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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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215 チャージ・オブ・ビューティー 2


 軍事の事について俺はまるで素人である。
 盟主連合軍の軍監という要職に補任された俺であるけれど、実のところ総司令官の相談役などという仕事がまともに出来るものだとは思わなかった。
 だからこの時、ようじょがひとつの問題点に引きずられる形で作戦立案をやっているなどとは思いもしなかったのである。

 問題となっていのは、ようじょが短期決戦思考に寄っていた点だった。
 補給は大事、これなくして軍隊は戦い続ける事が出来ないという問題を解決するために、戦力集中の原則で一気に敵を撃破する事をようじょは考えていたわけだけれども。

「敵の姿がどこにも見当たらないというのは、おかしな問題ねぇ……」

 いくつかの散発的な同盟軍領主の抵抗を受けながら戦闘と突破を行った男色男爵である。
 けれども本格的な抵抗らしい抵抗もないまま、目指す第一目標のフクランダー寺院に向けて、男爵の率いる妖精剣士隊は進撃をしていた。
 むしろ順調すぎるほどに順調だったと、後に男色男爵は俺に回想してくれたものだ。

「しかし領主さま。そうなるとこの一帯で抵抗を試みなかった領主たちは自領を放棄して終結を試みているという可能性がありますな」
「そうねぇ。抵抗を試みた領主と、そうでない領主の動きの差は何のか。まずはそこが気になるところだわあ」

 キノコの様にモッコリしたヘアスタイルの妖精剣士の隊長のひとりは、そう思案する一族の長たる男色男爵に対して、楽観的な意見を述べたらしい。

「考えられるのは、ブルカ同盟軍の方も急場の戦争準備で意思決定が統一できなかったという可能性ですな。やはり自領を放棄して戦線をいったん後退させるというのは、領主の立場からすれば国王の臣下たる責務を放棄した事にもなります」
「それならば後方地の領主たちを前線に送り出す様な案もあったはずよう。これはやっぱりおかしいわぁ」

 おかしいと言うのも当然の事だろう。
 自領や周辺領主たちで結託して数十程度の軍勢を揃えて戦った領主たちは確かにいた。
 けれども男色男爵の率いる妖精剣士隊は二〇〇あまりの騎兵集団である。
 もちろん騎兵と歩兵では戦いにおいて使い所がまるで違う戦士の集団であるけれど、騎兵の突撃というのは恐ろしいほどの破壊力があるものだ。
 むかし俺は時代劇の斬られ役をやっていた時に、実際にこの身で騎馬武者の突撃を体験した事があるからな。
 このファンタジー世界における馬というのは、サラブレッドよりもひと周りばかり体格が小さな馬だ。
 馬の種類でいえばポニーよりもちょっとだけムキムキにした感じで、若干腹が出ている様な印象のそれだけれども、その妙にやぼったい印象の馬だからこそ恐ろしい凄みを感じた。
 そんな連中が二〇〇騎という数で小集団の騎歩の集まりに突撃するのだから、あっという間に消し炭にされてしまうのは当然だろう。

「問題は、抵抗を試みた連中がまるで戦争に付いて素人だった点よう」
「それはそうですな。もしも戦場経験が多少でもある領主なれば、拒馬(バリゲード)のひとつでも用意していた事でしょう」
「つまり抵抗した連中は辺境開拓に入封してから二代目、三代目を迎えた戦場経験の無い連中という事になるわあ。恐らく貴族軍人の経験も無かったのよう」

 事実、男色男爵が討ち取った何人かの領主の槍弓剣馬の術は、お世辞にも騎士と呼べるほどの腕前は無かったのである。
 となれば、自領を捨ててでも後方にいったん下がって他の領主たちと軍勢を糾合させた連中というのは、男色男爵の考えたところ、戦場経験のあるお貴族さまという結論になった。
 恐らくだが開拓史の黎明期、実際に自分で槍を取って切り開いた騎士上がりの領主。あるいはブルカの兵団で騎士見習いを経て、王都中央や国境線で実際に軍勢を指揮した事がある人間。

「彼らはしたたかで、勝利は最終的に勝てばいいという事を知っている人間だわあ」
「なるほど、それならばふたつに敵の行動がわかれたことは納得です」
「けれどもそうなると、あえて自分の領地に残った哀れな領主たちを、どうして同盟軍側は説得してでも味方に引き入れなかったかという問題が残るわぁ」

 このリンドル川西部戦線における戦力比率は、盟主連合軍五〇〇〇に対して同盟軍二〇〇〇という圧倒的な差が存在している。
 戦争の素人である俺から考えても、捨て駒に出来る様な戦士は存在しないはずなのだが。
 その点は当然ながら男色男爵も思い至ったらしい。
 意思疎通や戦力の集中が時間的な問題で失敗したという点があるかもしれないが、何かの罠であると考えた方がより普通の思考だろう。
 何しろさんざん陰謀を張り巡らせてきたブルカ伯の事だ。ありえるのである。

「傾注、みんな小休止を取るわよお!」

 そう叫んで田園風景の中を進撃していた男色男爵は、いったん妖精剣士隊に停止命令を下した。

「そこのアンタ、地図を見せなさい!」
「ははッ。ただいまの進撃地点はこの辺りになります。次の村はオホオという場所ですが、地図に詳細な集落の記載がありません」
「誰か、オホオの村を治める領主について知っている者は?!」

 男色男爵はリンドル川東岸の領主である。
 その交友関係は主にセレスタ周辺の諸侯たちに限られていて、どちらかというリンドル川西岸の情勢には詳しくなかった。
 何人かの領主にツテはあったけれど、それらは例外なく盟主連合軍側に参加していたので、縁の無かった連中は綺麗にブルカ同盟軍側に付いたというわけである。
 しかも残念なことに、男色男爵の家臣団は王国の内地から引き連れてきた一族の者で固められているので、褐色長耳族以外の比率が極端に低かったのである。

「オホオの村長は、今年成人を迎えたばかりの女の子だと聞いた事があります! 名前は確かラメエ騎士爵ですな」

 だが、たまたまオホオ村の情報について知っている部下がいた。
 ラッキーな事に、盟主連合軍の参謀団でその情報を仕入れていたらしいね。
 コバルトブルーのアイシャドウをパチクリさせながら、男色男爵がその言葉を吟味したらしい。

「成人したばかりの女の子に、まさか戦場の指揮が出来るとは思えないわあ。アンタ、直ちに一隊を率いて斥候に出なさい。それからアンタは、後続のドラコフ卿の先遣部隊がどこまでやって来ているか、連絡に走ってちょうだい!」
「「イエス・マーム!」」

 このファンタジー世界の軍隊というのは、とても難儀である。
 何しろ通常の連絡手段というのがまずもって伝書鳩や伝令犬を使ったり、こうして騎馬の伝令を走らせて情報のやり取りをしないといけないのだ。
 無線で連絡もインターネットでリアルタイム情報共有も出来るわけがないので、迅速に相互連絡を取ろうと思ったら、空に向かって魔法か信号矢を打ち上げるしかないのだからね。
 しかもそれらが有効に使えるのは、基本的に有視界エリアに限られるわけである。

 機動力に勝る妖精剣士隊を率いる男色男爵はそのスピードを生かすために、ようじょから侵入した敵領地の占領ではなくひたすら前進する役割を与えられていた。
 けれども今この時、男色男爵の率いる妖精剣士隊は徐々に後続の諸隊と引き離されつつあったわけである。
 男色男爵も素人の軍人ではないので、その点に焦りを覚え始めていた。

「作戦は単純だったはずよお、ただひたすら前進するだけ。けれど、こんなに抵抗が少ないなんて想像もしていなかったもんだから困ったわあ」

 そのために予想よりも早く進撃が突出してしまったというわけだ。
 改めて部下に渡された地図と睨めっこしていた男色男爵にモッコリ頭の部下のひとりが意見具申をした。

「予定よりもふたつばかり先の村まで進出してしまう事になりそうですな」
「そうねえ。オホオ村のラメエ騎士爵お嬢ちゃんは、抵抗を試みるかしらあ。それとも逃げてくれたかしらあ」
「どうですかな。われわれとしても、年端も行かぬ女の子の首級を勲功と自慢するのは嬉しくないものです」
「けれどもアタシもアンタも、もし敵の軍師にッヨイ子ちゃんがいたら、何がなんでも首級を取ろうと躍起になるでしょう……」
「シューター閣下のご令嬢は特別です。あの方は賢くもようじょにして天才軍師、魔法使いジュメェの一族ですからな。この度の作戦骨子も、シューター閣下のご令嬢ッヨイさまがお立てになったわけですからね」
「何れにせよ、年端も行かぬお嬢ちゃんの首を取るのは遠慮したいわよお」

 そんな風に褐色主従は困った顔をしたらしい。
 俺だって戦場でッヨイさまと出くわしたら、絶対に躊躇するだろうね。
 例えそれが大火力魔法の使い手にして天才軍師だろうとね……
 だってようじょだもん。ようじょは世界の宝だよ。

 しかし運命とは皮肉なものだ。

「伝令! この先三〇〇丈の地点にオホオ村と思われる集落の一つを発見ッ。領主とその騎士と思われる集団が、屋敷の周辺で警戒に当たっているのが目撃されました。われわれが近づいたところ、弓で討ちかけられた次第でして……」

 これはあかんやつや、と男色男爵もモッコリ頭の部下も顔をしかめたのだ。
 そのまま敵わないものと逃走してくれれば嬉しい限りで、あるいは最初から降伏してくれるのであれば話は違ったかもしれない。
 せめてラメエ騎士爵だけが逃げて、代理指揮官を立ててくれている事を願うばかりである。
 しかし抵抗する以上は戦わなければならないのが戦場の指揮官だ……

「何という事なのお。兵力はどのくらい? 周辺領主たちの寄騎は見当たらなかったのお?」
「数はせいぜい二〇そこいらでしょう。恐らく接近して白兵戦闘に持ち込めば押しつぶせますね!」

 オホオ村の領主が年端も行かない女の子だと知らない伝令は、またも勝利はわれらのモノとばかり血気盛んに報告した。
 そうして小休止を切り上げてふたたび進撃を開始しよう戦列を整えているところで、後続へ伝令に走った部下が舞い戻って来たのである。

「まずいですね。われわれが通過した後にどこから湧いてきたのか、抵抗する同盟軍の手勢が現れたそうです。数はさほどでもないのですが、ドラコフ卿の機動歩兵部隊の後方が切り離された様で……」
「何という事なの?!」

 ようじょが採用した短期決戦の計画は早くも破綻の兆しを見せていたのかもしれない。
 男色男爵はこの時、そのまま当初計画に従って進撃をするべきか、後方に取って返して安全路を確保するべきか、一瞬だけ躊躇した。

「ご領主さま。軍隊の進撃とは常に接近経路をぶら下げながら前進するものです。補給線の確保無くしてわれわれの機動突破はおぼつきませんぞ。携帯食糧は持って三日の予備しかありません」
「しかしご領主さま、初志貫徹は軍隊の基本です。われわれの与えられた命令はフクランダー寺院への突破経路を切り開くもので、今ここで後方に引き返した場合、全裸シューター卿の率いる別動隊を見殺しにしてしまう事になりますぞ」

 部下たちがそんなふたつの対立意見を具申したものだから、決定権を持っている男色男爵はとても腰をくねらせて決断を迫られたらしい。

「ええい、そんな事はわかっているわあ」
「ご領主さまいかがされますか! 全裸卿ならばあるは独力で切り抜けるやもしれません。後方に向かってチャージあるのみッ」
「ご領主さま、今ここで目標を見失ってはいけません。お味方を信じて前進するのみです。解き放てチャージ、チャージですぞ!」
「弱ったわあ。弱っちゃったわあ!」

 こうして弱り切った男色男爵は、原理原則に従う事を最終的に決断したらしい。
 目の前に抵抗を試みるブルカ同盟軍側の領主が存在している。
 寡兵とは言っても敵を背中に向けて反転するという事は、取って返す最中に背後を付かれるかもしれないと考えたのだ。
 あるいは。
 敵に勝ち味を覚えさせてしまう事こそを男色男爵は警戒した。
 どのみちまずは目の前の敵を排除する事こそが大事だからである。

 けれども最大の問題とは、騎兵を率いる指揮官の資質によるところが多かっただろう。
 足を止めれば騎兵はたちどころに魔法や弓の的になるだけだ。
 馬は後方に向かって突撃する事は出来ないのだ。

「妖精剣士隊前へ、当初の予定通りオホオ村の領軍を撃破するわあ!」

 男色男爵は前進を命じた。
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