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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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224 フクランダー寺院の遺構はダンジョン化していました 6


「そのミゲルという方は恐らくブルカ辺境伯さまの事ではありませんこと?」
「えっ?」
「ご主人さま、辺境で三〇数年前というところも、名前についても、類似点があると思うのです。ミゲルというお名前は珍しですし、まずは間違いないと思いますよ?」
「ええっ?!」

 上下左右に入り組んだ道筋を、バジルの嗅覚とソープ嬢の用意してくれたあまり役に立たない地図を頼りに調査隊のところに戻って来る事が出来た。
 しかし、俺はさっそくベトベトの服を脱ぐのを手伝ってもらいながら、大正義カサンドラに事の次第を説明したのだけれど、

「シューターさん、もしかしてその事にお気づきになっておられなかったのですか?」
「まさかとは思ったけど、やっぱりそうだったの?」

 小声で耳打ちしてくれた奥さんたちの言葉に、俺はつい驚きを隠せないで上ずり声を上げてしまった。
 ソープ嬢の居住空間ですでにその話に思い当たっていた蛸足麗人のカラメルネーゼさんや、男装の麗人ベローチュも同意見であるらしい。
 それだけでなく、俺が服を脱いで裸になったところで背中を拭いてくれていたカサンドラまではそう思っていたらしいね。

 正直、俺はこの世界の人間の名前には疎い方なので、命名基準やどの様な名前がありふれていて珍しいのかもわからないのでね。
 ッからはじまるゴブリンとか、名前の長い奴隷商人とか、おかしなやつはいくらでもいるからな……

 オルヴィアンヌ王国の辺境へ遣わされた騎士ミゲル、王国辺境地帯の要となるブルカ辺境伯領を治めるミゲルシャール。
 類似点についてはそういう可能性もあるんじゃないかと思っていたけれど、その可能性は高いのだとお貴族社会に詳しい蛸足麗人も男装の麗人も理解しているらしい。
 そうして、不機嫌に「男前の旦那さまがべちょべちょで台無しじゃないですかぁ」と不機嫌に不満をぶつけていたタンヌダルクちゃんの方へ、俺たちは一斉に視線を送るのだった。
 野牛の奥さんは今、謝罪の言葉を繰り返しているクリスティーソープランジェリーナに説教をしているところだった。

「わたしだって結婚するまではその、だっ旦那さまと唇を合わせたことはないんですからねっ! 何事も順番が大事なのです。そんな事では義姉さんにお叱りを受けてしまいますよ! フンッ」
「大変申し訳ない。人間たちのルールをいまいち理解していなかったので、今後順番については善処する様に心がける……」

 うなだれた蛇女というのも珍しいものである。
 どうも大正義カサンドラはぬるべちょになって帰って来た俺の事を「ご無事なら何よりです」と快く許してくれたのだけれども、タンヌダルクちゃんとけもみみは不機嫌そうにしているのだった。

 けもみみが不機嫌なのは、耳を見ていれば分かる。
 時々ぴこぴこと震わせながら周囲を警戒する様な態度をしているけれど、本当は俺とカサンドラのやり取り、ソープ嬢の態度をしっかりと観察しているのだと言うのが見て取れた。
 逆にタンヌダルクちゃんが不機嫌なのはフンス、フンスと兄譲りに鼻息荒くまくしたてているので、きっと俺が新しい奥さんをどこからか見つけてきたぐらいに思ってお怒りなのである。
 その誤解をどこかのタイミングで解いておきたい気分でしょうがないのだが、今はダンジョンの中で調査隊とともにいる。
 あまり恥ずかしい姿は調査隊のみなさんには見られたくないのである。

 げんなりした気分で俺がカサンドラの方向に向き直ったところ。

「大丈夫ですシューターさん。わたしが後でしっかりと話しておきますから」
「気持ちはとても嬉しいよ、けどこういう事は自分の口で説明しないとな。後でこじれた時は援護射撃をしてくれると助かる」
「はい、旦那さま」

 しかし一番敵愾心を丸出しにしているのは、実はカラメルネーゼさんなのかもしれない。
 この蛸足麗人、俺がソープ嬢に拉致された瞬間以後、血相を変えて奪還部隊を組織すると息巻いていたらしい。

「大切な婿殿に何かがあれば、わたくしたちの血縁同盟関係は崩壊してしまいますわ。シューター卿もその点にご留意なされて、ご自身の安全については理解なされませ。わたくしたちがしっかりとお守りしなくてはいけませんわね」
「そうだねカラメル義姉さん」

 この調子で、家族を守れなかったという負い目を感じたけもみみを味方に付けて、蛸足麗人はソープ嬢の居住空間に乗り込んで来たらしいね。
 一方、黄色い蛮族はこの状況を面白おかしそうに楽しんでいる様だった。

「それでどうなさいますかシューターさん。この事、ソープさんにお話をされるのですか?」

 カサンドラが話しかけてきた。
 この事、というのはミゲルが恐らくブルカ伯そのひとなのだろうという可能性だ。
 その事実をこの場で話してしまえば、俺たちはソープ嬢にとっての愛しいひとと敵対している間柄である事も当然暴露する必要が出てくるわけだが。
 だとすれば、どうしてブルカ伯の騎士と思われる連中が、このフクランダー寺院の遺構にやって来ていたのかという事である。

 未だ周辺警戒を怠らず、例の騎士が残した装備品を弄びながらニシカさんと何やら会話をしていたデルテ卿をチラチラと見やりながら俺は思考を巡らせた。

「色々な可能性があると思うが、黙っているのはフェアではないと思うな。しかし問題は事実を告げた際に、彼女がどう反応するかという問題もある」
「閣下、ひとついいですかね」
「何だマドゥーシャ」
「仮にあのラミアの女性と戦う事になった場合は、わたしはあまり戦力にならないと思うので申告しておきますよ」

 おずおずと生真面目な顔でそう口にした女魔法使いである。おちんぎんが足りないから、力になれませんという事かな?
 そんな馬鹿な事を一瞬だけ考えたけれど、どうやらそうではないらしい。

「ここはソープ嬢がダンジョンの主ですからね。地の利がありますし、地下の洞窟という事で火力を使った魔法で押し切るには無理があります」

 力技で大火力魔法を使った場合はあちこちの空洞が崩落する可能性もあるし、場合によっては炎の魔法で少ない空気が燃焼してしまう事を警戒しているらしい。
 もしくは俺たちもソープ嬢の地図を預かっているとはいえ、上下の立体的な図式になっていないので見取り方が実はよくわからないのだ。

「ここはダンジョンを出るまでは黙っている事を進言しますご主人さま。それでいいですね、マドゥーシャ?」
「はい先輩。わたしも戦って勝てる相手かどうかで問われれば無理です。命大事ですし、ノーと言える奴隷でいたいですね」
「やはり戦うのであればダンジョンの外に出なければなりませんわね。婿殿!」

 三人の意見が一致したと見えて次々に男装の麗人、女魔法使い、蛸足麗人が言葉を続けるのだが。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。どうして戦う事を前提にそんな話をするのですかきみたちはッ」
「ラミアの財宝というのがあるのでしたねご主人さま。これは軍資金としてぜひ活用させたいものですよ」

 腹黒い一面を見せるベローチュの言葉に、ふたりの賛同者も首肯して見せるのだった。
 女魔法使いはゼニゲバなのでこれはしょうがない反応なのかもしれないが、カラメルネーゼさんの態度はいかがなものか。そこまで敵愾心をむき出しにしているのはどういうわけかと俺は思ってしまった。
 けれどそうではないらしい。

「あの女はかなり強いですわよ。説得に失敗した時は、そういう覚悟を持っておくべきだと、わたくしは意見具申しますわね軍監さま」

 あえて役職を口にして見せたカラメルネーゼさんに、俺は苦虫を噛み潰した様な顔をしてしまった。
 最悪な気分である。
 ソープ嬢とミゲルシャール(推定)のロマンスの馴れ初めを聞いてしまった手前、とても微妙な気分である事は間違いない。
 軍事的な判断というのか、あるいは家族や仲間たちを守るための判断としてそうしなければならないのは理解できる。
 しかし覚悟を迫られている。

 などと思っていたら、その全部が無駄になる様な行動をカサンドラがやっていたのだ。

「義姉さん、どうされたのですか?」
「タンヌダルクちゃん、少しわたしにかわってくださいね」
「わかりましたよぅ。いいですかソープさん! 義姉さんは家族の中で一番偉いひとなんですからねっ」

 ふむ。とタンヌダルクちゃんのところへ合流したカサンドラに向かって、ソープ嬢は怪訝な顔をしていた。

「クリスティーソープランジェリーナさん」
「どうされたカサンドラ夫人。わたしの事は気安くソープと呼んでくれてかまわない」
「それではソープさん、わたしの事もどうぞカサンドラと気安く」

 先ほどまでの俺たちの話を聞いていたうえで、カサンドラのこの行動だ。
 大正義奥さんの言う事であるから、意味も無く俺たちを危険に晒す様な発言をするものではないと信じているけれど、それでも何を言い出すのかと気が気ではなかった。

「あなたのかつての想いびとは、ミゲルシャールというのが本当のお名前ですね?」
「詳しいな、カサンドラ義姉さん」
「隠し事をするのはわたしはよくないと思うので、ハッキリと申し上げますね?」

 何故かタンヌダルクちゃんに見習って義姉さんと呼んで見せたソープ嬢だが、その先にカサンドラが続けた言葉には俺たちも驚愕してしまう。

「「「?!!!」」」

 それは地上に出るまで言わないお約束ですよカサンドラさん!

「わたしたちの戦っているブルカ辺境伯というひとの名前が、ミゲルシャールさまと仰る方です」
「何となく、その事はあなたたちの態度から理解していたつもりだ……」
「いつからお気づきになられたのですか?」
「この場所に案内して、シューターさんを連れてくる道すがらだ。あちらの蛸足のご夫人や、女騎士のみなさんたちが必要以上に私を警戒していたからな。そんな事だろうとは思っていたのだが、確信を持ったのは、カサンドラ義姉さんたちがそちらで話している声が聞こえたからだな」

 聞こえた、という事は俺たちがヒソヒソ話をしていた事が、しっかりと耳に届いていたと言う事なのか?!
 ニシカさんやけもみみでもあるまいに、まさかヘビの聴覚も優れていたという事か。
 その言葉に驚愕していた俺の側で、静かに男装の麗人や女魔法使いが、いつでも戦闘態勢に入れるようにと構えをとるではないか。
 どうなってしまうんですかいったい、やばいですよ?!

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