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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第2章 ダンジョン・アンド・スレイブ

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27 ダンジョン・アンド・スレイブ 2


 俺たちがやってきた場所は、ブルカの街から半日あまりの距離があるかつて村落のあった遺構だった。
 全部で十数棟の家屋と、集会所か何かだったらしい、それよりひとまわり大きな古代建築があった。
 屋根は完全に崩れ落ちてしまっていたが、その代わりに丈夫な石組みの壁面は残されていて、サルワタの開拓村が土壁の民家だった事を考えると、より立派な印象があった。
周辺はまばらな低木林と、鬱蒼と生い茂った広葉樹が広がる。広葉樹だけが繁栄しているのは、人間の手が長らく入っていない証拠だ。

「ここはブルカ辺境伯がこの土地を統治しはじめる以前にあった、集落の跡地なのです。家の数から考えると、だいたい人口は一〇〇人ぐらいかな? この奥にダンジョンがあります」

 いったん基礎の残った石の家屋跡に入った俺たちに、ッヨイさまが説明してくれた。ここをアタックのためのベースにしていたのだろう。
 すでにダンジョンの近くに到着しているという事で、ッヨイさまも雁木マリも周囲警戒を怠っていない。
 ッヨイさまは魔法使いなので、武器らしい武器と言えば腰後ろに護身用ナイフをさしているだけだが、その代わりに豪華な装丁の魔導書を手に持っていた。
 これが魔法発動の媒体にでもなるのだろうか。
 それともうひとつ、野外用ランタンの様なものをダンジョン侵入にあたって用意していた。

「これは?」
「魔法のランタンだょ。魔力をエネルギーにして火を燃やすのです。中の台座に魔法の発動式が刻まれていて、血を入れる事で使用者の魔力を吸い上げて燃焼する様になっているのです。だから魔法が使えなくても安心ですどれぇ」
「なるほど便利なものなんですね。で、血っていうのは?」
「どれぇは手を出してください。はい、この付属品の針で指を差します」
「痛いのやですよもぅ」

 俺はいやいやをしながらも黙って指を針で刺された。
 すると、ぷつっと小さな血の雫が出て、その針をランタンの台座のところにッヨイさまが差し込む。
 ッヨイさまは説明を続ける。

「後はこのノブを捻ると火が付くよ」
「火が付きましたね」
「ッヨイとか魔法が使える人間はできるだけ魔力を温存しておかないといけないので、普段はあまり使いません」
「へえへえ」
「魔力は誰にでも備わっているものなので、こういう道具は前衛の戦士系のひとか、荷物運び(ポーター)が魔力を供給するかして発動させるのです。わかりましたか?」
「わかりました。ッヨイさま!」

 一方、雁木マリの方もダンジョン入りの準備をしはじめている。
 こいつはノースリーブのワンピースに、鉄皮合板の鎧を装着していた。
 革鎧とばかり思っていたのだが、鉄板の型をなめし革でプレスする様に加工したものらしい。
 金属鎧は防御力の意味ではすぐれているが、そのかわりに重くかさばり熱しやすく冷めやすい。だから人間の体力を容易に奪ってしまう。そこである程度防御力では劣る革と、薄い鉄板を組み合わせているというわけだ。金属部分が皮膚に触れると冷えると熱を奪い、暑くなると熱を伝えると最悪なので、その保険にもなる。

 恐らく値段は相応にお高いのだろう。
 そして長剣だ。この世界の人間がどういうわけか好んで使っている様に見える刃が厚く広いタイプの長剣である。斬れ味よりも耐久度を重視している様で、剣の斬れ味が落ちはじめた時に遠心力で相手にダメージを与えようという意図だろう。
 鞘から抜いて刃の状態を確かめたり、柄の留め金の具合を確かめている辺り、雁木マリも実戦経験がそれなりにあるという事なんだろうな。
 むかし俺がとある劇団で若い団員に殺陣の指導を臨時でしていた頃も、模造刀を使う時はきっちりと目釘を確かめる様に口を酸っぱくして説明したもんだが、これと同じである。

 俺はふと雁木マリに質問をした。

「あんた、人を斬った事はあるか?」
「愚問ね。あたしは騎士修道会の修道騎士だもん、盗賊の討伐命令が出れば躊躇なく斬るわよ」
「そ、そうか」

 さも当たり前の様に雁木マリは濁ったどんぐり眼でそう返事をすると、長剣を鞘に納めた。
 それから剣を吊るしている腰のベルトに手をやり、いくつかのガラスか何かに入った様な小さなカプセルの様なものを確かめはじめた。

「それは何だ」
「ポーションよ、必要に応じて使い分けるの。体力強化、筋力強化、知覚強化、回復強化、興奮促進。そういうのがあるわ。お前もいる?」
「薬かよ。薬は結構だ……」
「ふん。そう?」

 恐らくこのファンタジー世界では合法な、さまざまな医薬品か何かなのだろう。
 ファンタジーゲームで言えばHP回復薬や耐久力強化薬みたいな位置づけなのだろうが、現実にこれを多用するのは、ほとんど薬物常習者みたいで気後れする。
 しかし雁木マリは平気な顔をして、そのうちのひとつを取りだすと、器具に挿入して腕に押し当てた。
 異世界の注射器というわけか。

「こうして専用の器具にカプセルポーションをセットしたら、押し込むのよ。ッく……」
「今使ったのは?」
「筋力強化よ。効力は半日ぐらい継続するから、序盤に力押しでダンジョンの深部に入る時に効果的よ」
「複数同時に使ったりしたら副作用はないのか?」
「そうね。わたしは魔法も使えるから、身体操法は自分である程度コントロールできるわよ。素人が同時にいくつも使うのはやめておいた方がいいかもね。ふぅ……」

 カプセルポーションをキめた雁木マリは恍惚とした表情を浮かべて、傍らでマップを広げてチェックにいそしんでいたようじょに向き直った。

「こっちは準備できたわ」
「はいです。あいぼーはいつも通りの前衛で、最後尾がどれぇ。前回入ったところまで、障害になりそうなものは排除できてるから、一気に奥まで行きましょう」
「わかったわ」

 ふたりのやり取りを眼で追うと、俺もうなずいて荷物を担ぎなおした。
 ダンジョン進入にあたり、右手にメイス、左手に先ほどのランタンという格好だった。

「よし、行くわよ」

     ◆

 自然洞窟というだけはあって、入口は少し広めの大きさがあった。
 だいたいマンションのエントランスホールみたいな感じだ。削り出されてつるりとした壁面になっているので、古代人たちがここを住居か倉庫か、そういう意図で加工を加えたのだろう。
 もしかしたら神殿だったのかも知れない。

「奥はすぐに陽の光が差し込まなくなるからね。あたしは自分の魔力で光を出すから、奴隷は明かりの死角を作らない様にッヨイをサポートしなさい」
「わかった。あんた、この世界の人間じゃないのに魔法が使えるのか」
「いっぱい訓練したのよ。四年間、血反吐を吐くような努力をし続けてね」

 あっさりとそう言ってのける先頭の雁木マリ。
 なるほど、だが異世界人の俺でも訓練すれば魔法が使える事が確実にわかったのは嬉しい。
 いやよく考えれば俺の持った魔法のランタンも、俺から魔力の供給を受けて稼動しているわけだから、あとは理屈さえ覚えれば俺でも使えるのか。
 しかし血反吐を吐く様な努力か。
 サルワタの森以外に何もない様な辺境の開拓村に全裸で登場した俺と違って、雁木マリは聖堂に降誕したのだ。
 いけ好かないヤツである事に違いはないが、聖女降誕などと言われて騒がれたらしいから、それ相応に期待されて、その期待に応えるために必死に頑張ったんだろうな。
 片手の自由を確保するために左手にランタンとメイスを両方持った俺は、洞窟の壁を触りながらゆっくりと奥に入った。

「情報によれば最深部に神殿があるのです。最後にこのダンジョンに人間が入ったのは十五年前という事だけど、以後は掃討のために冒険者は派遣されてないのです」
「それでこのダンジョンの主というのが、長らく放置されている間に出現したんですね」
「そうですねー。ダンジョンの主と、それからここを根城にしていたコボルトなんですどれぇ」

 ジャッカル顔の猿人間か、どこにでもいるなアイツらは。
 すると、ッヨイさまの代わりに今度は雁木マリが口を開く。

「洞窟系の史跡なんかはコボルトの巣に利用されたりするからね。それから鉱山跡地。そういうところが、連中の集団営巣地になりやすいらしいわ。道具や武器も資材庫に放置されていたりするしね」
「なるほど勉強になります」
「あとは大蛇の類かしら。ここは湿度も高いし冬も暖かいから、いる可能性はあるわ。前回入った時に、あらかたコボルトは処分したんだけど」

 処分か。雁木マリにしてみれば猿人間は狩りの対象ではないんだな。

「問題は最深部ね。ここは古代人が礼拝所として使っていた跡地なんだけど、奥に地底湖があるの。そこがどうやらダンジョンの主の住処になっているはずなんだけど」
「相手は何だ。ワイバーンとかか?」
「違うわよ。でも、似たようなものかしら」

 コツコツとブーツを響かせながら少しだけこちらに視線を向けた雁木マリが言った。

「似た様なものって何だよマリ」
「お前、バジリスクって知ってる?」

 俺の質問に、雁木マリが質問で返して来やがった。
 嫌なヤツがよくやる返し技だ。

「いや知らない。コミックか何かのタイトルかな」
「チッ。これだから無学低能は」
「俺は異世界に来てまだ日が無いんだよ。そういう事を言うなよな」
「どれぇ、バジリスクは頭にトサカのある化物トカゲです。地上を這うドラゴンだと思ってくださいどれぇ」
「お、ドラゴンか。ッヨイさまありがとうございます」

 俺は教えてくださったッヨイさまに感謝した。
 嬉しくなったのでついついッヨイさまの頭をなでなでする。
 すると「えへへ」とッヨイさまが笑った。
 ッヨイさまか~わいい。
 しかし。
 どこにでもいるな、ドラゴンの仲間。

「あたしらのいた世界のゲームじゃ、毒を持ってるとか視線で石化する能力があるとか言われてるけど」
「こっちでもそいつは、そんな能力があるのか?」
「ないわよ。石化はしないかわりに、遭遇した人間は恐怖で硬直してしまうのよ」
「それは咆哮でか」
「……ええ。何よお前、知っているじゃない?」
「村に居た時に、共同でワイバーンを仕留めた事がある」
「へぇ?」

 俺がドヤ顔でそう説明すると、チラリと面白くなさそうな顔を雁木マリが送って来た。

「どれぇはワイバーンを仕留めたのですか?」
「はい。辺境のサルワタの森にある開拓村の猟師をやっていたのですがね、森から出てきた悪いワイバーンのオスが、村で悪さをしたのですよ。そこで俺は、村周辺で一番腕のいい狩人である、鱗裂きのニシカさんというひとと、ふたりで討伐したんです」
「どれぇはすごいですね!」
「本当かしらね。この世界に降誕して、たかが一年にも満たないんでしょ? そんなのお前にできるはずがないわ」
「それができたんだなぁ」
「じゃあ、ちょっと証明してみなさいよ」

 雁木マリは洞窟を進む足どりを止めて、剣に手をかけた。

「ん?」
「この先に広場になっている場所があるわ。そこにまだ、処分しそこねたコボルトか何かが残っているみたい。数は二桁は行かないはずだわ。相手できる?」
「わかった。やってみよう」
「あたしが右、お前が左」

 俺は背中の荷物を下ろした。いつでも戦闘態勢を取れるように腰の短剣も確認した後で、右手にメイスを握りなおす。

「ッヨイは」
「なんですかガンギマリー?」
「ここであまり大きな音を出すと、バジリスクに気づかれてしまう可能性があるわ。攻撃魔法は無しで」
「わかったのです」
「代わりに広場の天井に、魔法で光を打ち上げてくれる?」
「任せてください!」

 三人はうなずき合った。
 俺は姿勢を低くしながら、雁木マリといっしょに壁伝いにこの先の広場を見やる。
 コボルトだ。
 一、二、三、四、五、六。思ったより多いな……

 ワイバーン対峙をいっこうに信じてもらえないのはまあしょうがない。
 にしても、活躍して役に立てば、少しは早く奴隷から解放されるかもしれない。

「じゃあいくわよ?」
「いつでもいいぜ!」
 俺たちは気合とともに、広場に向かって踊り出した。

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