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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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240 バジル大作戦 一計(前)


「本隊後方に置いて、所属不明の敵兵力による襲撃行動! 補給の馬車が破壊された模様です!」

 ある日の朝の事である。
 盟主連合軍の総司令官という立場にあったマリアツンデレジアは、稲妻作戦が発動されてからこっち、ほとんど眠れない日々を過ごしていた。

「どういう事ですの? お味方の進撃は至って順調、先鋒部隊はついに戦略目標のフクランダー寺院に到着したとの知らせが、早馬で届けられたばかりではないですか?!」

 六頭引きという、軍事作戦の指揮のためだけに作られた馬車の中で作戦地図を眺めていたツンデレのマリアちゃんは、寝不足からか不機嫌極まりない声で部下たちの報告に不満を漏らしたのだ。

「はい、確かに予定よりもずっと早く侵攻作戦は進んでいるのですが……」

 予想よりも早い進軍はその結果補給戦の延長を招いたために、あちこちで補給不足の前線部隊が現れたのだ。
 進撃経路に沿って放射線状に空白地帯の占領作戦に乗り出した多くの部隊が、補給不足のために戦線停滞を余儀なくされたのだと報告をして来た者だから、ツンデレのマリアちゃんはたまらない。

「食料がないのならば、補給をすればいいのではないですか! 何のための補給部隊ですの? 何とかなさいましッ」
「はあ、それはその通りなのですが……」

 渋い顔をしたダアヌ夫人派の文官のひとりが、鋭い顔で睨み返してくる総司令官さまに萎縮したのである。
 今は派閥によって争い事をしている場合ではないので、馬車の中の指揮台を囲んでいる参謀団の皆さんの中からマリアツンデレジア派幹部のひとりがおずおずと意見具申をする事になる。

「御台さま、問題はいくつもございます。前線の将兵たちは、個々に確実な戦果を挙げながらこれは着々と占領計画を実施しているのですが、われら本隊主力と前線の部隊との間に、どうしても軍事的な空白地帯が出来上がってしまっているのです」
「……続けなさい」
「また同時に、後方の補給部隊が置かれているわれらが領のアントワームの村と間にも、この背後連絡線を警備するための兵士数が不足しがちになっています。この警備兵力が不足しているために、われわれの背後で補給部隊を敵の側面に晒してしまっている問題がございまして」
「作戦は順調と、あなたがたはつい先ほども言ったのではありませんの? どうして敵が潜んでいるという事になりますの」

 マリアツンデレジアが報告する部下たちに激昂してしまったのは無理もないだろう。
 勝っているのにこれ以上進めない、敵はいないはずなのに背後が攻撃される。
 基本的に戦争経験が乏しいリンドルの貴族軍人たちの説明では、まるで要領を得られなかったからだ。
 その時に、本来なら盟主連合軍の総司令官を補佐する立場にあったようじょは、その指揮台の設置された馬車の中にはいなかったために、ますます総司令官たるマリアツンデレジアが混乱に陥る事になってしまったのだ。

「軍師どのはどこにおられますの? あのッヨイ子さまであるならば、もう少しわかりやすい説明をしてくださるはずですのに……」
「残念ながらッヨイさまは現在、こちらの主力本部を不在にしておられます」
「ではどこにおられるのですの。ただちに居場所を調べて、本部に参上する様にお伝えなさいませ」
「わ、わかりました。直ちに!」

     ◆

 この時、作戦参謀という立場にあったようじょは、作戦本部よりも少し先の場所に位置しているオホオ村周辺の集落に到着していた。
 ナワメの森の中に伏兵していると予想された敵を求めて俺たちが南下作戦を開始したと聞いたようじょが、少数の信頼できる戦力を使って側面援護を実施しようと計画を立てていたからである。

「総指揮官さまから本部へ参上する様に通達が届いているかもです。あのう、お顔を出さなくてもよろしいのですか?」
「その報告は聞かなかった事にするのです。今はそれよりもやらなくてはならない事があるのです」

 ようじょに付き従ってオホオ村の集落にやって来たモエキーおねえさんは、おずおずとそんな意見具申をしたらしい。
 けれどもようじょはそんな助言には耳を傾ける事もなく、とにかく自分が今やるべき計画という事に集中してた。

 ようじょの計画した稲妻作戦の実施によって俺たち盟主連合軍はリンドル川西岸の街道に沿って進撃を続けた。
 作戦は初動の四日目に先鋒部隊がフクランダー寺院の遺構に到達する事で、おおいに成功の予感を誰もが感じていた。
 この戦域で主力となる敵のうち、すでに大規模な集団である一〇〇〇の軍勢は撃破されていたからだ。

「ブルカの軍隊というのは経験豊富な熟練の戦士を揃えていて精鋭と聞いていたけれども、ッヨイが想像していた以上に弱兵だったのです。つまりこれは、敵が弱兵だったという風にも考えられますが、むしろ主力部隊をまだ温存していると考えた方がいいかもしれないのです」

 だから、ようじょはようじょなりに、その敵がどこに潜んでいるかを考えて、探し続けていたのである。
 俺たちの到達した結論は、ナワメの森の北限に位置している夏の渇水時期にだけ存在している渓谷が怪しいのではないかというものであったけれど、この時のようじょはまだその情報を俺たちとは共有できていなかった。
 また、総数二〇〇〇に上る兵士のうち半数がまだ残っていると言う事を考えればである。
 仮にブルカ同盟軍側の兵士が森の北側にある谷間に伏兵していたとしても、実際に小規模な襲撃作戦があちこちで散発的に行われている。

 だがようじょは、それだけが全てではないという事を理解していた。
 敵の立場に立てば遅滞行動には何か意味がある。
 効果的に俺たちを叩くためには、どこかで決定的な局面を演出しようと考えるはずなのだ。
 だから俺たちの考えた谷間の存在とは別に、ようじょはしつこく補給線への襲撃を実施する敵を引きずりだそうと考えたわけである。

「いにしえの魔法使いたちの遺した軍学書にはこう書かれているょ。軍事作戦というのは常に当たり前のことの積み重ねによって戦いを有利に導くものだと。だから追い詰められた軍隊が乾坤一擲の作戦に出るという英雄譚に書かれているアレは嘘なのです」

 ようじょはオホオ村の領主館でぼんやりと外を眺めている途中で、安楽椅子から振り返ってモエキーおねえさんにそう言ったのである。

「はあ。つまりどういう事かわからないかもです……」
「どれぇの送って来た報告によれば、敵の兵力はまだ半数が健在なはずで、意図的に遅滞行動を行っていた形跡があると言うものだったのです」
「遅滞行動?」

 つまり時間稼ぎの事だ。

 ようじょはラメエお嬢さまの生家であるオホオ村に本隊主力の本部から訪れると、その足で領主館に入っていた。
 護衛に付いていたのはブルカ兵団への従軍経験がある貴族軍人出身の数名のお貴族さまとその部下。
 軍事経験や戦闘力という意味ではリンドルの弱兵に比べれば遥かに頼りになる存在だったと言える。
 どうして作戦参謀のようじょが主力本部から離れてこの様な場所にやって来たかというと、敵をおびき出すための算段を考えていたからなのだった。

「リンドル川の沿岸部にある軍事的な空白地帯には敵はひとっこひとりいないのです。ここは占領作戦に参加した戦士のみなさんからの報告でもわかっている事なのです」
「ではご主人さまたちは、ナワメの森の中にいると考えているから森の中に進軍されたのですね?」
「そうなのです。残りの戦力の一〇〇〇という大軍を隠せる場所は、そこにしか存在しないのです」

 へそくりを隠すのならば金庫の中が一番いいと言うかもですね、とようじょに微笑みかけてみせたモエキ―お姉さんは、ようじょに吊られる様にして領主館の窓から外を見やったらしい。
 ちょうどその時、ラメエお嬢さまの側近として仕えていたジイ騎士が数名の兵士たちを連れて村の中を歩いている姿を、ようじょたちは目撃したのである。
 敵をおびき出す、釣りだすために必要なのはエサである。
 用意するエサが小さすぎれば釣れるのは小物になってしまい、そのエサが大きすぎれば釣り上げそこなった時の損失はとても大きなものになる。

 だからその適度な大きさというモノを知るためにも、ようじょは情報収集をしなければならなかったのだ。

     ◆

「はじめまして。オホオ騎士爵ラメエ卿の従者、騎士ジイでございます」

 貴人に対する例を取って見せた老騎士と、それに従う平伏する兵士のみなさんたち。
 兵士はもともとオホオ村出身のこの戦争で駆り出された猟師や農夫のみなさんだった。
 一方のじいさんは、フクランダー寺院で現地協力員をかき集めるためにいったん解放されたのち、ラメエお嬢さまの盟主連合軍における立場を少しでも良いものにするために、あれからも東奔西走していたわけである。

「ジイさんはじめまして、ッヨイだよ」
「モエキーウォールズかもです」

 具体的には俺たち前線指揮官の署名が連ねられたラメエお嬢さまの本領安堵の嘆願書を持って、ようじょさまの元にお願いに上がる事だね。
 具体的に誰と養子縁組するのがこの際いいのか、それからその縁組の時期はいつがいいのかという事を相談するのであれば、賢くもようじょさまに聞くのが一番いいだろうと俺がじいさんに入れ知恵したからである。

「全裸卿閣下、いえ盟主連合軍の軍監シューター卿のご命令により、養女さまの元に馳せ参じました」
「楽にしてくれていいょ」
「ははあ。それではわが主の養子縁組ならびに本領安堵の嘆願書、それから小さい軍師さま宛のシューター卿の書簡をお渡しします」
「確かに受け取ったかも、です」

 ついでにフクランダー寺院で地下生活をしているソープ嬢のために生活必需品や家財道具を手配するためには、ようじょとともに行動をしているモエキーおねえさんに相談する必要があった。
 蛸足美人のカラメルネーゼさんは商人出身という立場ではあるけれど、これから戦いと言うタイミングで戦場を離れてもらうわけにもいかなかったからな。

「何と書かれているのですか?」
「戦士の集団を五つにわけて、ナワメの森の中を北進中だと書かれているょ。黄色いおっぱいエルフは森の一番奥、山脈に沿って進軍。色黒のおっぱいエルフは森の外縁を街道沿いに沿って進軍。オネエ男爵は中央を本隊主力で進軍しているところなのです」
「ちょうど地図で申しますれば、今頃はこの辺りを進撃中なのではないかと、やつがれめは愚考する次第です」

 領主館の執務机に広げられた地図に、モエキーおねえさんに抱きかかえられたようじょと爺さんが頭を突き合わせた。
 ちょうどその頃は、俺たちが会敵した一〇〇を超える敵集団と遭遇戦を演じていた頃合いだろう。
 たった一日で半郷あまりの距離しか進軍できていない事に目敏く考え至ったようじょは、すぐにも爺さんの顔を見やってむくれ顔をした。

「予想よりも進軍が遅いのです」
「一事が万事、森の中ではこのようなものでございます。何しろ森の植生が複雑で、ツタの様なものも走り回っている悪路です。その上に樹木が高く伸びているので、日中と言えども陽が地面に届かない暗闇の中で、ただ歩いているだけでもどこからやって来たのか迷子になる始末。まずもってはじめて森に入った人間は生きては帰れないでしょうな」

 何が嬉しいのか爺さんはそんな風にようじょに説明したものだから、モエキーおねえさんはこう思ったそうだ。
 やな爺さん。
 そりゃそうだ。こんな酷い森の中を進軍するために、爺さんは心を砕いて現地協力員をかき集めたので、わがオホオ騎士爵主従には価値がありますよと暗に自己アピールをして来たとというわけだ。

「この森の中に一〇〇〇の兵士が隠れん坊をしているとなると、発見する事は一筋縄ではいかないのです」
「さよう。従って閣下は、北よりしらみつぶしに兵を南下させて、隠れる敵をあぶりだすという作戦に出たのですな」

 その辺りの経緯は、俺がクレメンスに手配してようじょに届けさせた手紙でも詳しく作戦意図を伝えているからようじょにも伝わっていたはずだ。
 だからようじょはこのオホオ村に、使える兵士たちだけを連れて先行して来たのだ。

「どれぇの考えている事は基本的に軍事戦略上の理にかなった行動なのです。けれども、」
「けれども?」
「知らない土地で、知らないおじさんの思い付きに付き合ってあげるのは、馬鹿のやる事なのです」
「そう、かもです……」

 俺はようじょに馬鹿にされた。
 ようじょは賢くも天才軍師だから馬鹿にされてもしょうがないよね! グズン……
 という事ではない。この言葉には続きがあった。

「ご主人さまは馬鹿かも、ですか?」
「どれぇの最初に送ってきた手紙にはこう書かれていたのです。背後に機動兵力を送り込むので、本隊主力の軍勢と挟み撃ちにしましょうと。ッヨイはサンドイッチが美味しくないので嫌いですけど、ハチミツをたっぷり縫ったものか、野イチゴのジャムならッヨイでもつくれるので大好きなのです!」
「?」
「料理をするなら、得意な料理でないとどれぇが喜んでくれないのです」

 意味が分からないかもです、という顔のモエキーおねえさんの気持ちはよくわかる。
 この時ようじょが言いたかったのは、作戦を立てる上で必要なのは、得意な勝ちパターンに持っていって戦わなければならないという事だったらしい。
 わざわざ敵の得意にしている戦い方に付き合う必要はない。
 まあ、この説明でわかる方がすごいよね。
 たぶんようじょと付き合いの長い雁木マリか、伯母さんにあたる(と言えば俺は私刑に処されるだろう)アレクサンドロシアちゃんぐらいにしか、この表現で理解する事は出来なかっただろう。

「どれぇの軍隊とサンドイッチ作戦をするのなら、敵をおびき出す必要があるのです」
「確かにその通りでございまするな、小さな軍師さま」
「そのためには挟むための食材と、食材を引っ張り出すためのエサが必要になるのです」
「食材はブルカ同盟軍の事かも、ですか?」
「かもじゃないのです、ブルカ同盟軍なのです!」

 ちょうどオホオ村の位置は、フクランダー寺院に向けて進発中の盟主連合軍本隊酒主力から半郷あまりの場所にある事が、地図上でわかった。
 半郷というのは距離にして九キロそこそこといったところだろう。
 時刻はこの時に午後を迎えたばかりだったから、このまま予定通りに進軍したのであれば夕刻には到着するというところだろう。
 進軍に要する時間は三時間程度のはずだ。

「おじいさん。村人のひとに命じて、食糧を調達してください」
「……何をなさるのですか?」
「今夜はお祭りなのです」
「!!」

 ようじょは真顔でそう言うと、爺さんはとても嫌そうな顔をしたらしい。
 何しろ本領安堵が口約束とは言え、俺から言い渡されているのだ。
 自領の領民から食糧や酒を摘発するなどと命じられていい顔をするはずがなかったのだ。

「出来るだけ盟主連合軍の戦士たちが油断して、ここでお疲れを癒しているという風に見せるのです。村人から食糧とお酒を摘発して、敵の戦士たちにお尻を出しておちょくりましょう」
「い、今は戦時下でござりまして、畑の収穫もままならない有様でございます。これでは村人がこの冬を越す事が難しくなってしまいますぞ……。平にご容赦を!」

 けれどもモエキーおねえさんはようじょの意図を察していた。
 ニッコリ笑って爺さん相手に、太鼓判を押したのである。

「大丈夫かもです。ご主人さまたちの作戦が成功した暁には、物資食糧がリンドルから湯水の様に届けられるようになるかもです。必要ならばご主人さま名義で手形を発行するかもですので、何の心配もいらないかもです」
「かもじゃ困るんです。必ず作戦を成功していただく事が条件ですぞ、モエキー奥さま」
「まだ奥さまじゃないかも、です……」
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