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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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219 フクランダー寺院の遺構はダンジョン化していました 1

いったん投稿後、説明不足部分に加筆を加えました。
 俺たちが戦略要衝として第一目標に掲げていたフクランダー寺院の遺構であるけれど、別動隊を率いてその場所に到達してみるとダンジョン化していたのだ。
 恐らく数十年にわたって打ち捨てられていた古代人の宗教施設、そして辺境開拓初期の軍事要塞。
 そこはひとがまるで寄り付かなくなってから以後、ダンジョンの主たるモンスターが住み着いていただなんて、いった誰が想像しただろうか。

「聞こえるんですよ中から。時々オオオオンっていう不気味な反響がして、寺院の入り口辺りまでそれが届くんです。あれはきっと化け物に違いありません。モンスターですよ!」

 そう言って事情を説明してくれたのが、モッコ村から連れてこられた水先案内人の言葉だった。
 地元の猟師をしている人間なので、この辺りの打ち捨てられたフクランダー寺院の遺構まで、猟で足を運んだこともあるらしい。

「おい男。適当な事を言っていると首にある動脈に切れ目を入れてやるからな。ん?」
「ヒイ、お許しください黄色い長耳の騎士さま。嘘は言っていません、本当に聞いたんですよ!」
「聞いただけだと言う事は、見た事は無いんだな」
「ありません、だって怖いじゃないですか。サラマンダーとかいたら死んでしまいますッ」

 ニシカさんが地元猟師の若い男に凄んで見せると、萎縮した彼は声を震わせてペコペコとしていた。
 ペコペコしながらばるんぼいん揺れよるニシカさんの豊かな膨らみも、チラ見している。
 それを目撃した俺の中で独占欲が膨らんで、ついでに息子も膨らみそうになった。

「おい手前ェどこを見ているんだ。あン?!」
「ひえっ、ちょっとおっかなくて視線を合わせるのをためらっただけです黄色い騎士さま」
「おい嘘を言うな。シューターと同じ視線を感じたぞ!」

 とんでもない、濡れ衣です。
 俺と水先案内人の猟師くんは揃ってブルブルと首を横に振った。

「なあ相棒。この男が言っている事が本当なら、中に大物のモンスターが潜んでいるという事になるぜ」
「あのう、シューターさん。本隊が到着するまではあとひと晩ほどは余裕があります」

 ニシカさんと正妻カサンドラが、それぞれ俺の脇に立って意見具申をしてくれた。
 頼れる相棒は、どうやら仲間を引き入れて内部を調査すべきだと言いたいらしい。
 逆に大正義カサンドラは、無理に攻め込む必要はないので様子見をするべきだと言いたいのかもしれない。
 むむっ。

「本隊が到着するまでに寺院を接収するのが俺たちの役割だ。本来ならば寺院の遺構に踏み入って、受け入れ態勢を完了させておかないといけないんだけどな。さてどうしたものか……」

 そう口にした俺は、目の前に広がる荘厳なる寺院の遺構に眼を向けた。
 森の中にこつ然と姿を現した様なフクランダー寺院は、それはもう立派な佇まいだった。
 茶色く変色してしまった日干しレンガか何かの壁面にはツタや苔なんかがびっしりと張り付いているけれど、そびえ立つ礼拝堂か何かの塔や建屋はまだまだ健在で、一部の破損した場所も軽く修繕を加えれば十分に拠点として役に立つだろう。
 しげしげと眺めていると、俺は世界遺産のアンコールワットを連想した。

 そうこうしているうちに、傭兵たちを引き連れて周辺調査に出かけていたけもみみのチームと男装の麗人のチームがそれぞれ分かれて帰還してくるのが見えた。
 左右から遺構の周辺をぐるりと調査して回って来たらしい。

「シューターさん、林の幾つかに最近たき火をしていた様な跡がいくつか見つかったよ。野営をしていたという感じよりは、長期間ここに居座った様な跡だったよ」
「ご主人さま。内部にはどうやら洞窟の様なものがある様です。どうもこの寺院跡地は、その洞窟を囲む様に、あるいは封じる様にして建立された形跡がありますね」
「最近までここに人間が出入りしていた形跡があって、内部は洞窟があると。ふむ、どういう事だ?」

 ふたりの報告を受けて腕組みをした俺だけれど、これをどう解釈していいのかよくわからなかった。
 もしもこの場に雁木マリかようじょがいれば、こういうダンジョン探索をしていた経験から何かの閃きを得られるかもしれない。
 特に雁木マリは武装教団の枢機卿という偉いひとだからな。この国で広く信仰されている女神様の言い伝えか何かの中に、フクランダー寺院の説話も残っているかも知れないぜ。
 うん、そんな風に考えたところで俺は背後を振り返った。

「誰か、ハーナディンくんを呼んできてくれないか!」
「すいません! 僕はいまトイレ中です!!」

 俺が叫んだところ、どこかの林の中から悲鳴の様なハーナディンくんの声が聞こえた。
 するとニシカさんとカサンドラが、揃ってとある方向を指し示した。
 なるほど、あの林の陰でしゃがんでいるらしい。

「水が尽きたので、お湯を沸かさずに飲んでしまったのだそうです。面倒ですが、やはり水は沸かして飲まなければいけませんね、ダルクちゃん。旦那さまは盟主連合軍の軍監さまですからね」
「そうですよう。旦那さまのお水は、毎晩寝る前にしっかり沸かして冷ましてから、朝水筒に入れているので大丈夫ですよう」

 カサンドラとタンヌダルクがそんな会話をしていると、一緒になってけもみみもうんうんと頷いていた。
 よく出来た奥さんたちを我が家に迎えられて、俺はとても幸せ者です。しかし……
 ハーナディンくんは、こんな時に糞の役にも立たないな!
 するとそんなハーナディンンくんに代わって、野営準備中の輪から蛸足麗人がやって来るではないか。

「おーっほっほっほ。婿殿、わたくしが意見具申しても?」
「何ですかカラメルネーゼさん。ご自分が洞窟探索に志願をするなら許可します」
「そ、そうではないですわ。どうしてブルカ同盟軍がこの寺院を事前に接収していなかったのか、思い当たったのですわ」
「ふむ……」

 自慢の槍をグサリと地面に刺したカラメルネーゼさんは、そうしておいてけもみみと男装の麗人に視線を飛ばした。

「エルパコさん、野営の跡から想像して人数はどのぐらいか想像は出来まして?」
「そうだね。だいたいぼくたちと同じぐらいの人数が、少なくとも半月ぐらいはいた形跡があるよ」
「なるほどですわ。つまり事前にブルカ伯の手勢がこの場所を知っていて、調査に訪れていた可能性がありますわね。ベローチュさん、遺構の内部まで足を踏み入れたのですわね?」
「はっ。一応建物の一階と思われる場所は一通り、それから階上は軽く見て回りましたが、最奥部の礼拝施設らしき場所の中には踏み入れていません」
「そこに洞窟の入り口があったのですわね?」
「そうです。礼拝施設と思われる場所は、中にむき出しの岩の様なものがありましたが、エルパコ奥さまのパトロールチームとそこで出くわしまして、相談した上で今は踏み込まないで先に報告をしようと……」

 男装の麗人が言葉の最後にけもみみに視線を送る。
 すると同意を示す様にけもみみはうんと頷いて全員の視線が俺に集まった。

「ちなみに内部にも、最近ひとが踏み入った形跡がありました。特に一階部分などは室内の家具などが片づけられていて、寝起きに使っていたのかもしれませんね」
「婿殿、やはりそうなると考えられることはひとつですわ。ブルカ辺境伯は事前のこの寺院を利用できるかどうか、調査チームを送り出して調べていたのです。そこでモンスターと遭遇し、逃げ出したのですわ!」
「カラメルネーゼさん、ぼくは違うと思うよ……」

 力説するカラメルネーゼさんであったけれど、あっさり違うとけもみみに否定される。
 どうやら整然と撤退した形跡があるので、一目散に逃げだしたという雰囲気ではないらしい。

「で、ではこれはどうかしらエルパコさん? 洞窟がある事を知り、地元猟師が聞いたと言う方向の主、モンスターを解き放ったのですわ。間違いないですわ!」
「お、俺がこの寺院の近くで咆哮を聞いたのは、もう五年も前ぐらいからです。それも一度や二度の事ではなく……」
「ちなみに野営の跡地を見た限り、ここ数か月前にキャンプ生活をしていた様でしたカラメルネーゼ奥さま」
「…………」

 との事である。
 地元猟師と男装の麗人にまで駄目だしをされてしまったので、触手をピルピルと震わせながら蛸足麗人は意気消沈してしまった様だ。けれども「奥さま」と男装の麗人に言われた事だけはご満悦だったのか、うつむきながら少しニヤリとした上で、拳をグッと握った姿だけは見ちゃったよ、俺。

「やはりご主人さま。周辺調査を徹底した上で、内部に探索チームを下ろすのが妥当かと思います。ご主人さまを含め、ニシカ奥さまや傭兵の中には冒険者経験のある者が多数おります。また、自分など使い捨てに出来る奴隷もこの通り揃っておりますからね」

 そう言って男装の麗人が背後を振り返ると、女魔法使いやクレメンスを見やった。
 どうやら昼食の支度のためにせっせと鍋を暖めていたらしく、ふたりは「違いますよ新人、芋の大きさは均等にするんです」「おらは料理が得意じゃないですだ」などとナイフで芋を剥いているところだった。
 いや女魔法使いはともかく、クレメンスは奴隷じゃないから……
 それに大切な部下を使い捨てになんかしないから!

「なあ相棒、やはり狩りをするしかないぜ」
「その時はわたしもお供します、シューターさん」

 興味深そうにニシカさんもカサンドラも耳を傾けていたけれど、タンヌダルクちゃんだけは足元を走り回っているバジルにじゃれつかれてそれどころではなかった様だ。

「はあン、駄目ですよあかちゃん。今は家族がいるんだから、その続きはふたりっきりの時に、ね?」

 何を言っているんだ野牛の奥さんは……
 俺はバジルと戯れるタンヌダルクちゃんを目撃して、ついついあらぬ連想を浮かべてしまったのだ。
 呆れた顔をしているところに、ようやくハーナディンくんの登場である。

「やあすいません、どうも腹の調子がよろしくありませんで。しばらくは生水を飲む時は酒で薄める様にしましょう」
「きみに少し質問があるのだが、ハーナディンくんはこのフクランダー寺院の歴史についてどこまで知っているかな?」
「それはどういう意味でしょうか? 聖典の中に出てくる伝承についてですかね」

 少々青い顔をしながら腹をさすっているハーナディンに俺は言葉をかける。

「知っている事を、何でもいい。中から変な鳴き声が聞こえてきたというので調べたら、実際に洞窟が奥の礼拝施設にあったらしい。しかも周辺でどうやら数十人がしばらく野営した跡まで見つかったのでね」
「ははあ、では僕が知っているあらましを……」

 いにしえの魔法使いたちが栄えた時代、この場所に女神様を祀る立派な寺院がありました。それがフクランダー遺跡というわけですけれど、いにしえの魔法使いたちの文明が滅びると寺院は放棄され、数百年の間はひとびとの記憶から忘れ去られていました。
 やがて辺境の開拓がはじまると、王国軍の兵団がリンドル川を挟んで西の拠点と東の拠点を作ったのですよ。

「それがフクランダー寺院の遺構を利用した要塞と、後にセレスタの街になる拠点です」

 なるほど、セレスタとフクランダーはそういう歴史的経緯があったのか。
 そのふたつの拠点を利用して辺境の開墾作業を続けていったが、フクランダー寺院は辺鄙な森の中にあるので街道の交易拠点としては栄えず、周囲の蛮族たちを亡ぼすと打ち捨てられる事になった。
 一方のセレスタはリンドル川沿いにある小高い丘をくり抜いて作られた要塞都市だ。そのまま交易中継地として利用価値があったので、今日まで残ったと言うわけである。

「しかし中に洞窟があると言うのは興味深いですね。どうやらいにしえの魔法使いたちは、宗教施設を造る際に自然洞窟を多用している節があるんです。きっとガンギマリーさまがその事を知ったら、調査隊を送り出そうと言い出すと思いますよ」

 今は戦時下なのでそんな余裕はないですがね。
 ハーナディンはそんな風に言って話を締めくくった。
 それじゃ困るんだよ! これから盟主連合軍の主力がここを拠点にして、周辺の反抗領主たちを攻略していくんだからな!

「中に魔王でも潜んでいるんじゃないだろうな……」
「それはあり得ませんが、ドラゴンの仲間ぐらいは封印されているかも知れませんね。先ほども言いましたが、女神様の怒りを鎮めるために、いにしえの魔法使いたちは自然洞窟のあった場所を施設に作り替えていましたから」

 俺がふと不安を抱きながら魔王と口にしたところ、ハーナディンがとんでもない言葉を口にしたのだった。
 次の瞬間に、黄色い蛮族がニヤニヤ顔を浮かべたのが視界に飛び込んで来た。
 マジかよ。戦時中にサラマンダー討伐とか、マジでやめてください。

「よっしゃ、オレ様の出番だな。鱗裂きの名を示す時が来たぜ!」

 来ないでいいんですよ。今は……
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