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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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閑話 奥さまは貴族 後編

投稿した本文に不備があったため、取り急ぎ差し替えを実施しました。
ご迷惑をおかけして申し訳ございません!

 体力が全快してからの俺は、軍監として本来の任務らしい事をして過ごしていた。
 サルワタ隊のみなさんはカサンドラに率いられて、リンドル川西岸の北部平定任務を着々とこなしているらしく、隣接エリアを担当しているベストレ隊と協調しながら、空白地帯の占領は順調そのものだった。
 俺はその報告を、フクランダー寺院の本陣で総指揮官マリアツンデレジアの側で聞いた。

「御台さま、ならびにご主人さま。あらかたの抵抗勢力はすでにリンドル隊の攻撃部隊が実施していたために、問題なく村の接収が行われております。ただ、」
「ただ、何ですの?」
「自分たちの占領に異を唱える一部の残党勢力が、山野に散ってゲリラ活動を展開しようとしている模様です」

 わざわざサルワタ隊から伝令を持って本陣にやって来たのは、軍馬の扱いに慣れた男装の麗人ベローチュだった。
 彼女の他にも俺が寝台に伏せている間にはニシカさん、けもみみ、あるいはクレメンスが交代で作戦の進捗を知らせるために本陣へ駆け込んでいたらしい。
 今日はたまたまその役割が彼女だったので、こうして久方ぶりの対面をしたという事だ。

「ゲリラか。まとまった数はすでに存在していないのだな?」
「はい、村に置かれていた守衛官などが中心になって、村の若者が数名といったところでしょうか。自分たちが担当しているイッヒッヒという村の場合だとその様な感じです。他の占領下でもチラホラその様な情報が……」

 片膝を付いて顔だけを俺とマリタツンデレジアちゃんに向けて報告した男装の麗人は、その後に作戦参謀であるようじょ軍師にお伺いを立てた。
 俺の膝の上に座って報告を聞いていたようじょは、うんうんと思案をしながらどうするのが正しいのかを考えようとしているみたいだ。

「数が少ないと言う事は、占領作戦に大きな遅延はないものだと思うのです。けれども、その村の守衛官というのが何者なのかは重要な事なのです」
「はっ、ごもっともです。シューターさまはモッコの村で捕獲した女守衛官の事を覚えておいでですか?」
「ああ、何かとても強そうな女ターミネーターみたいなヤツだったよな」

 サルワタの村などには置かれていなかったけれども、辺境あるいは本土の領内には、警備担当の人間として守衛官と呼ばれる人間を雇って任命する事があるそうだ。
 いわば冒険者ギルドも設置する事が出来ないような軽輩中の軽輩領主となれば、そうした引退冒険者を雇い入れて、いざという時のモンスター退治や警備任務を常駐で任命するわけだ。

「通常はその村の出身者である冒険者や傭兵、あるいは王国軍の兵士だった者などを任命するのが慣例なのですが、養女さま。どうやら稲妻作戦が行われる直前になって、ブルカ辺境伯が手配したと思われる退役軍人や貴族軍人、あるいは冒険者などをこれらの占領作戦エリアの守衛官として誘致した節があります」

 朗々と説明して見せた男装の麗人は、豊かな胸をぶるりんと揺らすようにして姿勢を正したのである。
 なるほど、何となく言いたい事が見えてきたぞ。

「つまり、今回の逃走中の守衛官というのも、ブルカかどこかから連れてこられた人間というわけだな」
「その通りですご主人さま。聞いた話ではブルカの冒険者ギルドに長らく所属していた人間で、その前身は領軍に籍を置いていた兵士だと」

 その辺りの事が、降伏した村の幹部からの聞き取り調査で発覚したらしい。

「なるほどなのです。最後の最後までッヨイたちの稲妻作戦を遅延するために、敵はおつむを絞って来たのです!」
「どこまでも俺たちの作戦を妨害して、出血を強いるという事か」
「そういう事なのです!」

 ただ、逃走した敵の数というのは知れたものだろう。
 多く見積もっても十人足らずというのがわかっているらしく、その人数は作戦のおおかたに影響を与える事は無い。

「そのひとたちを放置していると、占領した村のひとたちが不安になるのですどれぇ」
「確かにそうだな。複数の村を平定する間に、こうした連中がパラパラと出てくると、結果的には占領下の領民たちの心がいつまでたっても落ち着かない」
「シューターさま、かといって山狩りをするための援軍を送るにも、わたしたちの兵力には限界がありますの。それに、稲妻作戦の骨子は、少しでも早くブルカ同盟軍側に打撃を与える事ですの」
「……ここでまごついているわけにはいかないか」

 どうしたものかと腕組みをしたところ、

「すでに山狩りについてはニシカさんを中心に、サルワタ傭兵隊と軽輩諸卿のみなさんがチームをそれぞれ作って周辺捜索を始めています」
「こういう場合の二択を迫られる時は、いっきに戦力を割いてカタを付ける方が正解なのです」

 ようじょはその様に進言して、俺たちは納得した。

     ◆

「本陣にはカラメルネーゼさまのお姿がありませんでしたが、今はどちらに?」

 ツンデレのマリアちゃんが執務に当たっている本陣の幕舎を出たところ、俺の後を付いてきた男装の麗人がそう質問を投げかけてきた。

「カラメルネーゼさんなら、今はリンドルに行っているよ」
「リンドルですか?」
「ああ、ソープ嬢から頼まれていた例の家財道具一式を手配するのに、直接話を付ける必要があると言うのでね。占領作戦が順調に行っているので、モッコの村からなら街道を進むよりもショートカット出来るからな」

 順調に占領作戦が進んでいるおかげで、現在はリンドル領アントワームからの背後連絡線だけをアテにする必要が無くなっているのだ。
 軍事物資・補給物資の輸送というのはとにかく手間がかかる。
 荷馬車を手配してそれを常時ピストン形式で占領下の領地を輸送させる必要があったし、当然馬や馬夫たちにも休憩が必要になり、そのために膨大な交代要員を用意しなければならない。
 それだけでなく荷馬車にはそれを守るために警備兵を張り付けておく必要があった。

 平時の事であればそれこそ行商人たちが護衛の傭兵でも雇って自腹でそれを行うし、軍事作戦ではないのだからその護衛の傭兵だった最低限で済む。
 けれども今は戦時であり、先ほども男装の麗人の報告にあった様に俺たち盟主連合軍に最後まで抵抗するつもりの逃亡兵たちが山野に伏せている有様では、警備に手抜かりは出来ないのだ。

「してみると、モッコの村を最初に橋頭保とした事は正解でしたね」
「まったくだ。舟と言うのは便利なもので、いち度に大量の補給物資を輸送する事が出来るからな」

 モッコの村とフクランダー寺院との往復であるのならば、馬車の数や交代要員の数も最小限で済む。
 それだけでなく、警備にあたる兵士もこの界隈であるならば、現在休息と再編成を急いでいるリンドル隊を一時的に回す事も出来るからな。

「それももうすぐ帰ってくるはずだ。手配をするだけで、実際に輸送に当たるのはオゲイン卿の役割と言う事になっているはずだからな」

 伝書鳩を使った業務連絡では、モエキーおねえさんの話ではオゲイン卿が配下の軍船を使って運び込んでくれるらしい。
 リンドル領からの補給を担任しているのは彼の妹のダアヌ夫人であるから、この辺りは商会を持っている彼女たちに任せておけば安心なわけである。

「わかりました。ではご主人さまの傷が回復したという件、しっかりと奥さま方にご報告申し上げます!」
「うん、君も無理はせず、道中気を付けてな」
「ありがたいお言葉で……いえ、ありがとうございます、ありがとうございます」

 何だか俺が時々口にしている様な言い回しで、ベローチュがペコペコと頭を下げた。

「それは誰に習ったんだね?」
「もちろんご主人さまや、カサンドラ奥さまを見習っての事です!」

 そんな自信満々な顔をで言うのはやめなさい。
 そうやって突っ込みを入れてやろうと思ったところで、突然大きな騒動の音が響いた。

「敵襲! 敵襲だ!!」
「?!」

 男装の麗人が載って来た軍馬を繋いだ仮設の厩に向かおうとしていたところで、突然の警報だ。
 俺と男装の麗人は咄嗟に腰の剣に手を駆けながら警戒する。

「どっちから聞こえた?!」
「わかりません、ですがだいたいはあちらです!」

 どうやら俺たちが元来た方向で何かが起きたらしい。
 あわてた数名の兵士たちが槍を肩担ぎに走っていくのと合流して、俺たちは盟主連合軍の本陣がある方向に駆けだした。

「この様な味方の懐深い場所にまで、敵が襲撃を駆けて来ていたのですか?!」
「わからんが、こんな事ははじめてだ!」

 男装の麗人がする質問に俺は叫ぶ様にして返事をした。
 少なくとも俺が寝台で横になって治療に専念している間は、そんな騒ぎは聞いた事が無かった。
 さすがにマリアツンデレジアの側には、リンドル宮殿から連れてきた俺よりはるかに強そうな給仕ケイシータチバックさんが付いているはずだから、めったな事は無いだろう。
 そう思って本陣幕舎のすぐ側まで来たところ、果たして敵の襲撃があったと言う場所は本陣ではなかった様だった。

「何事ですの?!」
「敵のゲリラが襲撃をかけてきた様です。人数は不明ながらそれほどの数ではない様ですね! ただいま警備の兵が集まって対処しているところでありますッ」

 俺たちが本陣前に到着した時には、マリアツンデレジアと配下の兵士たちがやり取りをしている姿が見えた。
 しかし次の瞬間の事である。
 幕舎の陰にその身を潜めていた何者かの黒い影が、突如として俺たちの方向に向けて駆け出して来たのである。
 リンドルの兵士を示す青のマントを羽織った男だった。
 それだけではなく、同時にいくつかの方向からもそんな人間が飛び出してくるではないか。

「くっ、ベローチュ!」
「はいご主人さまっ」

 マリアツンデレジアの元に一心不乱に駆け出していく偽装兵を倒すべく、俺と男装の麗人はほとんど同時に彼らを妨害しようと動き出した。
 剣を抜き放った俺が、まずひとりをバッサリと斬り捨てる。
 ベローチュも短剣を引き抜いて、マリアちゃんの目前に迫っていた敵も首根に一撃投げつけた。
 他にも数名の偽装兵たちが走り込んでくる姿が見えたのだが、

「何だお前たちは?!」

 報告のためにマリアちゃんの側に立っていた兵士のひとりが刺殺されたかと思うと、そのまま強引に蹴り飛ばされてマリアちゃんのすぐ目の前に迫る。

「し、シューターさまあ?!」
「大丈夫だ、落ち着けマリアちゃん!」

 敵は駆け込みながら剣を引き抜いて大上段に構えた。
 何とかこのままいけば俺が割って入れる距離だったのだが、俺がそうするよりも早くに天幕の中からケイシータチバックさんが姿を現して、マリアちゃんを庇う様に後方へ引き下がらせた。
 そこへ俺が強引なタックル気味の一撃を見舞ってやり、偽装兵を吹き飛ばしてやった。
 トドメを刺すよりも他の偽装兵を倒す方が大事だ。

「ご主人さま、まだ敵が!」
「任せろ!」

 蹴り飛ばすだけはしておいて、なおもマリアちゃんに向かおうとしていた偽装兵に体を向けた時、偽装兵の背中に向けて電光石火の勢いで飛んでくる一本の槍を見たのである。

 ぐさりと刺客の偽装兵を、背中から貫通する槍。
 もんどりをうって倒れた最後の刺客の姿を見たところで、味方の全員が剣を構えたまま周囲を警戒したのだが。

「おーっほっほっほ! わたくしの槍捌き、しかとお見届け頂きましたこと?」

 そんな艶のある高笑いと共に騎馬がゆったりと凄惨な幕舎前に侵入してきたのである。
 声の主は蛸足麗人そのひとだった。
 その触手にはふたりばかりの騎士と兵士の格好をした男がくびり殺されているのか、引きずる様にして馬を進める。
 俺たちの前に馬を止めたところで、その騎士と兵士を放り出してヒラリと下馬するのだ。

「お、おお。カラメルネーゼさん、助かったぜ」
「お礼には及びませんことよ? わたくしもスルーヌ騎士爵家に嫁いだ妻のひとりですわ。夫の危機を肌身に感じて急ぎこの地に戻ってきましたわ! おーっほっほ、おーっほっほっほ!」

 すでに俺と一夜を共にした事で、すでにカラメルネーゼさんは奥さん気取りだった。
 もちろん俺としても事実そういう事があったのは否定しないので、とても嫌そうな顔をしてマリアツンデレジアも俺を睨みつけてくる。
 ついでに男装の麗人まで視線を向けてくるではないか。

「ほ、他にもまだ敵が伏せている可能性があります! 兵士のみなさんは警戒を密に、周辺捜索を命じますの!!」

 一応はまず総指揮官としての立場からマリアツンデレジアがそう命じたところで、マリアちゃんはずんずんと蛸足麗人の前に進んだのだった。
 そんなやり取りを見ている隣で、男装の麗人が俺に耳打ちをする。

「ご主人さま、おめでとうございます」
「今はそう言う事を言う場合ではないだろう」
「いいえ、ご覧ください」
「?」

 促される様にしてふたりの貴族出身の新妻がたを俺は見やった。
 マリアツンデレジアは正式には奥さんというわけでもなく現地妻扱いだが、世間から見ればもはや事実婚も同然である。
 カラメルネーゼさんは勝手に自分でシューターの夫人だと吹聴していたので、これも世間は俺の奥さんだとすでに認識していた。
 そしてふたりはとても仲が悪かったのだが、

「わ、わたしをお助け下さった事は感謝いたしますの」
「いいえ、わたくしといたしましても、家族を守り大切にするのは何より重要な事ですもわ。婿殿が悲しい顔をされる姿を見るのは、妻のだれもが嫌でしょうし」
「つ、妻ね。わたしも妻として、夫にごめいわくをかけなくて済んだ事は、幸甚というものですの」
「おーっほっほっほ、それは重畳!」

 ふたりのお貴族出身の女性がたは笑っているのか顔を引きつらせているのか、互いに顔を合わせてそんな事を言い合っているのだった。

「家族の不和があってはカサンドラ奥さまも悲しまれますからね。こうして問題を先延ばしにせず、よい機会に解消なされました事は、さすがご主人さまと言うばかりです」
「あんまり不和が解消された様に見えないし、お前の口ぶりは俺を助兵衛な男だと言ってるようなものだぞ……」

 ニコニコ顔の褐色エルフの言葉に微妙な気分になった俺は、とても悲しい気持ちになった。
 悲しい気持ちになったついでに視線を正面に戻すと、いつの間にかふたりの女お貴族さまが激しく口論を始めている。

「けれども、まあ? あなたが現れなくてもシューターさまがじきに仕留めてしまったと思いますの」
「な、何ですって!? せっかくわたくしがお助け差し上げたのに、何て言い草」
「だってそうではありませんの? わたしを助けたと仰るのならば、もう少し早く登場していただかなくては」
「ちょ、ちょっと途中で怪しい者を処理していたので出足が遅れてしまったのですわ!」

 やはり最初の感謝の言葉とそれに対する応答は、ただの社交辞令の応酬だったらしいね。
 俺が呆れた気分になって隣の男装の麗人をチラリと見やった。

「あれのどこが家族の不和が解消されただって?」
「まあ、子爵さまと宮廷伯さまという王都のお貴族さまの家格争いというものでしょうか。仕方ありませんね……」
「マイ・ヌード。こういう場合はおふたりの気が済むまでやっていただくのもひとつの方法かと存じます」

 最後に俺たちに身を寄せてきたケイシーさんがとんでもないことを言う。
 駄目だよそんな事をさせては、あのひとたちプライド高そうだからな……
 どっちみち根に持つよ! そんな事を考えながら俺が引き止めに入ろうとしたところ、
 お任せくださいとひと言口にした男装の麗人は、すっと前に出たのだ。

「奥さまがた、これ以上の争い事を続けておられますと、すべてをカサンドラ奥さまにご報告しなければならない事になります。物事とは、何事も順番が大切です。今は敵兵が何者であるかを調べるのが優先だと、自分は愚考するものです」

 カサンドラという名前を聞いたところでふたりの女性は震えあがり、俺をチラリと見ながらようやく冷静さを取り戻したのである。

「き、休戦協定を提案いたしますの」
「そうですわね。い、今は敵兵の正体を……」

 さすが俺の優秀な部下ベローチュだ。
 ハーレム大家族の家長としてこの場を治めるつもりだった俺だけれど、それよりもおっかない(と家族のみなさんが思っている)カサンドラを持ち出すとはね……
 しかしふたりに仲良くしていただくためにも、今夜はおふたりとじっくりお話をしないといけないね。
 それこそ仲良くできるまで夜通し……

 ちなみにリンドル兵や騎士に化けていた敵兵の正体を捕虜たちに照会したところ、それは件の逃亡兵たちの一部であったらしい事がわかった。
 敵もそれだけ追い詰められて来たと言う事だろうか、この戦争の終わりは近いな。
次回より第8章に入りたいと思います。
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