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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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261 稲妻作戦、完遂のお知らせ

 やあみんな、俺の名は異世界参謀の吉田修太だよ。
 参謀とか言っているけれど、実のところは総指揮官のマリアツンデレジアの側で「そうですね」と「ありがとうございます」を連呼するだけのイエスまんだ。
 ようじょの立案した稲妻作戦は順調に消化する事が出来たよ。
 俺が全裸にならず、出番がないという事は味方がピンチに陥っていないという事だ。
 つまりそれはよい事なのである。

「総指揮官マリアツンデレジア卿、および軍監さまにご報告申し上げます。全ての占領予定地に兵員を送り込む事が完了いたしました。あらかた敵の抵抗は収まり、現在は降伏の使者をリンドルの大本営に向けて送る手はずが整っております」

 ナワメの森の四方に広がっているブルカ同盟軍の領土は、稲妻作戦の開始からおおよそ十五日あまりの経過をもって、ほぼ予定通りに制圧を完了したと言える。
 その報告を持って登場したのが、膝をついて貴人の礼を取って見せる男装の麗人ベローチュだった。

 この場に居合わせた俺やマリアちゃん、オッペンハーゲン爵や男色男爵、ベストレ男爵にスルーヌ騎士爵夫人としてカサンドラなど、盟主連合軍主力の指揮官たちが顔を揃えていた。
 ようじょは別件で席を外していないので、何となく俺の発言は責任重大になる。何と言っても軍監は総指揮官の相談役だからな……

「ご苦労ですの。シェーンさまの元にお送りする使者たちに、万が一の事があってはなりませんの。お前たちの中から腕の立つ人間を護衛にあてて、しっかりとお見送りをする様になさいませ」
「ははッ。ではただちに!」

 本陣幕舎で鷹揚にそう返事をしてみせたツンデレのマリアちゃんは、すぐにも側に控えていた護衛の騎士に命じて手配を行わせた。

 敵方にまわった軽輩領主たちのほとんどは戦いの中で戦死したか行方知れずとなった。
 けれども身内を戦場に送り出して自分は捕虜になった者、あるいは戦死した領主の身内が生き残るパターンもあったわけで、形式上これらがリンドル子爵を盟主とする辺境の有力諸侯連合に従うという儀式は必要なのである。
 しかしその降伏する使者どもを、またぞろツジンの配下が狙って攻めてくるという可能性も考えられるので、俺たちはそれなりに警戒をする必要があった。

「現状のゴルゴライ戦線の様子はどうなっているか、あなたはご存知ありませんの?」
「はっ。ご主人さまの配下に銘じまして、現在はブルカの街および街道沿いの村々から情報吸い上げに全力を挙げております。ブルカ辺境伯はすでに全軍の戦闘準備を完了させていると思われ、数千を要する軍勢が街道を進軍しているとも耳にしております」

 ご主人さまの配下などといっているけれど、実質は男装の麗人が指揮している俺も良く知らない情報収集部隊はとても優秀だ。
 マリアちゃんの質問に対して、いったん俺の顔を見て確認を取る様な態度を示してから、つらつらと説明をしてくれるのである。

「さすがシューターさまは、手際がよろしゅうございますのね」
「部下が優秀なんです、部下が。ベローチュ、続けてくれ」
「ははっ。ゴルゴライの街道口に布陣しているアレクサンドロシア卿の軍勢は約二〇〇〇、これでは野戦にて万を要すると思われるブルカ辺境伯の本軍と戦う事はむずかしいでしょうから、恐らくは幾つかの防衛拠点を縦にしながら、漸減作戦を行っているものと思われます。事実、」

 言葉をいったん区切った男装の麗人は、すぐさま辺境の地図を持ってこさせ、それを広げるとある一点を示した。

「斥候の報告によれば、アレクサンドロシア卿ご自身が数百の兵を率いてブルカ同盟軍の村々を焼き討ちにして回ったとの報告が入っています」
「するとアレクサンドロシア卿は上手く敵の攻勢を受け止めて、耐えて見せているという事か」

 ドラコフ卿は唸る様にそう言葉を発した。
 わずかに二〇〇〇の軍勢で万の軍勢を引き受けているのだから、本当に上手くやっているのであればかなりの手腕だろう。
 モノの本によれば攻める側は守る側の三倍の戦力が必要であるなどと書かれていたのを俺が見た事があるが、それは城塞に立てこもった場合の事だろう。
 下手に平原で野戦に打って出た場合は、その守勢側の要塞に頼った戦い方が出来なくなり、その場合は数の勝負になってしまう。

「聞いている限りは今のところ。ただ、出来るだけ早くにこちらま戦力をまとめてブルカ同盟軍側の背後を突かなければ、アレクサンドロシア卿の防衛作戦は失敗に終わってしまいます。ゴルゴライの街道口はすでに要塞都市とまで言えるほど防備を固めているそうですが、籠ってしまえば友軍の打てる手立てはなくなります」
「こちらの主力が再編成を完了させるには、あと数日ほどでございますな。さすれば一気に敵の背後に主力を叩きつける事が出来ます。前回と同じようにオコネイル卿の騎兵隊と、ドラコフ卿の機動歩兵隊を前面に押し立てて、街道を北上なさるのが上策でござろう」

 うなずいてみせた男装の麗人に、俺の側に控えていたデルテ騎士爵が意見具申した。
 彼はもう勝手に俺の副官みたいに、つてに側に控えているから面白い。
 前回は敵の大魔法使いを捕まえるという武勲を上げているので、今は軽輩諸侯たちの中でも頭ひとつ飛び抜けて発言権を持つに至っている。
 まあ、デルテ卿の言っている事はその通りなので、ドラコフ卿も男色男爵もその意見に同意の態度を示したのだ。

「残りの部隊はモッコの漁港に移動して、一気にリンドル川を下ってゴルゴライに向かうのがよろしいでしょう。すでに養女さまが、そのための手配に出かけております」
「わかりました。フクランダー寺院の陣所はこのままリンドル川西岸域の占領統治の中核になりますので、兵を残さなければなりませんの。どなたか志願なさる方はおりませんの?」

 ではその様にしましょうと一同が衆議一致したところで、さて問題だ。
 俺たちはいま勝ち馬に乗っている。
 アレクサンドロシアちゃんはゴルゴライの街道口でよく敵を押しとどめていたし、稲妻作戦では多少の犠牲は出したものの、うまく予定通りに迅速な占領作戦も成功した。
 誰もが勲功を欲しがっているのか、諸侯たちは志願するものがいない。

「各村々に配置した軽輩諸侯らの軍勢はそのままとして、やはりブルカ伯がどの様にここで動くかはわからない以上、フクランダーの陣所にも有力な兵士を残す必要があるでしょうな。ベストレ隊などはいかがでござろう」
「じょ、冗談ではない。わが隊はまだ、たいした犠牲も払っていないし、十分に戦闘が出来る。そうだ、リンドル隊が残るというのは如何でござろう。やはり総指揮官たるものは陣所にどっかりと座っていただき……」
「何を仰いますの! 指揮官先頭という王国貴族の伝統なくして誰が従いましょう。わたくしはシューターさ……みなさまとともに前線へ」
「ではどうするのだ。シューター卿がここに残るというのではいかがか。軍監どのはすでに十分に勲功を上げてござりますし、軍監たる方が前線で指揮を執るのはこれはおかしい」

 何やら諸侯の偉いひとたち同士で貧乏くじの擦り付け合いを始めたので、カサンドラがとても嫌そうな顔をしていた。
 普通は戦場に出るのを嫌がるものだと思っていたけれど、勝っている時は勝ち馬に乗りたいのだろう。

「ではわしがのこりましょうぞ。わしはこの国の人間ではないからな、あまり両国の辺境地帯で暴れると、オルヴィアンヌの国王陛下に敵意ありと見られてしまうやもしれぬ」

 わしはそれでも構わんが、あんたがた夫婦はそれじゃ困るだろう。
 そんな事を口にしたドワーフ王のバレダーレンシュタイン陛下は、俺とツンデレのマリアちゃんを交互に見比べた。
 当初の作戦会議でも、基本はリンドル周辺の防備を買って出ると言っていた岩窟王陛下だ。

「で、では陛下にこの土地の守備はお願いいたしますの」

 すると周囲を見回してから最後に俺へ確認を取ったマリアちゃんが、一同を代表してドワーフ王にフクランダーの防衛をお願いする事に。
 うむうむとうなづいて見せたドワーフ王である。

「恐れながら陛下に申し上げます。ブルカと我々の占領域を隔てる山々の分水嶺は高く、これは大軍を踏破するのには向いていませんが、少数による工作員の侵入は考えられます」

 ツジンの娘婿だというアンクルハーゲン騎士爵という男は、俺がナワメの渓谷の戦いで捕まえた捕虜である。敵の大魔法使いとともに尋問を行った結果、こうした工作員をかなりあちこちに派遣して後方攪乱を実施している事もわかった。
 今回に限らずブルカ伯は、触滅隊という盗賊のナリをした工作部隊をリンドル往還で暴れさせていた前例もあるので、油断は出来ないのだ。

「わかっておる。その辺りの事も踏まえて、周囲の巡回には力を入れなければならんな。特にナワメの森に詳しい人間の協力は不可欠だ」
「騎士のジイを残していくのがよろしいでしょう。彼はオホオ村の幹部ですから、猟師たちとの間に入って取り持ってもらうのに最適かと」

 男装の麗人が俺やカサンドラに視線を送りながら意見具申をしたところで、ドワーフ王は納得した顔を見せてくれた。
 しかし解決しなければならない問題はいくつもある。
 このフクランダー寺院の地下に存在するダンジョンの主で、ラミア族の後継者であるクリスティーソープランジェリーナについてもそのひとつだ。

 彼女とは家財道具一式を新しく運ぶ込む事、それから生活必需品を提供する事を引き換えにフクランダー寺院の遺構を軍事拠点として利用させてもらっている。
 かつてはブルカ辺境伯ミゲルシャールと再開の約束を果たした恋人関係という事だったけれども、それも得られず仕舞いで今に至る。
 もはやその点についてあきらめの境地に至った彼女だったけれど、今後もここにとどまり続けるのかどうなのかについても、俺たちがここを出発する前に確認しなければいけない。

 軍議が終わってカサンドラと男装の麗人を伴った俺は、幕舎を後にすると件のソープ嬢のもとへ向かう事にした。
 この幕舎での生活も諸隊が再編成を終えた段階で終了だ。
 彼女が今後もこの場所で静かに生活をするにしても、新しい世界に出てく決断をするにしても、挨拶をしなければいけない。
 そんな風に考えながら寺院の神殿のある場所へと足を運んだところで、不意に向こうから急ぎ足でちょこちょこと走って来るようじょの姿を目撃した。
 どうやらニシカさんやけもみみと一緒にいたらしく、ようじょの後をふたりの猟師が追いかけてくるのだ。

「どれぇ!」
「どうしました急ぎ足で」
「ブルカで政変の動きがあったと情報がみつかりました!」

 政変? どこからだ。
 俺はたまらず聞き返してしまった。鱗裂きのニシカは難しい顔をして、手に持っている何かを見せてくれる。それはどうやら魔法の伝書鳩の亡骸だった様だ。

「どうも谷間にあったブルカ軍の陣地に向けて、飛ばしていた様だぜ。オレとけもみみが巡回警備をしている最中に見つけたんだ」
「伝書鳩の籠を設置している場所の近くに、迷い込んでいたんだ。近付いたら逃げ出したから撃ち落としたよ」

 口々にそう言う猟師奥さんたちの言葉に俺とカサンドラは顔を見合わせる。男装の麗人はさっそく差し出された紙片を受け取って中身を確認し始めた。
 例によって小さな麻紙の紙片にびっしりと書き込まれているらしく、男装の麗人はそれを急いで口にする。

「き、騎士修道会と王国ブルカ兵団が交戦? しかもこれをブルカ辺境伯が鎮圧して、総長カーネルクリーフ卿を処断したと書かれています」
「そんな馬鹿な、どうしてカーネルクリーフ総長がワッキンガー将軍と交戦する必要があるんだ」
「ご主人さま、騎士修道会の反乱だとこの紙片には書かれていますが。にわかには信じられません……」

 それもそうだ。
 俺の記憶の中にあるカーネルクリーフ総長は、険しい鷲の様な眼をした壮年の男だった。
 中央の政治舞台でも駆け引きをしてブルカに大聖堂を造らせた実績もあると聞いていたし、アレクサンドロシアちゃんと同盟を結ぶ決断をしたり、修道騎士たちを盟主連合軍に参加させたりと、政治的判断を適切に出来る人間だったはずだ。

「……意味も無くこのタイミングで王国の兵団に刃を向くなんて事があり得るのか?」
「どれぇ、これがツジンの考えた作戦だったのかも知れないです。騎士修道会は辺境広域に強い影響力をもっている武装教団ですから、ここで反乱軍となったとわかれば、きゅうしんりょくが落ちてしまうのです」
「求心力。たしかに田舎の教会堂にいる連中も、本部が反乱軍に参加したという噂を聞けば、態度を保留する人間も出てくるのかも知れないが……その事はハーナディンは知っているのか?

 ふるふるとようじょは首を横に振った。

「まだ知らせていないのです……」
「エルパコ、急いで彼を探してこの件を伝えるんだ。ああベローチュその紙片を渡しておいてくれ」
「わかったよ」
「エルパコ奥さま、よろしくお願いします!」

 短くけもみみとやり取りをした後で、俺は改まってようじょの顔を見た。
 本来の予定ではこのまま軍勢をふたつにわけて北上するはずだったのだが、果たしてどうするべきなのだろうか。
 ようじょも何かを考えているらしく、腕を組んで「うーんうーん」と言っている。

「カサンドラ、悪いけどすぐに諸侯を参集させる準備をしてくれ」
「え、どういう事ですか?」
「もしも騎士修道会が王国に反旗を翻したというレッテルを張られて、これが王都に届いてしまったら、どっちが王国にとっての敵かわけがわからなくなってしまう」

 ブルカ辺境伯ミゲルシャールは、辺境で自主独立の国家を立ち上げようと暗躍していたのだ。
 そのために長い時間をかけて工作を張り巡らせていたのであって、王国への叛意がどちらにあるのかは明明白白だ。
 何がどうなっているのかさっぱりわからないぜ……

「まずは情報収集のために、人間をおくりだすひつようがあるのですどれぇ」
「人間。誰かを潜伏させるという事ですか」
「そうなのです。この情報も、たまたま敵の間でやりとりしていた伝書鳩から得られたものなのです」

 ようじょはそう言った。

「恐らくその鳩は、谷間の陣地に一度は飛んでいったが、移動式の鳩舎か何かが無くなっているのでこの辺りをグルグル飛んでいたんだろうぜ。で、ここに迷い込んだから見つかったまでだ」
「ご主人さま、正確な情報を手に入れるためには、やはりブルカにいる情報収集部隊から直接情報を得る必要がありますね」
「マジかよ。誰が行くんだ……」

 そんな風に俺たちが議論しているところに、礼拝施設のトンネルから姿を現したのがソープ嬢だった。微妙なタイミングだ。
 まさかミゲルシャールの動きについて議論している時に顔を出されてしまうとは……

「どうした、入り口で何事か議論をしている様だが、わたしに用があったのではないのか?」
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