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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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235 バジル大作戦 序

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 ナワメの森に進撃を開始した作戦初日の夜、俺たちが進む事が出来たのわずかに半郷に過ぎなかった。
 思った以上にその行軍の道のりは険しかった。
 その距離は人間が一日に平均して進む事が出来る半分の行程という事になる。
 一郷がおおよそ十七~十八キロ程度と考えればその半分であるから十キロに満たないわけだが、森の中を行軍する事がいかに難しいかをわかってもらえるだろう。

「左翼前面に展開しているわがベローチュ支隊は、ここよりさらに四半郷先に展開していますが、今のところ有力な敵勢力と出くわす事はありませんでした。また右翼前面のニシカ支隊ですが、ここより半郷前進した地点を夜間移動中であると思われます」

 男色戦隊の仮設本陣の中、自分が率いている斥候部隊の位置を地図上でポンポンと叩きながら男装の麗人が報告を行った。
 夜になるとベローチュは現地協力員の猟師と共に報告のため、本隊主力のところへ顔を出しに来たのだ。
 ちなみに威力偵察部隊を率いている右翼前面の指揮官、ニシカさんはこの場にはいない。
 さすがに距離が離れているために、本陣へ気軽に顔を出すと言うわけにはいかなかったし、連携を取っている男装の麗人の言葉通り、敵との遭遇に備えて夜間行軍を実施していると言うからね。

「未だ有力の敵と遭遇せず、というわけねえ。これはおかしいわあ」

 折り畳みの指揮台に広げられた地図の睨み付ける男色男爵は、腕組みしながら唸る様にしてそう言った。
 地図の上に置かれたランタンが揺らめくたびに、男爵のアイシャドウが不気味にきらめいている。
 進路にして僅か半郷の距離しか進んでいないにしても、一〇〇〇の兵士をまとまった場所に伏せる事が難しいナワメの森の地形上の問題もあって、敵部隊のひとつにでもすぐにぶつかる事を俺たちも予想していたからだ。

「森林地帯の北部には敵が存在していないという事ではないですかねえ。敵の目的はさらに進んだ先、森の北方域の広く縦深のある辺りに伏せていると考えられるかもしれない」
「自分もその可能性があると判断しています。ご主人さま、ご主人さまの戦士経験から考えて、どこが怪しいと思える地形ですか?

 南部に敵がいないのであれば、当然北にいると考えるのが筋である。
 するとその意見を口にした俺に対して、男装の麗人は地図を指し示して俺に意見を求めてくるではないか。
 俺はバイト戦士として様々な職場経験をして来たけれど、あいにく戦場経験なんてものはこのファンタジー世界に来てからしか体験したものがない。
 それだって大規模な戦闘と言える様なものは触滅隊を相手にした襲撃と掃討作戦ぐらいのものだ。

「うーん、たいした経験はしたことがないんだけれどね」
「しかし学のあるご主人さまの事ですから、全裸を貴ぶ部族の戦いの歴史を紐解いて、何かの考察が可能であるかもしれませんよ」

 そう言って微笑を浮かべてくれる男装の麗人である。
 仮設本陣でぐるりと顔を並べているのは男色男爵とその幹部たち、デルテ騎士爵や数人の軽輩領主、そして俺たちハーレム大家族にラメエ嬢だ。
 全員の注目が俺に集まったところで、とても微妙な気分になってしまった。
 そ、そんなに期待されたって、何にもないんだからねっ。

「あ、相手の心理になって考えるのが肝要かもしれませんね」

 俺は適当な事を口にする。

「連中の目的は何か。盟主連合軍の主力はこのリンドル川西部戦線に五〇〇〇の戦力を張り付けているわけです。ゴルゴライ方面と二正面作戦をしなければならない俺たちは、出来るだけこの戦域で手早く敵を片付けてゴルゴライ方面のアレクサンドロシア軍と合流しないといけないわけです」

 これが天才ようじょ軍師の計画した稲妻作戦の骨子である。
 そのためにこの地域に布陣している事がわかっていた二〇〇〇余りのブルカ同盟軍兵力を、倍する数で一気に叩き潰そうと考えたのだ。
 事実、最初の本格的な会戦で、ひとつ目のブルカ同盟軍側一〇〇〇余りの軍隊を撃破する事が出来た。

「逆を考えると、彼らは俺たちをアレクサンドロシア軍と合流させないことが必要だ。出来るだけ補給線を叩き続けてこの地域の平定を遅滞させれば、時間稼ぎが出来る事になります。そうする事で、アレクサンドロシア軍を撃破したブルカ辺境伯の主力部隊が南進してくるという事になりますよね」

 俺が周囲を見回してそう言う。
 そんな事は当然の事ですわといわんばかりに、カラメルネーゼさんは俺を睨み付けていた。男色男爵も同様にしているところを見ると、王国軍の貴族軍人としての経験が豊富なおふたりには当たり前の話だったのだろう。
 わかってます。
 だけど全員に理解できるように話しながら、俺も頭の中を整理しているので許してくださいね。

「敵が時間稼ぎに徹するなら、より北部の森の外縁に伏せているという事になる」
「どういう事かしらあ?」
「みなさんはお貴族さまですからね。この戦争で勲功を上げて、戦後には新しい領土なり報奨なりを期待しているところだと思うのですけれど、」

 俺はいったん言葉を区切った。
 蛸足美人のカラメルネーゼさんや、マタンギ領主のデルテ騎士爵は特に勲功に並々ならぬこだわりを見せている。
 理由は単純で、勲功と言うものは派手であれば派手であるだけ評価されやすいからだろう。
 眼に見える功績という意味では「敵軍を撃破した」とか「敵将を討ち取った」というものが武功という風に領民たちには理解できる。けれども、

「そんな事をしなくても戦争に確実に勝つことが出来るのは、俺たちの補給拠点を叩いた方がより合理的という事になります」

 現在は進軍中の補給部隊を襲撃しているという報告が、逐次送られてくるッヨイさまやツンデレのマリアちゃんの手紙などから知れていた。
 その規模はあくまでも少数によるゲリラ的な戦法に終始しているので、

「一〇〇〇もの兵士がまだ残っている事を考えれば、これはおかしいと思いませんか? 他の反逆軍たちがどこにいるのかという話になる」
「では敵はリンドル川西岸域のリンドルの領地を狙っているという事になりますわね。上陸部隊が態勢を整えて、ここにわたくしたちの一大補給基地を作っているのですから」

 カラメルネーゼさんはとても嫌そうな顔をして俺を睨み返して来た。

「理屈はわかりますわ。わかりますけれど、敵を倒してこその勲功というものではなくって?」
「そうですなシューター卿。俺も補給処を叩きつぶせと命じられても、仮にそれが成功したとしてそれを誇る事は出来ない」

 デルテ卿も不満顔を浮かべて俺を見やる。
 ふたりは別に俺の事に不満があるのではなく、そんな作戦に同意する領主が果たして敵側にいるだろうかという風に猜疑を向けているのだ。

 だから自分の理屈に従ったら、敵がそんな風に考えるよりも、明確な敵の弱点を求めて攻めてくるのではないかと思ったのだろう。

「派手さの無い考え方ですが、俺たちを確実に日干しに出来ると言う意味ではとても効率的ですねえ。問題はこれを実施するにあたって、在郷のブルカ同盟軍の諸侯たちが従うかどうか」
「ご主人さま。実際に敵が散発的な嫌がらせめいた攻撃しかしかけてこないという事は、一部には納得いかない敵領主もいるものの、大多数が従っているという風に考えるのがいいのではないでしょうか」

 エルフは合理主義者なのかもしれないね。
 男装の麗人は俺の言葉に全面的に同意して見せる態度で頷いて見せ、男色男爵もニッコリと俺を見て笑った。

「それならばもうひとつの可能性も考えられますわ。確実に命令を実行する様に訓練されているのは、ブルカ領軍の兵士という可能性はありませんこと? 直卒している彼らならばブルカ伯の意図を汲んで攻撃、というのに躊躇の必要がありませんもの」
「今まで遭遇していない敵という意味ではその可能性もあるわねえ。そのブルカ伯の援軍が補給基地を攻撃するために、諸侯主体となっている残りのブルカ同盟軍が陽動作戦を行うという可能性があるわあ」

 その辺りのむずかしい戦況判断というのは俺には不可能だ。
 こういう事は軍事作戦に親しんでいる男色男爵や蛸足美人か、あるいは男装の麗人に任せておいた方がいいな。
 そんな事を考えながら改めて地図の上に書かれている森の形をぼんやりとみていると、それはまるでひょうたんをひっくり返したような形をしているなあと思ったのだ。
 基点となる

 地図上の森の形をじっくりと眺めていると、南北にのびているナワメの森はまるで瓢箪の様な形をしていた。

「ラメエ卿、大軍を伏せておく事が出来る場所はナワメの森には存在していないという話だったけれど、もしも無理をしてそれが可能な場所があるとするならば、とこか思い当たるところはあるかな?」
「えっ、わたし? そ、そうね。どこかしら……」

 俺が向かい合った反対側のおませ少女に言葉を振ったところ、ラメエお嬢さまはカサンドラとタンヌダルクちゃんの間から顔を出して地図を睨み付けた。

「兵士を伏せておく事が出来る場所、どこかしら。南部では無理でも、森の広がっている北部ではあるかもしれない。うーん」

 モノの本によれば、古代ローマ軍を相手に無双乱舞したハンニバル将軍は、当時絶対に不可能だと思われたアルプス越えを象軍を率いて行ったと書かれていた。
 第二次世界大戦にもそういう事例が確かあったはずだ。ドイツ側と連合軍側に横たわっているアルデンヌの森という場所は、大戦初頭とドイツの反撃作戦の二度にわたって装甲師団がこの悪路を走破して敵に奇襲攻撃を実施している。

「奇襲というものは古来から、ここからは絶対に無理だろうと思った場所から行われて、油断した相手が大混乱の内に壊滅したものだからな」
「そうなのシューターさん?」
「うん。険しい山越えや深い森の中、断崖絶壁から逆落としに攻め寄せたという話も聞いた事があるなあ」

 俺はついつい、けもみみの無い胸を眺めていてそんな事を思い出した。
 一見して断崖絶壁に見えても、地元猟師しか知らない様な抜け道があるかもしれないのだ。
 けもみみの断崖絶壁でさえも、ツンとせり出したふたつの突起物を足場にすれば登頂する事が可能なのだ。しかしこの場合、登頂するのは俺とけもみみが一緒にだ。ウヒヒ。

「し、シューターさん。あんまり見つめられると恥ずかしいよ」
「そうだね。男は黙ってロッククライミングだね」

 乳首ロッククライミングの事はどうでもいい。
 視線をラメエお嬢さまにもどすと、おませな少女は逆さにした瓢箪の底を舐める様に見回しながら、指でひとつひとつを指し示してウンウン唸っていた。

「普通ならあり得ないような場所。兵士を大量に隠しておける場所。山の麓、森の沼地、うーん……」

 馬鹿な事を考えている場合ではないので、俺も隣に立っている男装の麗人と一緒に前かがみになって地図を睨み付けた。
 するとベローチュの、ブリカンダイン鎧によって押し上げられた大きな胸の谷間を覗き見る事になってしまった。
 大きい、とても大きくその渓谷は深いものであった。俺はたまらず声を漏らしてしまう。

「た、谷間っ」

 ゴクリ。いかんいかん、まことに遺憾。
 気持ちを引き締めて戦争に付いてしっかりと考えるんだ修太。
 たまらず気恥ずかしくなった俺は背中を丸めてしまったけれど、どういうわけかそこに強く反応した人間がいた。

「……谷間?」
「あ、いや何でもないよ忘れて……」
「そうね谷間。谷間があったわ!」

 おませ少女が俺を見て、とても嬉しそうにそう言ったのだ。
 何を言っているんだラメエお嬢さまは。
 ラメエお嬢さまはようじょと幾つも齢が変わらない少女に毛が生えた様なお年頃であるからして、彼女に胸の谷間などというものはないのである。

「例年ならこの季節になるとナワメの森は秋雨に見舞われるから失念していたけれど、今年はまだ雨が降り出す気配がないから……確かに谷間が存在しているわ!」
「渇水した渓谷があるのねえ?」

 息せき切って語るラメエお嬢さまに男色男爵が質問をすると、大きくうんうんと頷き返している。
 谷間か、なるほど季節限定の谷間。

「春雨と秋雨が多量に降る季節では雨水によって水没しているものの、夏場の終わりになると枯れてしまう場所があるわ。それがここ」
「どれぐらいの広さがあるのかしらあ、一〇〇〇の兵士をまるまる伏せられるだけあるかしらねえ?」
「可能だと思うわ。周りが断崖絶壁に囲まれていて、一種砦の様になっている場所とじいが言っていたから、周辺の森の周りからは見えない様になっているはずなの」

 その場所は周囲の森よりもやや落ちくぼんだ谷間になっているので、渇水期に兵士を伏せておくには最適な場所であるそうだ。
 聞けば、今年は秋雨の季節が始まるのがやや遅れているらしく、本来ならば不可能なこの時期であっても今ならば可能だという事だ。

「なるほど。その場所からリンドル領内の補給基地までは目と鼻の先ですね、距離にして半郷ほどならば、日没後に夜陰に乗じて攻撃に出ると言う事も可能です、オコネイルさま!」
「逆に、ここに補給基地の蹂躙部隊を伏せているという事であれば、他の場所にも陽動を行っている敵がいるものと考えた方がいいですわよ、みさなん」
「そうですね、この場所を悟らせない様に陽動を他方で行わせる必要があると自分が指揮官なら考えます。つまり小規模な襲撃が行われているこの個所以外でも、敵がいるという可能背は高いと」

 男装の麗人と蛸足美人が互いに頷き合いながら腕組みをしていた。
 そうする事で、ふたつの魅力的な谷間が隆起して、懲りない俺はまたその谷間に釘付けになりそうになるのだけれども。

「魅力的な谷間があるのですね、シューターさん」
「うん。軍事戦略上、魅力的なね……」

 カサンドラに水を向けられ、俺は指揮台の下で股間の位置を調整しながらあわてて返事をした。


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