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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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248 バジル大作戦 発見

いったん投稿後、本文を大幅に加筆修正いたしました。
一部元の後半パートは次話に振り替えさせていただきました><

「ちょっと放しなさいよ。ロープの拘束がキツすぎなんですけど……」
「うるせぇ、戦争奴隷らしく大人しくしていてもらおうか、このクソガキが!」

 ラメエお嬢さまを拘束した敵の敗残兵たちは、完全に陽が昇りきるよりも早くに森の暗闇の中へと姿を消して逃走に移った。

「こ、国法に乗っ取り戦争奴隷として正当な扱いを受ける事を要求するわ。わっわたしの夫がきっと身代金を払ってくれるんだから。かっ彼は盟主連合軍の軍監なんだから、きっと名誉にかけて妻のわたしを守ってくれるわ……」
「黙れって言っているのが聞こえないのかこのガギが。それに期待しても無駄だ。ここで俺たちが時間稼ぎをしている間に、ブルカ辺境伯さまの軍勢が逆賊を打ち負かす。これで終わりだぜ」
「そうだなあ。そうなればお前のご立派な夫とやらが身代金を支払う事も不可能だぜ。わかったらとっとと大人しくするんだ。誰かこのガキの口に詰め物をして封じてしまえ!」
「何をするの、らめよ、やめなはい……むごっ」

 おませ少女を拘束した連中は実戦経験が豊富なブルカ騎士を中心とした小集団の残党だった。
 強いと言う事の意味は、何も戦場で負け知らずの常勝軍団である事を意味しないのだろう。
 連中は隣国との本土国境地帯で、長い間対峙して来た経験がある。
 してみると、一進一退の領地紛争の中では勝ちもすれば負ける戦も経験してきたのだ。
 だから少々の敗北でへこたれる事が無かった彼らは、すぐにもその任務を生き残る事に切り替える事が出来たし、ただの負け戦に終わらせられずに何かしらの戦果をもぎ取ってから逃走するという選択も、短い間にきっちりこなしていた。

「ふご、もごほご……ひいんッ」
「ようやく大人しくなったか。これ以上、馬の上で暴れる様なら殺すぞ。どうせ生きていようが死んでいようが武功に違いは無いのだからな」

 戦場の酸いも甘いも知っているブルカ同盟軍の残党であったけれども、ひとつだけ誤算があったと言える。
 十数名の落ちのびた仲間たちを引き連れて、ナワメの森の奥にある砦の跡地を目指していた彼らは、このおませ少女のラメエお嬢さまを盟主連合軍の総指揮官だと事実誤認していたからだ。

「しかしあれだな。たかだか烏合の衆の寄合諸侯の代表者にすぎない小娘が、自分の身を盾にして名乗りを上げるとは見上げた根性だったな」
「腐ってもマリアツンデレジアという女は宮廷伯の令嬢さまという事か」
「ハハハ、それを言うなら無意味に指揮官先頭の崇高なる理念をかざしたお飾り総司令官さまを頂いた、サルワタの売女や噂の全裸将軍が哀れと言うものだぜ」

 後々になって聞いた事だが、深い森の底にまで木漏れ陽が届く時刻になった頃合いには、ブルカ敗残兵たちも俺たちを引き離したと余裕が出てきたのか、そんな軽口を繰り返していたらしいね。
 確かにブルカ領軍の敗残兵たちは、そういう意味において用意周到だった。
 今回の夜襲作戦に参加したのは、リンドル川西岸の軽輩領主たちが中心となった軍勢だった。
 彼らはこの森の周辺が地元だ。
 してみるとこの戦いに負けてしまえば帰る場所を失ってしまう事になる。
 当然、男色戦隊が森の後方に布陣して伏撃していた事で挟み撃ちになってしまった彼らは、形勢逆転で夜襲が失敗してしまった後でも、ただ逃げるわけにはいかなかった。

 死に物狂いの抵抗を試みながら絶望的な戦いを男色戦隊に仕掛けていた敗残のブルカ同盟軍と同道していたのでは、恐らくブルカ騎士の敗残兵諸君は落ちのびる事が出来なかったのである。

 だから特にブルカ辺境伯との繋がりの濃かったひとりの軽輩領主と連携しながら逃走経路を確保して、いったんはブルカとの領境がある分水嶺の麓の、かつての砦跡地にいったん向かおうという計画を立てていたのである。

「戦争の勝ち負けは兵家の常とは言うが、まさかこれほどまで敵が手際よく戦運びをするとは思わなかったな」
「まあそう言うな、ツジンさまがこの場におられたのであれば趨勢もまた違ったのだろうが、敵にも少しは出来る知恵者がいると言う事だろう」
「噂の全裸を貴ぶ部族というあれの事か? サルワタの売女騎士にはじまり、数々の女貴族をたぶらかして立身出世の街道に乗ったという男」
「女転がしが上手いだけでは戦争は出来ないだろう」

 酷い言われ様だが、後々にラメエお嬢さまが大正義カサンドラに語って聞かせた事によると、そういう事をブルカ騎士たちは森を逃げながら語り合っていたらしい。
 彼らは道中全員がブルカ領軍である事を示す黄色のマントを処分すると、少しでも身軽になるために甲冑のうち幾つかを外す事にした。
 それを捕虜となったラメエお嬢さまにも手伝わせて森の腐葉土を掘り起こし、埋めさせたと言うからこのあたりも周到だ。
 ほとんど恐怖心で抵抗する事もままならなくなったラメエお嬢さまは、言われるままにそれを行ってまた強制的に馬に乗せられた。
 ひたすら森の奥へ奥へと進んでいるうちに太陽が頂点に差し掛かるころ、ようやく彼らが目指していた砦の遺構がある場所に到着したのである。

     ◆

「こいつは逆賊軍の総司令官なんかじゃないぜ、ブルカ騎士のみなさん……」
「な、何だと?!」

 分水嶺の麓にある砦には、すでに土地勘のあるひとりの若い地元軽輩領主がブルカ騎士たち敗残兵よりも先に到着していたのだが、その彼らを待っていた若い軽輩領主が発した言葉がこれだった。

「じゃあいったいこいつは何者なんだ。逆賊軍の総司令官は女だと聞いていたはずだ」
「それに領主交代が数年前にあったばかりで、年端も行かぬ若者が後を継いだとも聞いていた。」
「ふん、オホオ村のラメエという領主になったばかりの小娘だ。俺たち同盟軍に参加して領内に立てこもって籠城作戦をしていたはずだったが、いつの間にか敵に寝返っていたらしい」

 混乱するブルカ騎士たちを落ち着かせる様に、ため息交じりに若い同盟軍側の領主は説明をした。
 確かにリンドルの現当主は若い少年と言うべき年齢の子爵さまである。
 同時に盟主連合軍の総司令官は女性である。
 きっとリンドル子爵のシェーン少年と、御台マリアツンデレジアの情報が錯綜した挙句、ひとつの人物像として勝手に敵の脳内に出来上がったイメージがあったのだろう。
 その思い込みと、ラメエお嬢さまが名乗りを上げた嘘が見事にマッチングして、敵のみなさんは勘違いしてくれたことになる。

「オホオ村のラメエだと? 何がオホォらめぇだ、ふざけやがって!」
「こんな女の首級が、どうして勲功になると言うのだ。逆賊の総指揮官の首じゃないだと?!」

 怒り狂ったブルカ騎士のひとりは、砦に運び込まれて部屋の隅に転がされていたおませ少女を引きずって来ると罵声を浴びせかけた。
 ようやく周囲警戒をする必要がなくなったので、すでにおませ少女の猿ぐつわは外されていた。
 だから少しだけ自分の計画に騙された連中に対して、嫌味のひとつでも言ってやろうと思ったらしい。
 逃走経路の道中、さんざん罵倒され無体な扱いを受けたのだ。
 国法にのっとった戦争奴隷の扱いなんてあったものじゃなかったのだ。

「ざ、残念だったわね。わたしがリンドル御台アレクサンドロシア卿とは似ても似つかない人間で」
「クソッタレのクソガキが。小便垂れの小娘だったとはな!」

 別のブルカ騎士も怒りに任せておませ少女に唾を浴びせかけた。
 それだけならばかわいげもまだあったというものだが、怒りの収まらないその騎士は、あろう事か少女に毛が生えたばかりと言う大人の階段上りかけレディーを蹴りつけたのである。

「きゃん。痛いじゃない、やめて、やめてよ!」
「うるせぇこの小娘が、黙りやがれ!」

 いち度、二度と転がった相手を蹴り飛ばしたところで、さすがに面識のあった若い軽輩領主が「おいよせ」と止めに入ってくれた。

「間違って拉致したものはしょうがないだろう。何かの使い道があるかもしれないから、今は置いておくしかない。それよりどうする。さすがに敵もすぐにはこの場所を嗅ぎつける事は無いと思うが、逆賊軍の本陣を叩き損ねたと言う事は、当初の計画が大幅に狂った事になる」

 嗚咽を漏らしながら痛みと悔しさに涙を流していたおませ少女をチラ見しながら、若い軽輩領主は話題を変えようと今存在している大問題について言及したそうだ。

「アンタらには申し訳ないが、この土地のご領主さま方は戦争のやり方が下手糞すぎる。粘りもないし連携が取れないという意味では、これ以上の抵抗を俺たちが続けても各個撃破されるだけだ」
「しかし時間稼ぎは必要だ。この上は砦からも引き払って、いったん南を目指している援軍の本隊と合流するのが戦術的に正しいのではないか」

 騎士たちは顔を突き合わせながらヒソヒソとそんな話をした。
 ラメエお嬢さまが、代替わりしたばかりの地元領主だとバレてしまったので、もはや空気のような存在として彼らは扱ったらしかった。

「だが他のわが領軍の仲間たちがここに落ちのびてくるまでは、しばし待つ取り決めだぞ。攻勢をかけた主力の前面に立っていた人間が、少なくとも十人はいたはずだ」
「その連中がみんな生き残っていればいいがな、例の辺境不敗の全裸将軍が逆賊の本陣にいたと言うじゃないか」
「まさか、本当に全裸の男ならば恐れる事は無い。しばらく待って来ないのであれば、早々にここを立ち去る方が賢明だ」

 おませ少女はその時、脇腹を蹴られた痛みに耐えられながらも必死にその会話を聞き取ろうとしていた。
 もし生き残って、この彼らの会話を味方の元に持ち帰る事が出来れば、きっとこの戦争にとって貴重な情報源になるのではないかと考えたからね。
 それは正しい。
 彼らはこの時、ニシカ支隊が躍起になって探している「谷間」の存在について話し合っていたからだ。

「問題は誰かひとりは現状をブルカの街に伝えないといけない事だ。さすがに渓谷に伏せている兵士五〇〇だけで、この戦域にいる逆賊の全軍を相手にすることは不可能だ」
「援軍を要請するにしても、撤退を進言するにしても、それは大切だな」
「馬鹿な。ミゲルシャールさまがお許しになっても、ツジンさまが撤退などという事をお許しになるはずがない。国境村の戦訓を忘れたのか」
「それは覚えている。しかしこれでは勝ち目がないぞ……」
「いっそ渓谷の本隊のところに向かうか、俺たちだけで抵抗しても犬死だ」

 ラメエお嬢さまが見ている前で、彼らは大きくため息をついたそうだ。
 生き残ったブルカ騎士たちも経験豊富な連中とは言え、それでも若い面子だったらしい。
 現場を取り仕切る様な中年の人間がその場にいないために、すぐには決断と判断が付きかねたらしいのだ。

 結局ひとりの人間を生き残った現地案内人の猟師を付けて、ブルカ領堺の分水嶺の細道を使って伝令に走らせることになったらしい。
 もうひとりが伏兵のための集結地点に選ばれた谷間に向けて走った。こちらはもう人員に余裕がないと言う事もあって、騎士が単独で向かう事になった。

 こうしてわずかの時間ではあるけれど、敗残兵諸君は仮眠を取り携帯食料で飢えを癒す事が出来たのだが、これが彼らにとって致命的な時間のロスになったのである。

     ◆

「シューターさん、あれだね」
「旧王国時代の砦か何かかな? 中からひとの気配はするか」
「ギュイ!」

 南北に長いナワメの森は、その縦深についてはさほどの長さを持っていない。
 敵の夜襲を撃退する事に成功してすぐにも奪還部隊を送り出す事になった俺たちであるけれど、すでに先行していた追跡を開始していたけもみみたちを追いかけて、ようやく合流をしたのである。
 さすがハイエナ獣人のエルパコは、敗残兵を直ぐにも発見して密かに追跡行動をしていたらしい。
 けもみみ奥さんは伊達じゃないぜ。

「そうだね、全部で二十数人ぐらいが中にいると思うけれど、途中で何人か森の中に入っていく姿を確認したよ」
「全部で二十そこそこか。こちらはエルパコを追いかけるのに最小限の人数でここに来たからな……」
「大丈夫だよ、これだけの人数がいれば問題なく助け出す事が出来るから」

 そう言ったけもみみが、俺たちの仲間をぐるりと見回す。
 おませ少女奪還のために森の中を休みなく追いかけてきた面子は以下の通りだ。
 俺、けもみみ、やつがれ老騎士に、女魔法使いとケイシータチバックさんだ。

 けもみみは圧倒的な身体能力があるので、忍者もびっくりの跳躍力で奇襲するのはお手の物だろう。あと手がとても早い。というか手癖が悪い。
 女魔法使いは驚異的な大威力魔法の使い手で運動神経も抜群なので、いざとなれば俺と一緒に正面突破が出来る実力があるのはありがたい。
 それからケイシータチバックさんは自分から志願してくれた。メイドとしてお貴族さまの扱いは慣れていると言うのもあるし、実は聖なる癒しの魔法が使えるらしいので作戦後のケアにはピッタリだ。
 やつがれ老騎士の戦闘力がどの程度なのか俺は知らないが、たぶん爺さんなのであまり役に立たそうにない気がした。だがそれは黙っておいた。

 バジルも一緒に連れてきたのだけれど、けもみみが発見した場所からこのあかちゃんを放って、道案内が出来ないかと考えたからである。
 けもみみはこの砦の隠れ家を発見してからずっと監視し続ける役割があったので、一緒に先行して追いかけていた女魔法使いが、あかちゃんの嗅覚を頼りに俺たちを誘導した。

「どうしますか閣下?」

 マドゥーシャが質問をすると、さっそく老騎士が年甲斐も無く鼻息を荒くした。

「全裸卿、一刻も早くお嬢さまを助け出さねばなりません。このわたくしめに斬り込むご命令をください」
「まあ落ち着け爺さん。それじゃあ作戦も何もあったものじゃないだろう、まず中の様子を確認してから対策を練るべきだ」
「もちろんラメエお嬢さまの救出が最優先だけど、力攻めをするのはいけませんね」

 さすが学のある女魔法使いはまともな意見を口にする。
 こちらは五人と一匹だ。無理に全員同時に戦わずに効率的に戦いを仕掛けなければならない。
 ニシカさんがいれば簡単にカタがついたんだけどな。それは言っても仕方ない。

「配置はあの入り口にひとりと、砦の見張り台にふたりだよ。顔ぶれが午前と正午で変わっているから、たぶん三交代でやっているんだ」
「でかしたエルパコ。よしじゃあ君は上の見張りを仕留めてくれないか」
「任せてよ」
「俺たちは正面の見張りを倒したら、中の様子を探りながら入り込むぞ。バジルくん、もしおじさんが大乱戦になったら魔法の咆哮で今朝みたいに活躍してくれたまえ」
「キュッキュッベー」

 頭をなでなで肥えたエリマキトカゲに命令をしたところ、尻尾をぷりぷりとても嫌そうな顔をされた。
 何が不満なんだ君は、もしかするとお腹がすいたか睡眠不足で不機嫌なのかもしれない。

「ケイシーさん、俺のすぐ後ろで援護してくれ。マドゥーシャと爺さんはいったん外で待機して、もし敵が飛び出してくる様なら処理してくれ。無ければ俺たちに続く」

 固まっていた方がこういう場合は何となく安全な気がする。
 ただでさえ少人数なのに、戦力が分散していると各個撃破される可能性があるからな。

「イエス・マイ・ヌード!」
「それはもういいから……」
「おちんぎん!」
「それも後にしなさい!」
「お、お嬢さまをお願いいたします」

 大きくため息をひとつこぼしてしまう。
 わかっていると返事をしたところで、俺たちは早速行動に入った。
 必ずラメエお嬢さまを助け出さなければいけないと俺たちは誓うのだった。


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