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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第8章 ゴルゴライ戦線

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256 もはやそれは要塞都市に様変わりしていました

本日より第八章開始です。
ゴルゴライ戦線も引き続きよろしくお願いします!
 俺たちがリンドル川西岸方面で稲妻作戦を発動させたちょうどその頃。
 五頭会談と盟主連合軍の出陣式に参加していたアレクサンドロシアちゃんは、供回りの人間たちを引き連れて一路ゴルゴライの村へと帰還していた。
 軍船によってリンドルの河港を出発後、ゴルゴライ近くの河岸までひと息に舟を移動させたのち、そこからは軍船を降りて騎馬による街道沿いの移動だった。

「秋の気配を感じる空気だな、わらわはこの季節が最も好きだ!」

 馬上にて、颯爽と風を斬りながら街道沿いの風景を見回したアレクサンドロシアちゃんは、その様な事を口にしらしい。
 十月の前後と言えば、セレスタからゴルゴライにかけての土地では作物の収穫時期も真っ盛りという頃合いだった。
 この開戦のために多くの農民たちが徴募されてそれぞれの領軍を臨時編成していた時期であったけれども、すべての成人男女が兵士としてかき集められたわけではない。
 小作人をしているゴブリンの農夫などは当然ながら労働力として残されたし、主に兵士に取られたのは農家の次男坊や三男坊、あるいは徴兵経験のある年長者だろう。

 だから街道沿いに見えるあちこちの畑で刈り入れを行っている農夫たちを見て、アレクサンドロシアちゃんは感慨深いものを感じたのだろう。
 領主とは領地を富ませる事が使命であると、この女領主は常々に思っていたからな。
 女領主にとってみればそういう意味で、豊穣の季節をひとりの領主として眺める事は心地よいものを感じるのだろう。

「あそこに見えている大樹がちょうどマタンギとの領境ですぜ」
「ほう、あそこがデルテ卿の……」
「アレクサンドロシアさま、マタンギの村長と言えばシューターの旦那に寄騎をされているという事でしたね」

 騎馬で女領主を追従するダイソンが、ふと現在位置を報告したタイミングで思い出した様にそんな言葉を口にした。

「そうであったな。マタンギのデルテ騎士爵は、お兄ちゃんの言葉を借りれば勲功に飢えている武人肌の貴族と言うではないか。槍の捌きもなかなか堂に入ったものだとカラメルネーゼからも聞いている。恐らくこの度の戦いでは多大なる武功を立てること間違いないだろう」
「カラメルネーゼさまからもお話をですか?」
「そうだ。カラメルネーゼの家は奴隷商人の家系ではあるが、それでもれっきとした代々貴族軍人を輩出した家柄だからな。お兄ちゃんに寄騎として帯同する領主どもの腕は、ひとしきりに手合わせをして確認しておったのだろう」

 フフンと鼻を鳴らしながら機嫌よく馬を走らせる女領主である。
 アレクサンドロシアちゃんのそんな言葉に感心しながら「わずかの間にそんな事を確認されていたのですか、カラメルネーゼ夫人は」などと、エレクトラが言葉を漏らたそうだ。
 すると途端に女領主は機嫌を損ねたらしい。
 手綱を引いて馬足を緩めた彼女は、抗議の憤慨をエレクトラに飛ばしたのだった。

「カラメルネーゼは夫人ではない!」
「し、失礼しました。ご家中のみなさまがカラメルネーゼさまを奥さまとして対応していましたので、つい」

 あわててエレクトラが謝罪の言葉を飛ばすと、女領主は先々へと馬を進ませるのだ。

「フン、あの女はわらわが貴族軍人だった頃から、わらわの持っているものは何でも欲しがる悪い癖があった」
「何でも欲しがる、ですかい?」

 急いで馬に鞭を入れて駆けさせたダイソンがそんな質問をした。

「ああそうだ。わらわが甲冑を購入すれば同じものを、剣を下取りに出せば同じタイミングでそれをし、買った剣までお揃いだ」
「はあ……」
「わらわたちはオコネイルと共に同じ宿舎の部屋で寝食を共にしていたものだが、あの男も同類だ。寝間着まで三人お揃いで着ていたからなあの頃は。何でもかんでも同じものだ、男までネグリジェだぞ? わけがわからんッ」
「それは単に仲良し同期のお友達だったからではないですかね……」

 ボソリとそう思った意見をダイソンが口にしてしまったところ、ギロリと女村長は睨み返したそうだ。

「何か言ったか。ん?」
「いえ何でもありませんや!」

 こうして夏麦の収穫時期を迎えている穀倉地帯を駆け抜けたアレクサンドロシアちゃんとその供回りたちは、やがて街道にひとびとの往来が活気づいているのを目撃した。
 最後尾でゆったりと馬を走らせていた雁木マリが増速して、女領主に並んで質問したそうだ。

「まだ行商人たちの往来は活発な様ね。噂に耳ざとい彼らがこの様子だと、ブルカ辺境伯側も戦争の準備が出来ていないという事かしら?」
「どうだろうの。実のところは全ての準備が整っているにも拘わらず、わらわたちを油断させるために情報を遮断している、あるいは戦争準備のフリをしているという可能性はあるやもしれぬ」

 女村長はさすがようじょ軍師と同じ血筋だ。
 知略と言うのだろうか、領主としても貴族軍人としても経験豊富で、なおかつ読書家の彼女はこのファンタジー世界の古今の軍略書にも精通していて、そういう可能性をあっさりと指摘したのだ。

「可能性はあるわね。油断しない様に騎士修道会の面々にも注意を喚起しておこうかしら」
「それがよいだろうの。そなた、モンサンダミーという男を知っているか?」
「確かセレスタで雇った傭兵連中の頭をやっていた男かしら? 触滅隊の掃討作戦の時に戦死したと聞いたのだけれども」

 雁木マリはモンサンダミーという名前を聞いて、傷だらけのいかつい男の顔を思い出した。
 そうしておいて戦死した彼に女神さまの祝福を唱えて、せめて異世界に旅立った魂に幸あれと祈ろうとしたところ、

「それなのだが、あの男はまだ死んでいない」
「え?」
「死んだことになっているが、今はシューターの指揮下にある情報収集チームで活動をしているらしい。先日ゴルゴライで顔を合わせた時にはわらわも驚いたものだ」

 モンサンダミーという恐ろしい顔をしたおっさん傭兵は、女領主が証言した様にゴルゴライで情報収集活動に従事している。
 彼は傭兵という職業であるから、敵の募兵にさり気なく参加して敵から情報を集めるにも都合がよかったからだ。

「そうだったの……」
「今頃はゴルゴライではなく、敵方の傭兵部隊に何食わぬ顔で参加しているかも知れぬがな。あの男はかつてわらわが王国軍に籍を置いていた頃、副官としてわらわに仕えていた事があったのだ」
「するとあの男は傭兵になる前は騎士だったのかしら?」
「いいや、あの男は庶民の生まれだったからな。兵士として王国軍に志願した際に、たまたまわらわの率いる部隊にいたのだ。勲功を重ねてよく戦働きをするので、副官として引き上げる事にしたのだ」

 ベテランの意見を聞くのは指揮官の役目だからな。
 女領主はそう言ってころころと笑った後に、馬を並べた雁木マリを見やった。

「だからわらわはお兄ちゃんの意見は尊重するつもりでいる。そなたはシューターと同郷であると聞いているが、バイト戦士というのはさぞ優れた職業なのだろう。それに大学舎とかいう最高学府にも籍を置いていたと言うではないか。ん?」
「どうなのかしら、本人が聞けばあわてて否定するか、苦笑を浮かべるかのどっちかだと思うわ。大学は中退だし」

 雁木マリは困った顔をして苦笑を浮かべ、そう返事をしたそうだ。
 よくわからないという顔をしたアレクサンドロシアちゃんに、

「まあそれでも。ドロシア卿が仰る様に、彼が過去に様々な経験を積み重ねてきたことは事実ね。彼の動じない性格というのは、そういう経験の積み重ねの上にあるのかしら」

 その場に俺がいれば間違いなく赤面する様な最高級の評価をしてくれた雁木マリである。
 その後ふたりの証言から聞くに、すぐ後方で馬を駆けさせながら話を聞いていたエレクトラも何やら称賛の言葉をしたらしいね。

「さすがシューターの旦那だね。あの方は剣を取っては武芸一流、服を脱いでは辺境無双、学もあると来たものだ」

 まあバイト戦士とか言われても、異世界人から聞けばよくわからないがきっとエリート戦士なんだろうと思われてもしょうがない。
 そんな勘違いのままエレクトラが称賛したのが面白かったのだろう。からかうつもりで女領主が声をかけて、

「時にエレクトラよ」
「ふ、ふぁい?! アレクサンドロシアさまっ」
「そなた、よもや血迷ってあの男に色目を使う事はあるまいな。何事も順序と言うものが大切だ、ガンギマリーどのを差し置いて誘惑などをすれば、野牛の里送りにするからそのつもりでいろ」

 近頃はいよいよ大正義カサンドラの口癖になってしまった「順番を大切にする」というわが家の家風を口にしたアレクサンドロシアちゃんに、あわててエレクトラは回答をした。

「け、決してその様な恐れ多い事は! 何事も順番が大切ですね、あたしもそう思いますっ」
「うむ。ならそれでよい」

 女領主と雁木マリは顔を合わせて笑ったそうな。

     ◆

 こうしてゴルゴライの村が目視できる距離に近付いてくると、わずかの留守をしている間に村は大きく様変わりをしていた。

 村を取り囲む防風林の外に新たな木製家屋が並んでいる。
 宿屋や店舗といった臨時に村へ集まって来た人間を収容や接客するための施設だ。
 それらを仕切る様に、土塁や木柵が迷路の様に張り巡らされているのは、いざこの街に敵が攻勢をかけた時は、ここで敵を分散させるためだろう。

 さらにその外縁には駐屯する戦士たちの天幕がいくつも並び、外に外にと行くにつれてあちこちに馬防柵や櫓が並んでいた。

「ここまでくるともはや立派な街であるな……」
「瞬間最大風速的には、このゴルゴライの収容人口は数千人にのぼる事になるもの。これは立派な街、いや要塞都市ね」

 女領主も雁木マリも、そして追従する冒険者あがりの騎士たちも、揃ってこの開戦を待ち望んでいるかの様な独特なオーラに包まれた軍都の入り口を潜りながら息を呑んだのである。

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