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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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242 バジル大作戦 邂逅


 森の外に出るために、護衛のけもみみ奥さんと伝令犬代わりに使うつもりのバジルを連れて行く道を急いでいた。
 道案内役はおませ少女のラメエお嬢さまである。

 まあ道と言っても獣道、森や山に囲まれた場所に陽の入りは平野部に比べてもかなり早いので、どうしても急ぐ必要があった。
 足草の深い場所では馬を降りて手綱を引き、街道に出てからは一路馬を駆けての行軍だ。

「街道はそれなりに整備されているんだな」
「当然よ。平時には馬車の往来も活発なんだから、この道を進んでもう間もなくすればホオオ村の集落のひとつに到着するわ」

 とにかく盟主連合軍の本隊が敵のゲリラ連中に狙われている事を、いち早くようじょに知らせる必要があった。
 先鋒部隊が突破作戦を実施した後は、軍事的空白地帯になった一帯を有力諸侯たちが手分けして占領作戦に当たっているはずだ。

 すでにラメエお嬢さまが降伏した事によって、治安維持のためにオホオ村にも占領軍の一部が駐屯しているはずだ。
 そこからマリアツンデレジアに連絡を取ろうと考えていたのだが、今のところ街道を行き来しているのは、集落に向けて家路を急いでいる農夫のみなさんや、木こりのゴブリンぐらいのものだった。

 すれ違いざまにドレスの上から甲冑を身に纏ったラメエお嬢さまを見かけて、次々に村人たちが平伏している姿を見かける。
 オホオの領内ではラメエお嬢さまもしっかりご領主さまをしていたんだなと俺は感心した。

「シューターさん、この先にたくさんのひとが集まっている気配があるよ」
「キイキイ!」

 農夫たちに手を上げて挨拶を返していたラメエお嬢さまである。
 馬脚を少しばかり緩めたところで、けもみみが馬首を返して俺にそんな報告をして来たのだ。

「敵か味方か、その辺りの事が問題だ」
「けど殺気めいたものは感じないよ、シューターさん」
「あなたたちにはそんな事もわかるの?」
「そりゃわかるよ。シューターさんは全裸を貴ぶ戦士だからね」

 俺がその報告に考えを巡らせていると、おませ少女がけもみみとそんな会話をしている。
 全裸を貴ぶ戦士かどうかは置いておいて、俺はけもみみ奥さんやニシカさんとは違うので、気配や殺気がどうこうというのはわかるはずがないよ……
 ただ、本当に一対一で対峙した瞬間であるならば、空手経験のある俺でもわかる。

 やはりけもみみが言う通りに、大勢の人間たちの気配というのは盟主連合軍の騎士さま、つまりお味方の軍勢だったらしい。
 集落の中に向けて俺たちが騎馬を走らせていたところ、槍を持った甲冑マンたちがわっと駆け出して来て通せん坊をしたからだ。

「何者だ! 所属と役職を名乗れッ」

 俺は戦う意思がないことを示すために両手を上げて名乗る。

「盟主連合軍の軍監のスルーヌ騎士爵シューターだ。こちらはオホオ村の領主、ラメエ騎士爵だ。村の占領軍指揮官に大至急面会したい。敵の動向について意見具申したい」
「キュッキュッベー」
「わ、わかりました。ただいま村の警備責任者は、ジイという爺さんが担っております。おそらくそちらのラメエ騎士爵さまのお身内の方かと……」

 どうやら爺さんがこの村に戻っていたらしい。それは好都合と言うものだ。
 しかしやけにものものしい警備の有様だな。
 そこかしこに甲冑姿の騎士たちが立っていたり、倉庫が明け広げられて何かの樽の数を数えている村人の姿もある。
 食事も広場に用意されていて、ものものしい馬防柵の脇で煮炊きが行われている。

「何だかお祭り騒ぎみたいになっているけれど、じいが用意させたのかしら?」
「最近、敵のゲリラ部隊が村を襲撃でもしたのかな?」
「ギュイギィイ」

 不審げにその辺りの事を見回しながらおませ少女が呟いた。
 けもみみも、きっとこの物々しい兵士たちの気配を察知したらしい。俺の懐にいる肥えたエリマキトカゲは時々首を動かしたり鼻をすんすんやったりしているから、ちょっとお腹がすいたのかもしれない。

「いえ実はこの村には現在、作戦参謀のようじょ軍師さまが滞在中でございまして」
「ッヨイさまが?」
「はい、それでようじょ軍師さまのご命令で煮支度の用意をと。今夜はこの村で盟主連合軍の本部が宿営する予定になっています」
「そりゃ好都合だ」

 それで先行した部隊がオホオ村に着陣していたとみえる。
 確かに一見しただけでも、オホオ村の周囲をかこっている野戦築城の有様は眼をみはるものがあるからな。
 集落の周りはラメエお嬢さまが抵抗した際に、ガッチガチに防備を強いて待ち構えていたらしいというはなしは男色男爵から聞いた事があった。
 その防衛陣地の築城は立派なものであったけれど、いかんせん戦士たちが徴募された農民や猟師のみなさんなので、あまり抵抗は意味が無かったらしい。

 ここを宿営地に選んだという事は、なかなかッヨイさまも考えている。
 それにようじょに直接敵の情報を伝えた方が、何かの対策を教えてくれるかもしれない。

     ◆

「その情報は本当なのですか?!」

 オホオ村の領主館で、安楽イスに腰かけていたようじょは奮起した。
 女領主のアレクサンドロシアちゃんも揺れる安楽イスを愛用しているひとだったけれど、ようじょがそれにちょこんと腰かけると、何だかお人形さんみたいに見えるから不思議だ。

「本当ですねえ。敵の捕虜をハーナディンが尋問したところ、敵はいくつかの集団に別れて行動している事がわかりました。狙いはふたつある様だ」
「ふたつですかどれぇ」
「はい。ひとつはアントワームという村にある補給基地を攻撃するというもの。アントワームは盟主連合軍が上陸した拠点の村です」

 あそこには現在、補給集積基地が作られていて、この戦域の盟主連合軍の兵糧や武器がせっせと集積されているところだ。

「アントワームを今攻撃されると、稲妻作戦は大失敗に終わってしまうのです」
「その派遣されてきたブルカ領軍の伏せている場所を探すために、ニシカさんの威力偵察部隊が南下しながらしらみつぶしに当たっているところです」
「有力な場所というのは、地図を見る限りではわからないのです……」

 身を乗り出して地図と睨めっこしているようじょである。
 俺とラメエお嬢さまは顔を見合わせてから、説明を補足する事にした。

「敵が隠れている可能性のある場所が、ここよ。夏の間は渇水によって水が干上がる谷間があるのだけれど、例年なら秋雨が降り出すこの時期でも、今年は雨が降っていないから隠れている可能性があるの」
「それで今はニシカさんの部隊がその場所を調べるために急行中なんですよね。それからもうひとつ尋問からわかった事なんだけど、アントワームから俺たちの意識を引き離すために陽動作戦が行われようとしているって事です」
「ようどう作戦ですか?」
「うん。盟主連合軍主力の本陣を襲う計画があったそうですね。森の散って少人数で活動していた敵の部隊は、それが狙いだったと」

 その意味でようじょが堅固な防御陣地が遺されたままであったオホオ村を選んだのは賢い。

「どうやらそんな気がしていたのです。敵の居場所がわからないままでいるのは非常に危険なので、あぶりだす目的で、今夜はここでお祭り騒ぎをしてもらおうと、手配をさせたんだょ」

 そう言って窓の外に視線を向けたようじょである。
 俺たちも領主館の執務室から見える外の風景を見やると、兵士たちがせっせと料理を仮設テントに運んでいる姿が飛び込んで来た。
 あ、モエキーおねえさんだ。
 彼女が兵士数名を捕まえて、あれはこちらに、それは向こうにと、支持を飛ばしている様だ。

「すると油断を誘うためにこんな準備をしていたのか」
「確かに、わたしがじいの命令で造らせた防御陣地の一部も、わざと撤去されてた様だけれど」
「敵が攻撃をしやすい様に、陣地の一部にもすでに穴を作らせたょ。そうする事で、敵はここの守りが薄いと考えてくれると思うのです」

 なるほど、一見すると堅牢なように見えても、わざとスキを作っておくと言うわけか。

「その事はマリアねえさまには教えていないのです」
「敵をだますにはまず味方から、というわけだねッヨイちゃん」
「そうなのです、エルパコねえさま」

 それだとあのツンデレのマリアちゃんは、本気でこの場所で油断してしまいそうな気がする。
 しかもリンドルの弱兵は総崩れになってしまうんじゃないだろうか。
 その事を危惧した俺が質問をしてみると、

「攻撃は派手に混乱した方が敵を引き付ける事が出来るのです。そこでオネエ男爵のぐんたいが背後から攻撃をかければ、サンドイッチの完成なのです」
「そんなに簡単に上手くいくかしら……」

 さらりとようじょはそう言い切ってみせた。
 けれども、先の作戦で防戦手一杯のあげくに降伏してしまったおませ少女は、作戦が次々に不味い方向に崩れてしまった経験を思い出して微妙な顔をしていた。

「作戦の全てが上手くいくかどうかはわからないのです。だから出来る事をひとつでも多くやっておくことが大事なのです」

 ようじょもその事は理解しているらしくて、俺の膝の上に座ってあくびをしていた肥えたエリマキトカゲの頭をよしよししながら不安な顔をしていた。

「引きつけておく最もいい方法がひとつあるな。というか、単なる思い付きですけどね……」
「何ですかどれぇ?」
「敵がこの村の中に入り込んだところで、あかちゃんに咆哮をさせればいいんじゃないですかねえ」
「咆哮、何よそれ?」

 よくわかっていないという顔でラメエお嬢さまは俺を見上げ、ようじょはぽんと手を叩いて驚いていた。

「なるほど、その方法は名案なのです!」
「この子の咆哮には魔法の力があって、敵も味方も恐怖で硬直してしまうという効果があるんだなあ」
「……何よこの子、ただの肥えたエリマキトカゲじゃないの?」

 おませ少女がおっかなびっくり、後ろ足で顔をかいているバジルの背中を撫でてみた。

「キュベー」
「こいつは、バジリスクのあかちゃんなんだなあ」
「?!」

 上手くいくかどうかはわからないが、少なくともポーションで対策をしておけば味方はすぐに混乱から回復する事が出来る。
 雁木マリがこの方法でバジリスクと戦っていた事を思い出し、森の背後に伏せている男色戦隊の主要な幹部たちにも、同じ処置をさせておけばいいのではないかと。

「どう思う、エルパコ?」
「ぼくもいい作戦だと思うよ。罠の内側まで敵をしっかり入り込ませてから、罠のふたは閉じるって事だね!」

 珍しく感情を面に浮かべたけもみみは、ぶんぶんと俺の手を握って興奮気味に返事をした。

「さっそくぼくが、ねえさんのところにそれを知らせて来るよ。あかちゃん、ラメエちゃん、シューターさんとッヨイちゃんの護衛は任せたからね」
「キュビー」
「わ、わかったわエルパコおねえちゃん」

 いや、むしろ俺がようじょとラメエお嬢さまを守らなくてはいけない。
 この村の最深部まで敵を引き付けると言う事なら、下手をすると相当の被害者が出てしまう可能背があるのだからな。


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