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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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239 バジル大作戦 掃討


 何と表現すればいいのだろうか。
 例えば格闘ゲームで相手が攻撃を大きく外した瞬間に、これは間違いなく強力な得意技を討ち込む事が出来る。
 スキを見出す瞬間と言うのがあるだろう。
 それはゲームに限った事ではなく、実際の空手や格闘技の試合にも存在している。

 今がまさしくそうだ。
 俺の眼の前に立つ黄色いマントを翻した軍監は、驚愕の表情を浮かべながら迫りくる真っ向斬り伏せの一撃を呆然と見上げている姿があった。
 確実にこの勢いで撃剣を振り下ろせば、このブルカ領軍から派遣された軍監は間違いなく斬り伏せる事が出来たはずなのである。けれども、

「馬鹿めが!」
「ヒッ」

 そうはならなかった。
 敵はあわて様に手を振り上げて見せたが、そこに妙なオーラの様なものが現出したかと思うと俺めがけて打ち放たれたのだ。ニヤリとした笑みが敵軍監の顔に見て取れた。

 炎の魔法だ。ファイアボールだ!
 めらめらと燃えたその一撃は、確実に重傷を負わせるために接近した俺めがけて射出され、たまらず俺は体を捻りながら避けるしかなかったのだ。
 テニスボールほどの大きさがあるファイアボールは、俺のブリカンダイン鎧の脇を激しく削りながら霞め跳び、そのまま反射してどこかの地面を耕した様だった。

 間一髪、俺はその一撃を直撃させる事無く逃げ切った。
 代わりに俺の振り抜いた長剣が虚しく宙を掻き切って、あべこべに軍監の護衛として付いていた兵士たちが槍を刺し込んでくるではないか。

「くそっ、また魔法かよ!」
「軍監さまをお守りしろ!」
「いい機会だ討ち取ってやる!!」

 槍捌きは素人丸出しなので、俺は片手で敵の槍を握りながら、もうひとりの敵を剣でけん制する。

「逆賊軍め、しつこいばかりだなッ」
「それはこっちのセリフだぜ。魔法とかズルいじゃねぇか!」

 このブルカ領軍に所属している指揮官級の騎士たちは何かしら一種類だけ魔法を使う人間がいるのである。
 触滅隊の幹部級の指揮官たちがそうだった。口の臭い男、仮面の筋肉ダルマたち。あるいは冒険者カムラはブルカ領軍に属する正規の騎士ではなかったけれど、あいつも水の魔法を使って見せたのを覚えていた。

 魔法使いというほど多彩にバリエーションがあるわけではないけれど、俺には使う事が出来ないそれらの一芸はやっかいこの上ないと言える。

「敵の従者は女だけだぞ。打ち払ってしまえ!」

 敵の護衛兵士たちは、ふたりは俺に槍を突き立て来たが、その他の連中はけもみみと女魔法使いに向かったらしい。
 ふたりの事を信頼して、今は自分に襲いかかってくる敵を対処しなければらない。
 何しろ難敵である事が間違いないマントの軍監と兵士ふたりも相手だ。

「くそ、俺の槍を放しやがれッ。この、このっギャア!」

 ひとまず俺は兵士のひとりから槍を奪って長剣を放り出した。
 魔法を使う騎士なんて相手にするのに、こちらも長剣を使って戦っていたのでは間合いが上手く維持できないと判断したからだ。
 蛸足美人の様に風車の様に槍を回すとはいかないけれど、すぐさまその槍を振るって近づく敵をけん制しながら俺は構えを改めた。

「来いよ、魔法が使えるんだろアンタ?」
「腕に覚えがある様だな。何れ名のある騎士と見た……」

 長柄の武器は俺が得意とする獲物だ。
 騎士の軍監ひとりに兵士ひとり、視界の端では女魔法使いが素早い動きで残りの敵を制圧している姿が見える。
 時間はかけられない。

「さあかかって来なさい!」

 クイクイと手招きして見せると、敵軍監は怒りの表情で抜剣しながら跳びかかって来る。
 別に俺は余裕をぶっ扱いているわけではないぜ。
 剣の技術ならば俺よりもはるかに優れているのだろうけれど、リーチがあるというだけで武器とはこれほども自己を有利にさせてくれるのだ。
 どんな強い敵だって、間合いに入り込まれなければ攻撃は出来ないからな。
 ロングリーチでの戦いなら俺の方が圧倒的に有利だし、そしてもうひとつ。

 俺の視界の端には、すでに気配を消しながらこちらにアイコンタクトを送って来るけもみみの姿があったのだ。
 エルパコは獲物を狙う捕食動物の様に長剣を逆手に構えて見せると、その無表情の顔でアゴをしゃくって見せた。

「その余裕、必ず後悔させてやるぞ!」
「さあどうかなっ!」

 駆けだした軍監は、まず俺との間にある不利なリーチの問題を解決するべくファイアボールを発射する。
 だが相手も走りながらだし、こちらも距離があるのでそれはギリギリのところで避ける事が出来た。
 体のどこかをかすった様な気がしたが、そんなものはアドレナリンが噴出している現状では何の問題も無いぜ。
 迫りくる敵はそこでようやく剣を引き上げながら、イチかバチかの一撃を送り出そうとしている様だった。
 だが俺もその時には槍で払いのけて対応し、すれ違いざまにスキを突いて攻撃をかけてこようとした兵士を一撃で突き殺してやった。
 振り返ると黄色いマントを翻した軍監が、必死の形相で剣を振りかぶろうとしてたけれど、

「エルパコ、今だ!」
「うんっ」

 逆手に構えた剣を、けもみみが軍監の首に回す。

「おっと、動いたら駄目ですよ。あなたには色々と聞かないといけない事があるので大人しくしてください。魔法で攻撃なんて馬鹿な事を考えると、おちんぎんが欲しくてたまらない俺の部下が、暴行を加えますからね」

 すでに他の護衛たちは女魔法使いによって制圧完了していたらしい。
 俺が槍を地面に突き立てながらニッコリわらったところで、白刃を首に回された敵の軍監は降参の態度を示したのだった。

「フヒヒ、閣下。後の事はこの忠実な奴隷めにお任せください」
「頼んだよ。おちんぎんたっぷりあげるから」
「わぁいおちんぎん、マドゥーシャおちんぎん大好き。おらキリキリ歩いてもらいましょうか!」

     ◆

 戦況の趨勢は、俺たちの援軍が合流してベローチュ支隊がよく戦線を持ちこたえている間に、迂回機動を実施した男色男爵の軽騎兵によって、逆包囲が完成した事で決着がついたと言える。
 確実な時間を、男装の麗人やカラメルネーゼさんが稼いでくれたのだ。

「命を惜しむな、不名誉こそ惜しめ! 長耳族の武功を示し、勝利を主に捧げよ!」

 そんな叫び声をあげて長剣を振り抜いている男装の麗人は、正直かっこよかった。
 俺よりもよほど指揮官としての適性があるんじゃないかと思っているけれど、しかもその勝利の捧げるべき相手として名指しされている主とはたぶん俺の事だ。
 これぞ旧職場の人間を使った奴隷による公私混同の極みだが、それを口にすると盛り上っている褐色長耳のモッコリ剣士たちの気持ちに水を差しそうなで黙っておく。

「おーっほっほ! 戦場に咲かすのは血の花ですわ。大人しく命とともに散り頻りなさいっ」

 そして貴族軍人出身の騎士爵カラメルネーゼさん。
 馬上で槍を握らせては、その凄まじさは眼を見張るものだと言うほかは無かった。
 すれ違い様に相手を突く崩す狙いの正確さ、並走しては触手を巧みに使って敵の馬脚を払いあげたり、時には馬上から飛びついて、敵を引きずり倒しながら止めを刺す姿を目撃したからたまらない。
 それを見て舌を巻いていたデルテ騎士爵であるけれど、同意を求められたタンヌダルクちゃんは言葉が無かったらしい。

「さすがにシューター卿のご家族は、何れも腕に覚えのある騎士揃いでございますな」
「い、いえ。わたしはそんな事はございませんよう。せいぜいメイスを振り回す事しかできませんから!」

 タンヌダルクちゃんは野牛の騎兵たちとともに騎馬突撃に参加をしていた。
 まさか俺の野牛の奥さんがメイスと盾を持って馬上から敵兵士を攻撃している姿をこの眼で見る事になるとは、新婚当時想像しただろうか。
 頬に返り血を浴びている姿を見たところで、カラメルネーゼさんに限らずこの世界の奥さんたちはとても強いと改めて思った。

 こうして仲間たちの奮戦によって数の上で劣勢だったベローチュ支隊は、俺が敵の軍監を捕縛しようと躍起になっている時間、戦線を良く支えてくれた。
 敵も馬鹿ではないので、少人数ながら何度も陣形を切り崩そうと騎兵集団の疾駆する姿を目の当たりにして、余剰兵力を集めて槍衾を形成しようとしたのだが。
 そこに男色男爵の登場となったのである。

「目標、友軍の側面に集結中の敵歩兵部隊! 全騎突貫して陣形を切り崩すわよおおお!!!」

 どこからともなくそんな野太い声が木々の狭間をくまなく響き渡ったかと思うと、乾いた土を叩く馬蹄の音が追いかけてきた。
 目の前で実施された妖精剣士隊の突撃は圧巻だね。
 林の中から突如として現れた援軍は、混乱したブルカ同盟軍側の騎士だけを確実に狙って、走り抜け様に斬り伏せていった。

「友軍が来たぞ、もうひと押しだ! 長耳の誉れ高き妖精たちよ一転攻勢だ!!」

 ベローチュ支隊は君主の援軍に奮起して最後の力を振り絞った。
 その頃には俺たちも最後の攻勢に参加して包囲網に加わりながら剣を振るったけれど、もう俺に出来る事なんて残されていなかったね。

 敵の兵士は会戦後の死体の数を数えたところ、一〇〇にも上る事がわかった。
 つまり男装の麗人が報告したおおよそ一〇〇という数字以上に存在していたと言う事になる。

     ◆

 掃討作戦に移行する頃合いになると、男色戦隊の後続が次々と会戦のあった場所に到着した。
 遅れてやってきたカサンドラと大家族のみんなが無事を喜び合っている間に、俺は俺でやらなければならない事がある。
 捕虜の尋問だ。

「俺の名前はブルカ騎士ヤルマンスクだ。国法に定められた戦争奴隷の取り扱いにのっとり、一族の者を使い身代金を支払う用意がある」

 眼の前には後ろ手に縛られたズタボロになったマントの軍監がいた。
 おびえた様子も無く、かといって媚びる様子も無く正々堂々としたものだ。
 敗軍でありながらも立派な態度であるけれど、名乗りを上げた軍監の言葉を聞いてこの国には戦争捕虜の取り扱いについてどうやらルールがあったのを思い出した。
 こいつは頭でっかちの、警察に捕まったら弁護士を呼べしか言わない容疑者タイプには違いない。

「男は黙って尋問タイムだが、さてどうしたものか……」
「ご主人さま、情報とは金貨にも勝る財産と言います。この男を拷問して吐かせた情報は、恐らく身代金を上回る価値があるでしょう」
「うん、体に聞けばいいと思うよ」

 何を言っているのだきみたちは!
 捕虜というのは最終的に戦争奴隷として勝利者が売買する事になる一種の戦利品なのだけれども、身代金を支払う人間がいる場合は、丁重に扱ってそのお金を得る事が出来るわけだが。
 奥さんのひとりと奴隷はどうやらその身代金などははした金なので、拷問してでも情報を吐き出させろと言いたいらしい。

「と、取り扱いを間違えて戦後問題になると厄介だ。ベローチュ、急いでカラメルネーゼさんとハーナディンを呼んできなさい」
「了解しました!」

 こういう事は捕虜や奴隷取り扱いの専門家に任せるのがいいに決まっている!
 まったくこのファンタジー世界は優しくないな……

 それにしても不思議なもんだ。
 難敵だと思った相手を、こうもあっさりと捕縛できた事については拍子抜けだった。
 たぶんこのファンタジー世界に来る前の、週に二度ほど道場で汗を流しているだけの生活をしていた当時なら絶対に出来なかった事だ。
 予想よりも目の前で縛り上げられた軍監が弱かったと言う事は無いだろう。
 確かに剣の冴えはよかったし、魔法を使ってくるのだから、上手く組み合わせて戦われていたら危なかっただろうね。

 蛸足麗人を待っている間、そうやってよかったよかったと胸をなでおろしてみたところ、ファイアボールが被弾したであろうブリガンダイン鎧の一部がえぐれているのを見てギョっとした。

「気付かなかったのですか閣下? 見苦しいから脱いだ方がいいですよ」
「いやこの鎧が無ければ危なかったんだ。お高い鎧だったし、また修理して使うんだ……」

 呆れた顔をして女魔法使いに指摘されたけれど、全裸になるといつも酷い目に合うので俺はこの鎧に固執したい。
 そういう意味では今回も俺が意識していなかっただけで、やはり難敵だったに違いない。
 ヤルマンスクという男、名前はしっかり頭に記憶した。
 などと思っていると、けもみみがそのヤルマンスクのアゴを強引に持ち上げて、何かをしようとしている。

「ねえ、口を開けてごらんよ」
「おいやめろ、何をするんだ。国法にのっとり定められた戦争奴隷の扱いを……ふが」

 そこらに転がっていた小石をいくつか拾い上げると、次々と男の口に放り込んでいくではないか。
 な、何をするんだい俺のけもみみ奥さん。

「え、エルパコくん。何をやっているんだい?」
「ふごふご……ほごっ」
「尋問だよ。男は黙って体に聞くんでしょ?」

 けもみみはニッコリ笑ってそう言うと、拳を振り上げた。
 やめろ、早まるな。やめるんだ俺のかわいいけもみみ奥さん!

「ハーナディン、ハーナディン来てくれ! メーディーック!!!」



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