挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

311/519

241 バジル大作戦 一計(後)


 その頃。
 何も知らないマリアツンデレジアの乗った指揮通信用の大型馬車は、オホオ村まで四半郷という距離まで到達しつつあった。

「作戦参謀より伝令! 養女卿はただいまオホオ村にて在陣との事」

 馬車に向かって伝令の騎兵がすれ違ったかと思うと、指揮通信馬車の後尾をグルリとまわってツンデレのマリアちゃんが窓から身を乗り出したところに並走してみせた。

「姿が見えないと思っておりましたら、そんなところにおりましたのね?!」
「本隊主力を迎え入れるために村で宿営の準備を行っているとの事でございます。何しろわれわれの軍勢は、前線に少しでも食糧を送るために、本隊主力の余剰な物資どころか、携帯食料までも送り出している次第でござる。なるほど養女卿はそんなわれわれの為に今夜は癒しの宴を催そうとお考えの様でございます」

 いつだったかフクランダー寺院の宿営地で言っていた事だけれども、軍隊は基本的に三日分の携帯食料を持参して稲妻作戦に突入していた。
 背後連絡線が明確に機能している間は、後方地より矢束や物資が滞りなく届けられることになるが、現状ではこれがままならないために、前線ではとかく補給が遅れがちだった。

「なるほど、さすがシューターさまのお子さまでございますの。賢くも養女とは良く言ったものですのねえ」
「あのお齢で心配りが出来るのは、シューター閣下の教育のたまののですな。それでは自分は直ちに他の者たちへ振れを回します。失礼!」

 別に俺の教育をした事などは無い。
 強いて言うならジョビジョバの後始末を担当していたぐらいだけどね。
 そんなようじょが苦肉の策として、ひとまず出来る事をやろうと意見具申したのが、本隊主力の補給物資を前線に供出しようというものだったのだ。

 本隊主力は軍勢ばかりは一〇〇〇余りと大所帯だったけれど、これの主力を成すのが盟主連合軍の間では公然の秘密となっていた弱兵ナンバーワンのリンドル隊である。
 弱さに付けては定評があるので、正直誰も因数に入れていなかったとも言える。
 いざ本陣に敵が迫った時には、人間の肉壁としてツンデレのマリアちゃんを守って時間稼ぎをするためだけの存在だと、俺もようじょも男色男爵も、たぶんアレクサンドロシアちゃんもそう考えていたはずだ。

「そういう事でしたら、今夜はゆっくりと夕餉に舌鼓を射ちながら、リンドル産のブランデーを舐め、夜はきっと快眠ですのね」

 何も知らない盟主連合軍の総司令官は、未だナワメの森の中に潜伏しているらしいという事だけがわかっている敵一〇〇〇の兵を誘引するために、ようじょの考えたエサに使われる事になった。

     ◆

 ようじょたちが盟主連合軍の総指揮官をあろう事か囮に使いましょうと画策していたちょうど同時刻だろうか。
 掃討作戦を実施していた俺たち男色戦隊の一部が、森の外縁に到達しはじめたのである。
 森は稲妻作戦の初動で進軍経路に使われた街道が走っている。

「つまり森の外れに俺たちはいま位置しているんだね、ラメエお嬢さま」
「そうよ」
「ここから前進すれば、直ぐにも森の外というわけだ。ラメエお嬢さま、地図で言えば俺たちは今どの辺りにいるのか教えてくれないか」

 軍馬の背中に地図を載せて作戦会議をしていた俺やカサンドラたちである。
 背が低いので背中の地図が見えないラメエお嬢さまを、俺は抱きかかえる様にして地図を見せてやる。
 すると少女に毛が生えた様な年頃の女の子だけが発する、何とも言えないツンと鼻に届く不思議な匂いに刺激されたのである。
 大正義カサンドラともけもみみ奥さんとも違うその匂いに、俺の息子ははじめての遭遇をした。

「こ、この辺りは特にわたしも見覚えのある場所よ。たぶんオホオの村よりかなり近い場所のはず。見覚えがあると言えばあの巨木と岩の組み合わせだけれども、むかしあの岩は、ラミアの一族が住んでいるダンジョンをふさぐために、巨大な猿人間が置いたという伝承が残っていたはずよ」

 なるほど、巨大な猿人間は悪い奴だな。

「はンッ。ちょ、ちょっとらめよ、優しく持ち上げてくれないと、脇がこすれでちょっと痛い……」
「おっとすまない。悪気はないんだ」

 俺はおませ少女を地面に下ろすと、直ぐにも木々の枝葉をかきわけながら野牛の兵士たちを従えてずかずかとこちらにやって来るタンヌダルクちゃんを見やった。
 数日の野戦行軍で、俺の側にいるカサンドラも、こちらに向かってくるタンヌダルクちゃんも、上等だったおべべが土埃で台無しになっている。
 何だかそのすすけてしまったドレスに甲冑という、このダンタジー世界の定番である女騎士装束に妙な凄みが増しているではありませんか。

「旦那さまあ。兵士の点呼完了ですよう」
「わかったありがとう。重症の人間は背後の拠点に引き戻そうとも思ってたんだけど、どうやらこの先はすぐに森の外らしいね」
「そうなのですかあ。だったらそちらまで戦傷者を運び出した方が近いですねえ」

 副官としてしっかりとお仕事をこなしてくれるタンヌダルクちゃんかわいい。
 俺はひとまず家族以外、誰も見ていない事を確認してから野牛奥さんの頭をなでなでしてみた。
 すっかり大人しい野牛になってしまったタンヌダルクちゃんは、うっとりした表情で「ああン、もっと角を撫でてくださってもいいですよ!」などとアピールしてくる。

「あのうシューターさん。わ、わたしも……」

 大正義カサンドラも周囲をくるくると見回して、気恥ずかしそうにしながら俺を見上げてきた。
 ああっかわいいどうしよう。ここが戦場じゃなければ即死だった。
 よしよし、あなたは大正義だ。カサンドラが言う事は何でも正しい。

「…………」

 さらに、隣でものほしそうにけもみみのが指をくわえて見ているではないか。
 頭を撫でてやると、こちらも普段はぼけーっとした面に恍惚とした表情を浮かべているではないか。
 戦場で得られるひと時の至福だ。
 最後にラメエお嬢さまと眼が合ったのだが、

「わっわたしはらめよ。まだ正式な手続きは踏んでいないのだから、わたしに触れる事は何人たりとも許されないわっ」

 うん、俺も犯罪者になりたくないので手順を踏んでからがいいと思います。
 抱きかかえ上げただけであれぐらい恥ずかしがっていたからな、下手をすると盟主連合軍に「全裸はロリ」などと妙な噂が流れかねない。
 特に腹いせにそういう事をしそうなひとと言えばカラメルネーゼさんだなどと思っていると、疲れ切った顔の当の蛸足麗人が、デルテ騎士爵と何事かを相談しながら馬を引いてこちらにやって来るのが見えた。
 あちらも出立の準備が整ったらしいので、あわてて俺たちは現実空間に引き戻された。
 カサンドラがちょっと素っ頓狂な裏返り声で、話題を改める。

「そ、そうですシューターさん話は戻りますけれど。この際、戦争奴隷も一緒に引き渡してしまうといいと思うのですが」
「尋問した戦争奴隷は歯も無いし、足手まといだからね」
「う、うン。そうだね」

 ナワメの森の南部広域にわたって敵の少数に別れた兵士たちが、本隊主力が訪れるタイミングで攻撃を各策している事が知れたのである。
 その意味で、複数の捕虜に対して行われた尋問で得られた情報は、極めて貴重なものだったと言える。
 しかしその過程でけもみみとハーナディンによってどの様な苛烈な拷問が行われたかは割愛する。

「お、オホオの村までの道案内は、わたしがやって差し上げてもかまわないわ」
「そうだな。敵がこの近くに潜伏している事も、出来ればッヨイさまに知らせておいた方がいいかもしれない」

 おませ少女もこう言っているしな。
 情報連絡手段が未熟なせいで今どの辺りを本隊主力が進軍中であるかはわからないが、近日中にオホオ村辺りに到達する事は間違いない。

「逆を返せば敵の伏兵が本隊主力を待っていたという事ですよね。つまりまだ本隊主力は到着していないという事では……」
「うんそうだね。カサンドラの言う通り、ならばなおさら伝えた方がいいな」

 こうして大家族の意見が一致したところで、俺はちょうど合流した男装の麗人とデルテ騎士爵に顔を向け

「おふたりにお願いがあります」
「何ですこと? まさか新手の敵が出てきたとか?」
「お疲れのところ申し訳ないが、これから男色男爵に掛け合って、森の外に連絡を行おうと思う。例の近くに伏せているという別の有力部隊の情報をですね、ようじょのところに届けて……」

 俺が身を乗り出してそう説明を始めると、とたんにふたりの騎士爵がニッコリ顔を浮かべた。
た。

「なるほど、上手くすれば挟撃可能ですな。少々疲れてございますが、なあに武功一番を取るまでは休むつもりがございませんぞ」
「そうですわね。敵を探して回るのはとても効率が悪い作戦ではありますけれど、ッヨイ子ちゃんならば何かの案を考えてくださるかもしれませんわ!」

 俺たち家族に向かってふたりの騎士爵も参道の意を表してくれた。
 疲れた顔をしているが、それでも生気がみなぎっていて妙にギラギラしている。これが戦場の戦士の持つ独特の雰囲気というか恐ろしさなのだろうか。
 その事を後でカサンドラに質問したところ、こんな事を言われた。

「あのう、シューターさんも床に入る前はいつもそんな顔をしています」

 え? あ、そう?


+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ