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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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257 先手必勝に賭ける

更新遅れてしまい、たいへん申し分けございません!
 ゴルゴライに入城したアレクサンドロシアちゃんは、領主館で作戦指導を開始すると、各地に散っていた軍勢をここに集める様にただちに指示を飛ばした。

「可能な限り全戦力をいったんこのゴルゴライに参集させる。サルワタの残留兵力も、その他もろもろもだ。領内一円に動員令を敷いて根こそぎかき集めよ」
「恐れながら、それは湖畔の城に駐留している騎士隊もでしょうか?」
「当然だの。さらにはマタンギの修道院にも騎士隊が詰めていたはずだろう、それも構わず呼び寄せるのだ」

 伝令を飛ばすために命令を受けたエレクトラはたいへん困惑したらしい。
 マタンギ領内の修道院を守備していた修道騎士の騎士隊もまた、デルテ騎士爵が盟主連合軍に参加して俺の寄騎をしているのだから、これも事実上の遊兵と化していたからな。

「しかしそれでは各領が無防備になってしまいます」
「敵が動かないのだ、すでに南方では稲妻作戦が開始されているにもかかわらずだ。ならばあのオレンジハゲが動き出しやすい状況を作り出す必要がある」

 こうして言われたままにエレクトラは伝令を各所に飛ばし、スルーヌの村で守備に就いていた義弟エクセルパーク卿や、サルワタ本領で待機していたギムルなども、それぞれの軍勢を率いて一両日中にゴルゴライへと参集したのだ。

 モノの本によれば、遊兵というのは「存在はしているものの、作戦要領が悪くて任務に参加していない兵力」という事になる。
 ゴルゴライ方面の戦域を任されてい女領主にとっては、遊ばせておく戦士の余裕などはまるでなかった。

「しかしオレンジハゲめ、どうして動かないのだ……」

 女領主はその点がとても気になっていたらしい。
 ブルカ辺境伯には作戦の神様と呼ばれるツジンが付いている。

 ツジンが何を考えているのか、何を仕掛けてくるのか、それを深く深く考えながら戦いの火蓋がいつ落ちるのか待ち続けていたところに、情報収集に出ていたモンサンダミーがひょっこりとゴルゴライに帰還した。

「……隊長、いえアレクサンドロシアさま。ただいま敵情視察より帰還いたしましたのでご報告申し上げます」
「ご苦労だの。そなた敵情と言ったが、領境を超えて向こう側での密航をやっておったのか?」

 かつての主従の関係だったふたりは、互いに懐かしい気持ちになりながら会話を続ける。
 むかしの様にこうして作戦報告をやり取りする日がまた来るとは思いもしなかったのだろう。

「ブルカ辺境伯の軍勢は、街を出て街道沿いのいくつかの村に布陣を完了しておりますぜ。ただし何かを待っている様に、いつまでたっても動く気配がありやせん」
「何故だ、布陣は終わり、補給線も確保しているのであろう?」
「はい。そうなんですがね……」

     ◆

「斥候の報告によれば、この方面に張り付けているブルカ伯の軍勢はおおよそ八〇〇〇余り。対するわが盟主連合軍の総兵力は二〇〇〇余というところでしょうか」

 後日、騎士修道会総長の副官を長く務めてきた修道騎士スウィンドウ卿は、参集したアレクサンドロシアちゃん配下の諸卿たちを見回してそう報告した。
 情報の出どころはもちろん傭兵モンサンダミーである。

「こちらの軍勢はアレクサンドロシアさまが直卒される五〇〇の兵力、この内訳はスルーヌ及びゴルゴライ領民と新たに雇い入れた傭兵隊のみなさまです」

 それからタンクロード卿のミノタイロス野牛の兵士が四〇〇、ギムル卿のサルワタ隊が領兵と野牛の兵士をあわせて兵力が一〇〇、エクセルパーク卿のクワズ隊が領民と傭兵をあわせて兵力二〇〇。
 朗々と資料を読み上げたスウィンドウ卿は、最終的にその数字をアレクサンドロシアちゃんに視線を合わせて報告した。

「サルワタ領邦の軍勢は、総じて一二〇〇の領軍という事になります」
「われながらこの短期間によくこれだけの戦士をかき集めたものだの……」
「ドロシア卿の支配下にある領地が、北部サルワタの森からゴルゴライにわたる広域となりましたので、可能となったのです」

 平時に時間をかけてじっくり動員をかけたのなら、数万に及ぶ領民を有する一大領主となった今のアレクサンドロシアちゃんの領邦で可能な兵力は、恐らく二〇〇〇以上になるというのがスウィンドウ卿の見方だった。
 領地ではなく領邦だ。女領主の下に軽輩の領主や騎士修道会が集っているのだからな。
 現在はその時間をかけての動員を許される余力はないので論外だが、将来はそれだけの戦士を揃える事が出来るという事だ。

「そしてわが騎士修道会の総兵力ですが、これは一二〇〇の修道騎士と従士がこのゴルゴライ周辺に配転完了となっております」
「あわせて二四〇〇余りの総兵力か。あのオレンジハゲの軍勢が八〇〇〇余である事を考えれば、おおよそ四分の一の軍事力しかない事になる。これでは平野部に打って出て、しかる後に決戦を挑むという戦い方は出来んな」

 ゴルゴライ領主館の執務室で、例によって安楽イスに深々と腰かけていたアレクサンドロシアちゃんは、ふむと嘆息を漏らしながらそう口にしたのである。

「しかもブルカ同盟軍側の軍勢ですが、兵力八〇〇〇の中にブルカ伯に寄騎した領主たちの軍勢はここに含まれていませんからな。恐らくは呼集命令に応えた戦士どもを合わせれば、当初の予定通り万の数に届く事は間違いないでしょう」

 その場で行われた軍議には、騎士修道会の暫定指揮官になった雁木マリと、説明をしていたスウィンドウ卿、それにイディオ卿の他は数名の幹部修道騎士。
 サルワタ領邦の側は義息子のギムル、クワズのエクセルパーク卿、野牛の族長タンクロードバンダムが加わり、末席にはギムルの嫁タンシエルと寝返った女猟師マイサンドラだ。
 最後に女領主へと寄騎する事が決まった盟主連合軍側の数名の近郊領主がこれに加わっての合議である。

 サルワタの村長屋敷なら執務室や書斎で会議をすれば手狭で窮屈になっただろうが、ここはゴルゴライの領主館だ。
 堅実な内政でそれなりに羽振りも良かったらしい旧領主ハメルシュタイナーさまさまである。

「わらわが盟主連合軍の総指揮官どのより命じられた任務は、ここゴルゴライを死守して時間を稼ぐことである。方法論は問わぬゆえにお前たちの意見を広く集めたいと思うがどうか、何か提案のある者は遠慮なく申せ」
「さればドロシア卿、縦深防御か陣前防御かのふたつの選択しかないという事になりますな」

 ホーリーブートキャンプの教官を務めているというだけはあって、イディオ卿はそのあたりの作戦方面にも詳しいらしい。
 彼は周囲一同を見回した後に、女領主を見据える様にしてその提案を行った。

「ふむ、縦深防御と陣前防御か……」
「縦深防御を行うのであれば、敵であるブルカ同盟軍に対して漸減作戦を行い、兵力の損耗を強要する事が可能になります。翻って陣前防御に徹底するのであれば、こちらは敵の攻勢がはじまるまでわが方は一切の被害を受ける必要がなくなります」

 ゴルゴライは堅牢な要塞都市と化しており、この防御力を頼みに少数の兵力でも安心して戦う事が出来るのだ。
 すると野牛の族長タンクロードが、執務机の上に広げられた地図を睨み付けながら意見する。

「フンス、陣前防御は愚策だろう。だが敵が別の場所を攻めた場合、例えば河川を利用してスルーヌに向かった場合はいかにする。ゴルゴライに引きこもっていたがゆえに敵を見逃したことになるぞ!」
「それは縦深防御に打って出た場合でも結果は同じだわ。お互いの連携が取れなかった場合は簡単に各個撃破されるだけの事。ただでさえ兵力が少ないのだから、痛手にならない様に兵力は温存しておくのが定石と言うものだわね?」

 それに対する反論をしたのは雁木マリだった。
 騎士修道会の修道騎士隊は何れも経験豊かではあるけれど、敵に比べればものの数ではない。
 野牛の兵士も厳しい軍事訓練を受けた精強なミノタウロスたちだとは思うが、これも数でみれば同じ。
 それ以外の戦士たちとなれば、これはもう寄せ集めもいいところで、付け焼刃の連携などは期待できない。

「意見はふたつに別れた様だの。では多数決を取るとしよう、陣前防御を推すものは手を上げよ」

 この言葉に騎士修道会の面々である雁木マリ、スウィンドウ卿、イディオ卿が挙手をした。
 もはや何かの意味があるとも思えないが、一応は多数決と決めたので女領主はもうひとつも意見を見る事にする。

「では縦深防御を推す者は?」

 残りの指揮官たちがおずおずと手を上げるのを見て、ムッツリとした顔で雁木マリは周囲を見回したらしい。
 態勢は決したので不満はあったようだが意見は挟まなかったらしいね。

「義母う……アレクサンドロシアさまはどちらの意見を考えておいでなのでしょうか?
「フン、わらわか? わらわはどちらの策を取ったとしても考えがあるわ。この様な援軍を待つ中での戦いなどは、国境争いで度々経験した事だからの」
「なるほど、さすがアレクサンドロシアさまです。具体的にどのようなプランがあるのですか……?」
「そうだのう、みなの者が縦深防御に大筋傾いているのであれば――」

 アレクサンドロシアちゃんは元貴族軍人としての戦争経験も豊富だ。
 恐らくこの場にいた誰よりも間違いなく戦争の事を知っているのは間違いない。
 不敵な笑みを浮かべて見せた女領主は、そうしておいて義息子ギムルの顔をまじまじと覗き込み、そしてこう言ったそうだ。

「敵が動く前に、ブルカ方の村をいくつか占領すればよい。必然的に敵はその奪還を目的に兵士を分散させることになるからな。それを戦略機動的に各個撃破させれば問題は無い。出血を強いながら、最終的にもっとも堅固な防衛線を引いているゴルゴライに誘引するのだ」

 さすれば必ず敵はゴルゴライを攻撃する事になる。女領主はそう言って高笑いをした。

「も、問題はそのブルカ方の村を誰が奪取するかでございますな」
「ん? それはもちろんわらわがやる。貴族とは常に先頭に立ち、決意と行動を見せなければならないのだ」

 アレクサンドロシアちゃんそうは決断を下した。
 彼女の安楽イスの背後に控えていたふたりの騎士エレクトラとダイソンは互いに顔を見合わせたけれど、そんな事はお構いなしにである。
 戦場に出る以上は経験豊富な人間が率いた方が安心なのはわかるが、さすがにゴルゴライ戦線の方面指揮官が前線に出ると言うので、その場にいた人間はみんな困惑したのだが。

「わかったわ。ドロシア卿、あたしも出る事にする。お前たちただちに出陣の用意を!」
「ははっ、しかしこの方面の両頭のおふたりが出られたのではゴルゴライを守備する指揮官が不在となって……」
「スウィンドウ、お前がここを指揮しなさい。ドロシア卿よろしいわね?」

 陣前防御のプランに挙手していた雁木マリだったが、いざ決まった事に対しては口を挟まない。
 それどころか女領主にだけに負担を強いるのを潔しとしなかったのか。後事はスウィンドウ卿に任せて前線に出る事を選んだ様だった。

「ああもちろん構わんさ。そなたのお手並み拝見といこうかの」

     ◆

 作戦方針が決まってからのアレクサンドロシア軍は動きが早かった。
 ゴルゴライに詰める二〇〇〇の兵士の内、機動作戦に用いるのに最適な軍勢をまず抽出して、混成部隊を編成しはじめる。
 一隊は雁木マリの率いる部隊であるから、騎士隊の中から選抜されたベテラン修道騎士で編成だ。
 もう一隊は女領主が信を置いている野牛の族長に選抜を任せるだけでなく、金で雇い入れた傭兵を中心に自分の手駒とする事にした様だ。

「ドロシア卿、いくつかの村を攻略して敵を誘引するという作戦は了解したけれども、その後の計画というのはどうなっているのかしら?」
「そこはお兄ちゃんたちの動きを見ながら、となるだろうの」
「シューターたちの?」

 ゴルゴライを出発した騎歩四〇〇の軍勢は、ブルカへと続く街道を一路西へと進撃していた。
 道中、軍馬を並べていた雁木マリは、女領主に向けてそんな質問をしたのだ。

「ッヨイハディによれば、稲妻作戦は南方から浸透戦術で一気に北へと戦略機動を取るというものであったろう」
「ええ。確かリンドル川流域からの渡河作戦も実施して、ひと息に稲妻の様に駆け抜ける作戦だったかしらね」
「そうだ。目的は占領ではなく撃破に主眼を置いた作戦であるからな。主だった敵がいないのであれば弱兵と噂のリンドル兵でもって、後からゆるゆる占領すればよい」

 そうしておいて敵を撃破した俺たち盟主連合軍の主力は、ひと息に北上する予定をしていた。
 騎士修道会で軍事訓練と軍学の教義も受けていた雁木マリは、その辺りの事も察したらしいね。
 だからその北上した俺たちの主力がどのあたりに突出してくるかも理解していたのだ。

「それがちょうどシャブリン修道院の辺りになるというわけね……」
「そうだ。あの辺りを決戦場にして戦うのであれば側面を突く事も出来るが、四対一の軍事力では平野部でまともに戦うのは愚の骨頂であろう?」
「だから敵をもう少しゴルゴライの側まで誘引する必要があるのね?」

 そういう事になるの、と女領主は笑って見せた。

「連中が動かない理由が明確ではないからな。だが想像する事は出来る」
「例えば?」
「平野部での決戦をミゲルシャールは望んでいるのであろう。オレンジハゲにしてみれば、それが一番自軍の被害を最小限に抑える事が出来るからな。だがそうはさせないための布石がこれだ」

 言葉を区切って見せたアレクサンドロシアちゃんは、そうしておいて供回りの騎士ふたりに向けて命令を飛ばした。

「ただちに前方に見えている村を包囲殲滅せよ。どのみちこの場所が戦場となれば、畑も集落も何もかもが戦火にまみれる。遠慮なく消し炭にせよ!」

 ははっと力強く返事をしたふたりの騎士は、先鋒を任されている野牛の族長のもとへ馬を駆けさせるのだ。

「ではあたしもこの先の村を攻略に向かうわ。ご武運を!」
「すべての村を占領する必要はないからの。いくつか集落を焼き払っておれば、敵はそのうちに釣れる」

 互いに頷き合ったふたりは、そこで二手に分かれて攻略先に向けて軍勢を差し向けた。
 ゴルゴライ戦線における戦争がはじまったのだ。
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