挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

334/543

260 重装騎士は怯まない

遅くなりましたが更新です!

 歴戦の女領主アレクサンドロシアちゃんは、過去の貴族軍人としての経験からも野戦に打って出てはまず勝ち目がないことを理解していた。

「あのオレンジハゲめ、魔女の大窯をひっくり返しよったな。盟主連合軍の諸侯たちの間には、少なからず衝撃が走る事だろうの」

 馬上にあって紅のドレスの上から甲冑を着こみ、さらに紅に染め抜いた野牛紋の入ったマントを翻しながら、着々と戦場に向かうアレクサンドロシア軍の兵士たちを眺める。
 半数は騎士修道会の修道騎士隊であり、その士気は異様な盛り上がりを見せていた。
 残りの半数はタンクロードバンダムに率いられる野牛の兵士だ。こちらは冷静に戦場の流れが大きく変わりつつあることを理解して、誰もが苦虫をかみつぶしたような表情をしていた。

 そして供回りとしてサルワタの騎士や傭兵たちがアレクサンドロシアちゃんの背後に控えている。
 五〇〇〇余の兵士を迎え撃つために出動したのは、総勢一〇〇〇余からなる騎歩混成部隊だ。
 数の上では圧倒的にブルカ連合軍の兵士の方が上回るけれども、ゴルゴライ戦線の指揮官として、アレクサンドロシアちゃんは味方の、特に騎士修道会の異様に盛り上がっている士気を上手く活用した戦いをしなければならない。

「ここがわらわの腕の見せ所、というところだろうかの。ダイソンはいるか!」
「ははっ、ここに!」
「貴様は直ちに少数の兵士を集めて、ゴルゴライ領内の枝郷に詰めている守備隊のところへ向かえ。すでに領民どもの避難は終わっているのであろうな?」
「へい、それならばエクセルパーク卿が誘導を終了したと言っておりましたぜ」

 馬をなだめながらアレクサンドロシアちゃんに近付いた騎士ダイソンに、彼女は頷いて見せた。

「それならば遠慮なく集落の中に引き込んで戦えばいいな。よいか、遅滞行動だ。出来るだけ敵の眼を四方に散らす様にして、時間を稼ぐのだ。少数で玉砕しようなどという事は考えずに、これは無理だと思えば迷わずあの森のどこかに逃げ込め」

 女領主は手に持っていた鞭を指し示す。
 ゴルゴライの要塞都市の外れには、広大な森が広がっている。
 かつてはこの辺りまでがサルワタの森の外縁になっていたものだが、今では開拓によっていくつもの森に寸断され細分化されている。
 それでもいったん戦士たちが逃げ込んでしまえば、その掃討にかなりの時間を要するのは間違いない。

「あの森を使ってゴルゴライまで引き上げてくればいいわけですね。さすが村長さ、アレクサンドロシアさまは学があります!」
「馬鹿者、村長ではないっ」

 冒険者あがりのダイソンは感心ながら了承の旨を伝えると、ただちに少数の傭兵たちを引き連れて戦場へ駆け出していった。
 今度は入れ違いに修道騎士イディオ卿が、数名の幹部を引き連れて下馬した状態で走り込んでくる。

「騎士隊、ガンギマリーさまの直卒で前線に出る準備が完了しました」
「ガンギマリーどのは誰が見ても冷静な状態ではないぞ。抑えに出来る人間はおらぬのか?」
「自分が聖少女さまとともに前線に出ます。イディオはあれで熱血なところがあるので、寄騎させてはなりません」
「なればあの男をわらわのところへ呼び寄越せ、腹案がある故に別個動いてもらいたい旨を伝えるのだ」
「その様に伝えます。この場にシューター卿がおられれば何の問題も無かったのですが、ままならない事ばかりで……」

 言っても始まらぬことだ!
 女領主はそう言って吐き捨てると、騎士エレクトラとともに軍勢の前進を命じた。

 ブルカ同盟軍の兵五〇〇〇は、圧倒的な軍勢の勢いを持ってゴルゴライ領内へと攻め寄せてきた。
 この方面の地理的情報は、明らかに女領主と騎士修道会の側にある。
 特にアレクサンドロシアちゃんは指揮下に入った修道騎士たちに対して、熱心に領内の視察を命じて地理情報の把握に努めさせたからだ。
 平原での激突は、雌雄を決するという意味では一度の戦いで勝敗を付ける事が出来るが、現在は兵士の数が圧倒的に足りないので、これは不向きだ。

 だからアレクサンドロシアちゃんは配下の諸隊に対しては機動戦闘で敵を漸減させる縦深防御に力点を置いてこれまで戦争指導してきたのだけれども。

「果たしてガンギマリー卿が敵の誘いに乗らなければよいが……」

 総長カーネルクリーフ卿の弔い合戦であると位置づけている雁木マリは、女領主が予想する様に猪突猛進の突貫を仕掛けてしまうのである。

     ◆

「敵勢見ゆ、数千名あまりの先鋒部隊です!」

 雁木マリに与えられた任務は、本来ならばいち度激突して敵の衝撃力をここで漸減させる事だった。
 厳しい軍事訓練を受けた修道騎士や従士たちにとっては、組織戦による撤退行動はお手の物で、上手くすれば兵士を伏せているあちこちの集落に、敵を分散して誘引できるというものだったはずだ。

「平原で騎士修道会の騎士隊に挑むとは愚の骨頂よ! 誰が戦場の支配者か教えてやりなさいッ」

 けれどもカーネルクリーフの首を見てからの雁木マリは、高揚感と狂乱状態を呼び起こす危険度の高い組み合わせのポーションを摂取していた。
 必要なのは負けずに引く事であったにもかかわらず、まともにぶつかり合う事を彼女は選択してしまった。
 それは、女領主の行った作戦指導を逸脱する行為だった。

「従士隊、複縦列陣完了! 各員抜剣、突撃ヨーイ!!」
「掛かれぇ!」

 号令直下に駆けだしたのは、まず歩兵槍を並べた従士隊だった。
 ブルカ同盟軍側も、全ての戦士が騎兵を揃えているわけではないので、お互いの兵科でもっとも多い歩兵同士が、全速力でまずぶつかり合うわけだ。
 そのかわりブルカ同盟軍側には弓兵隊がおり、互いの歩兵が激しく槍を突き出すタイミングで制圧射撃を行おうとする。

「騎士隊前へ! 目障りな弓兵隊を魔法で制圧しなさい」
「おおっ!!」
「敵の弓兵隊、交代開始しました」
「そのままねじ込みなさい。スウィンドウ、行けるわねッ?」
「わかりました。ただちに!」

 指揮を執りながら次々に指示する雁木マリの命令に頷いて、スウィンド卿は切り崩された穴に騎士隊を付き込ませる事を了承する。
 しかし雁木マリの命令に従っていては、騎士修道会の諸隊はどんどん敵の中にめり込んでいく事になる。それだけ撤退するのが難しくなるのだ。
 戦場では逡巡している間に戦況は刻一刻と変化するので、迷っている余裕が無かった。

「あの従士隊の崩した隙間から、全軍で突破を図るわよ!」

 魔法の支援射撃によってブルカ同盟側が思ったよりも押されまくっている現状に、雁木マリは全軍突撃を命じてしまったらしい。
 敵の五〇〇〇の兵すべてがここに集結しているわけではなかったけれど、それでも雁木マリがこの場で直卒している戦力は四〇〇余りと、騎士修道会全体の戦力から見ても三分の一程度だ。

「聖少女さま、さすがに前進し過ぎては敵に包囲されてしまいますが?!」
「それは構わないわ、短時間でいいから敵を圧倒して、足元をぐらつかせてやるのよ!」

 さすがに高度な軍事訓練と指揮官としての教育を受けていた雁木マリは、完全に冷静さを失っていたわけではなかったらしい。

「勢いがあるうちは徹底的に攻め抜いて、その後に撤退するわよ。こちらは騎兵の数で優っているから、可能な限り敵陣形をひっかきまわしてやりなさい!」
「わかりました、そういう事でしたら!」

 雁木マリが先頭に立って、そしてスウィンド卿もそれに従って魔法を乱射しながら斬り込んだ。
 カーネルクリーフの仇を取る、そのためにはまず目の前の敵を翻弄して、最終的にはブルカに乗り込まなければならない。
 こんなところで、こんな小さな戦いでは負けていられないのだという信念が、きっと騎士修道会の面々に伝播していたのだろう。

 けれども当然、寡兵による大軍を攻め続ける事は出来なかった。

「後退する敵が左右に別れます。各員注意!」

 それが何を意味するのか雁木マリが理解するよりも早く、危機的状況は訪れた。
 逃げる様な格好で四散していったブルカ歩兵たちの中から、重装備の騎士たちが踊り出して来たのである。
 その騎士たちを支援する様に、敵側の魔法使いも大火力のそれを射出した。

「魔法使いだ、魔法使いが出たぞ!」

 敵も味方も魔法使いは戦場においてはとても貴重だ。
 俺たち盟主連合軍の中で名だたる魔法使いと言えば、これはッヨイさまやアレクサンドロシアちゃんに、うちの奴隷であるマドゥーシャぐらいのもので、それぞれの有力諸侯のところに数名ずつ在籍している程度である。
 ブルカ同盟側でもその状況は同じはずで、ここで数名の魔法使いを前線に送り出して来たという事は、戦いの決定的局面だと理解しているという事だろうか。

「各員散開しなさい!」

 モノの本の受け売りになるが、戦力集中の原則というのがあって、戦争とは敵より数を多くそろえた方が勝つのだとか。
 もちろんブルカ同盟軍と盟主連合軍とでは人口比、軍事力比どれを取ってもブルカの側が圧倒している事は間違いないので、この場合は局地的にどちらが数を多くそろえられるかという事だ。

 騎士修道会側は、軽度な魔法であれば修道騎士たちは巧みに使う事が出来るので、ほんの少し前までは戦力集中の理にかなった突破口を開いてきたはずなのだが、今は違う。
 魔法使いはより強力な魔法をいくつもにわたって使いこなせる、魔法のエキスパートだ。
 アレクサンドロシアちゃんの様に土魔法を使って突然大地を耕せて見せた敵の魔法使いたちは、逃げようとしていた騎士隊の修道騎士たちを、触手によって虜にしてしまったのだ。

「おのれえええええ!!」

 雁木マリは、長剣を大きく振り被りながら仲間の修道騎士を助けるべく、突出して来たブルカの重装騎士に立ち向かった。
 全身これプレートアーマーという完全武装の重騎士は、応える様に槍を振り回しながら雁木マリに跳びかかっていく。

「ガンギマリーさま! お前たち、ガンギマリーさまを援護しろっ」

 これにあわてたのがスウィンドウである。
 自分が付いていながらガンギマリーをここで失う事はあってはならない。
 俺に対する申し訳が立たないどころか、ここでカーネルクリーフに続いて聖少女という騎士修道会のシンボルを失ってしまっては、組織が崩壊する事は間違いないと戦慄したそうだね。

 だからスウィンドウ卿はただちにファイアボールの援護射撃を集めて、重装騎士に向けて射出させた。
 いくつものテニスボールサイズの火球が次々に重装騎士を包み込んだ様に攻撃をしたけれど、爆炎が晴れてみるとそこから何事も無かった様に騎士が飛び出してくるではないか。

「死ねえ!」

 雁木マリには本当に戦の女神でもその身に宿していたのかも知れない。
 逃げ遅れた修道騎士がその重騎士によって次々と屠られていく中で、大地から伸びた触手を打ち払いながら、ついに重騎士に肉薄したのだ。
 数度にわたって剣と槍とが交わると、ファイアボールでは効果がない事を理解した雁木マリはウォーターボールを打ち放った。

 フルフェイスの兜の中に水をぶつけて、呼吸を阻害させようとでも思ったのかも知れない。
 短時間の計算にしては、それが出来る程度にまだ雁木マリは冷静だったのかも知れないのだが。

「くくっ、この程度は俺を苦しめる事は出来んぞ。ん?」
「お、お前は?!」
「カーネルクリーフはもう少し骨があったがな、そなたは所詮、毛の生えた女に過ぎぬか」

 重装騎士はフルフェイスのヘルメットの中から、くぐもった笑い声を漏らした。
 もはやこれが挑発である事は間違いなかったのであるが、その言葉につられる様に雁木マリは敵に吸い寄せられ、冷静さを完全に失う。

「お前がカーネルクリーフをやったのか?!」
「そうだぜ、俺は大事なことを成す際は、他人任せにしない事にしているんだ。だから俺がヤツの首をもらった。次はお前だ」
「おんのれえええええええええ!!!」

 怒り狂った雁木マリは、ポーションの効果も相まってかついに騎馬をぶつける様に攻勢に出たけれども。
 剣を数撃まじえ、なおも一歩も引きさがらない重騎士は、あべこべに雁木マリを圧倒し始めたではないか。

「どうした、息が上がっているぞ。先ほどまでの勢いはどこへいったんだ。俺はまだまだ戦えるぜ?」

 そうして、ブンと振り回された重装騎士の一撃が、雁木マリの剣を巻き上げてしまった。
 宙にその剣が浮いたのを目撃した彼女は、もはやこれ以上は戦うのは難しいと悟って、重装騎士の馬を攻撃する事で時間稼ぎをした。
 馬の足元にファイアボールをぶち込むと、さっさと背中を見せて逃げ出したのだ。

「撤退、撤退だ! これ以上は無用だっ」

 こうしてスウィンドウ卿が後退指示を各方面に飛ばしながら背後を見やると、フルフェイスの兜のバイザーを跳ね上げた騎士の顔が飛び込んできたのである。
 オレンジ色の髪をのぞかせたその顔は、ブルカ辺境伯ミゲルシャールのものだった。

     ◆

「なにぃ?! あのオレンジハゲめが戦場まで顔を出していただとッ」

 こうなると激昂したのはアレクサンドロシアちゃんの方である。
 序盤で押せ押せモードに戦った騎士修道会であるけれども、雁木マリがアッサリと敵の重騎士と一騎討ちとなってみれば、その後は総崩れだ。
 しかもその重騎士の正体がどうやらミゲルシャールだったと聞いたので、怒り心頭にも程があるというものだ。

「あ、あたしの判断ミスだわ。まさかこんなところで敵の総帥と顔を鉢合わせにするとは想いもしなかったの……」
「そんな事はどうでもいい! それであのオレンジハゲはどうしたのだ。敵はどこまで攻め寄せている?!」

 アレクサンドロシアちゃんの馬前で平伏した雁木マリは謝罪の言葉を並べてうなだれたけれども、

「そ、それがですね。俺が集落で待てども待てども敵が来やしねえんで斥候を出してみたら……」

 こつ然と、ブルカ同盟の軍勢が姿を消していたのである。
 五〇〇〇余りの軍勢をゴルゴライ領境の敵領側に駐留させるばかりで、どうやら敵は侵攻させた部隊を引き上げてしまったらしい。

「自分の配下も使って調べさせましたが、確かにブルカ同盟軍は領土境界線の向こう側まで兵を引いています。しかも駐留する兵力も当初より減っているという報告が……」
「何だと? ではどこにその兵士は消えたというのだ!」

 混乱に混乱するアレクサンドロシアちゃんの幕僚たちは、その様に報告したのだ。
 これがすべてツジンの行った作戦計画である事が知れるのは、ほんの少し先の事だった。

もうまもなく異世界村八分を掲載開始して1周年になります。
周年記念日18日前後には、これまでお読みいただいた読者さまに感謝の気持ちを込めて、記念SSを掲載できればなーと思っています。
これからも異世界村八分をよろしくお願いします!
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ