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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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249 バジル大作戦 奪還


 砦の大きさは、せいぜいサルワタの村にあった教会堂ぐらいのものだ。
 石造りの武骨な館という方が近い存在で、長い年月放置されていたために苔むしている。

「シューターさん」
「おう」

 高さは二階建ての上に建て増しの見張り台が付いている様なもので、その場所に疲れた顔をした見張り員の姿が見えた。
 けもみみは俺と頷き合うと、敵の見張りが視線を外してい内に相互で援護できる体制を取りながら砦の石壁に張り付いた。
 俺はそのままここに残るが、組んだ腕を貸してやると、けもみみはそこから俺の肩に足を駆けて、するすると石壁を昇っていくではないか。
 まるで猿人間の様だが、ご先祖さまはハイエナだ。解せぬ。

「うっ……」

 見上げていると見張り台に到達したけもみみが、素早くひとりをナイフで刺し殺したらしい。
 すぐにも「カハッ」という息遣いが聞こえたので、問題なくふたり目も処理されてしまったらしいぜ。

「オッケーだよ」

 擦れる様な声でけもみみがゴーサインを出したので、すぐにも森に視線を飛ばした。
 木々の狭間から、周囲警戒に付いている仲間が見えた。
 その中から巨人のメイドさんが巨人とは思えない軽快な動きでこちらに走り寄って来る。

「よし、音を立てずに入り口の歩哨を始末する」
「わかりました」

 どうやって処理するべきか思案しながらの接近だ。
 敵の歩哨は入り口から外の方角をじっと見ているだけで、俺たちが砦の石壁づたいに接近している事には気が付いていない様だった。
 恐らく疲れからか注意力が散漫になっているのだろうので、このまま行ける気がする。

「こう見えて、得意なんです」

 などと思っていると、俺の肩に手を置いたケイシーさんがポニーテイルを揺らしながら俺より先行して歩哨に近付く。
 ちなみに彼女の格好は家政婦だ。
 こんな森の中で違和感抜群なのだけれど、その給仕服の上から胸当てをしているのがさらにおかしい。
 しかも武器らしきものも無くどうするのかと思っていたら、

「ごめんあそばせ」
「?!」

 見るも素早い動きをして、両手で首を捻り折ったのである。
 怪力、梃子の原理、あるいは熟練の経験か、あまりにも鮮やかな動きだたものだから俺は絶句した。

「さあ中へ……」
「う、うン」

 圧倒されながら導かれた俺たちは、すぐにも内部の様子を伺いながら相互支援の体制を取りつつ踏み入った。
 敵の反撃らしきものは無いところを見ると、油断しているのだろうかまだ発見はされていない。
 砦の中も苔むしたかび臭い湿気に見舞われている様子だったが、静かなものだった。
 恐らくは無駄な体力を使わない様に仮眠を取っているのか、休憩しているのか。
 思い思いに省力化に努めているのだろう。

「……わが主」
「んっ?」

 入り口付近の小さな小部屋で、寝そべった数人の騎士の姿がある。
 ここにはラメエお嬢さまは存在しなかったが、完全に油断した騎士が武器を放り出して寝ているのだ。

「やりますか」

 かすれた声でケイシーさんが質問したので、俺はすぐさまうなずきながら女魔法使いにも目配せをした。
 バジルと爺さんが入り口を見張っているうちに、手際よく俺たちは三人の寝ている騎士に向かう。
 俺は短剣を抜き、ケイシーさんは素手で、女魔法使いはどうするのかと思えば、手元に護符を取り出した。

 下品なもので、口を開けている騎士の口からはよだれが垂れていた。
 よっぽど疲れていたのだろうがこれで永遠にお休みする事が出来るぜさようなら。
 片手で口をふさぎながらブスリと首根を切り裂くと「ううっ」とくぐもった悲鳴が漏れて騎士は死んだ。

「ぶひゅ……」

 ケイシーさんは俺よりさらに手際良く、近付いた次の瞬間には絶命させているではないか。
 最後に女魔法使いが一番えげつなかった。
 寝入った騎士の顔に護符を被せたかと思うと何かの呪文をつぶやく。すると、

「コヒュウ、コヒュウ……フヒュウ……ウウッ」

 寝ていたはずの騎士は悲鳴にもならない悶絶を浮かべながら、絶命した。
 いったい何をしたら瞬間酸欠死みたいな事が出来るんだ……

「秘密が多い女はそれだけ魅力的価値があるんですよ?」
「…………」

 そしていくつかの部屋で敵をやり過ごし、あるいは単独の敵を瞬殺するケイシータチバックに戦慄しながら部屋の捜索をしていると、上階から降りてきたけもみみが静かに俺たちのところへ合流した。
 ぼけっとした表情のまま俺を見上げたけもみみは、ひとつこうこぼした。

「この先の部屋に、義妹(いもうと)の気配がするよ」
「お嬢さま?!」
「シッ……静かにしてよ。シューターさん付いて来て」

 はやる爺さんに黙れと一瞥をくれたエルパコは、すっと音も無く俺たちを誘いながら前進した。

「声がするよ。ラメエちゃんのもの、それから男だよ。何かこの先の部屋で話しているみたいだ」

 小さな声でそう説明をした後に、するすると石壁伝いに前進する。
 壁は湿気で妙にしっとりしていたけれど、今は服が湿る事など気にしている場合ではない。
 果たしてそこだけが腐りかけの木の扉の様になっている場所から、ラメエお嬢さまの必死の声が漏れ聞こえてくるのだった。

「全裸卿。早く、早く中へ」
「様子を伺いチャンスを見るのが定石ですよ閣下」
「じいさんは黙っててくれ、エルパコは中の会話に傾注しろ。もし何かあればすぐに飛び込めるように、ケイシーさんとマドゥーシャは突入の準備な」

 指示を出しながら、俺も短剣に手をかけることにした。
 狭い部屋ならば長剣を振り回すよりも短剣がいい。あるいは空手技に頼って組みついた方が有利かも知れない。
 互いに頷き合ったのを確認したところで、けもみみがそっと木の扉に近付くのだった。

「イエス・マイ・ヌード」
「かしこまり」

     ◆

「待って。お願い話を聞いて。わ、わたしからひとつ提案があるわ」

 何人もいるブルカ騎士たちのうちでも、もっとも若いふたりは性欲を持て余していた。
 敗軍の兵士となった事でやり場のない気持ちがあったのかもしれないし、自暴自棄になっていたのかもしれない。
 砦の奥まった場所にある部屋の隅に転がされていたラメエお嬢さまを見て、欲情したのである。
 十一歳という少女に毛の生えた様な年齢であっても、このファンタジー世界では立派な成人だ。
 結婚が出来る以上は男がこの世界で欲情してもしょうがないのだった。

「フン。どうせ価値の無くなった戦争捕虜だ。俺たちが逃げるにしても足手まといになるだけなら、いっそここでヤり潰してしまった方がいいってもんだぜ」
「そんな事をして、わたしに手を出したら大変なことになるわよ?」
「こんな時ぐらいは黙っていられないのか、小娘はまったく……」

 ズボンをガチャガチャと脱ぎだすひとりに、ニヤニヤ顔でそれを眺めているもうひとりだ。
 順番は下半身半裸男が先にという事で、ふたりの間で話し合いが決まっていたのだろうかね。

「い、一人前の淑女として扱いなさいよね。わたしはこれでもオホオ騎士爵の領主よ」
「一人前の淑女だとお? だったら一人前の女として抱いてやるから大人しくしろよな。フヒヒ」

 下半身裸騎士はにじり寄った様だ。
 まったく下品な笑いを浮かべていたのは、実は俺の耳にも聞き届いていた。
 けもみみがもう少しだけ待つ様にと俺に合図を送ったものだから、大人しく我慢するしかない。
 やつがれ爺さんは居ても立っても居られないらしく、早く、早くと後ろでせっつく空気をまき散らしていた。

「でっでも。わたしの夫が盟主連合軍の軍監なのは本当よ」
「軍監の嫁だと? 名前は何というのだ」
「スルーヌ騎士爵のシューター卿よ。全裸を貴ぶ部族の戦士にして女神様の聖使徒と言えばわかるかしら? サルワタ、クワズ、スルーヌ、ゴルゴライの四つの広域領土を統べる準女爵アレクサンドロシア卿の旦那さまでもあるわ。ほっ本当よ、リンドル御台のマリアツンレジア卿、盟主連合軍の本当の総指揮官のあのひとだって、わたしの旦那さまの奥さんなんだから!」

 色々とおませ少女はカサンドラやタンヌダルクちゃんからハーレム大家族について聞かされていたようだけれど、俺はきみはまだ俺の奥さんじゃないからね!
 それは勝手に爺さんや家族がそう言っている事だから。
 しかし今その話を蒸し返す問題ではないので突入のタイミングに意識を集中するべきだ。
 けもみみは朽ちた木の扉の隙間から中を覗き込んでいたけれど、チラっチラっとこちらに視線を送る。
 顔を避けて見せたので中を覗き込んでみると……

 何とおませ少女が扉の方に視線を向けているのがわかった!
 なるほど、俺たちが救援に駆けつけている事に気が付いていたらしい。
 低い位置にある朽ちた木の扉の隙間はそれなりに空いているので、俺やけもみみが覗き込んでいる事を発見したのだ。
 そして話を長引かせている間に、ふたりのブルカ騎士は武器を壁に立てかけて、ひとりは息子をいじりもうひとりは下半身丸裸だ。
 これは完全なチャンスだと確認したところで、けもみみがコクリと頷いて見せるのだ。

「そういう冗談は宴会の席にしておくといいぞ、一人前の淑女さん」
「な、何で信じてくれないのよ。本当なんだから。全裸卿はわたしの夫なんだから!」
「じゃあその夫に助けを求めながら祈りでもささげるがいい。おい、口をふさげ」

 騒がれると仲間にバレるからな、などともうひとりに合図をおくった馬鹿な下半身丸出し騎士の哀れな事。
 敵が動き出すよりも早く俺とけもみみは素早く扉を離れると、ケイシータチバックがその場所を変わった。
 女魔法使いが狙いを定め、老騎士が剣に手をかけ。

「助けて旦那さま!」

 そう中のおませ少女が叫んだ瞬間がまるで合図の様に、ドカンと両手を朽ちた木の扉に叩きつけるケイシーさんだ。
 寸勁か何かでも極めているのかこのひとは。
 ただの一撃で付け根から木の扉がぶち壊れて吹き飛び、次の瞬間には俺が短剣片手に踊り込んだ。

「こんにちは、ご紹介にあずかりました旦那さまです」
「ふぁ、全裸?!」

 うるせぇ。
 下半身丸出しの男に言われたくはないわ!
 俺が素早く半裸男の胸にブスリと剣を刺し込むと同時に、女魔法使いが問答無用にファイアボールを射出する。
 火球は小さなものの様に感じたが威力はすさまじく、ただの一撃で無防備に息子を弄んでいた男の顔を吹き飛ばしたのである。

「遅いじゃないの、どれだけ待ったと思ってるの! 外にいるのがわかったのに、いつまでたっても助けに入ってきてくれないんだからっ」

 おませ少女もこの時ばかりは号泣した。
 しょうがないよね、背伸びしたって少女に毛の生えたお年頃。よく頑張ったと褒めてあげないといけない。
 よほど恐ろしい気持ちになっていた事は間違いなく、震える様にひくっひくっと嗚咽を漏らしている。

「お嬢さま、お嬢さまっ」
「じい、じいっ!!」

 直ぐにも中へ駆け込んだ老騎士は、拘束されたラメエお嬢さまのロープを斬り落とそうと奮起していたけれど、俺たちはいつまでもここでもたついているわけにはいかない。

「閣下、廊下に敵が来ます」
「シューターさん、どうするの?」
「爺さん、お嬢さまの事はお任せするので、俺たちは外の残党を相手にするぞ。エルパコ援護しろ」
「うんっ!」

 女魔法使いの叫び声で俺たちはあわてて動き出す。
 廊下を数名駆けてくる音を耳にしながら部屋の外に飛び出すと、果たしてもう遠慮の必要がなくなった女魔法使いが、護符を二枚左右の手にもって、火炎の魔法を連撃した。
 ギャアという騎士どもの断末魔が聞こえた時には、俺もけもみみもその紅蓮の中に飛び込んでいき、その先にさしかかっていた敵のふたりを体当たり気味に刺し抜く。

「何事だ?!」
「敵が俺たちの場所を嗅ぎ告げたらしい、斥候だ人数はいない。囲んで潰せ!」
「出会え、出会え!!」

 遠慮がいらないというのは、これほどありがたいものは無い。
 さらに俺に向かって敵が狭い廊下を走って来る敵をふたり目撃した。
 けもみみは少し下がって俺のためにスペースを作ってくれると、それに応えて俺が前に飛び出す。
 敵は焦っていたためか長剣を抜いて、壁を擦る様に走らせている。

 馬鹿めと思いながら俺は腰を低くしながら懐にもぐりこんだ。
 まずはひとりの腹に短剣を刺し、抜くのが億劫だと感じたのでそのまま手放すと後ろでもたついていたひとりに飛びついた。

「ぐふぉ!」
「甘いな!!」

 敵はこうもアッサリ俺が騎士ひとりを無力化するとは思っていなかったのだろう、飛びつき様に甲冑の無い首根に一撃の貫手を放ったものだから、簡単に気道を潰されて壁に叩きつけられた。

「シューターさん次の敵が来たよ!」
「おまかせをわが主」

 ふたりを倒した俺を追い越すようにして、ケイシーさんが飛び出していく。
 両手を大きく広げたかと思うと、すれ違いざまにわらわらと飛び出し来た騎士どもを、張り倒す、脚ですくい転がす、そして壁に叩きつけて絶命させる。

 滅茶苦茶強い。
 俺も辺境不敗とか言われてちょっと強くなった気分になっていたが、軍事訓練を受けたブルカ騎士を相手に滅茶苦茶強い。

「シューターさんも強いけど、ケイシーさんもなかなかやるね」
「あのひと給仕さんでしょ閣下? 何であんなに強いのですか?!」

 もうこのメイドさんひとりでいいんじゃないかな……

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