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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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214 チャージ・オブ・ビューティー 1


 元々、賢くもようじょである天才軍師ッヨイさまの考えた戦略の基本方針はきわめて明瞭なものだった。

 とにかく戦力集中の原則に従う事と、作戦概要が単純明快である事だ。
 辺境の有力諸侯で組織された盟主連合軍は、兵士の数こそ総数一〇〇〇〇、そのうち渡河を実施した主力だけでも五〇〇〇という大軍である。
 文字通り参加した諸侯の数が大小五〇にも及ぶもので、寄り合い所帯である。
 しかも数千の領軍を率いる大領主もいれば、わずかに夫婦とその護衛で参陣した様な軽輩領主もいるのだから、領軍の一部隊指揮官にすぎない騎士にその軽輩領主の立場が上という、おかしな事にもなりかねなかった。
 つまり、複雑な作戦を行う事そのものが難しいとようじょは考えたのだ。
 俺も軍事については素人ながら、その意見には至極もっともで賛成するところである。
 昨日今日顔を合わせた人間同士で、コミュニケーションを密にしながら緻密な作戦を実施するなんてのは考えただけでも恐ろしい。

 そこでようじょは、機動性に優れた男色男爵麾下の妖精剣士隊と、ドラコフ男爵の率いる機動歩兵部隊を使って敵中突破を図り、かつての開拓史にあって要塞として利用されたフクランダー寺院をただひたすら突貫して目指す作戦を立てたわけである。

     ◆

 これは俺が後日の祝勝会でようじょやマリアちゃん、男色男爵に語って聞かされた勲功自慢の話を紹介するものである。

「オネェ男爵。敵と遭遇した時は殲滅する事を考えるのではなく、進路をおじゃまむしする敵の排除だけに留めるのがいいのです」

 作戦開始の直前、第一陣と第二陣を率いる事になる男色男爵とドラコフ卿を呼び寄せたようじょは、総司令官ツンデレのマリアちゃんとともに最終打ち合わせを行ったそうだ。

「わかっているわぁッヨイ子ちゃん。領地の占領は騎兵の本分ではないのだからぁ」
「機動歩兵である俺の配下が、ひとまず必要となる最低限の補給線を確保しながら、オコネイル卿の背後を追従する。その点は任せていただければよろしい」
「そうなのです。どれぇたちの別動隊が敵地に橋頭保を築くため、モッコの村に上陸作戦を実施する予定なのです。どれぇたちはそのまま背後からフクランダー寺院の遺構を目指しています。上手くいけばブルカ同盟軍の目標が、どれぇたちとオネェ男爵の部隊とに二分されてしまうょ」

 そうなのだ。
 まず敵方領地の突破戦を放り開いた男色男爵が、ひたすらフクランダー寺院までの道のりを切り開く。
 そこを荷馬車に搭乗した機動歩兵率いるオッペンハーゲンのドラコフ卿の部隊が、その切り開いた道を強引に広げながら前進する。
 まとまった戦力ではない軽輩諸侯の混成部隊や、規模があまり大きくはない領主たちの他の軍勢は、この切り開かれた線を伝いながら補給処を開設し、後から占領地帯を拡大していくという計画なのだった。
 どのみち戦争経験が少ない諸侯にとっては、警備を担当してもらった方がベストだからね。

「問題はブルカ辺境伯軍の動きが不明瞭な点なのです。今わかっている事は、最後に騎士修道会から定時報告があった時、ブルカの街に万の敵同盟軍が兵士を集結させていたという点なのです」
「つまり、リンドル方面に派遣されるブルカ領軍の兵力配置がわからないという事ですのね……」

 マリアツンデレジアは総司令官であるけれど、そのあたりは門外漢だ。
 頼りにしているドラコフ卿やようじょたちの顔を交互に見比べて困った顔をしたそうである。

 この際にようじょや前線指揮官たちの頭を悩ませることになったのが、ブルカ伯とそれに味方した同盟軍(俺たちから見た場合のブルカ伯に味方した諸侯の軍勢)が、リンドル方面の戦線でどう動くかだったのだ。
 カーネルクリーフ総長が最後に送り出した連絡や、ギリギリまで市中で情報収集などで協力をしてくれた商人たちの情報によれば、ブルカ辺境伯の主力であると考えられる、本土国境戦線から引き上げてきた二〇〇〇の領軍というのは、ブルカ郊外に在陣して動いていないことがわかっていた。
 という事は、リンドル領と対峙する俺たちの主力が戦っている戦線では、ブルカ同盟軍は現地の諸侯たちの戦力をアテにしているという事になるのだった。

「オコネイル卿、それに養女どの。この戦線にいるブルカ同盟軍の戦力は、せいぜい二〇〇〇に足らない数の軍勢だ。ブルカ伯も戦場で鳴らした軍人上がりの大貴族であるから、俺たちが戦力集中によって大本営の周辺を安全回廊にしようとしている事ぐらいはわかっているはずだからな。必ずブルカ領軍から援軍を差し向けてくるはずだが」
「それならば補給線の問題ねえ。こちらにはリンドル川を利用する手段があるけれど、敵の場合は……」
「改めて地図を確認するのです……!」

 その言葉にマリアツンデレジアもドラコフ卿も、そして男色男爵やようじょが改めて辺境の地図を吟味したと聞いている。
 ブルカ同盟軍はどうやらフクランダー寺院の要塞跡地を頼ってここに強力な布陣を引こうと考えているらしかった。敵味方の境界線上にあるそれぞれの領主が置いた監視所はともかくとして、

「待ちの姿勢をしているという事は、援軍のアテがあるはずという事になるのです」
「そうねぇ」
「フクランダー寺院に近い場所にある河川で、あまり大きなものは見当たりません……」
「ふむ。ひとつ川幅が二〇丈程度ありそうな河川と言えば、これか。リンドル川に流れ込む支流で、ベストレとリンドルのちょうど中間あたりで合流する川か。しかしこれはお味方の領内を深く走っている」

 リンドル川ほどの大きな川は存在していなかったらしく、ようじょと貴族軍人たちは頭を悩ませたらしい。

「では街道はどうかしら、間道でもいいわあ。敵が意表を突く場所から攻めてくる可能性もあるのだから……」
「細い道ならば、ブルカ領と同盟軍の間に山脈が横たわっている。ここを走る細道を突破するという可能性もあるが、さすがに大軍を送り込むと言うのであれば無理があるのではないか」
「大きな人数は必要がないかもなのです。精鋭を連れて奇襲作戦を実施するのであれば、数が多くない方がやりよいのです」
「敵も総司令官であるわたしの首ひとつを狙うのですから、これは簡単ですものね」
「なので、フクランダー寺院をッヨイたち盟主連合軍の主力で奪取してしまったあとは、前線司令部をそこに置いて、どれぇにマリアねえさまを守ってもらうのが良いかもしれないのです」

 どのみち敵が何かの秘策で攻撃をかけて来そうなのは、陰謀や襲撃好みのブルカ伯ならばあり得る事である。
 こちらから罠を張り巡らせたついでに堅固な要塞で待ち構えているのであれば、それこそ守りやすいと諸侯のみなさんも考えた様だね。

「そういう事であれば、ますます第一戦略目標であるフクランダー寺院を最優先で攻撃しなければなりませんのね。両卿にはご苦労をおかけしますの」
「いいわよお、シューター卿の奥さまに頼まれたと言う事は、シューター卿に頼まれたも同然だわぁ。任せなさい!」
「ふむ。俺としてもブルカ伯ある限りはこれ以上の立身出世を望む事は出来ないと理解しているからな。ここまでくれば戦うほかはない」

 そんな風に話がまとまったところで、先発するセレスタ領軍のみなさんは戦場へと向かうのだった。

     ◆

 男色男爵は妖精剣士隊の軽騎兵二〇〇とは別に領内から集結させた歩兵を二〇〇あまり持っていた。
 けれど今回は機動力重視という事で、マリアツンデレジアのいる司令部での防衛を担当させる事でお留守番だ。

「いいか野郎ども。本作戦におけるアタシたちの目的地はフクランダー寺院の遺構よぉ! 体力の続く限り、アタシたちは連合軍主力の先頭で敵領地を突破して、そこを目指すわぁ」

 セレスタ領主の男色男爵が直卒する妖精剣士隊は、まさに精鋭部隊だった。
 彼の故郷のから引き連れてきた褐色長耳の一族だけで構成されたエリート部隊であり、剣士としての訓練と騎兵としての訓練を潤沢に受けていた。
 このファンタジー世界では魔法が当たり前にあるので、重装備の兵士というのはほとんど役に立たない。
 ガチガチの甲冑を着こんだ騎兵とか歩兵というのは、それだけでいい魔法使いからの攻撃の的になってしまうからだ。

「突破を図る敵方の領地には眼もくれる必要はないのよぅ。まずは妖精剣士隊の機動力をもって、敵中突破を図りながら、フクランダー寺院の要塞を目指すわあ」

 その点を考えると必要最低限の鉄皮合板の鎧をまとい、タイツ姿の身軽な軽騎兵集団というのは優れている。
 また、男色男爵が貴族軍人時代から戦いに従って来た私兵集団でもあるし、後宮警備やセレスタでの盗賊掃討作戦にも参加経験がある歴戦のみなさんなのだ。
 ようじょとしても先陣を切って最初の戦略目標として設定したフクランダー寺院を一路目指すというのには、最適な人選だったんじゃないだろうかね。

「ブルカ伯に味方する事を決めた反逆辺境軍は、まだ終結を完了していないはずよぉ。敵よりも先にフクランダー寺院要塞を奪取する! 野郎どもわかったかしらあ!!!!」
「「「ははーっ!」」」

 野太い男色男爵の号令によって、きっとこんな感じでモッコリしたアフロヘアの妖精剣士たちのみなさんは呼応したに違いない。
 この妖精剣士隊が敵味方の境界線を突破して、軍馬の足を止めること無くフクランダー寺院を目指すのだ。
 ピンクとパープルに彩られたまがまがしい甲冑を身に纏った男色男爵は、その妖精剣士隊の先頭に立って軍馬を駆けさせた。
 まるでつむじ風の様に越境作戦を開始したのだ。

     ◆

 敵も馬鹿ではないから、その領土境界線上にブルカ辺境伯に味方した同盟軍はいくつかの監視所を設置していたはずだった。
 けれども、越境を開始した男色男爵の妖精剣士隊は、一向にその監視所の姿を発見する事が出来なかったのである。

「どういう事なのかしらあ、おかしいはねぇ……」

 彼らはブルカ伯とアレクサンドロシアちゃんが対決姿勢を示した時、ほぼ同時にブルカ伯からの参集命令とリンドル御台マリアツンデレジアの檄文を同時に受け取ったのだ。
 辺境領主の普通の感覚であれば、その辺境の旗頭を務めているブルカ辺境伯の指示に従うものだろう。
 そもそも論として中小軽輩の領主というのは、ブルカ伯の側から見ても何の旨味も感じられない土地を有しているに過ぎなかった。

 リンドルやオッペンハーゲンという大領主たちは、時間をかけて富を集中させてきただけはあって、これはライバルとして排除しなければならないとブルカ伯も考えただろう。
 けれどもリンドル川の東河岸に無数に存在していた軽輩領主たちというのは、開拓の歴史こそ古くからあったけれど、それだけだった。

「それにしても、まるで猫の額みたいな領地がいくつも折り重なっているのねえ」

 それが駿馬を走らせていた男色男爵の第一印象だったそうだ。
 セレスタにしたところで領地の規模は小さいけれども、交易中継の拠点として街は大いににぎわっている場所だった。
 領地も街そのものは小さいけれど、この戦争で動員で来た戦力も数百の単位ととても大きい。
 そこからすると、モッコの村やその周辺の村々というのは、開拓の歴史が古かっただけに周辺への拡張性も乏しく、これ以上の発展が見込める土地も極めて少なかったのだろう。

 妖精剣士隊の軽騎兵集団は、開墾し尽された小さな耕作地を走り抜けながら、呆然とその姿を見上げている農民たちの姿を目撃したのだった。
 ただいまの季節は十月を迎えたばかり。
 まさにブルカ辺境伯が開戦時期と設定していたのが十月上旬であるから、時期的にちょうど想定されていた頃合いか、それよりもわずかに早いタイミングだったと言えるだろう。
 ブルカよりも気候がわずかに寒冷なこの土地では、ちょうど今のタイミングが夏麦の収穫が最盛期というズレた有様だった。

「やはり監視所や歩哨の類を見かける事はありませんな、領主さま」
「兵士の動員も上手くいってないと見えるわねえ……」
「その様ですな。いかがなさいますか?」
「ッヨイ子ちゃんからの作戦指示は単純明快よう。抵抗がないのならばひたすら前進あるのみ!」

 越境を開始した妖精剣士隊であるけれど、抵抗らしい抵抗も無く、敵領内の街道を走り抜けながらそんな感想を抱いたそうだ。
 領地間の境界というのは普通は河川や用水路、街道をひとつの線引きとして使うか、あるいは山の分水嶺を利用する。
 小さな領地がひしめき合っている様なリンドル東岸の場合は、大概が森の切れ目であったりするそうだ。
 そうした場所、あるいは小高い丘に監視台を作っておくのが定石であるのに、それがない。

 これはおかしいと思い始めた男色男爵は、いったん敵領内を突破する妖精剣士隊たちの足を止めて、周辺警戒を命じた。

「傾注! 敵はどうやら領内の軍勢を村から捨てて、どこかに集結させている可能性があるわァ」

 これはもう戦士の動員に失敗したとか、そういう事ではないだろう。
 恐らく周辺の領主たちが集まって混成部隊を仮に作り上げて、敵も戦力集中を模索しているという可能性があった。
 そう男色男爵は判断したのである。

「馬の扱いに特に優れた人間を集めなさい。ただちに先行させて斥候を実施するのよ」
「イエス・マーム!」

 案の定、男色男爵が想像をした通りにいくつかの村を抜けた先の広場で、複数の騎士たちを従えた同盟軍の軍勢が待ち構えていたのである。

「国王陛下にあだ名す愚か者め、国法によって安堵された領地に侵入するとは何事か!」
「うるわいわねぇ。独立建国の野心を持ったブルカ伯に味方するアンタたちこそ、国王陛下にあだ名す不忠の輩よ。者ども蹴散らしておやりなさぁい」

 戦場におけるお約束事なのだろうか、そんな口上をお互いにぶつけあった後に、整列した両軍が合いまみえる事になった。
 男色男爵の妖精剣士隊は二〇〇騎からなる褐色長耳のお貴族部隊。
 対する同盟軍の兵力は周辺領主の騎士さま十騎足らずと、とりあえず槍や鍬で武装してみましたと言う徴兵農民のみなさんである。

「陣形を完成させるよりも早く、アンタたちを揉み潰してあげるわ。騎馬突撃(チャーージ)!」

 野太く鋭い騎馬突撃が敢行されたのは、俺たちがちょうどモッコの村に向けて夕焼けの中、リンドル川を渡河している最中の事だった。
 風車の如く槍を振り回して見せる男色男爵とその妖精剣士隊の突撃は圧倒的で、わずかのうちに取って付けた様な陣形は瓦解して、同盟軍の領主たちは逃げ出した。

 開戦の第一撃は、あっさりと男色男爵によって勝利をもたらしたのだった……そうだ。

「このまま勢いに乗って突く、突く、突く。はあン大勝利よ~!!!」
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