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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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237 バジル大作戦 突撃

本日三回目の投稿です!

「ベローチュはどうしているのかしらぁ?」

 モッコリ頭の褐色伝令に向かって、男色男爵は鋭く質問をした。

「直ちに戦隊主力への伝令を本官に命じた後、背後より奇襲をかけるべく突撃のための占有可能な位置の確保に向かわれました!」
「了解よぉ。ベローチュ支隊の数は五〇余りだから、敵とは互角のはず。まかり間違って負ける事は無いと思うけれど、先行して援軍を送る必要があるわあ」

 報告を聞いて野太い声で部下たちに次々と指示を飛ばしていく男色男爵だ。
 ベローチュは戦場経験も豊富でめったな事で負けるとは思わないし、こちらが奇襲という事なのだから優勢に戦いを運んでいるはずだ。
 けれども敵側が少人数でいくつかの集団となって連携していた場合は、逆に敵に援軍が集まってしまう事になる。

 すぐにも振り返って奥さんたちに目配せをした俺は、男色男爵に向かって意見具申をした。

「オコネイル卿、俺が先行して援軍に駆けつけましょうか?!」
「辺境不敗のアナタなら安心ねえ。わかったわあ、アナタたちのチームでベローチュ支隊の援護に回ってちょうだい。アタシは練度の高い部隊を率いて、敵の後方へ迂回して包囲網を形成するわあ。野郎ども!」

 野太く鋭い怒声で男色男爵が吠えた瞬間、その言葉だけで俺たちのやり取りを聞いていた妖精剣士の幹部たちが直ぐにも動き出した。
 よく訓練された妖精剣士隊のみなさんである。次々に下馬すると、これまでの一列縦隊で細い獣道の様な場所を行軍するのをやめて、森の下草などはものともせずに脇道へと入っていった。
 俺たちサルワタ隊のみんなが援軍に駆けつけるため、道を譲ってくれたのだろう。

「カサンドラ、君は早馬でこの深い森の中を走り抜ける事はむずかしいと思う」
「はい、シューターさん。わたしは後続から向かう事にしますので、お気になさらないでください」
「戦場では何が起きるかわからないので無理はするなよ、決して仲間からはぐれない様に……。クレメンス、奥さんの事は頼んだぞ」
「うんだす。おらの命に代えましてもカサンドラ奥さまの事をお守りしますですだ!」

 珍しく大きな声で俺の言葉に堪えたクレメンスは、カサンドラと互いにうなづきあった後に両手を組んで祈りのポーズを取るではないか。

「旦那さまがご無事に武勲を遂げられます様に……」
「女神様の祝福があります様にだす……」

 ありがとうございます、ありがとうございます!
 これまでも戦場に出て何度も危ない目に合って来たけれど、こうして俺の知らないところで奥さんたちが祈りを捧げてくれた結果なのだろう。
 俺は心の中で平伏した。

「タンヌダルクちゃん、君は付いてこれるか?」
「もちろんですよう。野牛の一族は戦場で後れを取る事はありません!」

 野牛の奥さんに質問を飛ばしたところ、俺がブルカで購入したメイスの柄をポンポンと叩いて見せ、元気に返事を飛ばしてくれた。
 さも当然の様に俺の護衛を務めるつもりらしいけもみみは、

「エルパコ」
「任せてよ、シューターさん」

 最後まで俺が言い切るよりも早く、キリっとした顔で返事を返してくれた。
 頼もしい限りだぜ。
 ただちに援軍に向かうためにサルワタ隊から抽出できる戦士の数は、これら奥さんたちに加えて女魔法使いと野牛の騎兵ぐらいのもである。
 残念ながらサルワタ傭兵隊のみなさんは徒歩での従軍だったので、カサンドラの護衛として後から合流してもらう事になるだろう。

 そうしてチラリと戦意旺盛なふたりの騎士さまを見やった。
 俺たちや褐色長耳のみなさんと比べても見るからに重武装な甲冑を身に纏っているのが、カラメルネーゼさんとデルテ卿である。
 デルテ卿の引きつれている従者は、奥さんを背後連絡線の拠点防衛にまわしているので騎士のおふたりだけである。そのわずかの兵士を引き連れて、これから援軍に向かう俺たちに付いてこようと言うわけだ。
 この男は戦場で何としても俺に張り付いている事で、確実に戦功にありつこうという魂胆が見え隠れしていた。
 その図太い神経がある意味で今は頼りになるじゃねえか。

「シューターさん、各員の準備整ったよ!」
「わかった。男色男爵、直ちに参ります」
「頼んだわよお!!」

 俺は仲間たちを見回しながら手を上げて剣を振って合図をすると、馬首を返した。
 わずかに十名そこそこの援軍に過ぎないが、俺たちは男色男爵たちの迂回包囲が完成するまでベローチュ支隊と合流して戦線を支えればいいわけだ。

「俺に続けッ」

 モッコリ頭の伝令と頷き合った後、俺は天にかざした剣を正面に振り下ろし、号令直下駆けだすのだった。

     ◆

 森の中を騎馬が駆け抜けると、途端に土がほじくり返されて土煙が空気を漂った。きっとしばらく降る事が無かった雨のために大地が乾ききっていたのだろう。
 だがそんな事を今は気にする必要がない。

「ベローチュの戦っている場所は、ここからどれぐらいの距離があるんですかね!」
「だいたい馬で早駆けして四半刻余り、無理をすればそれぐらいで到着をするはずだと思いますッ」
「それまでにベローチュの支隊は敵の攻撃を受け止める事は出来るのか?」

 モッコリ頭の伝令に俺が叫びながら質問したところ、わずかだけ馬速を遅くした彼が振り返って叫び返して来た。

「問題ありません、突撃下令を飛ばしたとは言っても、敵はこちらに気が付いていませんでしたから。隊長も闇雲に騎馬突撃(チャージ)をする様な事は無いでしょう」

 隊長かあ。このモッコリ伝令もかつては男装の麗人の部下だった男なのだ。
 するといつぞや、俺をセレスタの歓楽街で気絶させたときの官憲の中に、この男もいたのだろうか。

「不意打ちさえ喰らわなければ閣下は辺境不敗の戦士だと、隊長も仰っておりました。閣下が到着なさるまでは大丈夫ですよ!」
「言ってくれるなッ。俺もきみたちの期待にこたえられるように奮起するしかない」
「せいぜい辺境不敗の実力をお見せ願いたいものですな!」

 そう叫んで馬蹄を響かせながら速度を上げたモッコリ伝令の後を、俺とけもみみが並走する様に駆けた。
 後に続くのはやはり馬術巧みな貴族軍人上がりのカラメルネーゼさんと、田舎で武芸に精を出していたデルテ騎士爵だ。
 そして後列に野牛の騎兵やデルテ卿の部下たちが続き、最後を女魔法使いが固めた。

「シューターさん。全力で駆けたらあっという間なんだね」
「そうしないのは馬に負担を出来るだけかけないためだからな」

 木々の間をすり抜ける様にして俺たちは疾駆する。
 けもみみの言う通り、森の中であっても馬を駆けさせること自体は難しくない。
 ただこれまでの行軍でそうしなかったのは、激しい馬蹄を響かせて土煙を立てれば、当然その位置を周囲に暴露してしまうからだ。
 森の中でけたたましく音を立てながら移動などをしていると、その森に棲む動物たちはその気配に驚いて姿を消してしまう。
 敵も当然ながら水先案内人として多数の猟師たちを従軍させているだろうから、その事はすぐに察知されるだろう。

「ただし、いったん会敵すればそんな遠慮をするのは馬鹿のやる事だからな」
「今みたいにイザという時のために体力温存だね」
「そうだぞエルパコ。男は黙って騎馬突撃だ。馬上でも弓が使えるなら、援護射撃よろしくな!」
「うん、わかったよ」

 こうした陣形を取ったのは何か俺たちの間で話し合ったわけではない。
 してみるとこれは自然とそういうカタチに落ち着いたわけなのだが、蛸足麗人やデルテ卿は軍学の教養を学んでいたものだから、先行する俺たちにどういう風に続けばいいのかを理解していたのだろう。

 俺やけもみみの装備はブリガンダイン鎧を身に纏っているとは言っても、それ以外の装備については比較的軽装だから、馬上にあっても急旋回を馬に指示する事が出来る。
 強力な敵と遭遇した場合でも、左右に散って敵とぶつかった瞬間に衝撃力を受けずに済むわけだ。
 一方のカラメルネーゼさんやデルテ騎士爵は、先祖伝来の様なガチガチの重装甲の甲冑を身に纏っていたから、手に持った槍を利用してその突進力で相手を蹴散らすわけである。
 そのふたりの突進力で切り開かれた穴に、後続する騎兵のみなさんが突破路を拡大してくれれば完璧な突撃と言えるだろう。
 女魔法使いはあれで運動神経抜群なところがあるから、最後尾から右に左に大火力魔法を連発してくれる事は間違いなしである。

 そして自然と出来上がったその陣形は、さっそく役に立つときがやって来たのだ。

     ◆

「シューターさん! 前方で激しく打ち合っている金属音が聞こえたよッ」

 最初にその事に気が付いたのは、味方の位置を探しながら先導役をやっていたモッコリ伝令ではなくエルパコだった。
 さすがハイエナ獣人の聴覚は素晴らしい。
 ついでに嗅覚もそこいらの人間以上に優れていたけもみみは、モッコリ伝令と入れ替わる様にして先頭に飛び出すと、臭いに誘われるままに戦闘中のベローチュ支隊のところに一路向かったのである。
 きっと俺たちには感じられない血の臭いをかぎ取ったのだろう。

 振り返ってさっと手を上げて見せると、カラメルネーゼさんが槍を付き上げて号令した。

「全軍抜剣、戦闘用意ですわっ」
「カラメルネーゼさん、俺は馬上戦闘はあまり得意ではない。騎馬突撃で一撃を加えた後は、敵に飛びついて下馬戦闘をするつもりだ!」
「了解ですわ、後の指揮はわたくしにお任せくださいませ!」

 ぐいんと大きく風車の様に槍を回して構えを改めたカラメルネーゼさんである。
 そうこうしているうちに、木々の狭間から人間たちが激しく争っている姿と、剣と剣が交わる金属音が聞き取れたのだ。

「敵の数が思ったよりも多いぞ! これは五〇では効かないな」
「シューターさん、ベローチュが囲まれているよ!」

 そして褐色の妖精剣士隊たちが思ったよりも押されている事実を目撃した。
 どうやら悪い方の予感が当たったらしく、敵に囲まれながらベローチュ支隊は戦闘を行っていたらしい。
 敵のひとつを発見したと思ったら、この周辺に複数の小部隊が伏せられていたという事だろう。

「ベローチュを救出するぞ!」
「わかったよ! ぼくも弓を使うっ」

 男装の麗人はまだ馬上にあった。
 剣を右に左に振り回しながら、彼女に取り付こうとしている装備もまちまちな兵士たちの槍を打ち払っている姿が見える。
 今すぐに引きずり降ろされる様な事は無いだろうが、これは時間の問題かもしれない。

 馬上で駆け抜けながら両手持ちに剣を構えられるほど、今の俺は馬術に精通しているわけではない。
 戦争があと少しだけ先で、まともな軍事訓練を受ける機会に恵まれていたのならばそれも出来たかもしれないが、今は言ってもせんない事だ。

 であるならば落馬覚悟で俺は両手持ちに剣の構えを取りつつも、俺の跨った野牛産の馬に信頼を置いて突撃をするしかないのである。
 願わくばその一撃が敵の兵士に届くまで落馬しませんように。
 そうして俺は激しく揺れつつ、お決まりのセリフを口にするのだった。

騎馬突撃(チャージ)騎馬突撃(チャージ)騎馬突撃(チャージ)!」

 シューター式十秒チャージの威力をとくとご覧あれ。
 言ってみたかったんだよねこのセリフ。
 付け焼刃の突撃だけれども、援軍はいないものと虚を突かれていたブルカ同盟軍側の集団は、驚きを持って俺たちを歓迎してくれたのである。
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