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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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216 チャージ・オブ・ビューティー 3


 オホオの村は辺境のどこにでもありそうな集落である。
 大きな相違点がひとつあるとすれば、リンドル川西岸に上陸した盟主連合軍の主力が、必ずここを攻略してくる事が事前に予想されていたという事だろうか。
 そういう意味でオホオの村は早い段階で防衛陣地の構築着手に余念がなかったそうだ。
 拒馬ではなく馬防柵という地面に直接杭を打ち付ける防御線をいくつも段違いに形成していて、村の拠点を囲む様にして武装農民たちが立てこもる体制を見せていた。

 その数は一〇〇を超える戦士の数だったので、血気盛んに「帰れ! 帰れ!」とはやし立てる武装農民たちを見た男色男爵の主従は、とても苦い顔をしたのだ。

「どういう事なのかしらあ。物見の塔だけでなく、木組みの見張り台に馬防柵。とても戦争の素人である成人したばかりのお嬢ちゃんが考えた防御陣地には思えないわよぉ!」

 馬上から部下たちと遠巻きに村の有様を見た男色男爵は、その野太い声で不満を口にした。
 当たり前のことだが、誰だって一〇歳になったばかりの女の子領主の首を斬り落としたくないものだ。
 もしかすると、この世界のようじょとはッヨイさまと同じ様に等しくおりこうさんなのだろうか。
 一瞬だけその時の話を聞いた俺も疑ってしまったけれど、そんな天才軍師が辺境の片田舎にゴロゴロといてもらっては困るものだ。

「これは間違いなく入れ知恵をした人間がいるわあ」
「軍監を務めておられる全裸閣下の仰っていた、噂のツジンの仕業でしょうか」
「わからないわあ。少なくとも戦争経験がある人間でなければ、これほど堅固な騎兵対策が出来るわけがないもの」

 男色男爵によれば、この陣地構築を一見すると辺境開拓史の中で戦争を戦って来た者がする開拓村の防衛対策ではないだろうと感じたそうだ。
 ぐるりとオホオ村の周辺を回って視察した男色男爵は、予想以上に敵側に戦士の数が多いことにいくらか驚いた。
 せいぜい数十からの抵抗勢力がいればいいと思ったのだが、集落の領民たちを引き入れて、戦える成人はみんな武器を手に取っているという有様だ。

「覚悟が決まっている農民程やりにくい敵はいないだわあ」
「しかし、やっかいですな」
「まず辺境の土着民たちは、騎兵よりも歩兵の数で攻め寄せる戦い方をするわねえ。そういう点を考えると、この陣地構築を意見具申した人間というのは、軍隊同士の大規模な会戦を経験した人間じゃなければ出来ないわ。それに、」

 槍を指し示した男色男爵は、口惜しそうに適材適所に配置された監視台を睨み付けた。

「高低差を付けた弓手の配置は、巧みなものだわぁ。あれは隣国と国境争いをしている時に、いくつもの野戦築城で見た手口ねぇ」

 もしかすると、それよりも堅固で巧みにすら見えるのだ。
 村を囲む様に配置されたそれらの監視台は、上手い具合に死角を潰す形で弓兵が配置されているのである。
 わざと多重になった馬防柵の向こう側に、戸板を立てかけた最終防衛ラインみたいなものが見えていて、戸板の向こう側から血気盛んな武装農民が吠えているという格好だった。

「これでは、われら妖精剣士隊の得意とする騎馬突撃(チャージ)というわけにはいきませんな」
「アンタ、何を当たり前な事を言っているの。総員接争で対応するわよお。抜剣用意!」

 馬で接近していくつもの馬防柵をジグザグに潜り抜けている間に、敵の弓手から射撃を雨あられと放たれる事は間違いなかった。
 ただし相手は武装農民や猟師たちが大半なので、人間を確実に狙って放つのではなく、ただ数を頼りに面で制圧する手法でオホオ村の指揮官は対応してくるだろう。

「貴族軍人の剣士隊と、素人の武装農民の違いを見せつけてやりなさい。第一分隊、第二分隊はアタシに続け。第三分隊、第四分隊は左翼に回り込め。馬上接近を試みた後、下馬戦闘に移行するわあ!」
「「「イエス・マーム!」」」
「突貫、突貫、突貫!!!」

 剣を高らかに突き上げた男色男爵は、よく通る低音ボイスで吠えると、騎馬を斜行陣形で突撃させながら馬守柵への接近を命じた。

 さすが歴戦の褐色長耳族だけで構成されたエリート剣士隊である。
 男色チャージを見たとたんにオホオ村の武装農民たちからは大きなどよめきが起きると、その集団に紛れ込んでいたであろう村の騎士の号令によって弓の射撃が開始された。

 応射用意、放て!
 そんな叫び声が上がったらしかったが、男色男爵が突撃の最中に受けた弓の射撃は散発的で、ほとんどものの数ではなかったらしい。
 陣地はプロの野戦築城だった。
 けれども率いられた戦士たちはしょせん武装農民、そして指示を飛ばしている騎士も見るからに経験不足。
 事前の命令が行き届いていなかった事を感じた男色男爵は、最初の馬防柵の隙間をを巧みな手綱捌きで潜り抜ける。
 ここに来てようやく戸板の盾の隙間からわらわらと飛び出して来た武装農民たちが、安っぽい槍を突き立てようと不揃いに攻撃をしてきた。

「ああン! その程度の攻撃じゃものたりないのよおおおお!」

 男爵は騎馬から華麗に飛び降りるとその勢いのまままひとり、ふたりと斬り伏せてしまう。
 農民と言えど武装した以上は戦士の数にカウントされる。
 そういうこのファンタジー世界の倫理観に従って、男色男爵は無遠慮に槍を振り回したのだ。
 後続のモッコリ頭の剣士たちも、突撃の勢いのまま華麗に飛翔しながら馬防柵をまたいでいく者、くるくると回転しながら着地するもの、まちまちに戦場を彩った。

 俺もそんな雑技団か京劇団みたいな戦い方をするというのをこの眼で見るまで知らなかったのだが。
 きっとそれを目の当たりにしたオホオ村の指揮官たちは驚愕しただろう。

 妖精剣士隊は戦場で本来の得意技である騎馬突撃を失ってしまったけれど、彼らは男色男爵が後宮警備を任されていた時代には、白兵戦だって訓練されていたのだ。

「おのれリンドル御台の色香に惑わされた逆賊どもが!」
「失礼ね、アタシは女には興味がないのよおおお!」

 形勢不利と判断したのだろう。
 この段階で白刃をきらめかせながら飛び出して来たひとりの騎士がいたらしい。
 かれは間違いなく立派な甲冑に白のマントを纏っていたけれど、その姿はとても垢抜けていて田舎貴族の格好では無かったそうだ。

「そんな事はどうでもいい! 気色の悪い化粧なんぞしやがって、それでも男かッ」
「男がメイクをしてはいけないという国法は無いわ、名を名乗りなさいい。無礼討ちにしてくれるわあああ」
「我こそは同盟軍のオホオ村軍監に派遣された騎士ジョンコナーさまだ!」
「あたしはセレスタ男爵のオコネイルよおおおお!!」
「ホモが死ねぇ!」

 白刃を頭上に構えて斬り込んでくる勢いの騎士は、軍監として雇われた人間だったらしい。
 ただしその名乗りを聞いたところで男色男爵はその男に興味を失ったのか、男の剣を槍で払いあげて見せた後、槍の石突で甲冑の守りが存在していない額をガツンと叩きつけてやったそうだ。

「ぐはぁ! ……くっ殺せッ」
「口ほどにもないわね。この男を武装解除してロープです巻きにしなさい!」

 雇われ騎士ジョンコナーは殺してくれと懇願されたが、結局この会戦後に捕虜第一号となったそうだ。

     ◆

 こうして妖精剣士隊の中にいた魔法を使える人間によって戸板の防御陣地の一部が突破されてしまうと、戦局はあっという間に男色男爵の勝利へと傾いた。
 左翼方面から村の防御陣地に別動隊が接近を開始したところで、一〇〇人もいた武装農民たちはあっさり離散してしまい、村長屋敷らしき建物の中からは白旗を持った騎士の男があらわれたのである。

 こちらは軍監として派遣された騎士ジョンコナーとは違い、オホオ村に代々仕えている老騎士であった。
 恐らくは先代か先々代の頃からオホオ騎士爵に仕えている部下なのだろう。

「こ、この通りわれらは大人しく降伏します。せめてラメエお嬢さまのお命ばかりはお助けください」
「やめなさい爺、命乞いをするのは貴族のやるべき事ではないわ! するのならば抵抗に加わった領民の命をこそ、乞うべきものよ!!」

 そしてこの白旗を持つ老騎士の背後から、フリルドレスの上から甲冑を無理やり着せられた様な女の子騎士の姿があった。
 齢の格好は確かに十代前半の少女と言えばいいだろうか。
 捕虜尋問で後日俺が見た時には、中学に入りたての女の子ぐらいの背格好のおマセさんに見えた。
 けもみみよりも幼く、そしてようじょよりは少女をしていた。

「あんたが逆賊の指揮官なの?」
「そうよお。アタシは盟主連合軍の先鋒を総司令官マリアツンデレジア卿より補任されているセレスタ男爵オコネイルよお。そういうアンタはラメエ騎士爵ちゃんかしらあ?」
「ええそうね、わたしがラメエよ」

 おませ甲冑姿をした女の子領主を頭の上から足先までジットリと観察した男色男爵である。
 そうしておいて眼を細めて見せた男色卿は、ラメエ騎士爵に対してひとつの称賛を口にしたのだそうだ。

「引き際を心得て、ベストタイミングで降伏の申し出を行ったのは感心ねえ」
「……無意味に戦いを長引かせるのは馬鹿のやる事ね。長引けば領民が死ぬだけだもの。ジョンコナーの助言を受け入れて陣地を堅固に構えたのに。悔しい……」

 そんなおませな女騎士は悪態をひとしきり付いた後に、腰に帯びたその身には大きすぎる剣を鞘ごと外した。

「さあわたしの命と引き換えに領民の安堵を約束してくれないかしら。こ、怖くはないわ。ひ、ひと息に殺してくださらない?」

 気丈に振る舞いながらも、怯えは隠せなかった。
 十を僅かに過ぎたばかりの女の子領主ラメエ騎士爵は、そうやって老騎士たちと膝を折った後におすまし顔で目をつぶったのだ。

「くっ早くわたしを殺しなさいよ! オカマなんでしょ? わたしみたいな女には興味ないんなら、さっさと! ほら!!」
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