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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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258 女領主の土魔法はだてじゃない

 アレクサンドロシアちゃんの行ったブルカ同盟軍側の村々を焼き討ちにする作戦は、いわば陽動そのものだった。
 占領に主眼を置くというよりも、それぞれの村を派手に攻撃して在郷領主たちに危機感を抱かせることに意味がある。
 だから女領主は出来るだけ派手に村々を攻撃して回る。

「狙いは領主館だけに絞れ、敵が反撃する機会を出来るだけ与えない様に騎馬で村の中央まで一気に乗り込むのだ!」

 自らも槍を振るって抵抗する敵兵をひと突きに倒してまわりながら、女領主は最初の村を攻め立てた。
 野牛の騎兵隊が村の広場の中を走り回るのだから、これは村人たちも驚愕しただろう。

 サルワタの開拓村とは違い、ブルカの街とゴルゴライの村を繋ぐ街道沿線上にある村々は、開拓の歴史がきわめて古いために密集した村落を形成している。
 似ているといえばゴルゴライのかつての姿が近いだろう。
 堅牢な石造りの建屋がある一方で、まだ半数近くが木造家屋だ。

「村長の一家、捕縛を完了しました! ただし配下の幹部と思われる数名が馬で逃走した模様ッ」
「適度に追っ手を駆けるのだ。捕らえられない様なら引き返して構わん、それよりも物見の塔の攻略はどうなっておるのだ?」
「まもなく鉄扉を突破して内部に兵士を送り込みます!」

 本来ならば今後の占領作戦を考えて、村を焼き討ちにするという行為は民心の離反に繋がるからとるべきではないのかも知れない。
 だがアレクサンドロシアちゃんには考えがあった。

「われらが領主よ、木造家屋に付け火するのか?」
「構わん、派手に燃やせ」
「しかしそれでは」
「先々の占領統治を考えるよりも、今が大事だぞタンクロードよ! 敵が釣れねば、わらわたちはそのままゴルゴライの中に引きこもって戦わねばならなくなるのだ」

 しかし、何もかも片っ端から火を付ければいいというものではない。

「あの要塞都市は確かに堅牢ではあろうが、シューターたちの応援が間に合わなければ揉み潰されるだけになる。なればあの辺りの豪農の家を燃やせ、戦争が長引けばどのみちこの辺りの村々は廃墟になるのだからな!」
「フンス、確かにその通りだ……」
「ならば遠慮は無用だの。直ちに焼き討ちにして、ゴルゴライに待機しているモンサンダミーの傭兵隊を援軍に呼び寄せるぞ」

 苛烈な性格の女領主は、躊躇した野牛の族長タンクロードにそう命令した。
 被害が出るのは早いか遅いかの差であるならば、戸惑っている方が時間の無駄だと言いたかったのだろう。

 こうして最初の村を昼間の内に派手に攻撃をかけたアレクサンドロシアちゃんは、わずかな守備兵をその場に残すと、雁木マリと協力しながら近郊の村々を五つばかり焼き討ちして回った。
 その結果として、敵が釣り上げられたのだ。

     ◆

「逃げ出した村の幹部たちは、大方の予想通りに西に向けて馬を走らせた様ね」

 各騎士隊からの選抜部隊を率いて女領主と合流した雁木マリは、経過報告を行いながら馬首を返した。
 女領主はゆるゆると馬上から槍を地面に突き立てて、その報告を聞きながら街道の向こうに広がった土煙を、眼をすぼ観察したそうだ。

「敵が動き出すタイミングはいつかと気を揉んでいたが、どうやら逃げ出した村の者どもが、道中でブルカ側の軍勢を呼び込んでくれたらしいの」
「ええ、あの数であれば千を超える事は無いわね。敵の斥候といったところかしら?
「それでも倍する数はいるだろう、油断は出来ぬ」

 恐らくは俺たちの動向を探るために前線に張り出して来た敵の威力偵察部隊なのだろう。
 騎兵を中心に配置した連中は、むしろアレクサンドロシアちゃんの性格から、しびれを切らして「盟主連合軍側から手を出した」という状況を創るために、あえてわずか後方で待機していたのかも知れない。

 だがそれは、どちらもが望んだ状況であったと言えるかも知れない。 
 互いに敵が出てくる事を求めて、ブルカ領とアレクサンドロシアちゃんの支配下の緩衝地帯において最初の遭遇戦を開始した。

 敵を前にしても整然の馬列を整えて見せるブルカ側の騎兵部隊は、恐らくブルカ領軍の精鋭部隊だったのだろう。
 対するアレクサンドロシアちゃん本人も戦場経験は豊富で動じるところは無い。問題は野牛の兵士や修道騎士、そして傭兵をかき集めた混成部隊を指揮している点だろうか。

 最初の接触で互いにぶつかり合いを演じた時に、一糸乱れぬ動きを見せたブルカ騎兵隊にいくらか分があったそうだ。

「うぬ、思ったよりも敵は優秀だの! ガンギマリーどの、適度に戦って引き上げるぞッ」
「了解だわ。修道騎士隊、魔法攻撃で退路を確保、一気に引き上げるわよ!」

 同じく多くの現場を経験して来た雁木マリと修道騎士も、このあたりは一糸乱れぬ動きで仲間を援護しながらの後退戦を演じる。
 周辺の村々を焼き討ちにして占領した際に、現在はモンサンダミーに預けているという傭兵隊が到着している頃合いだった。
 女領主と雁木マリの考えでは、その辺りまで敵を引きずり込みながらブルカ側に出血を強いるつもりがあったのだ。

「盟主連合軍などと名乗るが逆賊よ、口ほどにも無いな!」

 敵の指揮官だろうか、そんな言葉がどこからか聞こえてくるのも無視して、アレクサンドロシアちゃんたちはくすぶる黒煙の立ち上る焼き討ちされた村にまで後退する。
 なかなか罵声に連れて反撃に出ない事に気を良くしたのか、ブルカ兵は追撃戦をしつこく仕掛けてきたのだった。

「頃合いかの……」
「ええ、今度はこちらから反撃の番という事かしら」

 そうつぶやいた時には、焼き討ちされた村の防風林に伏せていたモンサンダミーの傭兵隊が戦闘準備を完了していた。

「敵部隊、前進を停止! 突撃態勢を形成すべく横陣に整列中ですっ」
「お前たち、こちらも逆襲の態勢を取るわよ。騎士隊八列縦陣を形成しなさいッ」

 改めて騎兵を横一列に並べて指揮官を中央に配したブルカ同盟軍側の騎兵部隊を尻目に、それとは違った陣形を雁木マリは指示した。
 これは言わば軍事訓練の中で魔法の取得にも余念がない騎士修道会らしい陣形だと俺は思った。
 突撃によるすれ違いの際に、ファイアボールやウォーターボールなどを魔法射撃して混乱させたその斬り口に、修道騎士の追従する騎馬列を突入させて陣形を切り崩すというものだ。

 一方の女領主は、ジュメェの血族であるから強力な魔法を使う事が出来る。
 当然、敵をこちら側に引き付けてから強烈な魔法攻撃を見舞った後に、野牛の騎兵と徒歩が中心の傭兵隊を推し込もうと考えていた様だ。

「ガンギマリーどのよ、敵を軽くあしらってこちらに引き付けてくれるか。逃げるそぶりをして誘引したところ、わらわが魔法で仕留めてくれる!」
「わかったわ、あたしに続けッ」

 号令直下に駆けだした修道騎士隊は、抜剣をして雄たけびを上げながら馬列を突撃させた。
 横陣から全速前進させながらブルカ側の騎兵隊は雁行の陣形に変化させる。
 アレクサンドロシアちゃんも雁木マリも、そのスムーズな陣形移行を見やって、ブルカ領兵の訓練の行き届いた様に舌を巻いたそうだ。

「魔法攻撃用意、一射後突破!」

 平原における騎兵同士のぶつかり合いは圧巻だろう。
 修道騎士たちは魔法による集中射撃を実施してブルカ騎兵の前進に穴をあけたところですれ違いざまに剣を振り抜いた。
 対するブルカ騎兵としても、修道騎士が魔法の攻撃を得意としている連中である事は熟知していたのか、横陣の構えを緩やかな間隔で取っていて、最初の接触で出来るだけ被害を最小限にする努力を怠らなかった。

 そうしてもつれ合う様にぶつかって交差すると、あとは互いに並走しながら撃剣の応酬になった。
 ブルカ騎兵が槍を主体にしているのに対して、修道騎士が魔法と剣による戦闘という事もあり、互いに組みつけばブルカ騎兵に有利となるが、わずかでも距離が開けば魔法からの剣の一撃というコンビネーションで、修道騎士に有利になる。

 そんなドッグファイトの様な戦いをわずかの間行ったところで、日頃の軍事訓練によってよく行き渡った指示によって後退命令を雁木マリが出したらしい。

「引け、引きなさい!」
「見ろ敵の逆襲はあえなく失敗したぞ! 今こそ逆賊を討ち取れ!!」

 こうしてガッチリと釣り上げられたブルカ騎兵側は、アレクサンドロシアちゃんの待ち構えていた前面にまで飛び出してしまう格好になった。

「来ましたよアレクサンドロシアさま。まだですか、攻撃はまだなのですかい?!」
「黙りなさいよダイソン、あんたも男だろう」
「し、しかしよう。敵が馬蹄を響かせてこっちに来るんだぜ。俺は騎士にはやっぱり向いてないんだ」

 戦場でも護衛の騎士として供回りをしていたダイソンとエレクトラは、慣れない戦場に怯えながらも女領主が魔法攻撃を行うのは今か今かと祈りながら待機してたそうだ。
 冒険者出身のふたりからすれば、大人数の人間が入り乱れての戦争は恐ろしいよね。
 そこに彼女が得意とする土魔法が炸裂した。

「わらわの魔力を持って物理の原則を成せ、大地よ(かいな)となれ!」

 ブルカ騎兵の突入する大地の底から次々と触手を伸ばして見せる土魔法で、彼らは連鎖的に馬上から引き倒された。
 混乱が混乱を引き起こす様に後続に玉突きの事故が発生したものだから、倍する敵と言えども衝撃力は完全に弱まった。
 そこにモンサンダミーが臨時で率いている傭兵隊の攻撃が加わる事で、戦場の混乱はますます酷い事になってしまうのである。

「アレクサンドロシアさまをお助けしろ、盟主連合軍万歳!!」

     ◆

 地形条件を熟知していたアレクサンドロシアちゃんは、兵士の経験や不足分を美味く補うために、常に挑発と伏兵で巧みに敵を翻弄した。
 土魔法で絡み取られている中に、後退を装った盟主連合軍が一転攻勢に出ると、たまらず精強なブルカ騎兵でも被害を重ねる羽目になった。

 そうして序盤における自分たちの優位を確信したところで、アレクサンドロシアちゃんは全軍に引き上げを指示したのだが……
 ブルカからの一報がゴルゴライへともたらされたのは、ちょうど女領主が帰還して一服の用意を命じたところだった。

「何っ、敵戦線を突破して使者が領主館へ到着しただと?」

「へい。修道騎士どのという事で、今ガンギマリーさま他の騎士修道会の主だった方々をお集りいただく様に固執をかけましたが、アレクサンドロシアさまも面会の準備を」
「わかった、ただちに向かう故、応接室に使節どのをお通しせよ」

 貴人に対する礼をとってみせる騎士ダイソンを見送ったところで、アレクサンドロシアちゃんは思案しながら立ち上がったそうだ。

「この時節に敵戦線の向こう側からとなれば、火急の用事であろうの。ブルカでカーネルクリーフ猊下に何かがあったとみるべきだろうか」

 そうして一抹の不安を覚えた女領主の危惧は、結果としてとても悲しいお知らせとして実現してしまう事になる。
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