挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

327/533

閑話 奥さまは貴族 前編

 俺の名は吉田修太、三三歳。七人の奥さんと婚約者を持つ男である。
 フクランダー寺院の遺構にある盟主連合軍の本陣へと帰還した俺であるけれど、今は寝台に横たわっている。

「旦那さまは傷だらけの状態ですからね。ここはわたしたち妻に後事は任せていただいて、ゆっくりと傷だらけの体をお休みしてくださいよう!」

 ナワメの森の南端にある谷間で伏兵をしていたブルカ領軍を奇襲した際に出来た深手は、思ったよりも俺の体に負担をもたらしていたようだ。
 と言っても命に別条があったわけではなく、単純に長い間まともな処置を施していなかったので傷の治りが遅いという程度のものだ。
 けれどもその事を奥さんたちはひどく心配してくれた。

「そうだね。シューターさんの代わりは義姉さんがやってくれるから。シューターさんはそこで寝ているだけで稲妻作戦大成功だよ」

 タンヌダルクちゃんやエルパコも、寝台に横になっている俺に向かって気を使い声をかけてくれる。
 まだまだ稲妻作戦に従って盟主連合軍の諸侯たちは軍勢を各地の未占領空白地帯に進軍させている。
 ただ障害となる敵を撃破して進撃しただけ場所は、いまだに領主不在となって放置されている。

 してみると、それなりの戦力を有するに至ったサルワタ隊の面々も、次の作戦目標に向かう必要がある。

「あ、あのう。わたしで旦那さまの代役が務まるでしょうか」

 俺が寝かしつけられている間のサルワタ隊を預かるのは、衆議一致で大正義カサンドラという事になったのだ。
 彼女本人はひどくその事を心配している様で、俺がはじめて開拓村で出会った頃と同じ様に、少し不安そうな表情でおどおどしているのだ。

「そこは何ひとつ問題ありませんぞ。わが妻に聞いた限り、スルーヌ領主ご一家でカサンドラ卿に意見できる人間などという者はひとりとして存在しない。むしろ辺境不敗のシューター卿ですら夜の夜中は――」
「あなた、それ以上はコホン……」
「うぉっほん。まあ俺や他の騎士が控えておりますれば、その点はなにひとつ心配なさらなくてもよろしい」

 俺に向けて何かとても失礼な発言をしようとしてたらしいデルテ卿であるが、ご夫人にたしなめられるとあわててその言葉を終わりにした。
 まあ確かに、カサンドラがひとりでサルワタ隊や寄騎してくれる軽輩領主を指揮するわけではない。
 軍事訓練を受けた事のあるタンヌダルクちゃん、優秀な猟師であるニシカさんやエルパコだって側に控えているのだからな。
 それに、本職の貴族軍人だった経験のあるカラメルネーゼさんは、王国軍を率いて実際に過去何度も戦場に立っているという安心感がある。けれども、

「おーっほっほっほ。みなさんはわたくしにすべてを任せして、戦場にお向かい下さいな。わたくしが側にいれば、何ひとつ心配をする必要などありませんことよ? おーっほっほ、おーっほっほっほ、おほ、ケホ……」

 何故かぐるりとハーレム大家族を見回した蛸足麗人が高笑いを突然したものだから、俺はとっても驚いた。
 驚いたついでにわが家の奥さんたちの顔がとても嫌そうな顔をしているのが見えたので俺は怯える。
 ついでに当の高笑いをしたご本人のカラメルネーゼさんまでも怯えたらしく、笑っている最中にむせて声を詰まらせてしまった。

「ま、まあとにかく、戦場では何があるかはわかりませんので、みなさんお気を付けくださいましな」

 いち度咳払いして見せたカラメルネーゼさんが、改めて一同にそう言った。

「おいニシカさん説明してくれ、どうしてカラメルネーゼさんがこの場に残る様な事を言っているんだよ」
「しょうがねえだろう、クジでそういう風に決まったんだから」
「クジ?」
「そうだぜ相棒。今回この場に居残ってお前ぇの当番をする事になったのは、あのすました顔の蛸騎士さまだ」

 何とも忌々しそうな顔をした黄色い蛮族は、ぼよんと胸を大きく揺らして俺に耳打ちしてくれたのである。
 そうかカラメルネーゼさん戦場に出ないのか。
 まあ勲功大好きのデルテ騎士爵が一緒に戦場に出てくれるのなら安心だ。彼は戦争馬鹿だが、戦場では優秀だからな……

     ◆

 という訳で俺は暇だった。
 体の傷はすでに縫合が終わって、後は皮膚の内側の見えない傷がいえるのを待つだけの状態だった。
 時々はマリアツンデレジアの給仕係をしているケイシーさんが定期検診に来てくれるので、それもやがてはよくなるだろう。
 このファンタジー世界は俺に優しいぜ。
 死ななければ取りあえず復活できると言うのがね。
 いいね!

「撤退したリンドル兵は現在、わたしの元で再編成をしておりますの。けれども少しの間、時間がかかってしまいますの……」
「閣下、だそうですわよ!」

 サルワタ隊を含む諸兵連合部隊は、フクランダー寺院の本陣を起点にすると北部の空白領域の占領作戦に従事するらしい。
 すでにその一帯は弱兵で知られるリンドル領軍の一部が攻勢に出て、さんざん蹴散らされながらも数の力で敵の残存兵力を辛くも排除した場所らしかった。
 しかもその戦いで激しい戦闘被害を出したリンドル兵のみなさんは撤退した。
 代わりにその先の攻略作戦に乗り出したのが、ベストレ隊のみなさんだそうだ。

「ベストレ隊のみなさんはすでに東方の占領任務を完了させましたから余力がありますの。だから最前線はお任せする事にしたのですのよ……」
「閣下、それなら安心ですわね!」

 その事を説明にやって来た総指揮官のマリアツンデレジアちゃんが、幕舎の中で横になっていた俺に話しかけてくれたのだが……
 リンドル御台さまはとても嫌そうな顔をして、俺のすぐ側の簡易イスにすわってニコニコしていたカラメルネーゼさんを睨みつけていた。

「シューターさま、どうしてこのアバズレ女がここにおりますの?」
「おーっほっほっほ! もちろんそれは、わたくしが妻として献身的に婿殿のお世話をしているからでございますわよ」
「い、意味が分かりませんの! あなたは確かスルーヌ騎士爵家の家族会議にも、顔を出す権利を持っていないはずですのよ?!」

 自信満々の蛸足麗人に激昂したツンデレのマリアちゃんである。
 近頃はツンな要素がひとつも無くて、俺の前では常にデレデレだった記憶があるけれど、やはり彼女もひとりのツンデレだ。
 奥さんを吹聴してまわっている彼女の事が気に入らないらしく、ついにツンツンの心を思い出したらしいね。

「な、なにを仰っているのやら。わたくしにはよくわかりませんわよ!」
「あなたのやっている事は結婚詐欺という言葉に該当しますのよ。ご存知ありませんの?」
「あ、ありませんわねえ。わたくしの知っている結婚詐欺というものは、お互いに結婚しようと騙っておきながら、結納金を奪って逃走したり、期待をさせておいてお目当ては別のところにあるというものですわ」

 つまり自分がやっている事は結婚詐欺ではないと言いたいらしい。
 まあ確かにカラメルネーゼさんは、何を思っているのか自分が俺の奥さんであるというポジションを虎視眈々と狙っているからね。
 これは結婚詐欺には該当しないけれど……

「そ、そんなことはどうでもいいですの! これは総指揮官と軍監の軍議ですのよ、騎士風情はご退出願えませんでしょうか?!」

 自分が世話役のクジを引いたという現実を心の拠り所に、自信満々の態度を示すカラメルネーゼさん。
 それがよほど癪に障ったのか、これは軍議だと言い張ったツンデレのマリアちゃんが、蛸足麗人に対して反撃に打って出たのである。

「き、騎士風情とあなたいま申しましたわね! わ、わたくしを。子爵家の令嬢であり、恐れ多くも国王より騎士爵の称号を賜ったわたくしを、スルーヌ騎士爵夫人であるわたくしを……!」

 最後のは違う。
 確かにカラメルネーゼさんは多数の軍事作戦に参加して自分の力で騎士爵の称号すら授かった実力者だからね。
 しかも実家は子爵家で奴隷商人でもあるマルチな才能の持ち主だ。

「そうですの。わたくしは宮廷伯の娘ですのよ? 宮廷伯とは国王陛下の側に常にあって、国王を補佐し、天下に号令をかける立場にある王侯貴族の第一位ですの。そのあたりの木っ端貴族とは、わけがちがうのですの」

 フフンと鼻で蛸足麗人を笑って見せたマリアツンデレジアである。
 俺はあわてて寝台の上で居住まいを正し、平伏した。

「お、おおう。宮廷伯ってそんなに偉いひとだったのか。マリアちゃん、いままでそんな事も知らなくてごめんなさい。これからはマリアさまと呼んだ方がいいですか?」

 こんな俺に尽くしてくれて、マリアちゃんありがとうございます、ありがとうございます。
 すると困惑するのがふたりの妙齢の女性である。

「そ、その様な事をシューターさまがする必要はありませんの……」
「そうですわ。こんな数ばかりが頼みの弱兵を率いる勘違い女の事などは、気にする必要など一切ありませんわよ?」
「な、何ですのいったい?!」

 お、おい君たち落ち着こうな。
 俺は正座を解いてふたりを落ち着かせようとする。けれども、

「何ですかと言いたいのは、わたくしの方ですわ!! 誰のおかげでリンドルの後見人がやっていられると思っているのですの? 後ろ盾も無ければ今頃はブルカの赤髪おじさんに併呑されていたに違いありませんのよ。恥をお知りなさい!」
「これはシューターさまのお力添えであって、あなたが少しでも何か役に立つようなことをなさいましたの? 万年行き遅れの平騎士の分際で、さっさと部屋を退出なさいませ!

 ますますデッドヒートするおふたりは、とうとう蛸足麗人が自らの触手をわきわきさせながら立ち上がると、最悪の事態になってしまった。
 お飾りの長剣を抜剣したツンデレのマリアちゃんは、とうとうその切っ先を蛸足麗人に向けてこう叫んだのである。

「ええい、そこへなおれ!」
「抜きましたわね?! 抜きましたのなら後悔なさりますわよ!!」

 そうして双方一歩も引きさがらない態度で睨み合いをしていたところ、どこからともなく大きな影の様なものが飛び出して来て、カラメルネーゼさんの走らせた触手を払いのけ、マリアちゃんの剣を弾き飛ばして双方を落ち着かせた。
 まさに電光石火の早業である。

「幕舎の中で刃傷沙汰はいけません」

 そう言ったのはリンドル宮殿の料理人、ケイシータチバックさんだった。
 さすが沈黙のメイドは圧倒的な存在感だ。
 俺よりさらに身長が大きいときたものだから、こんな巨人のレディに見下ろされたふたりのお貴族さまは黙り込んでしまった。

「そ、そうですの。ここは夫の前。家族の争い事は見せるべきではありませんの」
「まったくですわね、わたくしもどうかしておりましたわ。ほほほ、マリアさんお許しになって?」

 何だか作り物の笑みを浮かべたおふたりは、そう言ってすごすごと剣を拾い上げたり居住まいを改めたりして、ようやく落ち着いてくれたのだが。

「おふたりとも続きをなさるのならば、幕舎の外でお願いします」

 そうじゃねえ!
 それではまったく意味の無い提案だとズッコケそうになったのは、俺だけでなくおふたりのお貴族さまも一緒である。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ