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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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244 バジル大作戦 夜襲(前)


 むかし俺はベトナム戦争時代の米兵コスプレをして、サバイバルゲームをやっていた事がある。
 所属していたのは例のアパレル会社の社長が率いるチームだった。
 いきなりどうしてこんな話をし始めたかと言うと、その時に俺は「夜間襲撃過程」に参加した事があったからである。
 もちろんそれはただのサバゲーだ。
 それは山奥のキャンプ場で昼間にサバゲーを楽しんでいたチームを襲撃し、宴会中の連中から良く冷えたビールを奪還するという作戦内容だったのを覚えているぜ。

「今夜はあの時の夜に何故か似ているぜ……」

 オホオ村の領主館の窓の外を見るとぼんやりと朧月夜が見える。
 あの夜も確かこんな感じのピリピリとした雰囲気をしていたものだ。
 秋虫の鳴く声が聞こえ、少しだけヒンヤリとした空気が緊張して火照る体の芯を冷やしてくれるような思い出と重なったのだ。

 元空挺レンジャー出身の社長、そして元狙撃検定一級の店長、何故か潜水艦乗りだった太っちょの店員さんと、一般曹学上がりのリアル鬼軍曹、そして俺。
 その他にはショップの常連客である数名の仲間たちを加えて、俺たちは山を越えた。
 若いからと言うだけで俺は消火器を二本背負わされるハメになって、稜線上から界下の川辺を陽が落ちる前に監視していたのだ。
 大学生の常連客は俺より酷い有様で、確か無線機を背負わされていたはずだ。
 ほとんど同じだけの人数が、反対側の山にも伏撃していたのだ。

 夜の闇が深まるまで、虫ジュースを塗った肌が痒くてたまらなかった。
 きっと昼間の内に頬に塗ったドーランはべったり溶け出して、顔は酷い有様だったに違いない。
 斥候に出ていたリアル鬼軍曹店員と社長が戻ってくると、そろそろ陽が落ちるからと山の稜線から移動を開始した。
 すぐにも川辺のキャンプ地では、本日のイベントを何も知らされていない対抗チームがバーベキューの準備を開始しているのがわかった。

(クソッタレめ! 必ずフラッグを奪還してやるッ)

 漫画肉の焼ける匂いが何処からとも無く漂ってくると、俺たちは忌々しい気持ちになって襲撃開始地点に移動した。
 このイベントが今夜行われる事を知っているのは、対抗チームのリーダーと数名の古参のみ。
 何も知らされていない残りの連中は、肉を焼き、俺たちの金を出し合って「預けていたビール」をさっそく飲み始めているではないか。

(俺たちのビールを! 勝手に飲むんじゃねえ!)

 誰かが叫んだ。
 それがキッカケになって消火器を用意した俺たちがブッシュの中から次々と飛び出す。
 制圧射撃をするためにフルオートで射撃を実施する仲間の援護を受けながら、俺たちはキャンプ地に躍り出て消火器をまき散らしたのだ。
 反対側からも別働チームが飛び出して来て、対抗チームは見事に大混乱になった。

 だがほんの数分もしないうちに対抗チームは混乱から立ち直って反撃をして来た。
 連中にはM60軽機関銃が二挺配置されており、効果的に十字砲火を喰らった俺たちは、痛みに耐えながらキャンプ所の中を走り回った。

(物資だ! 補給物資は何処だ! 奪え奪え!)
(畜生痛てぇ! どこにもビールが見当たらねえぞ!!)

 そんな怒号と阿鼻叫喚の暗闇の中で見つかったのは、無残な姿になってしまった俺たちの獲物だった。
 連中はすでにビールを飲み切っていた。
 そう、良く冷えたビールの缶は全て空になっていたのだ。
 悲しいむかしの俺物語である。

「……ううン、シューターさま。そこにおられるのはシューターさまですの?」

 窓辺に立って外を眺めていた俺の耳に、衣擦れの音がした。
 振り返ると眼をこすりながら上体を起こしたマリアツンデレジアの姿が飛び込んできたのである。

「どうしましたマリアちゃん。喉が渇いたのならこれを」

 俺は寝台から身を乗り出していたマリアちゃんの側に寄って、水差しから木のコップに白湯を注ごうとしたのだけれど、

「そうではありませんの。何だか寝付が悪い様な気がしまして……」
「随分と早いうちから酔っていましたからね。よしよし、総指揮官として日々お疲れ様でした」
「やあン、シューターさまぁ」

 窓の外に注意は払いながらも、両手を差し出して来たマリアツンデレジアを抱きしめてあげた。
 武骨なブリガンダインの鎧の上からでも、構わずマリアちゃんは手を回してくる。

「あちこち、鎧がささくれ立っておりますの」
「ああ、ここは昼間の戦闘で破損した個所ですね。それからこっちはダンジョンの中で戦った時に痛めたものだ」
「とても激しい戦闘でしたのね。そして、戦争が続く限りはまだまだ傷が増えるのですわ」

 少しだけ酒気の匂いを残した吐息が、俺の鎧の狭間から首に抜ける様に吹きかかる。
 だが悪い気はしなかった。
 今も敵がこの森の周辺に伏撃しており、俺たちを襲わんと狙い付けているという事が嘘の様に、妙な閉塞感を打ち消してくれるから不思議だ。

「シューターさま」
「ん? 今夜はお相手をしてあげる事は出来ませんよ」

 これから夜襲が行われるという時に、まさか全裸になって甘えるマリアちゃんに息子を慰めてもらうわけにはいかない。
 ブルガンダイン鎧が無ければ、あの時もこの時も危なかったのである。
 鎧は大事ってハッキリわかんだね。もう全裸のままじゃいられない!

「それはわかっておりますの。シューターさまもお疲れのご様子ですから……」
「うん、少しの間だけ辛抱だよ」
「でも我慢出来ませんの……」

 暗闇の中でうるうるとした瞳を俺に向けて来るマリアちゃんの顔が俺に近付いた。
 これはいけない。
 何が一体我慢できないのか、ギュっと俺の袖を掴んで見せるマリアツンデレジアにちょっと当惑してしまったではないか。

「お、おトイレに。寝る前に済ませておかなければいけなかったのですけれども、わたしはそのまま寝入ってしまいましたの……」
「な、なるほど。いい歳だからジョビジョバするわけにはいかないよね」
「そうですの。ですから、わたくしちょっとおトイレに」

 ちょっと情事を妄想した俺はとても恥ずかしい存在かも知れません!
 すっくと寝台から立ちあがってブーツのカカトをコンコンとやってみせたマリアツンレジアは、オホオ村前領主の部屋の中をぐるりと見回した後に、姿見の前で自分の顔を確認している様子だった。
 酔っても元は宮廷伯の令嬢であるから、部屋の外に出る以上は身だしなみが重要なのかもしれない。
 そうしておいて、自身では扱いきれないだろう刃広の長剣を、立てかけてあった場所から拾い上げて腰のベルトに繋ぐのだった。

 ここは猟師や農民の拝み小屋ではないので、トイレは部屋の隅にあるたらいというわけではない。
 館の隅にあるトイレ専用の敷居にあるそこで用を足さなければならないのだ。

「さあ、どうぞお嬢さま」
「ふふっ、何だか若い娘の頃合いに戻った気分ですのよ?」

 寝室のドアを開けて差し上げると、気取った態度で御台さまがドレスの裾をつまんでみせるではないか。
 俺たちが夜襲を警戒して待ち構えている事を知らない彼女は、ちょっとしたこんなやり取りで癒しを得ているのかも知れない。
 もう十分に敵に「俺たちが油断している姿」を見せる事が出来たし、このタイミングで彼女には俺たちの腹積もりを教えておく方がいいかもしれない。
 マリアツンデレジアが用便のためにトイレに向かう後を付いていきながら、俺はそんな事を考えた。

 寝静まったような静かな領主館の廊下を歩く。
 敷居はあるが扉の無いトイレまでやってくると、何処からともなく誰かの寝息が聞こえてくるのがわかった。
 多分あれは肥えたエリマキトカゲのものだろう。
 野生の生まれとは言えないあのあかちゃんは、俺たち人間の中で生活しているのもあって、鼻ちょうちんにイビキまでかくベイビーだぜ。
 しかし今回の作戦では出来るだけ活躍してもらわなければならない。
 俺たちはワイバーンにしろバジリスクにしろ、恐ろしいトカゲの親戚が使う魔法のバインドボイスには散々悩まされ続けてきたのもあるからな。

「シューターさま、そこにおられますの?」
「ああいるよ」

 敷居のカーテンの向こう側から、少しだけくぐもった声が聞こえてきた。
 用を足すためにしゃがんでジョビジョバやりながら、途端に不安になったのかも知れなかった。

「何となくですけれども、嫌な予感がしますのよ」
「んっ……」
「今夜は静かすぎますの。だって外からは、虫の音もフクロウの鳴き声も、聞こえてこないではないですか」

 そんな事を緊張した声音でマリアツンデレジアが言うのである。
 ちょぼちょぼと滴る音が切れたかと思うと、確かに空気が一瞬で冷たく静かに感じられるのだった。
 何も聞こえない外の音、気が付けばバジルの寝息も聞こえなくなっているではないか。

「マリアちゃん、落ち着て聞いてください」
「はいですの……」
「今夜恐らく、ブルカ同盟軍によるオホオ村に対する夜襲が行われるはずです」
「…………」
「敵の数は少なくとも四〇〇、すでにエルパコからの伝令で、ナワメの森の中に待機している敵の軍勢がいる事は確認できています」
「?!」

 ガタリと音が敷居の向こう側からした。
 きっと立てかけていた長剣に手を伸ばそうとして、あわてて取りこぼしてしまったという様な具合だろう。

「黙っていて申し訳ございません。敵が油断して俺たちを確実に襲ってくれる様に、そうする必要があったからです」
「この事はすでにシューターさまもご承知の上で、養女さまもバンダーレンシュタイ陛下も、ご存知ですのね……?」
「そうですねぇ。戦力として頼み出来る一部のみなさんには、含めて話を付けてあります。敵の襲撃を誘い出しやすい様に、防御陣地の一部にもわざとスキになる部分もこさえてあります」
「わかりましたの。全てはこの身をシューターさまに捧げるとすでに決めておりますので、よき様に後はしてくださればかまいませんのよ」

 ちょぽんと最後に弾ける水しぶきを聞いたところで、ガサガサとカーテンが揺れてマリアツンデレジアが返事をした。
 それにしても気が付けば外の空気が静かになったと言う事は、恐らくそろそろ敵が動き出す頃合いという事だろうか。

 そんな風に俺が考えながら支度をし直しているツンデレのマリアちゃんを待っているところに、トテトテと床を叩く音が聞こえた。
 すぐにも静かに長剣の柄に手を回した俺であるけれど、その床を走る音の正体は肥えたエリマキトカゲだったのである。

「ギュイ?」
「だ。誰ですの?」
「バジルだマリアちゃん。どうした、外の気配を感じたのか」

 おうよしよしと俺がしゃがんで肥えたエリマキトカゲを抱き上げようとした瞬間である。
 ドガンとけたたましい音が領主館の外で響き渡ったかと思うと、地震でも起きた様に幾つもの場所で激しく揺れる衝撃が駆け抜けたのである。
 すぐにも「おおおっ」という秋の声の様なものが着かえて来て、俺たちはすぐにも身構えた。

「敵襲!!!!」
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