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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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255 家族との合流


 その夜は激しい雨が続いていた。
 はじまりは霧の様なそれだったものが、いよいよ秋雨が本格化して汚らしい小屋の屋根を激しく叩くのである。
 俺はブルカ騎士の戦争捕虜といっしょに藁にくるまって寝ていたのだけれど、夜半過ぎになって見張り任務に就いていた巨大な猿人間によってたたき起こされたのである。

「軍監さま、軍監さま、お味方の軍勢がお迎えに来られましたよ!」

 あまり深い眠りについていなかった俺は、巨大な猿人間が小屋の扉を開けた瞬間にぼんやりと意識が覚醒した。
 すぐにも近くに置いてあった長剣を手に取って、のそりと体を起こす。
 脇腹と肩の痛みは相変わらずだったが、戦地での応急処置しかしていないのだからしょうがない。

「味方というのは、どこの部隊かな?」
「サルワタ隊のみなさんだと言っています。軍監さまの副官だというひとがお見えですよ!」

 副官という言葉を耳にしてふたりの妻のどちらだろうと思案する。
 そうしながらも痛みに耐えながら立ち上がって、激しい雨の降る小屋の外に顔を出したのである。

「シューターさん、ご無事で何よりです!」
「カサンドラ、心配をかけてしまったな……」
「こちらこそお迎えに上がるのが遅くなってしまい、申し訳ありません」

 いやいや、そんな事はまったく気にしていませんからね。
 俺が勝手にこのブルカ騎士と一騎討ちになって、危うく共倒れになってしまうところだったのだ。
 もっと俺が世間の噂通りに辺境不敗の実力があれば、こんな事にはならなかったのだ。
 そして濡れた獣皮のポンチョ姿をしたカサンドラと抱き合ったところで、すぐ側に別の女性の影が見えたのである。
 ギョっとして一瞬驚いてしまったけれど、果たしてその正体はカラメルネーゼさんと男装の麗人だった。

「ご主人さま。何とも無様な姿をお見せしてしまいました」
「わたくしも婿殿を途中で見失ってしまったという大失態を……」

 謝罪の言葉を口にしながら、ふたりがシュンとうなだれているではないか。
 蛸足美人も男装の麗人も、一見したところは体に傷を負っていない様子だから何よりだ。

「怪我などはないのか?」
「自分は腹をひと撫でされてしまいましたが、相手の腕が悪かったのか、運が良いことにかすり傷程度のものでした」

 すぐにも後方から駆けつけたケイシーさんによって、処置をしてもらったらしい。一方の蛸足美人は、

「わ、わたくしは剣を鎧に受けて姿勢を崩してしまっただけですわ。問題は装備が重いためにおふたりを見失ってしまって、結局探すのにかなりの時間を要してしまいました事が、悔しくて悔しくて」

 今度あのブルカ騎士を見つけたら、そっ首を刎ねてやりますわ! と息巻いている彼女だけれども、そのブルカ騎士というのは、すぐそこで藁の中にくるまって寝ているのである。
 するとバサバサの藁束の中から顔を出して見せたブルカ騎士が、痛々しそうに非難めいた言葉を並べるではないか。

「い、今更それは困るぞ。飯を喰らってひと心地つたところで、首を差し出せというのは白状というものだ。シューター卿と言ったな、国法にのっとり戦争奴隷の扱いを……」
「すわ?!」
「あなたですわね! 戦場でわたくしに恥辱を与えたのはっ」

 すでに戦争捕虜となっている彼が必死で両手を持ち上げると、ガシャリと繋がれた鎖が音を立てた。

「ま、まあ落ち着いてください。彼はすでに俺が捕虜として拘束しましたので、煮るなり焼くなり後の事は仲間と合流してから考えましょうね奥さんたち」
「ちょ、俺を売るのか?!」
「さて他のみんなはどうしているのかな」

 売るも何も、名前も知らない捕虜のブルカ騎士なんだから生殺与奪はこちらが持っているというものだ。
 このファンタジー世界は捕虜にやさしくないので、騎士修道会の尋問に駆けられることを酷く恐れている傾向がある。
 身代金を支払うと最初に口上を垂れるには、きっとその金で勘弁してくださいという意味が含まれているのだろう。
 正妻とふたりの部下を見やった俺は、仲間たちの場所に戻る支度を急いでする事にした。

「何も着るものがございませんが、せめて自分のポンチョを着用してください」
「で、でしたらわたくしのおパンツをお貸ししてもよろしくってよ?」

 甲斐甲斐しくそんな言葉を口にする部下たちに、正妻はとても嫌そうな顔をしている。
 旦那さまのお世話をするのは正妻であるわたしの役割です、とでも言いたげなその顔に「あっ」とすぐに気を回した男装の麗人は、一歩下がって頭を下げるのである。
 ちょっとだけ安堵の顔を浮かべたカサンドラは、そうして背後に立たせていたッジャジャマくんからズタ袋の様なものを受け取って、俺に向き直った。
 ってか、ッジャジャマくんいたのか?!

「シューターさんは戦いの後、必ず服をお脱ぎになるので。ちゃんと替えのお召し物をご用意しております」

 ありがとうございます、ありがとうございます。
 全裸を貴ぶ部族にはもったいなさすぎる奥さんです。
 別に自分から好んで服をまき散らしながら戦っているわけではないのだが、結果的に全裸を貴ぶ男になってしまう吉宗であった。

     ◆

 どうやらカサンドラたちがこの木こりの作業小屋に到着するのが遅れたのは、わけがあった様だ。
 何と、デルテ騎士爵が大金星を上げたそうなのである。

「天候を操る魔法使い、ですか?」
「詳しい事はわたしもわからないのですけれど、ッヨイちゃんがそう言っていました」
「なるほど、この秋雨の到来をずっと押さえつけていたヤツが本当にいたんだな」
「ええ。ですので、コソコソと逃げているその偉大なる魔法使いさまをデルテさまがお捕まえになられたのです」

 仲間の集結している地点に向けてカサンドラを馬の前に乗せながら駆けていた俺である。
 残敵掃討の最中にデルテ卿の主従が追っていた騎兵たちは、どうやら大金星の大当たりだったらしいね!
 その時の事を詳しく耳にしていた男装の麗人が、注釈を入れてくれる。

「最終的に得体のしれない魔法を発動させようとしたところ、デルテ卿の攻撃で捕縛する事が出来ました。どうやら他にも魔法使いたちを従えているリーダー格の男だったみたいですね」
「なるほどな。得体のしれない魔法というのは、きっと発動に時間がかかる類のものなのだろう」

 馬を寄せて胸躍らせて、男装の麗人は俺の返事に首肯する。
 ッヨイさまの場合は大威力・大規模な魔法を発動させるときに時間をかけて詠唱をしたり魔力をため込んでいたりする。
 してみると敵の偉大な魔法使いというのも、俺たちの襲撃から逃れるために詠唱をしながら逃げていたに違いない。風雷の魔法を得意にしているという事は、もしかすると稲妻を俺たちに打ち込もうとしていたのかも知れないね。

「間一髪というものでしたわ。もしもあのまま敵の大魔法使いというのを逃がしてしまいますと、この一帯で戦争が終わった後、遅れて収穫をしようとしていた作物を台無しにされてしまうところでしたもの。あるいはブルカ側の奇襲を許してしまった後であったなら、配送するわたくしたち盟主連合軍が、雨の中を消耗しながら逃げ惑うことになってしまいましたわね」
「そうですね、雨を魔法の力で人為的に遅らせたと言う事は、どこかでしわ寄せが必ず来るという話を養女さまが仰っていましたし」
「ですから、このタイミングでブルカの大魔法使いを排除できたのは、最良のタイミングだったというものですわ。おーっほっほっほ、わたくしどもの大勝利!」

 蛸足美人と男装の麗人が、俺とカサンドラの乗った馬をまたいでそんな会話をした。
 ようじょがそう言っているのならば、もしかすると俺たちが思っていた以上に危険な状況で、ギリギリの勝利をもぎ取ったのかも知れない。
 背後でガタガタと揺れる荷馬車に放り込まれたブルカ騎士の戦争捕虜には申し訳ないが、やはり運は俺たちに味方をしたという事だね。

     ◆

 降雨とともに掃討作戦を中断した男色戦隊のみなさんは、リンドル領アントワームの村にほど近い平野部でいったん再集結をしたところで、改めて陣屋を張って休養を取っていた。

 俺が不在の間にも部隊の点呼確認は行われる。
 犠牲になった仲間たちの簡易的な弔いや、フクランダー寺院に向けての補給計画の再設定、そして残された空白地帯の占領計画などが緻密に協議され、それらの決まった内容は本陣に座するマリアツンデレジアのところへと伝書が送られる。

 こうして暗闇の中を風雨に晒されながら友軍とようやく合流した俺たちは、盛大に男色男爵と、一躍ときの人となったデルテ騎士爵に迎え入れられたのである。

「みなさん、お恥ずかしながら帰って参りました!」

 俺を出迎えるために整列した男色戦隊の幹部たち。
 眼帯姿のニシカさんは何も心配していなかったぜという顔をしていたし、タンヌダルクちゃんは包帯でグルグル巻きにされている俺の姿を見て「旦那さまぁ」と素っ頓狂な声を上げてくれる。
 けもみみは、即座にクレメンスやモエキーおねえさんに目配せをして歩くのも億劫な俺に手を貸す様に指示した。
 そして、

「ああン、シューター卿! 全裸で深手を負いながらもブルカ領軍の現地指揮官を捕まえたんですって? さすがだわぁ惚れてしまいそう!」
「おおおっ、辺境不敗の全裸を貴ぶ部族とはよく言ったものだ。俺もシューター卿に受けた恩義を返さんと武功に励んでおりましたが、一歩及びませんでしたな! こちらは年老いた干し柿みたいな魔法使いを捕まえただけですっ」

 野太い声がふたつ俺に向けられたかと思うと、軍馬から降りたところで力強く抱きしめられてしまった。

「や、やめてくれ。いででで……」
「みなさん何をなさるのですか! 旦那さまは傷痍戦士なのですから、手荒い事をしてはいけませんッ」

 どうにか野郎どもの暑苦しい抱擁をカサンドラとタンヌダルクちゃんの割り込みでどうにかで抜け出す事が出来た俺は、そのまま緊急手術という運びになる。
 もちろん手術といってもここはファンタジー世界であるから、聖なる癒しの魔法による回復だ。
 自分でも治癒魔法が出来るというケイシータチバックさんが助手をつとめながら、ハーナディンが執刀医となって、折れた骨や切り傷の個所を縫合するというものだった。

「僕が執刀するよりも、ガンギマリーさまやここにいるケイシーさんの方がよかったと言う顔をしていますね」
「そ、そんな事は無いかな。だって……」

 野郎にゴリゴリ傷口を触られるのが嫌だと思われているかも知れないが、そんな事は無い。
 もちろん婚約者である雁木マリなら大歓迎だが、明らかに俺より体格に優れて強引な力で俺を今も押さえつけているケイシーさんの事を思えば、俺はハーナディンに肌を預けて正解なのだ間違いない。
 マリならば回復ポーションと造血ポーション、止血用の常装薬などを使い分けながら俺の傷を手早く治してくれるだろうけれど、ケイシーさんはちょっと力が強すぎて、執刀していただくのは怖い。けれども、

「が、頑張りなさいよね。わたしの旦那さまになるひとなんだから、それぐらいの痛みはたいしたことないって言ってもらわなくっちゃらめよ!」

 などとラメエお嬢さまに言われたものだから、ニッコリ苦笑いを作ってやせ我慢をする。さらに、

「大丈夫ですよラメエちゃん。シューターさんはワイバーンだって仕留めてしまうほどの立派なお方ですから、ポーションの注入器具や傷口の洗浄ぐらいであわてふためく旦那さまではありませんから」
「はい、カサンドラお義姉さま」
「そうですよう。ミノタウロス最強と言われた兄さんとだって闘牛で倒してしまったんです。それも血まみれになりながら」
「わかりました、タンヌダルクお姉さま」
「そうだよ。シューターさんはいつだって全裸になれば強いんだ」
「そ、それはどうかと思うわエルパコお義姉ちゃん……」

 ハードルさらに上げてい奥さんにだんだん顔面蒼白になっていく俺だけれど、雨の降り続ける天幕の中でハーナディンは無慈悲な宣言を口にした。

「ではいきますよ。少々痛いですが、まずは洗浄をしてから聖なる癒しの魔法をかけます。せえの!」
「ンぎゃあああああああ!」

 とても辛い。

     ◆

 こうして俺が絶叫しながら傷口の手当をやってもらっているところ、ハーナディンとは別の修道騎士が立会いの下で、男装の麗人と蛸足美人が連れ立ってブルカ騎士の捕虜尋問を行っていた。
 すでに他の捕虜からの聞き取りや尋問から、俺が捕まえたブルカ騎士の正体が、あの渓谷で伏せていたブルカ領軍を率いている現地指揮官である事はおおよそ把握されていたらしい。

「どれぇ、大変なことがわかりました!」
「彼の名前はアンクルハーゲンと言います。ブルカ辺境伯領の騎士爵の地位を分爵されている領内の貴族軍人のひとりですね、この戦域におけるブルカ同盟側の援軍として送り込まれた優秀な指揮官だった事が、他の捕虜からも聞き取りでわかっています」

 ようやく清潔な布で包帯をし終えた俺は家族に寝かしつけられて、藁束を敷き詰められた寝袋に横たわっていたのだが。
 そこにようじょと男装麗人が真剣な顔をしてやってきたのである。

「そうか、アンクルハーゲンというのかあの男の名前は」
「ご主人さま、重要なのは名前ではありません。彼の夫人の実家がすごいんですよ」
「奥さんの父親は誰だと思いますかどれぇ」
「?」

 だれだろうと首を傾げたところに、しごく真面目な顔をしたようじょと男装の麗人が互いに顔を見合わせる。そうしてこちらを向いたベローチュが、長く三つ編みに下後ろ髪を振ってからキリっとした顔をする。
 俺はたまらずゴクリとつばを呑んだ。

「作戦の神様ツジンですご主人さま。アンクルハーゲン卿の率いていた部隊は、奇襲や後方攪乱を専門としている精鋭部隊として、ツジンの配下にある部隊です」

 戦争奴隷となったブルカ騎士が自分は名族だと言ったその意味、今になってようやく理解できたぜ。
 ツジンならばブルカ辺境伯の側近中の側近、確かにあの騎士は名族の一門だ。


第七章はこれにて終了です!
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