挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

308/574

238 バジル大作戦 乱戦


 男装の麗人は馬上から、刃広の長剣を左右に激しく振り回しながら抵抗を続けていた。

「友軍を救出するぞ!」

 まるで楔を打ち込む様な突撃陣形を形成していた俺たちは、その馬の駆る勢いに乗って一路ベローチュの姿の見える場所を目指した。
 敵の兵士たちも、指揮官である男装の麗人を討ち取ってしまえば自分たちの勝ちだと確信しているのだろう。
 だがそうはさせない。

「おーっほっほっほ、わたくしの攻撃を受けてごらんなさい!」
「カラメルネーゼ卿に後れを取るな、われらマタンギ騎士の意地を見せろ!!」

 みるみるうちに距離を縮めていくその中で、俺は当初の予定通りに両手持ちに剣を構えた。
 すくい上げる様にして、男装の麗人の隙を付いて斬りかかろうとしたひとりをすれ違いざま、一撃のもとに斬り伏せる。

「ご主人さま?!」
「ベローチュ、今来たぞ!」

 怒声が入り乱れて、俺と男装の麗人は周囲を見回した。
 カラメルネーゼさんは貴族軍人の出身というだけはあって、脇に固める様にして槍を構えながら、敵の指揮官と思われるひとりの騎士を、文字通り一撃必倒に討ち取ってしまった。
 まさに突き上げるという描写こそが相応しい様に、その衝突の勢いで敵指揮官は馬上から弾き飛ばされる様に宙を浮いてしまう。
 槍に串刺しにされたまま大地に転がった。

「わたくしこそは盟主連合軍のカラメールネーゼ騎士爵ですわ! 命の惜しくない者は前に出なさいッ」

 そのまま大地に転がった敵指揮官の槍を、走り抜け様に拾い上げた蛸足麗人である。
 敵も馬鹿ではないから、そのまま名乗りを上げたカラメルネーゼさんをやり過ごすと言う事は無い。
 すぐにも「ええい、敵を討ち取れ」とブルカ同盟軍側も呼応するのだけれども、わずかに一〇数名とはいっても突撃によって入り乱れた敵は、足元が浮ついていた。

 けもみみも俺のすぐ傍らで短弓を引き絞りながら、近付いてくる敵を制圧してくれるではないか。

「ご主人さま、敵の兵力はおおよそ一〇〇余りがこの周辺にあつまっています。恐らくブルカ領軍は含まれていませんが、軍監と思われるものだけは参加している様子で」
「どいつだ。おれが仕留める!」
「あそこにいる、黄色いマントの男です!」

 周辺に嫌らしく纏わりつて来る兵士たちを、俺と男装の麗人は背中を預け合って追い払った。
 まだ俺も馬上で戦闘を続けていたけれど、もしかすると囲まれる前に下馬した方がいいかもしれないと思っていたところだ。

「シューターさん危ない!」
「おふぅ」

 その瞬間に少し離れた場所で馬上から短弓に手をかけていたけもみみが警告を発した。
 俺はあわてて男装の麗人の背中に腕を回しながらその場で伏せた。
 まさに間一髪で長い槍が俺の頭上を霞め走ったらしい。

「怖ええええっ」
「こなくそが!!」

 俺はその槍が敵の手に引き戻される瞬間に掴み取る。
 どうやら敵は馬上の騎士であったらしい。大いにあわてたが、俺がその勢いでこちらの馬上から敵に飛びついたものだから、そろって乾いた地面に転がり落ちる事になってしまった。

「名のある敵指揮官と見たぞ、殺してやる!」

 敵は血気盛んにそんな言葉を吠えて見せたけれど、ごろりと地上に転がったところでも槍に固執していた。
 だからその事が立ち上がる際にもたつく原因になった様だ。
 その判断が致命傷になったな。
 俺は転がる勢いで剣を抱きながら立ち上がり、剣を喉首に素早くは走らせたのだが……

「閣下。おちんぎんを弾んでくださいね!」

 血気盛んな敵が口ほどにも無く倒れたところ、プスプスとその背中に煙が上がっているではないか。
 女魔法使いマドゥーシャだ。
 ヒラリと下馬した女魔法使いが、俺が苦戦していると思ったのだろうか駆けつけてくれたのである。

「残念だったなあ。俺の方がちょっとだけ早く敵の首を斬り飛ばしたぜ」
「えええっ、わたしの方が少しだけ早かったですよ?! おちんぎん欲しいです! おちんぎん好きぃ!!」

 女魔法使いはそうやって駄々をこねている間も、護符を突き出しながらイナゴの様に群がって来る敵の兵士を右に左に吹き飛ばして見せるではないか。
 しかしそんな駄々もすぐにお終いだ。

「マドゥーシャ! あまり騒いでいる様だと後でお仕置きが必要ね」
「ひっ。おちんぎん大好きですけど、今は我慢します……」

 ここは戦場だからな、イラついた男装の麗人にひと睨みされてしまうとこのザマだ。
 馬鹿な事を言っている場合ではないので、すぐにも振り返って男装の麗人を見やった。

「敵の軍監と思われるのはあの男ですね! 少し離れた場所で戦闘には参加せずに指図をしています!」
「こいつらはここで何を企んでいたんだ?!」
「恐らくこの先直ぐの場所に街道が走っています。今にも補給線を叩くために襲撃する手はずだったのではないでしょうか! 追っ手をかけてお味方が森に入ったところを伏撃する算段だった様です!」

 ならその軍監とやらを捕まえて吐かせるとしよう。

「ご主人さま行ってください! ここは自分と援軍のみなさんで持ちこたえて見せます」
「頼むぞ、すぐにも男色男爵が精鋭を連れて包囲機動を取るはずだ。エルパコ、マドゥーシャ、援護しろ。あの黄色いマントを捕まえるぞ」

 俺が翻って命令を飛ばすと、すぐにもふたりはそれぞれ返事をしながら従う。

「了解だよ」
「こ、今度こそおちんぎんを獲得できる様に戦働きを……」

 ガチン、ガチンとあちこちで激しく金属音が響いている中で俺は姿勢を低くしながら離脱を開始した。
 すぐ背後にはけもみみが短弓を低く構えながらも、いつでも発射できる体制で追従した。
 女魔法使いの方も新しい護符を用意して、いつでも発射できるように周囲警戒をしている。
 木々の影を使ってあの男の背後に回ろう。

「殺さずに制圧してみるぞ」
「出来るかな?」
「無理ならその時ですね。危険な様なら火炎の魔法で制圧して見せます」

 完全に敵の方が数で上回っているので、多少は足元がざわついているけれど、連中はそのうちに体制が立て直せると踏んでいるはずだ。
 初動で騎馬突撃を敢行したカラメルネーゼさん以下のみなさんだが、そのままの勢いに乗って戦場をいったん駆け抜けたらしい。
 そのまま二度目の突撃をかますべく、切り崩されつつあった敵の側面にもう一撃をかまさんとつむじ風の様に迫りつつあった。

 男装の麗人や蛸足美人たちは、男色戦隊の主力が到着するまでの時間稼ぎが出来ればそれでいい。
 俺たちが出立した直ぐ背後を追って森を進撃してくるはずだから、時間にすればほんの十数分程度の間持たせをすればいいだけなのだ。

「ふたりとも。この少し先から、あいつらの護衛を狙い打てるか」
「造作もないよ。どこを狙う?」
「戦闘力を奪ってもらいたいから、どこでもいい。無理に殺す必要はないからな」
「ではエルパコ先輩は左、わたしは右翼のふたりを同時に」
「わかったよ」

 大木の幹に身を隠しつつ、密かに会話した。
 後十本程度の遮蔽物になる巨木を走り抜ければ、敵の黄色いマント羽織った軍監のところまでやって来れる。
 都合のいい事に戦況を見やりながら部下や伝令たちに何事かの指示に熱心で、こちらに気付いていない。
 自分から戦場の中に飛び込む意思がないというところが、何となく指揮官先頭を旨としているアレクサンドロシアちゃんやカラメルネーゼさん、あるいはデルテ卿の様に親近感を持つことが出来ない様に感じた。

 だが気配はどうだ。
 恐らく戦士としての実力はかなりのものではないかと感じた。
 口の臭い男か、少なくとも美中年カムラぐらいの実力があるのではないだろうか。
 つまり久々の難敵だ。
 何度も強敵と殺し合いをしてきた俺にはわかるぜ。

「あいつら、逃げ出そうとしているのではないですか……?」

 ふとそんな風に女魔法使いが呟いた。
 けもみみも同じ様に違和感があったようで、互いにチラリと視線を交わしながら足を急いだ。
 逃げられる前にこちらから仕掛ける必要がある。
 好都合なことに、アイツらはまだこちらに気付いてはいない。

「エルパコ、護衛を射つのはやめだ。あの黄色いマントの足を狙え。マドゥーシャは敵の前に妨害攻撃だ」
「わかったよ」
「今ならまとめて焼き払う事も出来ますが、どうします?」
「それをやったら捕虜に出来ないだろう。だが勝てないとわかったら好きにやってくれ」
「難しい注文ですね……了解です!」

 その会話が終わるよりも早く、俺は剣を低く構えながら駆け出した。
 乾いた腐葉土の中にブーツを刺し込みながら走るために、直ぐにも大きな音に敵たちは気が付いたらしい。
 けれどもその瞬間にけもみみの放った矢が空気を切り裂いて飛び出した。

「何事だ?!」

 敵は女魔法使いが行ったけん制のファイアボールで足止めをされた。
 威力は護符を使うまでも無いものでただの足止め攻撃だったので、土煙がドカンと上がるだけのものだ。
 だがその煙が消え去る前に俺は距離を詰めている。

「敵襲か、おのれ!!」

 残念ながらけもみみの放った矢は敵に気付かれて避けられてしまったようだった。
 その一射はニシカさんの様に風の魔法でコントロールできるわけではないので、咄嗟に気付かれてしまえばわずかに避けるだけで狙いが狂う。
 矢が黄色いマントの軍監の足を捕らえる事は無かったけれども、避けるために姿勢を大きく崩したその場所に、俺が頭上で山をきりながら飛び出したタイミングにピタリと重なったのである。

「もらった!」

 俺はそう確信した。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ