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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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祝1周年記念&1000万PV達成記念SS 禁じられた遊び 後


 ゴルゴライの街道口を見渡せる物見の塔にやってきたドロシアねえさまとマリアねえさまは、ふたりして布陣している味方の軍勢を睥睨していたのです。

「戦力は守る分には申し分ない程度にかき集める事が出来た。問題はあのオレンジハゲめを押しとどめる事が出来ても、それを押し返す事が出来ないという事実だ」
「何とかなりませんの? 騎士修道会の総長さまがお亡くなりになってしまったので、盟主連合軍の各領地は動揺が収まりきれておりませんの。ここで決定的な勝利を示さなければ、二派に別れてしまった騎士修道会のみなさんを一本化する事が叶いませんのよ……」
「難しい事を簡単に言ってくれるな。勝つためには手段を選べないとはいえ、あのミゲルシャールめは歴戦の戦上手だ。言うは易しで、容易ならざることだぞ」

 ここから遥かゴルゴライの領境を見やれば、斥候のために布陣した味方の兵士の一団を見る事が出来るのです。
 ッヨイは背が小さいので、マリアねえさまの付き添いとしてやってきた巨人族の給仕のひとに持ちあげてもらって、遠くを一緒に眺めたのです。

「ッヨイよ、そなたに何か策はあるかの」
「むつかしいのです。戦士の数が足りないので、普通にやって押し返す事はむずかしいのです」
「であろうの。となればやるべき事は策を持って戦う他はない。しかしこのゴルゴライで亀の様に籠っているだけでは戦局を打開する事は永遠に不可能だからな」

 冬がやってくれば平野部は雪に埋もれて、軍勢を行き来させる事も難しくなるからな。
 ドロシアねえさまはそう言ってむつかしい顔をしたのです。

「勝負が出来るのは長くて十一月の頭頃までだろう。盟主連合軍は勝利を確信してわらわたちの檄文に賛同したところがある。軽輩の諸侯とは領地経営をするにも精一杯なところがあるからな、各領内で動員令を敷いたまま半年、一年と長きにわたって戦う事は、領土の体力が違うわらわたちとブルカ辺境伯領とでは歴然とした力の差を見せつける事になる。問題はオコネイルの動きだ」

 ドロシアねえさまはそう言って、マリアねえさまを見たのです。

「とすれば、残りの期間は約ひと月、という事ですのね。オコネイル卿とドラコフ卿が背後を襲う事で、戦局を打開する事が出来るのでは……?」

 オネエ男爵さまは今、ナワメの森にあったフクランダー寺院から機動力のある軍勢を率いて、ドラコフおじさんと一緒にブルカ同盟軍の背後を攻撃する目的で北上中のはずなのでした。
 お船を使って一気に移動をする事ができたッヨイたちと違って、ふたりのおじさんは機動力があるとは言っても、時間にして数日を要する事は間違いないのです。

「なればそのタイミングでわらわたちも出撃をかけなければならない。わらわたちの先陣を切るのはお兄ちゃんであるとしても、そうそう好都合に敵の指揮官と邂逅できるとも限らない」
「前線の指揮官さえ討ち取ってしまえば、倍する敵も総崩れに出来るといいますのに」

 マリアねえさまはそう言って、視線をお空に向けたのでした。
 秋のお空にはうろこ雲が広がっていて、何だかこの先の戦況を不安に思わせるものだったのです。
 うろこ雲はお天気が崩れる直前にあらわれるものだと、本に書かれていたのです。

「辺境不敗のお兄ちゃんに限って、敵の指揮官と一騎打ちをしたところで負けるとは思わないが、問題はそれ以外だ」
「そうですの。シューターさまは辺境不敗、全裸最強とお呼びされていますけれども、ひとりの戦士が全ての敵をなぎ倒す事はできませんものね」
「さよう、だから何か誰も思いつかない様な方法で、敵をあっと言わせる必要がある。戦力を集中させて突破を図り、敵を大混乱に陥れたところではじめて、わらわたちがイニシアチブを握る事が出来るのだ」
「そうする事でオコネイル卿とドラコフ卿の混成部隊が、背後を突く意味が出てくるというわけですのね」

 ふたりのねえさまたちは、齢が近いのでここ最近いつも一緒にいるのです。
 今もふたりそろって遠くを眺めながら、たぶん同じ一点を見定めているのだとッヨイは思ったのでした。

「マリアツンデレジア卿もわかってきたではないか。戦場におけるひとの動きをよく見て、駆け引きを学ぶ事は重要だ」
「まあ、わたしは意見具申いただいたものを決済するだけの立場ですのよ。これで学んだと果たして言えるのか」
「いえるとも。戦争とは何も血を流すだけを言うものではない、外交もまた然り、そして内政もまた駆け引きがあるのだ」

 決定的な局面で、圧倒的な力を発揮する方法は、魔法しかないのです。
 それもただの魔法ではなく、ッヨイたちが知っている法則にしたがった魔法ではなく、いにしえの魔法使いたちが使っていたという古代魔法クラスの強力なものでなければ、万の軍勢をうち滅ぼす方法なんて、ッヨイには思いつかないのでした。

「ッヨイ子さま。もうそろそろよろしいでしょうか?」
「あ、はいなのです。ありがとうなのですケイシーさん」
「いえ、わが主さまの養女さまなので、このぐらいの事は当然です」

 巨人の給仕さんに降ろしてもらったッヨイは、古代魔法の事について考えたのです。
 ッヨイも詳しい事は知らないのですけれど、文献だけならばドロシアねえさまが所持しているのを知っているのです。
 もともとはサルワタの書斎にあったものだけれど、今は戦争にあわせてゴルゴライの執務室に運び込まれていたのです。

「決定的な局面を演出するには、やはり何かの隠し玉を使うしかないだいだろうの。例えばだが陣中に何気なく潜ませて置いたモンスターが、突如として敵に襲いかかるとか。わらわ自身がモンスター並の力を手に入れるとか」
「とんでもない荒唐無稽な事に聞こえますけれども、そんな事が可能ですの?」
「……可能と言えば可能だ。いにしえの魔法使いたちは、自分自身を魔法によって肉体改造する事で、その魔力の発揮を何倍にも膨らませたと言うぞ」

 ここだけの話だがな、と振り返ったドロシアねえさまが声を潜めて言いました。

「か、顔のしわが増えない様に、近頃は禁断の古代魔法を使って美容に心がけているのだ」
「! それは本当ですの?!」
「ああ間違いない。いにしえの魔法使いたちは魔法で人体を改造しまくっていた連中だからな。なにがしの猿人間どもを見ればわかるであろう。あんな人外の者どもを人間の女にしてしまった様な連中だ。顔の一部を弄るなどという事は造作もないのだ、古代魔法とは」

 ドロシアねえさまはインチキをしていたのです。
 きっと、正妻のねえさまが知ったらインチキについて抗議をすると思うのです。何事も順番が大事だとねえさまは言っているので、正妻のねえさまにも順番が来なければ怒りん坊になるのです。

「ずるいですのよ、わたしにもぜひその美容魔法を!」
「近頃は不機嫌な事ばかりで眉間にしわがよってしょうがなかったのだ。これは仕方のない事なのだ」
「約束ですのよ?!」
「何事も順番が大事だ。まずわらわが、古代魔法の実験台になって、だの」

 急に勢いづいたマリアねえさまが、ドロシアねえさまに詰め寄ったのです。
 ッヨイと巨人さんは顔を見合わせたのでした。

「しかしッヨイ子さま。その様な事が本当に出来るのですか? その身体を魔法で改造してしまうなどという事が」
「たぶん、古代魔法の魔導書があればできるのです。ドロシアねえさまほど上手くいくかはわからないのですが、練習すればッヨイにも……」
「それを使って身体強化をして強力な魔法を使えば倒せるのではないでしょうか」
「そういう事も、いにしえの魔法使いはやっていたと思うのです」

 でもッヨイには古代魔法の魔導書が無いので、それは出来ないのです。
 そういう風に巨人の給仕さんに説明したところ、巨人さんはかがんでみせてッヨイに囁いたのでした。

「お任せください。ふたりでアレクサンドロシア卿の古代魔導書を手に入れればいいのです。場所はアレクサンドロシア卿の書斎ですか?」
「……執務室なのです。そんな事をしてバレたら、ドロシアねえさまに折檻をされるのです」
「大丈夫です。このわたしが独断専行でやったものだと報告すればッヨイ子さまが罪に問われる事はありません」

 ニッコリ笑った巨人のおねえさんは、ッヨイと手を繋いで静かに物見の塔を降りるのでした。
 ドロシアねえさまとマリアねえさまは今も美容についていろいろとお話をしているので、ッヨイたちが立ち去ったのには気づいていません。

     ◆

 領主館の執務室は今、ドロシアねえさまが不在なので古代魔法の書物を手に入れるならば今がチャンスなのです。
 自信満々に「わたしにお任せください」と言ったケイシーねえさまについて行く事にしたのですが、

「ッヨイ子さま、お静かに。中で何者かが活動をしている様です。様子を探りましょう」
「わっ、わかったのです……」

 そう指示されてドキドキしながら聞き耳を立ててみると、執務室ではタンヌダルクねえさまとモエキーねえさまがお部屋の掃除をやっていました。
 どうやらお部屋のお掃除をしているみたいなのです。

「蛮族のご領主さまはお綺麗好きですからねえ。ちゃんとお片付けをしておかないと、お仕事に差しさわりが出るといけません」
「戦争中だから使用人のみなさまも、他のお仕事があって忙しいかもです。そうするとわたしたちがお手伝いをしないといけないかもです……」
「義姉さんはいつも、家事が出来てはじめて一人前の奥さんだと言っていますからねえ。わたしも野牛の里にいる時はシエルに任せきりになりがちでしたけど、いい旦那さまのいい奥さんになるためには、張り切りますよう!」

 そんなやり取りが聞こえてくるので、ッヨイと巨人のおねえさんは顔を見合わせます。
 廊下では当たり前に騎士や兵士のみなさんが忙しく行き来しているのだけれど、誰もッヨイたちには気にも留めていない様子なのでした。
 エレクトラさんが途中で近付いてくるのが見えたけれど、

「ッヨイ子さまと、ただいま隠れんぼをしています」
「そ、そうなのです……」

 巨人のおねえさんが堂々とした態度でそういう風にお返事したので、エレクトラさんは納得した様でした。
 しばらくは室内でゴソゴソと音を立てて、拭き掃除や整理整頓に励む様子がうかがえたのです。そのうちにダルクねえさまの声がして「次は書斎のお掃除をしましょう」と隣の部屋に出ていく音が聞こえたのです。

「今がチャンスですねッヨイ子さま。わたしに続いて音を立てずに……」
「はいなのです」

 先に扉の向こう側に進んだ巨人のおねえさんに続いて、ッヨイも侵入します。
 執務室の端にある本棚にはいくつもの本や巻物が刺さった壺が置かれているのです。
 ッヨイは以前、サルワタでドロシアねえさまが見せてくれた古代魔法の魔導書を探しました。巻物ではなくちゃんと書物になったものだったので、それはすぐにも見つかりました。

「これなのです。ドロシアねえさまが大切にしている本なので、装丁を綺麗に作り変えていたから見覚えがあるのです」
「ほほう、野牛の紋章が施されています。なるほどこれはサルワタ家の新し象意ですもんね」

 巨人のおねえさんとうなづき合うと、急いで部屋を退出しなければいけません。
 早くしなければドロシアねえさまが戻ってきてしまうかもしれないし、隣の書斎でお掃除をしているダルクねえさまたたちにも気づかれてしまうかもしれないのです。

「お急ぎください。その本を持って外に出ると怪しまれてはいけません。わたしの胸の谷間に仕舞っておくので、こうしておけば安心です」
「わ、わかったのです……」

 巨人のおねえさんは魔導書を預かると、それを大きなお胸の谷間に仕舞い込むのでした。
 おっぱいエルフと比べても、きっとそのサイズは負けていないと思うのです。
 でもおっぱいエルフのニシカさんの方が身長は低いので、そう考えると黄色い蛮族のニシカさんは、おっぱいお化けなのです。

「さあ、今のうちに行きましょう。この時間ならば我が主(マイヌード)の寝所でしたら、誰も近付く者はいないと思われます。そちらで内容を吟味なさるといいでしょう」

 そう言った巨人のおねえさんと手を繋いで、ッヨイは寝室に向かうのでした。

     ◆

 いにしえの魔法使いたちはとてもおりこうさんだったのです。
 古代魔導書のはじめに書かれた序文には、こういう風に記されていたのです。
 魔法とは、元来モンスターたちに対抗するために人類が身に着けた文明の叡智なのだそうです。
 とても非力だった人間が、火を覚え道具を使えるようになると、それによって文明の礎となる魔法を発達させていったのです。

「こ、これを使えばッヨイもすごい魔法使いになる事が出来るはずなのです……」

 より効率的に魔法を使いこなすために、いにしえの魔法使いたちは自分の体を魔法で改造したのです。
 身体操法をより高めるためだと書かれていたのですが、その結果、いにしえの魔法使いたちは少子化社会になったと書かれていたのです。
 長く生きるようになると、子供は必要ではなくなると書かれているけれど、まだお子さまのッヨイにはよくわかりませんでした。

「身体操法をきわめると、より強力な魔法が使え……えっ、お子さまには使えないのですか?! 体が小さいと使える魔法の総量が限定されるのです……これは困ったのです」

 してみると、この古代魔導書を記した人間は、いにしえの魔法使いではなかったのです。
 その末裔にあたるひとが、いにしえの魔法使いの文明が滅びつつある頃に、後世にその偉業を残すために書き記したのです。

「で、でもお子さまからおとなの体になる方法が書かれているのです。ッヨイもこの魔法でおとなになる事が出来れば、ブルカ辺境伯の軍隊を相手にする事が出来るはずなのです……!」

 だからッヨイはどれぇの家族が使っている寝室で、こっそり身体操法の初級を使って、ッヨイはおとなの体になる事を考えたのでした。
 誰かの体を操作する事はとてもむつかしい事なのだと書かれているのだけど、自分の体は魔力の流れがわかっているので、比較的素養があればできると書かれているのです。
 ドロシアねえさまにできたという事は、ッヨイもドロシアねえさまの姪なので出来るはずなのです!

「で、でもいにしえの魔法使いの禁呪を使うと、ねえさまが怒りん坊になってしまうかも知れないのです……」

 考えてみれば古代魔法を使ったらいけませんと、ねえさまに厳命されていたのを思い出したのです。
 けれどあれは、あかちゃんに使ってはいけないという意味だったはずなのです。
 それにこれはブルカ辺境伯との戦争に勝つために必要なのです。
 ッヨイはねえさまが怒りん坊になった時の顔を想像して怖くなってしまったけれど、自分にこれは必要な事なのですと言い聞かせて、古代魔導書に書かれていた要領を試してみたのです。
 どういうわけか身体捜法のための魔法を使う時は、お服を脱ぐように書かれていました。
 ッヨイは首をかしげてしまいました。

「……フィジカル・マジカル・ぼんきゅっぼん!」

 するとどうでしょう。
 ッヨイの体は急にぽかぽかとしはじめて、気が付けば節々が痛くなり出したのでした。
 体が変化する感覚というのは、とても気持ち悪いのです。
 頭では今ッヨイの体が変化しているのはわかるのですが、体はビックリしているのです。

「っよ、ッヨイの体が、ドロシアねえさまと同じになってしまったのです?!」

 鏡を見ると、そこにはドロシアねえさまにそっくりな姿が写り込んでいたのでした。
 ッヨイは立派なおとなの体を手に入れたのです!

     ◆

 おとなのからだを手に入れたのだけれど、問題があったのです。
 からだが大きくなってしまったので、ッヨイのお服が小さくなって着れなくなってしまったのです。
 そうだ! 寝室には確かドロシアねえさまのお服があったはずなので、ッヨイは急いでそれを探したのでした。
 ドロシアねえさまは、いつも赤いドレスを着ていたので、それをさっそく身に着けてみたら、ッヨイはとてもおとなになった様な気分になったのですが……

「残念ですがマイヌード、ここをお通しするわけにはいきません」
「え、何でですかねケイシーさん。ちょっと雨が降り出して濡れちゃったから着替えたいんですけどねえ……」

 鏡の前でお服を押し付けて着せ替えをしていたところ、巨人のおねえさんとどれぇが問答する声が聞こえてきたのです。
 巨人のおねえさんはッヨイが試しに寝室で実験をする時に見張りに立っていたので、ここでッヨイが古代魔法を試している事は知っています。

「ではお脱ぎするのをお手伝いします。あちらへ……」
「いや自分で出来るから。それよりそこを通してくれませんか。服をですね」
「駄目です。ここを通りたければ、わたしを倒してお通り下さい」
「いや無理だろ。あんた俺より強そうじゃん」
「そんな事はありません。やってみなくてはわかりませんよ」

 ッヨイは焦ったのです。
 早くお服を着てドロシアねえさまの振りをするか、元のからだに戻らなければならないのです。
 けれども簡単に古代魔法で体を作り替えるなんて事はすぐにはできないのです。
 まだ古代魔法による身体操法は実験の途中なので、この事がドロシアねえさまに知られれば、怒りん坊になったドロシアねえさまにッヨイは折檻をされてしまうのです。
 勝手に魔導書を持ちだした事もそうですが、禁呪を使った事がバレたら、ねえさまにも怒られてしまうのです。
 ッヨイは恐ろしい気持ちになりながら、鏡を見ました。

「わ、わらわはアレクサンドロシア=ジュメェなのです。どこから見てもアレクサンドロシア=ジュメエなのです」

 ドロシアねえさまよりちょっとだけ若い顔をしている気がするのですが、きっとッヨイが成長したらこんな顔になるのです。あと、ドロシアねえさまより、おっぱいが小さかったのです。残念なのです。
 でもこれぐらいなら、ドロシアねえさまの振りをして今は誤魔化す事が出来るのです!
 争い事の聞こえる扉のところまでやってきて、ッヨイは急いでその扉を開けたのでした。

「何を騒いでいるのですか、のだ。騒々しいぞどれ……お兄ちゃん!」
「あ、これはですね。アレクサンドロシアちゃん」

 扉の隙間からッヨイが顔を出すと、ふたりで取っ組み合いをしていたずぶ濡れのどれぇと巨人のおねえさんの姿が見えました。
 どれぇにお兄ちゃんという言葉を口にすると、ッヨイはとても気恥ずかしい気分になったのです。
 けれども今は、そんな事を気にしている場合ではないのです。

「ええと、わらわは今ねる準備をしているところなのです。だから邪魔をするのではないのです」

 ドロシアねえさまのフリをするのは、とてもむつかしいのです。口調を真似てみたけれど、どれぇと巨人のおねえさんは不思議そうな顔をしているのでした。
 けれども、ッヨイだけにわかる顔をして「古代魔法は成功したのですね」と巨人のおねえさんは眼をパチクリさせたのでした。

「ああそれは悪い言をした。ちょっとだけ服を着替えたくてね」
「そ、そうか。では中に入るがよいのです」
「すぐ出るから。ちょっとだけ……」

 ここでおかしな態度をするとどれぇに不審がられてしまうと思い、ッヨイは了承する事にしたのです。すると、気を使ってくれた巨人のおねえさんが口を開きます。

「よろしいのですか、あ、アレクサンドロシア卿」
「わらわは構わないのです。さあ早くしてくれなのです……」

 あまり喋るとボロが出そうだったので、ッヨイは下を向いたままどれぇを寝室の中に入れました。
 すると、どれぇはいそいそとお服を脱ぐと、タンスの中から替えのお服を取り出します。それから何も言わずにッヨイが寝台の上に脱ぎ散らかしていたお服を見ると、ついでに畳んでくれたのです。
 どれぇが無言でそれをするので、ッヨイはとてもいたたまれない気分になりました。

「う、うまくわが主をだますことができましたね。ッヨイ子さま」
「でもおとなの体を維持するのは、半刻も出来なかったのです。これでどうしてドロシアねえさまが、いにしえの魔法使いの禁呪を再現しようとしないのか、なんとなくわかったのです……」
「つまり古代魔法を再現するのは、とても難しい事なのですね」
「そうなのです……」

 どれぇが出ていった寝室の後片付けを手伝ってもらいながら、ッヨイは巨人のおねえさんにお話をしたのでした。
 ッヨイだけでは禁呪を行うのはむつかしいので、今度は女魔法使いやドロシアねえさまにも事情を説明した方がいいと思うのです。

「けど、本当にッヨイ子さまの大人になった姿は、アレクサンドロシア卿とそっくりでしたね」
「でもドロシアねえさまより、おっぱいが小さかったのです……」
「その事はわが主もお気づきにならない程度の誤差でしたよ。きっとッヨイ子さまは美人に成長するはずなので、わが主も先々が楽しみに違いないですね」

 巨人のおねえさんはそう言ってニッコリしたけれど、ッヨイにはよくわからなかったのです。

     ◆

 いにしえの魔法使いの禁呪を記した魔導書は、元あった場所に巨人のおねえさんが直してくれたのでした。
 その事にドロシアねえさまも他の家族もみんな気が付いていません。
 ッヨイの思い付きは、残念ながら失敗に終わってしまったのです。

 けれども。
 ブルカ辺境伯の軍隊を打ち破るための魔法を身に着ける事には失敗しましたが、ッヨイはひとつだけ古代魔導書に学んだことがありました。
 継続して小さな禁呪を使い続ければ、これは維持する事が出来ると解ったのです。

「シューターさん聞いてくださいよ。最近俺、雰囲気変わったと思いませんか?」
「別に思わないんだよなぁ」
「そんな事ないですよ! 俺の後退して来た髪の毛が、少し生えてきたんですよ!」

 最初はおっぱいを大きくしたいと願っているガンギマリーのお胸を大きくしてみたらどうかなと思ったのですが、バレたら怒りん坊になったねえさまに折檻されてしまうと思ったのでやめにしたのです。
 その代わり、ダイソンさんの髪の毛を増やしてみようと思ったのでした。

「どうせ坊主頭にしてるんだから、別にあろうがなかろうが関係ないんじゃないのか?」
「そんな事は無いですよ! あるけど剃るのと、ないから剃るのでは意味が違うんですよ!!」
「わかんないなあ。ちょっとの差だろ?」

 毎日いにしえの魔法使いが使った禁呪を使い続けると維持できることは、ドロシアねえさまがおしわを消している事からも明白なのです!
 ッヨイはおりこうさんだから、小さなことから実験を重ねていく事にしたのでした。
 ダイソンさんなら頭をいつも丸めているので、どれぇも気付いていないのです!

「まあ見ていてくださいよ。俺、この戦争が終わったらフサフサになるんだ……」
「おいヤメロ馬鹿、フラグを立てるんじゃない!」
「痛でぇ、何するんですか俺のお毛々さまに。抜けたら責任とってくださいよッ」

 実験が成功したあかつきには、ダイソンさんはフサフサになるのです。

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