかったが、それは出来なかった。
 長剣よりはマシなので大事に使いたい。

「他の者たちは絶対にご主人さまから離れない様に、一団となって戦うのです。ご主人さまは必ず馬を降りて敵将を片っ端から討ち取るはずなので、ご主人さまに引き倒された敵将の首級を、自分たちで上げて回ればよいです」
「了解だす!」
「し、死んでしまうかもですっ」

 俺たちが魔法で防塁を蹴散らしながら馬を陣地に突入させたのを見て、ブルカ領軍の兵士たちがあわてるように天幕から次々に飛び出してくるのが見えた。
 視界は十数メートル余りだったものが、少しずつ遠くを見渡せるようになりつつある。
 それだけ時間経過とともに霧が晴れつつあるのだ。

「何事だ、どこの軍勢だ?! 奇襲か!!」
「足を止めるな! 足を止めると数で揉み潰されるぞ!」
「われこそはゴルゴライ準女爵アレクサンドロシア卿の側近、エレクトラだ! 尋常に勝負しろ」
「誰か天幕の火を消せ、隊長を直ぐに起こすんだ!」

 混乱する敵陣を駆け抜けながら天秤棒を振るうと、面白い様に突き立てられたブルカ兵が地面に倒れた。
 馬術の経験はサッパリだが、馬の勢いさえあれば混乱に乗じてやりたい放題だ。
 不運にも半分甲冑がずれた状態で出てきたオレンジ髪の長髪男を見かけたので、これにも有無を言わさず天秤棒を突き込んでやった。
 これは喉元にだ。あっさり天秤棒が刺さったのを確認する。これは間違いなく喉を潰した感触が伝わって来た。

「シューター卿、奥に行きましょうよ。ここは他の奇襲部隊に任せて奥まで突出して暴れます。ここはアレクサンドロシア奥さまに任せておけばいいです!」
「おう。マドゥーシャ、俺から死ぬまで離れるなよ?」
「えっちょ、それってまさか……戦場でプロポーズとかずるいですよ! わたしはおちんぎんもらわないと一生ついていけませんから、愛人契約ならオッケーですけどね!」
「馬鹿言ってるんじゃない、遅れるなっ」

 ゴルゴライ街道口決戦のはじまりである。

感想へのお返事が遅れておりますが、今しばらくお待ちくださいっ。
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