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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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263 決戦の序曲


「全軍、それでは進発いたしますの!」

 フクランダー寺院の宿営地を前にして、盟主連合軍総指揮官マリアツンデレジアは剣を引き抜き号令した。
 背後には指揮通信用の六頭引き馬車が用意されているが、今回はこれも必要ない。
 男色男爵とドラコフ男爵の連合軍が地続きで北上を実施する一方、盟主連合軍の残りの主力は、リンドル川を軍船によって下る。

 ここで二軍に別れた俺たちは、かつてないほどに機動力だけを重視してアレクサンドロシアちゃんの元へ駆けつける必要があった。
 これまではモエキーおねえさんが兵站計画を緻密に立てながら背後連絡線を構築しつつの稲妻作戦だったけれど、ゴルゴライに伸びる兵站線は、いわばリンドル川だけを安全回廊としてしまえば、問題なく実施する事が出来るのだ。
 その意味で、今になってようじょの立案した稲妻作戦の意義があった事は思い知らされた。

「アンタたちぃ、ただちに街道を走破してドロシアちゃんの元へ向かうわよぉ!」
「敵の背後を突くためには時間との勝負だ、各員ただちに馬車へ乗り込めぇ!」

 それぞれの手勢を指揮するふたりの男爵たちは、配下のモッコリ頭や屈強な領兵たちに次々と号令を飛ばしながら解散していく。
 それを見届けたツンデレのマリアちゃんは機動力に劣る指揮通信馬車には乗り込まずに、ただちに供回りたちを自分の周辺に参集させた。

「シューターさま。事前に軍船の集結準備は完了していますの」
「まずは俺たちがゴルゴライに乗り込む事で、援軍が来ているというインパクトをゴルゴライ方面軍に与える必要がありますからね。連れていく兵士の数は問題ではない」
「そうなのです。モエキーねぇさまにお願いして、すでに本隊主力の第二陣までの編成割りは完了しているのです。ここからモッコ村までの距離はすぐなので、じんそくに乗り込む事が出来るはずなのです」

 参謀格の俺とようじょに会話を振りながら、マリアちゃんはうなずいてみせる。

「騎士修道会のそーちょーの魂が異世界に旅だったとなれば、ドロシアねぇさまの軍勢は浮足立っている可能性があるのです。とにかくッヨイたちが顔を見せるだけでも、落ち着きを取り戻せるはずなのです」
「特に雁木マリにとっては、数少ない身内だからな。もしかすると作戦に大きく影響が出ているかも知れない」

 情報が錯綜する中で、俺たちはまだゴルゴライの街道口での戦況がどうなっているのか、細かいことを知らされていなかった。
 いくつかの伝報で知らされていた内容は、ゴルゴライの防備は半ば要塞都市と言えるまでに堅固なものになったというだけである。
 実際の戦闘については、敵を誘引する目的でブルカ同盟軍側の村々を焼き払う行動に出たというところで途切れているのだ。

 インターネット全盛期でリアルタイムに情報共有が出来る元いた世界とは違い、情報のやり取りは不確実な方法である伝令と伝書鳩が主軸だ。
 タイムラグも著しいし、あるいは途中で敵の連絡妨害網に引っ掛かる事だってありうる。
 触滅隊というブルカ辺境伯が組織した野盗の集団は、まさにこういう戦時下に地下活動をするための下地を整備する目的だったのだと、俺もようじょも改めて思い知らされたのだ。
 触滅隊の主力はほとんど殺害するか捕縛する事が出来たが、少なくても定期的に人員の入れ替えはあったらしく、新旧メンバーの全てを処断できたわけではないし、実際に伝令や魔法の伝書鳩が何者かによって処分されたのか、リンドルとフクランダー寺院間の比較的近い距離の中でも、上手くいっていない例は存在しているのだ。

「最低限の警護だけでモッコの村まで向かう事になりますが、ご容赦ください。馬は使い潰すつもりで全力で駆け抜けさせます。軍船に乗れば馬も人間もひとまずは半刻ほど休憩する事は出来ますので」

 現在の総指揮官の護衛を担当しているのは俺である。
 軍監として側にいるために兼任しているわけだが、そうなると実質的に護衛の指導を行っているのは男装の麗人が指揮するサルワタ隊という事になってしまった。

 本来マリアちゃんの警備を担当する供回りたちは、彼女の実家から連れてこられたはずのリンドル騎士だったはずだ。
 けれどもすでに幾度の戦闘を経て、その数は確実に減らしている。負傷した者はまだ救いがある方で、戦死した者も併せれば、俺の見知った顔ぶれの護衛たちはずいぶんと数を減らしたと思う。

「承知しておりますのよ。わたしも宮廷伯の娘。槍働きはともかくも、馬術は貴族のたしなみですのよ!」
「あ、あのう。わたしは少し自信がありませんが、しっかりシューターさんの背中に捕まっていますので」
「大丈夫ですよう義姉さん、旦那さまの背中は大きいですから」
「ぼくも、後ろに……」
「べっ別に後ろに乗らなくてもわたしはひとりで軍馬ぐらい乗りこなせるからっ」
「わたしには馬など必要ないがな。恐らく走れば一番早いだろう」

 さすがお貴族令嬢のご出身だけあってマリアちゃんは軍馬でも問題ないと宣言したが、カサンドラの方は心配なので俺の背中に捕まるという。
 問題はその俺自身が軍馬の扱いに不慣れだという事だが、それでもこの数か月は戦場も駆け巡ったので、武器を振り回すのでなければ問題を感じない程度にはなった。
 たぶんいける。
 しかしラミア族のソープ嬢は軍馬に乗れないが、普通に走っても人間より早いのがすごいね(ただしスタミナがあまりない事がその直後わかった)。

 こうして武芸が得意なタンヌダルクちゃんやエルパコ、少女に毛の生えたラメエお嬢さまたちを供回りにして、俺たちもモッコの村に向けて駆け出した。

     ◆

 俺の記憶の中にあるゴルゴライの村は、防風林と用水路に囲まれた人口五〇〇あまりの場所だったはずだ。
 それが深夜にほど近い時刻まで強行軍を実施してたどり着いてみると、まるで別物になっていた。
 本来の村は中央広場の周囲に石造りと木造住宅密集していて、そこから少し離れた場所に大きな庭を持った領主館や教会堂、中央広場の反対側には宿屋があるといった景色だったのだ。
 それが深夜でも消える事の無い松明が、リンドル往還からゴルゴライの街道口を目指している段階から煌々と輝いていて、それを目印に徐々に近づくと、俺たちは息を飲む事になる。

「シューターさん、以前のゴルゴライとはまるで別物になっているみたいですね」
「そうですよう。わたしがが少し前にこの村を経由したときよりも、さらに増改築されている感じですよ……」

 ここを夏の盛りに経由した時にはなかったいくつもの高い櫓が、ゴルゴライのあちこちからニョキニョキとそびえ立っていた。簡易の石と土壁を利用した塔なのだが、そのうちのいくつかは完全に辺境の領地ではどこにでもある石塔と並ぶ高さをしている。
 それどころか、完全に土の魔法か何かまで駆使をして、城壁の様な土塁までが出来上がっているではないか。

「これがゴルゴライの街ですのね。要塞と呼ぶにふさわしい、ものものしい警備ですの」
「いやいや、ゴルゴライはもともとはただの交易中継の村にすぎないんですけどね。少なくともアレクサンドロシアちゃんがこの村を占領統治した時は、防風林とお濠があるだけの村でした」
「では、戦争に備えてこれだけの防備を?」

 驚いて見せるマリアちゃんに、カサンドラとタンヌダルクちゃんがうなずいて見せた。
 ものものしい警備の兵士たちが、近付く俺たちの軍勢を見て手を上げて合図を送っているのが見える。
 すでに先ぶれの使者としてけもみみがゴルゴライに駆け込んでいたのだから、俺たちが第一陣として援軍に到着した事はわかっていたのだろう。

 後続する歩兵たちは、ゴルゴライ近くの河港からぞろぞろとこちらを目指しているはずだが、俺たち馬に乗ったメンバーだけが、街道口から右折して、ゴルゴライの中心地へと向かった。
 新たに建築された兵士たちの宿舎や、ここに集まった冒険者や傭兵どもを収容するための簡易宿泊所も並んでいる。
 当然それらを相手にする商売人たちの露店や、いかがわしい娼婦たちの姿も路上に散見された。
 深夜にもかかわらずである。

「ぜ、全裸卿。あのエッチな格好をしたお姉さんたちは何なのかしらね!」
「ああ、あれは娼館で働く売春婦たちでしょう。自分たち盟主連合軍には騎士修道会も名を連ねているので、盟主連合軍側の統治下では個人の娼婦はご法度です。従って彼女たちはどこかの娼館に籍を置く売春婦という事になりますね」

 聞かれてもいないのにそう説明したのは男装の麗人である。
 俺も宗教上の理由によって娼婦や風俗店を利用した事が無い人間なので詳しくないので助かるが、ベローチュはセレスタの官憲として職務に当たっていたので、この辺り非常に明るいのだろう。

「ばばばっ、売春?」
「そうですよう。旦那さまの様に奥さんが一杯いるひとは必要ないのですが、奥さんのいない戦士のひとは、世の殿方を等しく愛して下さるああいった女性が、お相手をするんです。野牛の一族にもそういう娘がいたんですよう」

 訳知り顔でタンヌダルクちゃんがラメエお嬢さまに説明をしていた。
 すると疲れてヘトヘトになっていたソープ嬢を領主館まで運ぶために荷馬車の御者台に座っていたッジャジャマくんが凄く悲しそうな顔をしていた。

「何だきみは、あの女性に興味があるのか」
「あると言えばありますが、無いと言えば無いですね。俺は出来ればひとりの女の子に末永く愛されたいんだ」
「なるほど、まあ頑張れ。わたしも頑張ろうと思っている……」

 背後から聞こえてくるッジャジャマくんとソープ嬢の会話によれば、ッジャジャマくんは結婚願望があるらしい。時々そういう事を言っていたしな。

「ッジャジャマくん、だけど結婚をするのは上司として認められないからな」
「何でですかシューターさん、そりゃないよ?!」
「俺の故郷では、この戦争が終わったら結婚するんだとか言い出すヤツは必ずアッサリ死ぬという風説が残っている。だからそういう事を口にしてはいけないし、考えてもいけない」
「自分だけ奥さんいっぱいいるのに、シューターさんや兄貴ばっかり。キーッ!」

 フラグが立つと厄介だ。今のうちにしっかりと釘をさしておく必要がある。
 抗議の言葉を口にしたッジャジャマくんであるけれど、俺の背中に抱き着いていたカサンドラがどうやら睨みでもしたのだろう。
 すぐにも明後日の方向を向いて、口笛を吹き出したではないか。
 それも日本ではよくない風習なので指摘しておく。

「夜中に口笛を吹くと、蛇にかみ殺されるらしいという風説も俺たちの故郷にはあったな」
「全裸を貴ぶ部族のですかっ。やめます、口笛やめますからクリスティーソープ何とかさん殺さないで!」
「わたしはそんな事はしない! 舐めるのが専門だ!!」

 御者台で暴れたッジャジャマくんは、ソープ嬢にしばかれていた。
 そうしてゴルゴライに入城し、そのまま灯の消えない領主館の側までやって来た俺たちは、続々と中に入って待ち続けていた女領主の元へと駆けつけるのだった。

「シューター、戦場にミゲルシャールが出張って来たぞ。連中はここで決戦を仕掛けて戦いを終わらせるつもりらしい」
「ごめんなさいシューター、マリアツンデレジア卿。敵の誘いに乗って迎撃に出たのだけれど、一敗地にまみれてしまったわ……」

 苦渋に満ちた顔のアレクサンドロシアちゃん、そして憔悴しきった顔の雁木マリ。
 ふたりが応接室で俺たちを出迎えると、開口一番にそう口にしたのである。
 おおう、まさか手遅れだったのだろうか。

「それではゴルゴライ方面軍は押されまくっているのですかドロシアねぇさま……?」
「安心しろ。まだ周辺を包囲されたわけではなく、領境上で睨み合いをしているという状態だ。ただし貴重な戦力に犠牲を出したことは事実だ」
「…………」
「ただし前線を押し上げてこないあのオレンジハゲめの動きは今のところない」

 ようじょに対する戦況説明をする女領主に、固唾をのんで俺やマリアちゃんは野戦地図を覗き込んだ。
 いくつものオレンジ色の駒が、厚い層になる様にして前線に配列されていた。
 対する盟主連合軍のそれは、ゴルゴライの周辺に張り付けられているほかは、一部が前線に置かれているだけだ。

「カーネルクリーフの首が届けられたことで全軍にかなり動揺が走っている。これを鎮めるためには戦場で結果を出さねばならぬ事になった。マリアツンデレジア卿よ、シューターを前線に送り出して辺境不敗はわらわたちの元にある事を示さねばならぬ。ご許可願えるの?」
「もちろんですのよ。明日の午後には盟主連合軍本隊の第二陣が到着いたしますので、兵員の数は整いますのよね、ッヨイ子さま?」
「了解なのです。どれぇの到着をゴルゴライで全面的に発布して、野戦にて機動作戦を実施して、敵の包囲網を切り崩すしかないのです!」

 現状にあっけにとられて口をポカンと開けている間に、何やら俺を名指しで戦場に送り出す算段が進められていた。
 マジかよ。マジかよ?!

「なるほど、シューターなら確かに辺境不敗の名声があるわね。確かに全裸の守護聖人があたしたちの先頭に立っている事を示せば、士気回復もあるいは……」
「旦那さまならば安心です。そうですねシューターさん?」
「そうですよう、何といっても兄さんを倒した戦士ですからね、旦那さまは」
「でも服を脱がなきゃ最強じゃないよね、シューターさんは」

 雁木マリにはじまり、大正義カサンドラに野牛奥さん、さらにけもみみまで賛成するので大変だ。
 勝手な事を言うんじゃない。そうして不満を口にするよりも先に、言葉を封じられてしまう。

「ご主人さま。われら奴隷親衛隊がどこまでもお供しますので、その折には何卒ご下知を!」

 そんな言葉が男装の麗人より飛び出したかと思うと、即座に女魔法使いやクレメンス、モエキーさんまでもが俺に平伏した。というかさせられた。
 空気的にそうしなければならないのかと思ったラメエお嬢さまやソープ嬢まで倣うのだから大変だ。

「お兄ちゃん、これで流れに乗れば大勝利間違いなしだな!」
「そうですのね。間違いなしですの!」
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