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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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閑話 ブルカ辺境伯の乱 二


 さるブルカ貴族の邸宅の内部は閑散としていた。
 この家の主は独身で、運の悪い事の今回の戦争のために出征していたからである。
 戦地へ赴く直前に使用人たちには暇が言い渡されて無人となったところを、入れ替わる様にして俺たちが邸宅の新たな住人となった。

 表向きは空き家となった邸宅を敵の工作員が使用しないために召し上げるという理屈だが、本当の目的は当然別にある。
 オルヴィアンヌ王国の駐留ブルカ兵団の駐屯地から目と鼻の先に邸宅があるからである。
 この邸宅の屋敷からは、昼間の内は駐屯地内部を観察する事も出来た。
 元の家主が凝った性格の持ち主だったため、流浪の芸術家に敷地内に市中を見晴らせる観覧台なるものを作らせていたからだ。
 そして風向きによっては兵士たちの訓練中の掛け声までも聞こえてきて、俺たちがこの場所に身を潜めておくには極めて最適であるといえたのだ。

「しかし大蛇というのはよく考えられたモンスターですね。鳴き叫ぶ動物でもないし、普段はとぐろを巻いているので隠しておくにも目立ちにくい」

 邸宅内にある倉庫の前に立ったブルカ兵士は、疲れた顔で俺がそこから出てくると感心した様子で暗い倉庫の内部を覗き込んでいる。
 昨夜のうちに倉庫に運び込まれた大きな箱の中には、ティタノボアという名前の恐ろしい大蛇が入っていた。

「それで、例の傀儡の呪いというのは上手くいったのですか?」
「呪いではない、支配魔法だ。ああ上手くいったぞ、ツジンさまに直ぐにお知らせしてくれ」
「わかりました!」

 若い兵士はすぐさま貴人への礼を取って見せると、屋敷内でお休みしているはずのツジンさまのところへと報告に走っていった。
 他の兵士たちもよく訓練されていると見えて、俺が倉庫から出てきたところでしっかりと戸締りに取り掛かる。

「屋敷に運び込まれてくるのだがギリギリだったから、今回の作戦には間に合わないと思っていたがな」
「それは仕方がないさ、手こずる大物だった上に、昼間では輸送も目立つのでそうするしかなかったんだ」
「だが中の大蛇が弱っていたおかげで、俺はありがたかったがな」

 俺の監視役なのだろうか、先日場末の酒場まで迎えに来たブルカ騎士に話しかけると、面白くもなさそうな顔をして説明をしてくれた。
 かなりの数の冒険者や兵士たちを動員してこれを仕留めてきたというが、確かに運び込まれてきてからずっとこの調子で大人しいものだった。
 おかげで支配魔法を使う時もガーゴイルやサラマンダーを相手にするよりも随分と楽をさせてもらった。

「弱っていて今夜、本当に役に立つのか」
「騒動を起こさせればそれで役割は果たせるのだろう? それに弱っている主な原因は、お前たちがまともにえさを与えていないからじゃないのか」

 俺の仕事に疑いを向けられて心外な気分になったところで、嫌味をひとつ飛ばしてやることにした。
 ブルカ騎士はバツの悪い顔をして「死に物狂いで箱の中に収めたのに、外に出すなど正気の沙汰じゃない」と不満をブツブツ口にしていた。

 ともかく俺の役割は完了だ。
 このまま作戦結構がある夜を迎えるまで仮眠を取らせてもらおうと、邸宅の中に与えられた自分の部屋に向かう事にする。
 支配魔法を完全なものにするために昨夜から一睡もしていない。
 女王バチを使役するのとはわけが違うので、油断も許されない作業だという事を、こいつらはまるで理解していなかった。
 だがまあ夜までは寝て待つだけだ。

 そんな風に邸宅内の廊下を先ほどのブルカ騎士とともに歩いているところで、伝令が駆けてくるのを目撃した。
 俺の役割はひとまず夜までの無いのだから、さっさと部屋に引っ込もうと中に片足を入れたのだが、

「呼ばれてるぞ」
「俺か? 何の用だ、人使いが荒いにもほどがあるぞ」
「ツジンさまらしい」

 伝令が要件を伝えに来たのは監視のブルカ騎士ではなく、どうやら俺の方だったらしい。
 さすがにツジンさまをお相手にこれ以上の不満を並べる事は出来ない。あの方は酒と女遊び、それから決められたルールを守らないことを恐ろしく嫌われる性格なので、呼集がかかってモタモタしていると理不尽に張り倒されてしまう。

 だが俺だけこんな仕打ちを受けるのは理不尽だ。
 疲れた顔をして自分だけ「じゃあな」と引っ込もうとしたブルカ騎士の腕を掴んで、俺は逃がさなかった。

「何をする」
「俺の監視役なんだろ? だったら常に俺の側にいなければ任務を果たした事にはなるまい。ツジンさまに報告するぞ」
「か、監視役などではない。同僚と言ってもらいたいものだ」

 何とでも言い様はある。
 俺はブルカ騎士を逃がさずに捕まえたまま、伝令に従って邸宅内の観覧台へと向かう事にした。

 観覧台というのは、田舎村に行けばどこにでもある物見の塔と本質的な造りは同じものだ。
 石造りかレンガ造りかという外観の差はあるが、四階建ての高さを有していて展望施設が作られている。

「この邸宅の貴族は、市域の街並みを楽しむためにわざわざ芸術家に設計を差せた様であるが、出来上がってみれば思った様な仕上がりになる事は無かったので、芸術家を激しく叱責して首にしたのだと聞いている」

 理由は簡単だ。
 ブルカの政庁よりも高く建物を作る事が許されていないので、さほど見晴らしのいい観覧台にはならなかったのだろう。
 それにここから眺める事の出来る見晴らしはブルカ聖堂を眺める事が出来るのと、王国兵団の駐屯地の敷地内がよく見える事だけだろう。

「だがそれは我々にとっては非常に好都合だったな。見えるか、あそこで剣術の指南をやっている男がタークスワッキンガー卿だ」

 ガラス球の装飾を鼻にかけたツジンさまが、観覧台からの見晴らしを背にして俺たちに説明した。
 この場には彼の指揮下にいるという特殊な工作を専門とする幹部騎士たちと兵士どもだ。
 それに俺も加わって居並んだみんなはツジンさまの一挙手一投足に注目している。

「今夜、予定通りタークスワッキンガー卿の暗殺を決行する。犯行に及んだのは騎士修道会の総長カーネルクリーフ枢機卿を中心とする王国に反旗を翻す者たちだ。すでにそのための偽装工作用に修道騎士の法衣や装備は用意させている」

 ゴクリと俺は唾を呑み込んだ。
 ツジンさまの言葉に特殊な工作を専門とする騎士どもは堂々とうなずきを返して、問題ありませんという態度を示した。

「手筈を説明する。メモする事は許されないのでしっかりと頭に叩き込め。まず最初の手筈は大蛇を駐屯地に侵入させて騒ぎを起こさせる。これは必ずなるから、駐屯地内は大混乱になるだろう」

 その大蛇を導き入れる役目が俺だ。
 ツジンさまが俺を一瞥したので、それにしっかりわかる様にうなずいて見せた。
 餌もまともに与えられていないティタノボアという巨大な蛇は、恐らく人間の姿を見れば獲って食うつもりで暴れるはずだ。
 俺がるのは駐屯地内にしっかりと侵入させる指示を行えばそれでよい。

「すぐにもこの騒ぎを聞きつけて、騎士修道会の修道騎士たちが応援と称して内部に侵入を図る。実際に修道騎士の一部はわれわれと呼応する手はずとなっているので問題ない。お前たちの出番はこここだ」

 修道騎士に変装したツジンさまの工作員たちが、駐屯地の内部に侵入する。

「大蛇がどの程度暴れ、どの程度の時間を稼いでくれるかにもよるが、間違いなく自分の武威に自信を持っているタークスワッキンガー卿は、自ら陣頭指揮を執る事は間違いない。そこでワッキンガー卿を暗殺する」

 ツジンさまはそう言って、観覧台の外をぼんやりと眺めている、馬鹿みたいな恰好をした若者に視線を送った。
 オレンジ色の髪をした道化の様な化粧の男だ。
 男の癖に化粧をしているのも気色が悪いが、若い男はその髪の色からも想像できる様に、ミゲルシャールさまのご家中の血筋だ。
 ツジンさまがうやうやしく丁寧に扱っているのだから間違いない。

「ティタノボアがあっさりワッキンガー卿を絞め殺してくれるのであればそれも良し、」
「それじゃあ俺がここにいる意味がないんだよなぁ。ここから俺がワッキンガーさんを射殺するから面白いんじゃないか。キャハハ」
「では、その様になる形で部下たちに言明させていただきます……」
「そうしてくれないと楽しくないよ。わかる? 楽しくない!」

 ははあ、と困った顔をしたツジンんさまの部下たちである。
 しかしツジンさまはそんな道化男の扱いに慣れているのか、軽く微笑を浮かべて見せた後に口を開くのだ。

「ワッキンガー卿の暗殺と前後して、修道騎士に扮した諸君らは王国兵どもを皆殺しにしてもらいたい。駐屯地周辺に伏せている他の兵士たちも合流してこれに加わる手はずである。しかる後、」

 言葉を区切ったツジンさまは言葉を続けた。

「駐屯地での騒ぎを聞きつけたブルカ領軍がこれを制圧する。暗殺の現場には修道騎士がいる事を発見したブルカ領兵は、ただちに犯行は騎士修道会によるものだと断定する。そこでミゲルシャールさまがご出馬され、騎士修道会総長を討ち取るという流れだ」

 何と簡単な様に言ってくれるのだろうか。
 俺はその説明の流れを聞きながらそう思ってしまった。
 自分のやるべき事は大蛇を駐屯地の中に解き放つだけの簡単なものであるが、失敗すればこれは王国に対する反逆を示したことになる。
 とんでもない計画に自分が加わってしまった事を改めて実感して、俺は背筋の寒くなる思いを感じた。

 シューターという男を絶対に殺すのだと誓ったはずだが、どうして俺はこんなろくでもない計画に巻き込まれたのだ。
 それもこれもあのサルワタの売女騎士と全裸男の呪いとでも言うのか。

「失敗は許されない、よって各員は奮励努力し、乾坤一擲と心得よ!」

 俺の心内とは裏腹に、決意と覚悟の顔をしたブルカ騎士たちは一斉に「応ッ」と勢いよく反応して士気を高めていた。
 今回ばかりは助からないかも知れないと思えば、彼らたちと声を重ねる気にはならなかった。
 脳裏によぎったのだ。
 作戦決行後に俺は捨て駒にされるのではないかと。

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