挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

317/574

247 バジル大作戦 拉致


 オホオ村のラメエお嬢さまは、自分が領主である事に大いなる誇りと自負心を持った女の子だった。
 それをおませ少女と簡単に片づけるのは小さな領主に対してあまりに失礼だろう。

「敵夜襲部隊、第三防衛ラインの馬防柵を突破しました!」

 何列にもわたる波状攻撃を仕掛けてくるブルカ同盟軍の夜襲は、ほんのわずか前までは彼女たちにとっては味方だった存在だ。
 リンドル川西岸域にある猫の額ほどの狭い平野部を分け合った近郊領主たちなのである。

「無理に飛び出さずに、引き付けて遮蔽物を利用するのよ。そうよねじい?!」
「さようでございますお嬢さま。満点のご命令でございますれば、お嬢さまご自身も無理に突出してはなりませんぞ」
「そんな事はわかっているわよ。じい、ファイアボールをあそこに!」

 オホオ村防御陣地に立てこもる味方の中に、魔法を使える人間は僅かばかりしか存在しなかった。
 魔法使いとしてあらゆる魔法を使いこなせるのはッヨイさまぐらいのもので、リンドル隊にもドワーフ隊にも、一点豪華主義的にひとつ魔法を使えればいいという騎士や兵士なら数名だ。
 そのうちのひとりが老騎士ジイだったわけだが彼は老境、使える場所を限定して効果的にそれを射出しなければならない。
 カンフー映画に出てくる老師ではあるまいに、魔法とは齢を重ねれば重ねただけ強くなるというわけではないのだ。

 ドカンと突出してきた敵の集団に、テニスボールほどの火炎が炸裂した。
 衝撃こそ派手ではあるけれど、直撃を喰らった兵士が大きく倒れた事を除けば、直ぐにも残りの兵士たちはひるまずに前進してくる。
 そこをドワーフの兵士たちが盾をかざしながらブロックだ。
 ほとんどアメフトかラグビーの試合を見ている様な有様で、ガチャンと激しい金属音を立てながら体当たりをかまし、その盾の隙間から首根に剣で一刺しである。

「敵の不可解な爆裂攻撃は止みましたぞ!」
「じい、少数の兵を引き連れて味方の防衛ラインで穴の開いている場所を埋めなさいっ。何としてもわたしたちの村を守るのよ!」

 敵の攻勢は相変わらず苛烈なものであったけれど、敵が夜襲の初動で行った魔法と原因不明な爆裂を組み合わせた圧倒的な攻撃は、しばし小康状態にある。
 恐らく魔法の連撃に限界が来たのか、不可解な攻撃そのもののストックが無くなったのか。
 敵味方が密集した状態で乱戦模様になったので、援護射撃がしにくいために支援射撃を控えているのかもしれない。

「しかしそれではラメエお嬢さまをお守りする役目が出来なくなってしまいまする」
「今はわたしの事をどうこう言っている場合じゃないわ。やるべき事を成さなければらめよ!」
「は、はあ……」

 その事が理解できたおませ少女はただちに老騎士に対して態勢を立て直す様に指示したわけだが、その事に老騎士自身は逡巡を覚えたわけだ。
 爺さんはこのおませ少女があかちゃんだった頃から、子守役として側仕えをして来たというのもあるのだろう。

「わ、わかりました。そのほうたちはしっかりとお嬢さまをお守りしろ。残りの者はこのやつがれに従って援軍に向かうぞ!」

 では、と貴人に対する礼をとってみせた爺さんは、少数の兵士たちを率いてその場を離脱した。
 彼らは男色男爵との戦いに勝ち残った運のいい人間だちばかりだったが、同時に実戦を経験した事で肝の据わった者たちと言える。
 猟師や農民ではあったが、爺さんの後を遅れず付いていく姿を見届けて満足したラメエお嬢さまは、自分の果たすべき役割をこなそうと意識を切り替えた。
 こうしてはいられない。

「わ、わたしたちもドワーフ隊の援護をするわよ。総員弓構え!」
「「応!」」

 自らも短弓を手に取って波状攻撃をしつこく仕掛けてくる敵めがけて、制圧射撃を実施するのだ。
 まずおませ少女が慣れた手つきで色付きの矢を放った。
 目印になりやすいように赤く塗られたそれが飛んでいった先に向かい、

「あの場所に放て!」

 実際の古戦場において弓がどの様に使われていたのか、俺たちは文献から想像する以外に方法は無い。
 けれどこのファンタジー世界における弓の使い方を見ていると、なかなか興味深い部分がある。
 鱗裂きのニシカと異名をとる辺境随一の弓使いの彼女にかかれば、狙った獲物はどんなものでも一発必中外れ無しを豪語するものだけれども、戦場ではなかなかそうはいかない。
 敵味方の両者が静止状態ならば別だが、互いに激しく動き合いながらの攻防となれば狙いを付けるのが難しいからだ。

 そこでブルカ同盟軍の夜襲部隊が用いた方法は、指揮官が打ち放ったおおよその場所に向かって、指揮下にある兵士たちが弓を一斉に射かけるというものだった。
 面制圧とでもいうのだろうか、弓矢単体の命中を期待するのではなくて、そのエリア一帯に矢の雨が文字通り降り注ぐ様に討ち込むわけである。
 今まさにおませ少女が実施したやり方である。

 矢の雨を降らされた相手は、当然そのままでいれば射撃を喰らってしまうので、可能であるならば遮蔽物に隠れるなり、回避が求められる。
 弓は遠くに飛ばすためには弧を描く様に打ち出されるので、その味方の射撃援護が開始された瞬間に、歩兵のみなさんが前進を開始するのだ。

「ドワーフ隊前進しました。何とか防衛ラインを押し上げられそうです!」
「第二射用意するわよ。森の中から敵の射撃援護が行われているわ、こちらに引き付けるのよ!」

 すぐにも次の矢を番える指示を出すおませ少女は、敵味方の混戦していない新たな標的を見つけた。
 森の中から木で出来た粗末な防護盾に身を隠しながら弓射を繰り返している小集団に狙いを付けたのだ。

「続いて放て!」

 矢の雨はふたたびアーチを描きながら森の中に吸い込まれていったが、ラメエお嬢さまの率いる弓兵はせいぜいが十人足らずと戦力の上ではものの数では無かった。
 手ごたえも感じられないうちに敵の応射で、あべこべにこちら側が遮蔽物に身を隠してやり過ごす羽目になる。

 そうこうしているうちに直近の馬防柵に取り付こうと槍を持った敵兵の数名がこちらに向かってくるではないか。
 おませ少女はそれを確認したところで、あわてて弓を構えた。
 黄色いマントをなびかせる、動きのいい騎士の姿だった。

「ラメエお嬢さま、敵がこちらに向かって来ます。あれはブルカ領軍の貴族軍人ですよ!」
「そんな事は見ればわかるわ。各個に目標を定めて攻撃!」

 そうしてお嬢さまはあわて様に矢を放ったけれど、狙いを確かに付けるよりも先に敵がずんずんと迫って来たものだから、力強く引き溜める事が出来なかった。
 勢いの乗り切らない矢はブルカ騎士の肩の防具をガキンと掠りながら、明後日の方向に弾き飛ばす。
 もうこうなれば白兵戦を覚悟しなければならないので、おませ少女は命令変更するしかなかった。

「総員接争、抜剣!」

 成人したての、少女に毛の生えた様な年齢に過ぎないラメエお嬢さまだ。
 先祖伝来らしい長剣を引き抜いた彼女は、その重さに圧倒されながら構える他無かった。
 迫るブルカ騎士の顔に恐ろしい笑みが浮かんでいる事を目撃したらしいラメエお嬢さまは、その場で足がすくむのがわかったという。

 やはりブルカ同盟軍にとって裏切者として、自分はここで殺されてしまうのだろうか。
 覚悟を決めて俺たちの軍門に下ったつもりだったけれど、それでもおませ少女にとっては重圧で、恐ろしかったのだろう。

「あああっ、お嬢さま」
「友軍の領主さまをお守りしろ!!」

 すぐにも近場にいたドワーフの兵士やが飛び出して、勢い込んで剣を振り上げたブルカ騎士とラメエお嬢さまとの間に割って入った。
 しかしそうしているうちに、馬防柵にを乗り越えて次から次へと黄マントを暗中になびかせるブルカ騎士の一団が飛び込んでくるではないか。

 この時、敵の夜襲部隊に参加していたブルカ騎士の援軍は、総数でもわずかに三〇名余りしかいなかったらしい。
 実戦経験が豊富な彼らが、もともとどこの部隊に所属していたのかまではわからない。
 ドワーフ隊の担当するオホオ村の「スキ」がある防御陣地の一角に半数が参加していた他は、どうやらラメエお嬢さまが守備する場所にも振り分けられていたらしい。

「おのれ俺が相手しギャー」
「お嬢さまお逃げくだうぎゃべェ」

 奮戦虚しく身代わりとなった味方は斬り伏せられたが、どうにかラメエお嬢さまは難を逃れる事が出来たのだ。
 すぐにもドワーフ隊の加勢が次々と盾を押し立てながら駆け込んできて、数の力で突入して来たブルカ騎士たちを押しつぶしていく。
 けれども突破された場所はここだけではない。


「ま、まずいは。あそこの防衛線が切り崩されている! あそこを抜かれれば教会堂は目前よ、守備に就いている味方の背後も晒してしまう事になるわっ」

 別の場所では味方が完全に押しつぶされた防御陣地を乗り越えて、新たなる敵が雪崩を打って突入してくる姿が見えたのだ。

 その先にあるのは教会堂だった。
 教会堂の礼拝所の中には、この村の中心集落で生活している村人たちが避難している場所で、隣接する診療所はさながら野戦病院の有様になっているはずだ。

 泣き面をしていた彼女であったけれども奮起して長剣を拾い上げ、引きずる様にしてでもその場を駆けだす。

「も、持ち場を離れて何処に行かれますかご領主さま!」
「お嬢さまお戻りください!!」
「何を言っているの?! 領民を守るのが領主の役割よ。さあお前たちも私に続きなさい。ドワーフ隊のあなたたちも、加勢してくれないかしら?!」

 振り返りながら叫び、叫びながらも前に進み、そして剣を振り上げながら敵の意識をこちらに向けるにはどうすればいいかと、おませ少女は必死で考えた。
 自分が身代わりになってでも領民を守る。
 非武装領民などは戦闘中の兵士にとっては物の数ではない、軍事的な価値もないものだ。
 敵が欲しがるのは勲功だ。
 この戦いに勝つことで、最終的に領土や地位や金銭を得なければならない。
 そうやって武功を重ねなければ、小さな開拓村の寄り合ったリンドル川西岸の地域で飛躍する事が出来ない。

 そこまでの思考が彼女の中で整理できたかどうかはわからないが、ラメエお嬢さまは自分に価値を付けようと少しでも頭を悩ませてひとつの結論に達した。
 自分が嘘でもいい、大将首だと名乗りあげれば、一時的にでもこの不味い状態をお預けに出来るのではないかと。
 だから叫んだ。

「わっ、わたしが盟主連合軍の総司令官よ! あなたたちわたしの首が欲しくないの?! さあいざ尋常に勝負なさい!!」

 そんな叫び声が撃剣のぶつかり合う音の中で響くと、一斉に周囲の敵たちの視線を引き付ける事に成功したのだが、その瞬間である。

「ドオオオオオオオン!」

 大地を震わせ空気を切り裂く様な咆哮が駆け抜けた。
 もちろんそれはバジルが行った強烈な夜泣きだったわけだけれど、まったくその咆哮の存在と状況を理解できなかったその場の敵味方は、あまりの恐ろしさから剣を放り出して硬直してしまった。

 それはラメエお嬢さまも同じだった。
 カタリと取りこぼした彼女には大きすぎる刃広の長剣は、半身を取っていた自分の足の上に落ちる。
 硬いブーツの上に柄が落ちたけれどもその衝撃と痛みで誰よりも少しだけ早く意識の覚醒を出来たのは、おませ少女にとっても幸運だっただろう。

「ひっ……うぐっ」

 魂のレベルで恐怖心を植え付けられるバジリスクのバインドボイスを喰らった敵は、棒立ちになっている者、半狂乱になって左右を見回し逃げ出す者、そして味方同士でいさかいを起こすものまでが現れて大混乱になっていた。
 おませ少女はそれでも運がいい方で、取りこぼした剣を取るよりも早く短剣を引き抜いて構えを取った。
 目の前には突入時に指揮を執っていたらしい数名のブルカ騎士がどうにか混乱から立ち直って、仲間たちを見回していた。

「どうした、何事だ今のは。敵が現れたのか?!」
「わからんが、モンスターの咆哮ではないか」
「ワイバーンだ、ここは辺境の糞田舎だからワイバーンが山から降りてきたんだ?!」

 そんな同盟軍兵士たちの半狂乱の言葉を鎮める様にブルカ騎士のひとりが叫んだ。

「まずいぞ、敵の援軍が森の中から湧き出して来たらしい!」
「何だと?! ええいここまで来て……」
「せめて何かしらの戦果を得なければ、これだけの犠牲を払った事に対する申し訳が立たん」
「狙いは敵将首ただひとつ。当初の計画ではそうであったではないか!」

 そして目の前には短剣を構えながら震えるひとりの少女がいたわけである。
 ラメエお嬢さまの背後にはドワーフの兵士数名とオホオ村の兵士が伴っていたけれど、混乱からようやく立ち直りつつあったブルカ同盟軍の突破した連中に比べれば数で勝負にならない。
 そして彼らは剣や武器を放り出して、へたへたと地面に尻もちをついている有様だ。

「撤退するぞ、目の前の腰の抜けている連中を殺して背後の安全を確保しろ!」
「お前、盟主連合軍の総指揮官だと言ったな、来てもらおうか」
「やあ、来ないで。らめよ、やめて、キャア!!」
「大人しくしろ! よし撤退だ。敵に捕まらない様に来た道とは違う方向から逃げるぞ! 援護しろ!!」
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ