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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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221 フクランダー寺院の遺構はダンジョン化していました 3


 ヘビの通り道には独特の癖がある。
 もちろんそれは種類にもよるのだけれど、俺たちの眼下にあるそれは車輪の走り抜けた後の様な、まさにわだちに似た何かだった。
 バイクが走り抜けるとこんな感じになるだろうか。
 だとすればこのバイクはかなりデカい事になるぜ……

「この通過跡からすると、だいたい大きさは五丈前後という事になるぜ。思ったよりも小さい」

 足元を改めて確認したニシカさんによれば、推定九メートル前後の大きさがあるヘビの親戚がここを通過した事になる。
 もちろん元いた俺の世界の基準で言えばモンスター級の大蛇という事になるが、このファンタジー世界では当たり前の様にマダラパイクという蛇のモンスターが存在している。
 普通はそれほど大きくならない(とは言ってもアナコンダぐらいには普通に成長する)と聞いていたが、中にはダンジョンの主まで成長する稀有な個体もいたはずだ。
 するとこの足跡の正体が、少し前に散乱していた騎士たちの装備を連れ去った、あるいは呑み込みでもした主と言う事になるのだろうか。
 その辺りの事を詳しそうなニシカさんや女魔法使いに質問したところ、

「ヘビはそもそも鳴き声を発さない。だからこのヘビびたいな足跡がそのままヘビそのものであるという風に考えるのは違うだろうな。ラミアだったか?」
「はい。人間の上半身を持ち、下半身はヘビの様な体をしたドラゴンの親戚ですよ」

 なるほど、先ほど女魔法使いはそのラミアをカラメルネーゼさんの親戚だと言っていた気がしたが、そういう事か。
 蛸足麗人のカラメルネーゼさんは、まさに半獣半人の猿人間だ。
 ハイエナ獣人のエルパコやミノタウロスのタンヌダルクちゃんは、基本的に外見も人間的な姿をしているが、より獣人ぽさがある姿をしているんだろうかラミアは。
 そういえばファンタジー小説なんかでラミアと言う単語を見た事があった気がするが、どういう内容だっただろうか。

「どういうものかご主人さまに説明しなさいマドゥーシャ」
「ラミアというのはですね、上半身が美女で下半身が蛇の姿をしています。上半身が美女であるのは、そういうのを利用して人間を誘っているのだと古い書籍には書かれていましたけれども。実物を見た事があるわけではないので、詳しいことはわかりませんよ閣下」
「するとあれか、変態属性持ちのいにしえの魔法使いの例にもれず、こいつもマダラパイクか何かのメスを擬人化して作られた種族か何かなのかな?」
「そうです閣下。いにしえの魔法使いは、その文明の終末期に人口が減った際、ありとあらゆる動物のメスを女人化させようと実験を繰り返してきましたからね。禁じられた魔法は恐ろしいですよ」

 チラリとタンヌダルクちゃんやけもみみ、そしてカラメルネーゼさんを見やった女魔法使いであるけれど、それらの女性は等しく俺の奥さんたちである。
 奥さんに貴賎なし! と不満を浮かべた俺の事などは関係なしに、女魔法使いは言葉を続けた。

「基本的にはそれらの猿人間たちも、いにしえの魔法使いたちを相手にして種を残さなければなりませんから。より容姿の優れた女が生き残り、そしていにしえの魔法使いたちが滅び去った後には、自己の種族を守るために優れた戦士が残っていったのです」

 その理屈で言うと、この先にいる可能性のあるラミアというのは、美女で優れた戦士が待っている事になるじゃないですか。
 しかも悲鳴のような咆哮を上げるモンスターという点で、すでに会話が成立しなさそうな相手である。

「しかしラミアかどうかというのは、あくまでわたしの推測ですからね? 細い体をしたトカゲの親戚がこの中に潜んでいる可能性も無くはありません。例えばナメルさんが触滅隊の財宝を隠した場所にはサラマンダーが守護するために封じられていましたけれども、」

 言葉を区切った女魔法使いは、空洞の先に広がる暗い闇に視線を向けながらひと息をついた。
 そしてゆっくりと言葉を続ける。

「このぐらいの、ひとが数名横に並んで歩いても通れる程度の場所を、スルリと潜り抜ける事が出来たと思いますよ。頭が通り抜ける場所であるならば、サラマンダーはどこでも狭い場所を移動できると思います」
「まるで猫みたいなトカゲの親戚だな」
「猫はドラゴンではないです閣下、それに猫は火の魔法を使わない……」

 ほほう。サラマンダーは名前から想像できるように火の魔法を使えるのかよ。
 それはまたやっかいなモンスターだが……

「安心してください閣下、サラマンダーはこんな足跡は残さなかったと思いますから」
「そうだぜ、これは蛇の仲間である事は間違いねえ。お前ら、飛び道具や荷物は捨てていけ。どうせ弓は狭い場所じゃ使えないからな。それに絡みつかれたらやっかいだ。身軽になれ」

 聞いていたニシカさんも首肯して見せると、背中の長弓を壁に立てかけて身軽になろうとする。
 今の彼女やけもみみたちは、俺と同じ様にブリガンダイン鎧を身に着けているが、身軽になれと言う事はこれも脱げと言う事だろうか。
 一瞬だけ思案した後に、俺はそれにも手を付ける事にした。
 確かにこんな狭い場所で俊敏に動き回る蛇男だか蛇女を相手に、重たい鎧で攻守を繰り広げるのは危険な気がするぜ。

 対人戦をやるわけではない。
 捕まったら最後、どのみち絞め殺される事を考えれば、不必要だね?
 俺はゴソゴソとサーコートとブリガンダインを脱いで端に寄せると、長剣と短剣だけを持って前進する準備を完了した。
 カサンドラはどうするべきか迷っていたようだけれど、

「シューターさん。わたしも脱いだ方がいいでしょうか」
「義姉さんやわたしは着ていた方がいいかもですよう。戦っている最中に岩の破片とかが飛んでくると言う事もあるかもしれませんし」
「そうですわね。わたくしも貴族軍人としての誇りがありますから、これを脱ぐわけにはいきませんわ。脱ぐのは心を許した殿方の前と決めておりますわ。おーっほっほっ」

 カサンドラにはタンヌダルクちゃんの助言を受け入れる様にアドバイスして、デルテ騎士爵の奥さんと一緒に下がってもらう事にした。
 カラメルネーゼさんは聞いても居ないのにそんな話をして流し眼をしていたけれど、その点は無視してパーティーのタンク役をやってもらう事にする。

「俺たちの防具よりもはるかに堅固な胸甲ですからね、むしろそれを利用して盾として活躍してもらった方がいいかもです」
「お任せくださいな。わたくしより後には一歩たりともラミアなどという不気味な猿人間は通しませんわ!」
「キュイ!」

 カラメルネーゼさんの頼もしい限りの発言に俺はニンマリしたけれど、続けて聞こえてきた言葉に俺はガクっとしてしまう。

「順番は大事ですのよ、順番は。次はわたくしの……ウフフ」

 こうして最前列で警戒をしながら俺たちを誘導する役がニシカさん、そのすぐ後方を蛸足麗人を前にして女魔法使いとけもみみが並んで三角になり、その後ろに俺とデルテ騎士爵、ベローチュという布陣が完成した。
 バジリスクのあかちゃんはこういう時に頼りになるというもので、何かこの先に確実に潜んでいるとなると、例の夜泣きで敵を硬直させることが出来る、魔法の咆哮がある。
 俺の足元にチョロチョロ走り回りながらまとわりついているけれど、今のところは別段何かに怯えているという様子は無かった。
 何というか無邪気なものである。
 いつぞや自分の生まれた故郷のダンジョンに入った時は、あれほど怯えていたというのにね。
 この差は何だろうかとそんな事を考えていると、

「……また装備が散乱しているな。これも冒険者のものじゃねえのか?」
「そうですわね、騎士が身に着ける様な甲冑にみえますわ。それに白のマントはブルカ辺境伯の領軍を示すものでは無かったですこと?」

 目の前でまた何かの遺留品が発見されたらしい。
 全員の緊張感一気に高まるのを感じた。
 先頭のそんな会話を聞きながら、俺たちはゆっくりと前進していく。
 やはりブルカ辺境伯がここに先着していた事は間違いないのだと、俺と男装の麗人は向き合って確認した。
 デルテ騎士爵もブルカ伯とはお付き合いが長かっただろうから同意するところだ。
 やがて少しずつ洞窟のスペースが徐々に広がっていく場所に到着して、いくつもの分岐路である事がわかった。
 発光魔法を複数発生させた女魔法使いが、それぞれの進路先に向けてそれを放つ。
 そのいくつかは進路を曲げた分岐の先の壁にぶつかり、そこにとどまりながらゆらゆらと光続けている。
 俺たちも隊列を解いて前に出て、部屋のあちこちに打ち上げられた発光魔法に照らされた室内を見回した。

 そうしてみると、この小さなエントランスみたいな場所で戦闘が行われた形跡を発見したのだ。
 のたうち回ったわだちの後、それから明らかにブーツと思われる足跡、そして剣の破片。
 ひとが踏み入った事は間違いない。それに、

「おい、ニシカさん天井を見てくれ。これは剣で争った跡だぞ」
「どうしてそんな事がわかるんだ相棒」
「これはどこにでもよくある長剣ですよね。けれどもほら、この刃には激しく斬り結んだ後がある。それに壁を見てくれみんな」
「おお、何かが刺さった様な跡がありますねご主人さま。なるほど剣です」
「たぶんあわてて剣を抜いてここで斬り結んだんだろう。その時に振り回したので、剣が天井を削ったんだな。それからこれ、」

 俺はいくつか転がっている剣のひとつを拾い上げた。
 ベタベタしている、さっきの遺留品と同じ様な感じだ。

「めちゃくちゃボロい剣なんですけど、手入れもされていない。大領主のブルカ伯に仕える剣士とは思えない……」

 などと俺が感想を口にしていたところで、バジルが吠えた。

「ギュイイイ!」
「シャー!!!!!!」

 どうやらバジルが反応してモンスターの気配を感じたらしい。
 俺があわてて立ち上がりながら剣を引き抜こうとするよりも早く、分岐路のひとつから鎌首を持ち上げて飛び出して来た巨大な蛇に斬りかかるふたつの姿があった。
 俺の頼りになる猟師新妻のニシカさん、そしてデルテ騎士爵である。

「どけ、ただの蛇だぜ!」
「一番槍もらったあああああ!!」

 こういう時に役割分担がしっかりしているパーティーというのはうれしい事だ。
 まず血気盛んなニシカさんとデルテ騎士爵がサイドから駆け上がっていった瞬間、カラメルネーゼさんは極太の長剣を引き抜いて盾役とばかりチームの前に飛び出す。
 即座に男装の麗人とエルパコが俺を守る様にして防御を固めるので、俺のやるべき事がない。
 せめて奥さんたちに俺もいいところを見せようと思っていたのだが、アテがはずれてしまったかもしれないね。

「ただのマダラパイクだ。蛇女じゃねえ!」
「よしでは俺がそっ首を落としてやる。カラメルネーゼ夫人、ニシカ夫人、悪く思うなよ! がはは」
「プシャー!!」

 首をもたげては突き出すという咬みつきアタックを数度繰り返す大蛇を相手に、ニシカさんやデルテ騎士爵はうまく避けながら隙を伺うべく剣やマシェットを振り回していた。
 カラメルネーゼさんもタックル気味に前進をかけたところで、攻撃の相手は彼女に絞り込んだらしい。
 けれども彼女がその触手で一撃を払って見せたところに、デルテ騎士爵がすかさず飛び込んで首を斬り落としたのである。

 すごい。意外と貴族軍人やってるデルテ騎士爵。
 俺は素直に感心して、剣の柄に手をかけていたそれを解いたのだったが。

「キュビーキュビビ!」
「どうしたあかちゃん。美味しくなさそうだから騒いでいるのかな?」
「違うぜシューター、まだ他に何かが潜んでいるんだ」

 首を斬り落としてもまだ胴体が暴れているマダラパイクを押さえつけていたニシカさんとカラメルネーゼさんであるけれど、ニシカさんが首を上げて俺に警告の言葉を発した。
 まだいる、という事はこのいくつもにわかれた分岐路のどこかに、また別のマダラパイクがいるのかな?
 違う、もしかしたらラミアかもしれない!

「ギイギイ、ギイキュビー!」

 不気味な静寂の中で、あかちゃんだけが騒がしく声を荒げながら足元を駆けまわっていた。
 何かの匂いをかいでは騒いでいるところを見ると、やはり何かがおかしいらしい。
 そうして俺の足元のところまで来たところで上を向いた。

「上?」

 俺はつられて天井を見上げると、天井にも空洞が続いていたのである。

「この上にも洞窟の続きがあるのか。ちょっと登れそうもないんだけれど、どうしようか……」
「待ってください閣下。わたしが発光魔法を使いますよ」

 周囲警戒だけは以前続けながら、その洞窟の上に向けて発光魔法を打ち上げてくれる女魔法使いだけれども。
 すぐにも怪しいと思われたのか、脇で俺の護衛に当たっていた男装の麗人に睨まれていた。

「サービス精神旺盛ですねマドゥーシャ。何か下心があるんじゃないでしょうね」
「とんでもないです閣下、死んだらおちんぎんもらえないから、必死なんですよこっちも。弾んでくださいね」

 しかし弾んだのはおちんぎんではなく、男装の麗人の豊か過ぎるばるんばるんおっぱいだった。
 おちんぎんという耳障りにちょっと卑猥な連想をしてしまい……
 俺の息子も弾みそうになってしまった。いいね!
 うん。そこはどうでもいいね!

 すぐさま上方を改めて見上げてみると、すぐ上で屈折しているらしい事がわかる。
 しかも何か生暖かい感じの空気が流れてきている様な気がしたので、恐ろしくなった。
 ひとがひとり通れる程度の狭い空洞。
 そしてその屈折した天井の穴を覗き込んでいる顔が見えた。

「あ、どうも。お邪魔してます」
「……あ、あのシューターさん誰とお話をされているのですか?」
「何か先客がいるって言うか。上にほら」

 女のひとがこっちを覗き込んでいるよ。
 俺はそう続けたかった。
 大正義カサンドラに声を駆けられたので俺が説明をしようと視線を外した瞬間、突然ぐいんと手が伸びて来て、俺がその場に引き上げられたのである。
 油断をしていたと言うか、ほとんどホラーでだ。

「ちょ、やめて何だわうあぁ!!」

 暗がりの中、天井から覗き込んでいるひとがいると言うだけでもホラーなのに、そこから手が伸びて来て俺は引き上げられたんだからな。
 引きずり上げられながら、今この瞬間だけはファンタジー世界というよりホラー世界だと恐怖のどん底に叩きとされると言うギャップに大混乱だ。

「シューターさん、あなた!!」
「ご主人さまが穴に引きずり込まれた。マドゥーシャ何とかしなさい!」
「えっ、わたしがですか?」
「ギュイーーー!!」

 そんな部下やハーレム大家族の叫ぶ声が聞こえた気がしたが、その後締め上げられてしまった俺にはどうする事も出来なかったのである。

 助けて奥さん!
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