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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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閑話 ブルカ辺境伯の乱 終

 ブルカの街にある冒険者ギルドは全部で六つある。
 その内のひとつは本部事務所という扱いになっていて普通の冒険者たちは立ち寄らないが、それ以外の出張所は門前の繁華街に位置していたり、市域の中心地にある中央市場の周辺に設置されていた。
 冒険者によってそれぞれ得意にしている任務も違うために、彼らは仕事や自分たちの趣向によって使い分けたり、あるいは拠点をひとつに定めているものだと聞いた事があった。

 そのうちの俺が今回足を運んだのは城郭の南門前にある冒険者ギルドだった。
 主にブルカ同盟軍と盟主連合軍による睨み合いが市中の噂になりはじめてから西門や東門近くの冒険者ギルドは閑古鳥が鳴き始めたらしく、北の大湿地帯でのモンスター討伐任務がいついかなる時も盛んな北門を除き、ほとんどの冒険者たちは中央市場付近にある出張所に拠点を移していると聞いている。
 そういう事もあってか、南門側にある冒険者ギルドは元々からあまり冒険者の出入りが多くない場所だっただけに、今は仕事を探す一般の労働者で多くの人間たちが溢れかえっていた。

「俺たちゃ日銭を稼いでいる立場なんだから、仕事を紹介してもらわなくちゃ困るんだよ!」
「そうは言いましても、こちらでは輸送部隊の護衛を引き受けてくださる冒険者の依頼か、戦争に参加して下さる人員の募集しか無いんですよね」
「俺たちゃ労働者だぞ?! どうして戦争に出かけなくちゃならねえんだ!」

 愛想笑いばかりを浮かべて取り付く島もない態度の青年受付に対して、数人の労働者たちが食って掛かる姿が見受けられた。
 どうやら普段は人足仕事で生計を立てていた若い筋骨隆々の男女たちが、仕事にあぶれてこうして南門前の出張所まで移動して来たのだろう。
 しかし戦争が始まってしまって、人足仕事と言えば、戦地として予想される平原地帯まで補給物資を移動する危険な依頼か、あるいは野戦築城のために募集しかないのだろう。

 市井の民衆であれば危険な場所に出かけるのは嫌な顔をするものだ。
 これが俺のいたゴルゴライの村であれば、村長命令で人足の召集をかけて強制的に使役させることは当然のものと親父殿も村人も思っていた事だ。
 だがここブルカ辺境伯領は十万ではきかない領民を抱えている大貴族の領地であり、ブルカの街だけでも万を超える人口を抱える。
 となれば、領民全てを領主命令で統制させることも難しいのだろう。

「こちらの募集要項などは大変みなさんにとって魅力的な内容になっております。十日の普請に参加されますと、何と銅貨四〇〇枚がお支払いされることになります」
「銀貨はどうしたよ、銀貨は。小銭ばかり大量に貰っても困るんだよ!」
「騎士修道会銀貨の使用は、ご領主さまの命令で使用停止の扱いを受けておりますので、当ギルドでは取り扱いをする事は出来ません」
「ふざけるなよ! 修道会銀貨が使えなかったらどこの銀貨を使えばいいんだ。オッペンハーゲン男爵銀貨か?!」
「それも現在は使用停止命令が出ていますね」

 戦争によって明確に敵対する事になった貨幣は全てブルカ領内では使用停止の処置になったらしい。
 先日まではあまり流通しているとは言えなかったオッペンハーゲン男爵銀貨がこの扱いを受けただけで、市場の混乱はそれほどの問題にはならなか。
 けれども騎士修道会の反乱がブルカの街で起こった、という事になって以後は、辺境広域で使用されていたこの銀貨も使用禁止の対象となったのだ。

 俺は冒険者ギルドに併設されている酒場で酒を頼もうとしたところで、握りしめていた銀貨を黙って懐に仕舞う事にした。
 これを今のご時世に使えば、何を言われるか知れたものではない。
 代用としてブルカ市中に出回りはじめたのは、聞いた事も無い領主が発行している銀貨だ。
 流通量もまともに揃っていないものが今後市井に普及し終わるのは一体いつの事になるのだろうな。

「こうして見れば、騎士修道会の反乱がこの街にもたらした影響は大きいだろう。酒だ、呑みたかったんだろう?」
「……そうだ」

 俺に小樽に並々と注がれたビールを差し出す男がいた。
 冒険者の常識である鎖帷子を着こなしておらず、地肌に直接安い革鎧を身に着けている。
 タークスワッキンガー将軍から聞いていた特徴の男である。

「このご時世だ、仕事を探していたのならいい話があるんだ。紹介するぜ」
「そうか。そいつは助かる」

 こちらも同じ様に慣れない地肌に革鎧という出で立ちをしていたのだが、こんな男が酒場にふたりもいれば悪目立ちするのではないかと思ったが、そうでもなかった。
 何しろそんな集団が、冒険者ギルドの端にある酒場のテーブルに集まっていたのだ。
 恐らくこれが将軍さまの言っていた売女騎士の配下たちなのだろう。

「やけに肌の露出が多いな」
「あんたもな」
「それは、脱げば脱ぐほど強くなるからか?」

 よし、周囲に不自然に感じない様に俺は合言葉を口にした。
 すると一瞬だけ動きを止めた冒険者がニヤリとして、俺の背中に手を回した。

「わかっているじゃないか。鎧なんて脱ぎ捨てても辺境不敗の男がいる事を俺たちは知っているんだ。仲間を紹介する。俺はホルゴ、こっちはアレックス、隣はクナイだ。それからあっちは、」

 上機嫌で地肌に革鎧の冒険者集団に加わった俺は、怪しまれない程度に軽く自己紹介をしながら本題を切り出すに至った。

「こちらで預かっている荷物がある。実家経由で王都まで送り届けてもらいたい」
「実家経由か。わかった詳しく荷物については聞かせてもらおうか、場所を移動しよう」
「ああ……」

 俺にはわかる。こいつらはかなりの度胸が備わった連中だ。
 敵のお膝元であるブルカでも堂々と冒険者然としてギルドの酒場で酒盛りをしているのだからな。
 ツジンさまの配下にいた工作任務を担当する部隊や、触滅隊の連中と同じ匂いを感じたのだ。

     ◆

「身内から裏切りの出た騎士修道会の総長は、それはもう恐ろしい抵抗をしたらしい。踏み入ったブルカ騎士と裏切りの身内を何十人も道連れにしたところで、オレンジハゲのお出ましだ」
「……オレンジハゲ?」
「ああ、ミゲルシャールの事だ。あのハゲげあがった頭にオレンジ色の髪だろう、うちでは上から下までみんなそう呼んでいる」

 仕事を紹介するという態でギルドを出ると、先ほどホルゴと名乗った冒険者たちに連れられて移動を開始した。
 向かう先はビビアンヌが付き添っている将軍のもとだ。

「騎士修道会の総長派の残党は、これで逃げのびた人間もわずかだ。おおよそは西の高級住宅街に潜伏しているが、今は何かと連絡が付かない状態が続いている。で、王国軍の方はどうなっている? 積み荷について確認しておきたいからな」」
「将軍は生きてるぞ」
「それは?! ……本当か」

 一瞬言葉を区切って周囲を警戒した後に、声を潜めながら確認をしてくる冒険者たちだ。
 俺も低い声で

「ああ。俺は将軍の使いでここまで来た。将軍だけは何とか駐屯地の外に逃がす事が出来たが、他はどうなった」
「もちろん包囲されていたからな、ほとんどがその場で殺されているだろう。逃げのびた人間もいただろうが、街の中に潜伏しているのではこちらから探し出す事はできない」

 どうやってブルカの城郭の外に逃げるかが問題だ。
 高い城壁を抜けるためにはどうしても門を潜り抜ける必要があり、そのためには番兵たちの検問を受ける必要がある。
 内部に入る方が出るよりも厳しい状況が続いていたが、今は戦争が開始されてかえって出ていく方がむずかしいだろう。
 組織的な支援が受けられなければ無理だ。

 だからこの冒険者連中も自分たちと同じ格好をさせて「預け荷」を城壁の外まで送り出すのだという。
 本来はサルワタの連中に街の情報を送り届けるために冒険者稼業を続けていたのだそうだが、一部の関係者を外に送り出すために「荷物」運びを今は請け負う事もあるらしい。
 たまたま駐屯所から出張していた王国兵団の幹部たちや生き残った総長派の修道騎士や司祭たちをだ。

 その件の騎士修道会についてだが、サルワタの冒険者どもはその続きを語って聞かせてくれた。

「市井の噂では騎士修道会の反乱だという事で通っているが、もちろん俺たちはでっちあげの証拠をつかんでいる。将軍さまのところに連絡に向かった人間が言うのは、巨大な蛇が兵営の中で大暴れしたというからな」
「それに少し前に、巨大な蛇を捕獲するために冒険者の依頼が出ていた事もわかっているぜ」

 俺の顔を見やりながら冒険者たちが口々に言った。
 ああ何という事だ。完全に俺がしでかした事をしっかりといくつかの情報から結び付けて、結論を出していやがる。
 これは途中で俺の正体がバレれば、確実に殺されるパターンだ。
 公正明大な将軍さまが義理を重んじる人間であることを信じるしかない。
 せめてビビアンヌだけは助けてもらわなければ、俺はいったい何をやっているのだという事になる。

「将軍はこの先の奴隷商会にいる」
「何でまたワッキンガー将軍がそんな場所に」
「王都に繋がりがあるという貴族のやっている商会らしい。おたくの雇い主のご友人の関係だとよ」

 カラメルネーゼと言ったか、蛸足をした猿人間の女の実家が経営している店の支店だったはずだ。
 まさか敵だと思ってばかりいた人間のツテをひとつひとつ頼りにしながら生き長らえるのは、屈辱を通り越して笑い話だ。

 しかしこれと決めた方針を違えるのは筋が違う。
 最後まで将軍さまをお守りして、過去の失点を取り返すのだ。何が何でもビビアンヌも逃がしてやる必要がある。

「ここだ。本当に将軍さまを冒険者に偽装させて、外で討伐依頼をする任務に就かせるのか?」

 奴隷商館を前にして俺が振り返ると、サルワタの冒険者たちはお互いに顔を見合わせるのだった。

「俺たちだって将軍さまを荷運びするなんて思ってなかったからな……」
「まあご勘弁願うしかないだろう。おい、俺の服装はお貴族さまに失礼は無いか?」
「馬鹿を言うな。シューターの旦那なんか全裸でうろついていても、誰も村では文句を言っていなかったじゃないか」
「あのひとは特別だろう。全裸を貴ぶ部族なんだし……」

 シューターの話を耳にした俺は吹き出しそうになったが、とにもかくにも連中を奴隷商館の中に招き入れる。

「今日中に出来るのならば早い方がいいが、可能なんだろうな?」
「ま、任せてくれ。将軍さまに失礼な態度をしてしまうかもしれんが、そんときゃあんたが取りなしてくれよな」
「いいから中に入れ!」

 戦時下という事を物語る様に、南門周辺の往来は静かだった。よし、誰も付けてきた気配はないな……
  俺は冒険者たち全員を館内に押し込むと、ゆっくりと店の扉を閉めた。
おデブシュタイナーの視点閑話はここまでです!
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