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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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233 ナワメの森を突破せよ 4


 おませ少女を相手に、カサンドラやタンヌダルクちゃんたちが自己紹介タイムをしているらしかった。
 捕虜用テントの中で和気あいあい、最初は緊張気味だったラメエお嬢さまも、ちょっとずつ打ち解け始めた様な笑い声が聞こえてくる。

「この度は本当にありがとうございました、カサンドラ騎士爵夫人」
「あのう。これからはわたしたちも姉妹同然なのですから、カサンドラと気軽に読んでくださいね。ラメエちゃん」
「はい、カサンドラさま」
「姉妹ですよう姉妹。だからこういう時は義姉さんって、呼んでみてくださいよう」
「はい、タンヌダルクお義姉さま」

 そんなカサンドラとタンヌダルクちゃんの言葉の後に「ぼ、ぼくの事も義姉さんと呼んで」などと、おどおどしたけもみみが自己主張をしていた。
 ラメエお嬢さまの事は妻たちに任せておく事にして、俺たちはドラコフ隊の合流を待ってから再編成を来ない、ナワメの森を攻略する件についても話し合わなければならない。

「こういう結果になったので、俺たちも早急に別の方法で手を打たないと駄目だな」
「よう相棒、どうすんだよ。現地協力員の件は同胞にアタって猟師を集めさせるのか?」
「そうですわね。ソープさんの生活必需品や家財道具を手配するのであれば、わたくしもいち度、戦線から離脱する必要がありますわよ?」

 俺がテントの中をチラチラと見ながらニシカさん、カラメルネーゼさんに身を寄せると、ふたりは揃ってヒソヒソ声で話しかけて来るのだった。
 俺としてはようじょかモエキーさんに行商人の手配や必需品の購入をお願いしようと考えていたのだけれど、その事を蛸足美人に告げたところ、

「おーっほっほっほ! わたくしがリンドルで活動していた時に得た伝手がございますわ。それにモッコの漁村を経由したのならば、一両日本陣を留守にしているだけでどうにか手配が出来ると思いますわ……もごっ」

 突然そんな風に自慢気な笑いを飛ばし始めたのだから、俺はカラメルネーゼさんの口をあわてて塞いだ。
 声が大きい!
 どこで敵が聞いているとも限らないから、こういう内緒話は小声でやってくださいっ。
 などと馬鹿なやりとりをしているところに、萎れた花の様に首を垂れた爺さんが俺たちの側に近付いてくる。

 ホレ見ろ、デカい声でしゃべってたから内容を聞かれたじゃないか。
 あの場で誰も口を挟む事が出来なかったカサンドラ不在の今、俺たちに対して失点を取り返してくるかもしれないぞこの老騎士ジイは。

「やいジジイ、何の様だ。ん?」
「恐れながら全裸卿に申し上げます」

 うやうやしく貴人への礼を取った老騎士は、そうしておきながら首を垂れた状態で視線だけを俺に向けて来る。

「閣下の仰られましたことは至極当然のご忠告でございました。お嬢さまはお若く、領主としても経験未熟でござりますれば、このやつがれめも焦りを感じていたのやもしれませぬ。それ故ご忠告頂きました通り、まず有力な盟主連合軍の諸侯の方と縁戚を結び、しかる後にお嬢さまには閣下の許へ嫁ぐのがまずは順当かと愚考する次第でございます」

 やっぱりだ。
 カサンドラがそもそもの大前提として俺と結婚させるつもりがあるという態度を取ったものだから、この爺さんも至極当然の様にその前提にのっかって話をしている。

 あのですね、ジイさん。
 俺は別にラメエお嬢さまと結婚するつもりなんてないんだよ……
 その事を反論しようとした瞬間に、爺さんの眼が光っている様に感じた。
 これはなるほど、そういう俺の意志もわかったうえで、それでもそういう態度を示してきていると言う事だ。
 完全にこの老騎士はタヌキジジイそのもので、まだ俺との駆け引きを諦めていないという態度なのである。

「あのな爺さん……」
「何も申されますな。体の決して丈夫では無かった先代さまに代わりお守り役を務めてきたのは、このやつがれめでございます。お嬢さまの事は眼に入れても痛くはないのです」

 呆れた顔をしたニシカさんと蛸足美人の事など気にもしない態度で、老騎士は改めて俺を見やりながらそう口にしたのだ。

「どうしてそこまでする必要がある」

 もちろんその質問は、俺に眼に入れても痛くないと宣言する孫みたいな年頃の毛の生えた少女を預ける気になっているのかと言う意味だ。
 俺でなくても他にいくらでも嫁がせるべき相手はいるだろうにね。

「先代さまは未婚のご領主さまであらせられましたので、お嬢さまの立場は近所の村々でも非常に厳しい立場でございました」
「するとラメエお嬢さまはそもそもが養子なのか?」
「いえ、もちろん先代領主さまの確かな忘れ形見でございます」

 すると未婚の母親だった先代領主の、娘と言う事になる。
 このファンタジー世界であっても、誰でも彼でもが結婚するわけではない。
 例えばウチの村で言えばジンターネンさんは未婚のおばさんだったし、司祭さまは頭がハゲ散らかったあの年齢まで貞操を守り続けていた。
 別段、酪農家のおばさんや宗教関係者が結婚してはいけないという法は無いだろう。事実、雁木マリは俺と婚約している立場だから、要は縁だ。

 そこを考えればラメエお嬢さまの父親は誰なのかという事が気になる。
 けもみみの事をはにかみながら「エルパコお義姉ちゃん」と呼んでみているおませ少女をチラリと見ていると、オレンジ色の優雅な髪色をしていて、おませな少女はそれなりに血筋確かなお貴族さまという雰囲気が漂っていた。
 もしかすると先代領主さまのお相手は、かなりの王侯貴族との間に出来た落し種だったのかもしれないね。

「考えてみればブルカ辺境伯の一族と縁談の話が出るくらいなのですから、身分卑しくない方がお相手だったとも考えられますわね」

 カラメルネーゼさんは何か思い当たるところがあるのだろうか。
 俺がチラリと彼女の顔を見やったところで、その様な反応を返してくれた。

「ツジンさまより頂いたブルカ辺境伯さまのご一族との縁談は、一見すると確かに願っても無いありがたい申し出ではありました。先ほども申しました通り、先代領主さまは晩年あまりお体が丈夫ではありませんでしたので、近所の村との交流が疎かでした」

 これだけ小さな村々が猫の額ほどの土地に寄り合っている地域なので、ひとり親で病弱な領主のご家庭となると、近隣外交が疎かになるのは理解できる事だ。
 両親ともにいるのであれば、代理人として旦那がその外交の役割を担っていたという事だからな。

「しかしお嬢さまにとってツジンさまという方は決して信用のおける方ではございません」
「ジジイそれはあれか、ソープ嬢のところを出入りしていたブルカ伯の騎士さまの事を言っているのか?」

 ニシカさんがそう質問すると、頷いて見せた爺さんは言葉を続ける。

「三代にわたって寺院の遺構を守護していたわがオホオ村にツジンさまが訪れたのは、この戦争がはじまるよりも少し前の事でございます。いったい誰に聞いたのか、あのダンジョンにラミア族の財宝が眠っている事を聞き出して来たのです。ただしお嬢さまが三代目の寺院の守護者である事は存じ上げなかったらしく、調査隊を村で休めた後に、ダンジョンアタックに向かわれたのですが……」

 その際に縁談の話を持ちかけられ、領地経営の一切を取り仕切っていた老騎士がそれを聞いたと言う事だ。
 本来ならば辺境の諸侯は何れも対等な立場であるという名目は存在しているが、力の関係で言えばそれは明白なものだ。
 しかも聞いてみればオホオ村の領地というのは、もともとブルカ伯から分爵を受けた家柄だったそうだ。
 となれば、これは上司の命令であるから絶対だ。

「閣下におかれまして、カサンドラ奥さまにおかれましても、お嬢さまの事をおもんばかった対応をしてくださりましたので、すべてをお任せしたいとこのやつがれめは考える次第です。つきましては、」

 爺さんは改めて語り口をいったん区切って右手を胸に付くとこう言った。

「わたくしめを解放していただけますでしょうか。今夜のうちにこれから村に戻り、ただちに現地協力員となる猟師を集める事に致します。ただし行商人の手配と言うのは、これは残念ながらできません。ソープ姫にお届けする事はもちろん引き受けさせていただきますが、運び込む件についてはお願いできますでしょうか」

 何しろ戦時下であるから、交通が遮断されていて捕虜に過ぎない老騎士では出来る事ではないという意味だろう。
 俺はすぐにも男装の麗人を呼びつける。

「要件は了解した。ベローチュ、ベローチュはいるかな?!」
「はいご主人さま」
「この後でジイ卿に馬と護衛を手配してくれるかな。必要ならば俺の委任状を持たせる」
「お任せください」

 男装の麗人がばるんばるん胸を揺らして素早く駆け出していくのを見届けてから、俺はテントの方に歩み寄った。

「ひとつ俺から奥さんたちに相談があるんだけど、いいかな」
「何でしょうかシューターさん?」
「明日辺り、ドラコフ卿の部隊がフクランダー寺院に到着するだろう?」

 予定通りに進んだ場合はドラコフ隊の先遣部隊がこの寺院の遺構に到着するはずだ。
 俺たちはそこで再編成を完了した後にナワメの森攻略に取り掛かるわけだが、水先案内を担当する現地協力員が揃うまではどのみ進軍を開始するまで時間がある。

「そこで男色男爵とドラコフ卿にお願いして、オホオ村の本領安堵の連名嘆願状でもしたためようかと思うんだ。これからの作戦でラメエお嬢さまにはいっぱい協力してもらう予定だしな、ついでに男爵あたりに養子縁組してくれないか相談しようかと思って」

 それで駄目だった時は、俺自身が目の前の少女に毛の生えたばかりの様な領主さまの後見人となる事にしよう。
 ようじょだって対外的には養女という事になっているのだから、養女がふたりに増えたところでさしたる違いがあるとは思えない。

「とてもいい提案だと思います、旦那さま」
「そうですねえ。旦那さまのご意見には賛成ですよう」
「よかったね、ラメエちゃん」

 カサンドラ、タンヌダルクちゃん、エルパコの三人はどうやら賛同してくれるらしい。
 振り返ってこの場にいるもうひとり奥さんを見やると。

「シューターがそれでいいなら、オレは構わねえぜ」
「おーっほっほっほ! わたくしも構いませんわ。必要ならその嘆願状の連署に、わたくしと交流のある王都の貴族を加えてもいいかもしれませんですわ」

 取りあえず俺の決めた事にめったに口を挟まないニシカさんはともかくとして。
 カラメルネーゼさん、あなたは奥さんじゃないから……
 しかし彼女の提案はとても魅力的だ。
 実際のところの俺は、いくらラメエお嬢さまに同情しても彼女の本領を安堵できるほどの立場にはいないからな。
 実際にその権限や口出しする事が出来るのは、盟主連合軍の実質的な総大将であるツンデレのマリアちゃん。あるいは近頃辺境で一目を置かれている立場のアレクサンドロシアちゃん。
 どちらも妻と現地妻だけど、公私混同はいけない。

「ジイさん。どのみち茶番だが、嘆願書が用意できたのなら、俺が奥さんたちに掛け合って本領安堵をしてもらえるようにはお願いできるかもですね」

 俺の言葉を聞いた老騎士は平伏して頭を地面にこすり付けた。
 もちろん奥さんたちに囲まれていたラメエお嬢さまも、あわててそれに見習う。

「ありがとうございます、ありがとうございます!」

 普段は俺が口にしているセリフを、オホオ主従に奪われてしまった。
 べっ別に感謝されてうれしいわけじゃないんだからねっ。結婚とか本気で考えてないし、これ以上奥さんが増えても困るんだからねっ。


「その代わりしっかり森の中の道案内はたのみますね」
「はい、カサンドラお義姉さま」
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