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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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264 奇襲の先鋒役は誰か


 静かに敵を待ち続けるという時間は、守勢にまわった側の軍勢にとって凄まじいストレスを与える事になる。
 そして、今がまさにそう言う状況ではないだろうか。

 俺の名は吉田修太、三三歳。盟主連合軍の軍監という立場を拝受している異世界武将だ。

「ゴルゴライの村は莫大な資材と戦費をかけて、今や堅固な要塞都市となったのです。けれども永久要塞として万を要する敵を迎え撃つには心持たないのです」

 軍議のために集まった面々を見回して、ようじょ軍師はおごそかにそう言った。
 総指揮官のマリアツンデレジアと、この方面における実質的指揮官であるアレクサンドロシアちゃん。
 そのふたりに挟まれる格好で俺が広い応接間の上座のイスに腰かけていた。
 これではまるで俺が総大将みたいな格好だが、別に俺には何の決定権も存在していない。

「もしもこの要塞都市を盾に戦った場合、ひと冬を守り抜く事は確かに可能なのです。けれども永久要塞ではないという事は、冬を乗り切った先にふたたびブルカ同盟軍に攻め寄せられた場合、今度こそ陥落する事になるのは明明白白なのです!」

 ゴルゴライは確かに土塁や楼閣をいくつも備えた野戦築城に余念が無かった。
 それを命じたのは貴族軍人として従軍経験のあったアレクサンドロシアちゃんの手腕によるものだろう。
 どこに何を配置すると効果的に敵を漸減できるのか、同じく実戦経験が豊富な雁木マリたち騎士修道会の人間や、ベストレ男爵も舌を巻いていたのだから恐らく間違いないだろう。

 けれども土塁による防衛ラインは今も降り続く秋雨や、この先に訪れるだろう雪によって傷みやすい事は間違いなく、春になればその野戦築城にもほころびが出てくるだろう事は、ようじょ軍師の予見する通りだろう。
 これが城壁によって永久要塞と化したブルカの街ならば、何年でも籠城して見せるとアレクサンドロシアちゃんも考えただろうが、現実のゴルゴライはこの冬を越せれば十分という程度の付け焼刃の防備にすぎないのである。

 その事を知ったのはもちろんこの軍議の最中だった。
 このファンタジー世界の出身ではなく平和な日本で生活をしている限り、その様な事は俺にわかるはずもない事だ。

「だからッヨイたちは、野戦に打って出て可能な限り敵を排除する策をとりながら、それが出来ない時には亀さんになってゴルゴライに籠って戦うという二段作戦を取る必要があるのです!」

 ようじょ軍師はそう言いながら、居並ぶ諸卿たちの顔を見回した。
 これで手に孔雀か何かの羽根で出来た扇でも持っていたら天才軍師孔明っぽかったに違いない。
 けれどようじょが実際に持っていたのは指揮棒で、その指揮棒を使って中央に広げられた大きな作戦地図を指し示したのである。

「ゴルゴライの要塞を中心にドロシアねえさまのサルワタ領邦軍が要塞の防備と周辺の街道口を抑えています。西のゴルゴライ街道口、そして南のリンドル往還口は、騎士修道会の修道騎士のみなさんが防衛にあたっています。南は、」

 ようじょ軍師の言葉に合わせて、騎士ダイソンとエレクトラ、それに男装の麗人が手分けして駒を置いていく。

「現在はマリアねえさまの盟主連合軍主力が布陣しています。西と南に大軍を配置しているのにはわけがあります。なぜならこの方面は比較的なだらかな平野部の地形が広がっているので、大軍を動かしやすいからなのです!」

 一同は大いにうなずいた。
 地理情報に疎い数千からなる盟主連合軍を森林地帯の広がる北部に配置しても意味がない。
 また軍勢を自在に動かすのであれば、間違いなく平原での方がやりやすいとアレクサンドロシアちゃんが踏んだからだろう。

「逆に北の防備には今、野牛の軍勢のみなさんが布陣しています。こちらはあちこちに森が広がっているので、ブルカ伯の軍勢が奇襲をかける可能性があるのです。盟主連合軍はゴルゴライの要塞を基点に南北に補給線が存在しているので、ここを抜かれれば一巻の終わりです!」

 だから守り一辺倒になるという事は、穀倉地帯であるサルワタやクワズ、スルーヌといったアレクサンドロシアちゃんが治めるサルワタ領邦域から、現在も食糧が不足しがちなリンドルに向けての食糧補給が不可能になってしまうという事だ。

「それで敵が動かないわけというのは、どういう事なのでござろう養女どの」
「その理由は簡単なのです。ゴルゴライには沢山の物見の塔が立てられて、西の平野部の動きはよく観察できるのです。ゴルゴライ領を越えて軍隊を動かせば、その行動は一目瞭然だからなのです」
「という事は、こちらの動きも当然敵方に察知されるものであるし、場合によっては北部の森林地帯を通過して、敵が奇襲をかけてくる可能性があるのですな」

 質問を仕掛けたのはデルテ騎士爵である。彼は稲妻作戦の勲功を評価されて、諸侯のうち軽輩領主たちを束ねる代表者にまで立場を押し上げていた。ついでに俺の助言から、アレクサンドロシアちゃんがせっせとかき集めていた傭兵のみなさんもあわせて任される立場にもなっている。

「その可能性はあるのですが、同じことをッヨイたちも考えているので、その方面にはマイサンドラさんを中心とした猟師出身のみなさんが伏兵しているのです」

 だから動きがあればすぐに知らせが届くのです!
 なるほどな。
 さんざん利用するだけ利用されてブルカ伯や作戦の神様ツジンの捨て駒にされた恨みからか、今のマイサンドラさんは復讐の鬼と化して勲功を上げる事に躍起になっている。
 ある意味でデルテ騎士爵と似た立場で、ここで何が何でも意趣返しをして自分への救いを求めているというわけだ。

「では俺たちはどう動けばいい、義姪子(めいご)どの? 二段作戦の具体的な詳細を聞かせていただきたい」
「はいタンクロードさん。こちらから攻撃を仕掛けるのがよいと、ッヨイは考えるのです。兵士の数は敵が今では一〇〇〇〇以上に膨れ上がっている事は報告で聞いているのです。これは時間が経過すればますます膨らみ続けるのは間違いないのです!」
「一方こちらに期待できる援軍はないというわけだな。フンス」
「そうなのです。今は季節も秋になって、毎日このところ雨が続いています。なので、夜のうちに雨が降った朝は必ず霧がかかって視界が不明瞭なのです」

 これを目敏く利用しようと考えた発案者はアレクサンドロシアちゃんだった。
 夜明けとともに霧の状況を利用して軍勢を前進させ、霧が晴れたところで一気に敵を集中的に突破するというものだ。

「ゴルゴライの街道口は大きく広がった穀倉地帯と平原があります。もはやこの地帯の収穫を期待する事は出来ないので、だいじだいじに畑を守りながら戦う事は無意味なのです!」

 多少ゴルゴライの穀倉地帯がダメージを受けたとしても、今のアレクサンドロシアちゃんの領地は広大だ。
 サルワタ、クワズ、スルーヌ、ゴルゴライに加えて野牛の里もある事を考えれば、一部の領地の穀倉地帯が壊滅的な被害を受けてこの年の収穫が見込めなかった場合でも、補てんが出来る。

「なるほどそいつは名案だな。俺もこの案には賛成だ。それでいつ実施されるのだ養女どの?」
「ずばりそれは明朝なのです!」

 ッヨイさまはそうニッコリ笑って宣言した。
 最後に質問をしたベストレ男爵はつばを飲み込んだのちに諸侯たちの顔を見回す。
 夜明けとともに発生する霧を味方に出来る今の秋雨の時期のうちに、自分たちで奇襲の一手を打つ。これはきっとベストレ男爵も納得できる内容だったのだろうが、問題は誰が先陣を任されるかだ。

「霧の中での作戦行動ともなれば、これは非常に高い練度を要求される。たいへん失礼な物言いになるが、常備の領軍が最低限で、このたびの戦いのために領民を招集したという戦士集団では不可能であろう。俺としては当然わが領軍が引き受けたいし、あるいは騎士修道会、たのもしき野牛の騎兵隊、そういった戦慣れしている部隊にお任せいただかなければ納得しづらいものがある」

 その事を包み隠さず意見具申をしたのがベストレ男爵だった。
 チラチラと最近イケイケのデルテ騎士爵を見やりながらそう言ったので、ある意味で次は自分に是非やらせろと言っているのだろう。

「そ、その辺りの事は歴戦の軍隊が任されるのが当然でござりましょう」
「確かにそれは言えておりますの。残念ながらリンドルの領軍では、霧の中での行軍は混乱。下手をすれば同士討ちの可能性すらもありますのよ」

 デルテ騎士爵もその辺りの事はわきまえていると見えて、口をもごもごさせながら辞退する態度を見せた。
 さすがに寄せ集めの軍勢で、霧の中を指揮する先陣はしたくなかったのかも知れない。ここで失敗すればこれまでの勲功がパァだからな。
 当然マリアちゃんも微妙にご遠慮したそうな態度を見せた。

「ふむ。それではマリアツンデレジア隊とデルテ隊は辞退、と。さすればガンギマリー卿はいかがか?」
「あっあたしかしら? あたしは濃霧の中で作戦指揮をした経験があるわ。兵数も百単位でそれをやる事も可能だけれどスウィンドウ、イディオはどうなの?」
「お、俺たちですか。カーネルクリーフさまの仇討ちを是非にも果たさねばわれらも気がおさまならないという事もありますので是非にも、と言いたいところですが……」
「修道騎士や従士たちが今は浮足立っているので、第二陣という事であればともかくも、先陣で失敗が許されない場合はご辞退なさるのがよろしいかと」

 話題を振られた修道騎士幹部のみなさんも、ガンギマリー以外はあまり得策ではないと考えていた様だ。主要幹部たちはともかく、全ての修道騎士や従士が冷静な対応を出来るとも限らないのだ。

「そうか、精鋭をもって知られる騎士修道会が先鋒を辞退されるのは非常に残念だ」

 芝居がかった態度でとても悲しい顔をして見せたベストレ男爵は、額に浮かんだ汗を人差し指で払いながら言った。汗ワイパーかよ……

「でしたら野牛の将軍さまはいかがですの? タクロード将軍はアレクサンドロシアさまの片腕、野牛騎士隊の精鋭もお持ちになっていられるでしょう」
「そんな馬鹿なおはなしはありません! 兄さんは北のミノタウロス族最強の戦士ですけれども、この国の慣習に従えば、現地のご領主さまが先鋒をつとめるのが、古い時代からの決まり事だと書いてありましたよう!!」

 するとベストレ卿の言葉に反応したのは、野牛の族長タンクロードよりも早くに立ち上がったタンヌダルクちゃんだった。
 そう言えば女領主の屋敷に花嫁修業として通いながら国の歴史や法律をせっせと学んでいた時期がある。
 ニコニコしながら待ってましたと言わんばかりだったタンクロードは、バツの悪い顔をしてそれを引っ込めた。

「ではアレクサンドロシア卿が自らご出馬されるので?」

 当然ベストレ男爵の言葉に面れて、上座のアレクサンドロシアちゃんのところに視線が集まった。
 ゴルゴライの現在の領主はアレクサンドロシアちゃんで、その領主を指す準女爵を実際に名乗っている。

「みながそれを求めているのならば、そうするしかないだろう。のうお兄ちゃん?」

 そしてとても嬉しそうな顔をした女領主が俺を見た。
 反対側からもマリアちゃんがニコニコ顔で俺を見返してくるではないか。
 雁木マリや大正義カサンドラも同じ様に真顔でウンウン言っているので、とても俺は居た堪れない顔になったのである。

「なるほど辺境不敗の全裸卿を前線に押し立てて、これをアレクサンドロシア準女爵が戦う。よくできた作戦だな、これなら俺の出る幕はないというわけだ」

 わけがわからないよ。
 どういうわけか急に納得顔をしたベストレ男爵は「では総指揮官の指図に従います」などと言って平伏して見せた。
 たぶんこれは茶番だ。
 俺は作戦会議がおおまかにどういう風な流れで実施されるのかを事前に訊かされていなかった。
 してみると、諸卿のうち主だった人間たちは、みんな芝居をしていたという事になる。
 このベストレ領主でベストレ男爵は、特に大根芝居を演じていたんだ!

「よかったですね、シューターさん。これで大活躍間違いなしです」
「う、うん……」

 女領主の隣に控えていた大正義カサンドラが、とても嬉しそうに微笑んだ。

     ◆

 今、俺は真新しい甲冑に袖を通している。
 何でも少し前に野牛の里から運び込まれてきたという、最新のミノ式甲冑だった。
 胸甲とでも言うのだろうか、ガチガチの金属装甲の銅丸鎧みたいなやつである。

「ちょ、ちょっと。あんまりゴソゴソ動かないでよね。胸甲を着させるのが大変じゃない!」
「ごめん、こそばゆくて。じっとしてます……」

 俺はおませ少女のラメエお嬢さまに叱責されながら、出撃前の準備をしているところだった。
 あわただしく天幕の陣地の中でお着換え中なのである。

「家族はみんなお揃いで鎧を着るのって、いいよね」
「そうだねエルパコ。きみは何を着てもかっこいいところがあるけれど、この鎧は特に似合っているよ」
「シューターさんほどじゃないよ。シューターさんは全裸の方がもっとかっこいいけど」

 隣で同じ様にクレメンスにミノ式胸甲を着せられていたけもみみも、嬉しそうに返事をしていた。
 天幕の隅では、呼ばれてもいないのにッジャジャマくんがお揃いの鎧を勝手に着用しようとして、女魔法使いに追い出されたのを目撃した。

「本当にあの助兵衛ゴブリンには困ってしまいますよシューターさま。こんどわたしの裸を見ようとしたらおちんぎんを要求しなくっちゃ!」

 一糸まとわぬすっぽんぽん姿でうろつきながらボヤいている女魔法使いは、自分も胸甲を着るべきかどうするか悩んでいる様だった。
 霧の中で最前線に出るので、下手をすればどんな敵に囲まれるのかわからないから迷っているのである。

「そうですねえ。鎧の数は人数分揃っていると思うので、せっかくだからお揃いにするのがいいですよう」
「わかりました。では自分とマドゥーシャ、それにクレメンスも同じものを……いいですね? あなたたち」
「は、はいわかりましたタンヌダルク奥さま。では先輩、その様に!」

 どうやらタンヌダルクちゃんのアドバイスもあって、自称・奴隷親衛隊のみなさんも着用を決めたらしい。
 しかし問題はラメエお嬢さまである。

「わ、わたしの着れるサイズだけどうしてないのですかダルク義姉さま?!」
「困ってしまいますねえ。ラメエちゃんが着るとどうしてもちょっと大きすぎる感じがするんですよう」
「そっそんな。わたしだけ家族でひとりのけ者に……」
「ッヨイもサイズがないのでポンチョとワンピースにするのです。ラメエねえさま!」
「……ッヨイちゃんはいいのよ。軍師だし……」

 納得が行かない顔のラメエお嬢さまは、いったん大きすぎるミノ式銅丸を被ってみたものの、よいしょよいしょと豪華なそれを脱ぎ捨てる事になった。
 やはり毛の生えはじめたばかりの少女にはサイズがあわないのだ。
 ションボリしたラメエお嬢さまは「い、いいわ。いつもの甲冑で我慢するから……」ととても悲しそうなことを言って服を脱ぎ始めた。

 この世界の女騎士はドレスに甲冑を付けるタイプだが、ミノ式だと専用の服を着ないといけないのだ。
 したがっていったん裸になったラメエお嬢さまは、しょうがないしにヒモパンに手をかけてドレス風の日常衣を着用しなければいけない。
 そして俺は目撃してしまった。

「!」
「どうしたのですかシューターさん?」

 ラメエお嬢さまのつるりとしたお腹から下に視線を向けると、そこには小さな草原が萌えていたのだ。
 きっとあれは聖なる萌え草に違いない。

「ら、ラメエお嬢さまは、毛の生えた少女なんだね」
「あのう。ラメエちゃんは結婚も出来る立派な成人女性なので、当然だと思いますよシューターさん」

 俺の発言に、カサンドラはとても嫌そうな顔をして返事をした。
 何を当たり前のことを、と言いたかったのかも知れない。

 こうして朝霧の晴れぬうちに出陣をするために、俺たちは準備を固めるのである。
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