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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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213 続・小さな村の上陸作戦


 モッコの村は領民がわずか三〇〇足らずという小さな場所だった。
 人口の半分がゴブリンで、残りは雑多な種族の集まりだ。
 主要な産業も漁村という事でコイやナマズの親戚を川から水揚げして、地消するもの以外は街に売りに行くのだ。
 この様な小さな領地であったから、村を治める騎士爵のリーハートマンという男が動員できる戦士の数は、たかが知れたものだった。
 冒険者だか傭兵だかを引退した女をひとり守衛官として雇い入れているだけだった。
 女の名前まではわからないが、恐らくまともに戦える戦士といえば守衛官ひとりだけという事だ。

 ブルカ辺境伯の動員令によってブルカ近郊や本土に近い諸侯たちは続々とミゲルシャール卿の元に参集しつつあるそうだが、盟主連合軍と領地の隣接する領主のみなさんはそういうわけにもいかない。
 ここでも恐らくブルカ伯から発布された動員令の書状が届いているはずだが、今のところは周辺警戒をするにとどまっているはずだった。

 以上がリンドル河港を出発する前に得られている現地の情報である。
 俺たちは葦原の茂みに上陸すると、そのままゆっくりと暗闇に身を任せて村の集落に近付いた。
 大小いくつかの集落に分かれているが、村の中心集落もサルワタの開拓村と比べて寂しい限りだ。
 わかりやすくひときわ立派な屋敷が見えるあそこが、リーハートマンの自宅という事だろう。

 作戦の陣頭指揮は、着上陸第一波をまとめるカラメルネーゼさんにお任せする事にした。
 蛸足麗人は元貴族軍人の騎士爵だからな。
 軍事作戦の経験豊富な彼女に任せておく方が、デルテ卿やみなさんも安心できるというものだ。
 呼応するために、軽輩諸侯の混成チームが第二陣として別の集落のひとつに移動中だ。

 俺はというと、白刃を暗闇に抜き放ってゆっくり前進する戦士のみなさんを見届けながら、別の任務に従事する事になる。
 中心集落の外れにある村の石塔を無力化する事だ。

「カサンドラ、何人見える?」
「ふたりですねシューターさん。ひとりが河岸の方を、奥のひとりが反対側の方を監視しているのがわかります」

 短弓を背中から外してじっくりと石塔を監察していたカサンドラが、俺にそうやって報告を行った。
 俺もこのファンタジー世界にやって来てますます眼が冴える様になってきたところだけれど、さすがに真っ暗な夜中に周辺を観察出来るほどには至っていない。
 カサンドラの報告を耳にしていたニシカさんは、無言で俺とカサンドラの尻をポンポンと二度叩いて見せると、無言のままゆっくりと射撃ポイントを探しながら移動を開始した。

「しかしすごいな連中も。石塔にかがり火も入れずに見張りをするんだな」
「あれは同胞だぜ相棒。長耳が見えるから地元で猟師か何かをしている連中なんだろうぜ」

 俺が漏らした言葉に反応して、さえずる様な声でニシカさんが説明してくれた。
 そのまま先頭を行くニシカさんに続いて俺、カサンドラ、最後尾に女魔法使いという順番で移動する。
 時折、女魔法使いが背後を振り返って、着上陸第一波の布陣が完了しているかどうか、確認を怠らない。

「閣下、向こうで手を振る姿が見えましたよ」

 合図を送って来たのはたぶん男装の麗人だろう。どうも奴隷のみなさん同士にしかわからないハンドシグナルを使っているらしかった。
 これを理解できるのはベローチュと女魔法使い、それから特に奴隷でもないのだが、田舎言葉のクレメンスとモエキーおねえさんだ。

「よし、ニシカさんカサンドラさん。やっておしまいなさい」

 ニシカさんは適当な木の陰に身を潜めながらカサンドラを手招きすると、何事か小声で射撃のアドバイスを行った。
 カサンドラは月光に照らされて白い肌を艶めかせているけれど、唇を横一文字に結んでコクリと頷きを返す。

「ふたりで同時射撃でもやるのかな?」
「そうみたいですね。わたしなら魔法で一撃同時に排除できますけど、音と光が激しいですからねえ。バレちゃいますから隠密行動になりません」

 その点、弓と魔法の融合は便利です。
 などと俺に説明をしてくれた女魔法使いだけれども、どうやらその彼女もカサンドラに呼び出されたらしい。
 こうなってしまうと俺だけぼっちの気分になる。
 カサンドラと女魔法使いがワンセットで、ここから見える手前の見張員を狙撃するらしい。
 そうしておいてニシカさんの方は、音も無くぬるりと暗闇の中を移動しながら、塔の反対側へと姿を消した。

「シューターさん。ニシカさんとタイミングを合わせて、あのふたりの見張員を一瞬で排除します」

 ほんの少し前まで猟師の娘だったにすぎないカサンドラが、何の躊躇も無い表情で俺に報告をした。
 排除する、といとも簡単に言ってのけたのである。

「まずわたしが発光魔法で一瞬だけ合図を送りますので、それでカサンドラ奥さまとニシカ奥さまが同時攻撃です。カサンドラ奥さまの矢はわたしが風の魔法で誘導しますので、ご不安な点は解消できますよ」

 ニヤリとしてみせた女魔法使いが護符を一枚取り出すと、即座に構えて見せた。
 そして護符を使うまでも無く発光魔法を一瞬輝かせる。
 弓の弦を引き絞っていたカサンドラがキッとした表情のまま、矢を静かに放った。
 その瞬間には女魔法使いが手にしていた護符がぼうぼうメラメラと着火する。
 いい連携だ。

 バスンという音が聞こえる様な勢いで、それが弧を描きながら夜の帳に消える。
 すると「うっ」というくぐもった悲鳴が頭上から聞こえてきたので、間違いなくどちらかの弓は確実に命中したらしい。ニシカさんが外すわけもないので制圧完了かな。

「シューターさんやりました」
「お、おう」
「閣下、ただちに物見の塔に突入しましょう!」

 燃え尽きかけの護符を放り出した女魔法使いが走り出すのを見て、俺も刃広の長剣を引き抜いて前進した。
 背後では護符が燃える瞬間を見届けていたのだろう、着上陸第一波から「わあっ」という雄叫びが聞こえてきて、リーハートマンの村長屋敷を襲う声が届いた。
 着上陸の第二波も、それに呼応して別の集落を襲いはじめているかな?

「物見の塔への入り口扉は開けっ放しです!」
「おう、オレ様が援護するから遠慮なく突入してくれッ」

 いつの間にか扉前に集まって来たニシカさん、それにカサンドラと頷き合う。
 女魔法使いがギイと扉を推し明けた瞬間に、いつでも風の魔法をぶち込める様にニシカさんが構えを取っていた。
 俺、そして女魔法使い、カサンドラにニシカさんという順番で今度は中へと突入する。
 俺は螺旋階段の方向に足をかけながら背後に向かって叫んだ。

「どこの村にもある石塔の構造は基本、みんな違いがないはずだと聞いている。ニシカさんは地下牢を頼みます!」
「よし来たぜ。カサンドラはオレとこっちに来い」
「はいっ」

 近接戦闘になればたぶん役に立たないカサンドラは、短弓で少し離れたところから援護射撃をするぐらいしか今は役に立たないだろう。
 地下牢の確認に向かうニシカさんに付いていく方が安全というものだ。

「俺たちは上だ。食糧庫と休憩室ぐらいはありそうだな」
「そうですね、突入する時は真正面から入るのはやめて、少し斜めにスペースを空けておいてください」
「魔法を射ち込むためだな!」
「そうです! ファイアボールを連発するのであれば、護符を使うほどでもないので」

 そこをいくと近接戦闘でも壮絶な身体能力で暴れて見せる女魔法使いが側にいる俺が、強引に前に飛び出して活路を開く方がいい。
 たぶん石塔にはさっきの見張員以外には交代で寝ている徴発された村人ぐらいしかいないはずだから安心だが、まあ油断は禁物だ。
 しかし何て頼もしいんでしょう。
 カンカンと階段を駆け上がり、開かずの間となっていた食糧庫か何かの扉の前で錠前をガチャガチャとやっていると、女魔法使いが俺を脇に寄せておいて、高圧縮の魔法か何かでそれを破壊してしまった。

「……これでよしっと。さあどうぞ」
「中身は食糧庫か、よし次!」

 そうやって、いくつかある小部屋を確認している時の事だった。

「何だお前たちは!」

 突然そんな声が聞こえたかと思うと、螺旋階段の上から飛来してくる物体があった。
 声の主は女で、筋肉ムキムキのマッチョレディーだ。
 螺旋階段の脇で燃え揺れるランプの灯りを背負い、ムササビの様に飛びついてきたのはきっと守衛官の女だろう。
 ここが狭い場所である事を理解しているのか、腰の長剣には手を伸ばさずにナイフ片手の強襲だ。

「閣下、敵襲!」

 見りゃ分かるよそんな事は!
 斬りつけるというよりも、殴りつけるという方が表現として正しい様に伸びて来るナイフ。
 それを俺は階段の下方からハイキックで蹴り飛ばしてやった。
 しかし勢いに乗った女守衛官が俺に抱きつく様にタックルしてきたものだから、そのまま絡まってしたたかに石壁に体を叩きつけてしまう。
 その瞬間に長剣を取りこぼしてしまったが、どのみちこんな狭い場所で取り回すには不適だ。

「チッ仕留め損ねたか」
「何本ナイフ持ってるんだよ!」

 守衛官は別のナイフを腰から引き抜いて、器用に振り回して見せる。
 たちまち壁側に追い詰められた俺は、すさまじいケンカキックを受けて壁にまた叩きつけられてしまった。
 迫る女と嫌がる男。
 激しい背中の衝撃に耐えながら、引きはがそう女守衛官の背中を掴んでみたが、まるで死の抱擁とばかりグギギと片手で俺を引き寄せて来る。
 片手だぞ! 何だよこいつ!!

「ぐおお、女ターミネーターめ!」

 俺は必死で押し返そうとしたが、こちらももう一方の手は女守衛官のナイフを押し留めないといけないのでどうにもならない。
 何をしているんだマドゥーシャは!
 女ターミネーターがぐいぐいと力で俺を抱きしめてくるので、助けてほしいのだが。
 チラリと視界の端を見ると。
 別に女魔法使いもお賃金以上の仕事をするつもりがないわけではなかったのだ。
 わらわらと休憩室と思われる場所から出て来た村人と、戦闘しているではないか。

「くそ、お前たちはリンドル軍の軍勢だな」
「ざっ残念でした違います。俺はサルワタ……じゃなかったスルーヌ騎士爵のシューターさんだっ」

 力負けした俺に向かってナイフを突き立てる女ターミネーターの守衛官。
 ガンッとそのナイフは石壁に刺さり、俺はすんでのところで首を振って避ける事が出来たのだが、ナイフの刃が俺の方を向いて突き立てられているので、強引に引き寄せられると首の動脈を切断されてしまう。

「殺す……」
「戦争がはじまって直後に戦死してたまるかあぁ!」
「何だ貴様、気でも狂ったか?!」

 荒い吐息がかかるところまで顔を近づけていた守衛官の鼻めがけて俺は頭突きをした。
 悪いが俺は殺されるかもしれない状況で女性をいたわる心など無い。
 何度でも頭突きしてやる!

「ふぐお。ぐほあ。何をこれしきの事を……ガッ」

 頭突きをしているうちに一瞬、俺と女ターミネーターの体の間に空間が出来た。
 それに気が付いた瞬間に、俺は脇を閉めながら一拍を置いて両手を相手の拘束から引っこ抜き、掌底を送り出してやった。
 パアンと弾かれた様に女がのけ反ったのを見届けて、即座に足幅を前後に広げる。
 そして女ターミネーターがようやく態勢を立て直そうとしたところに、上段の回し蹴りを見舞ってやった。
 どんなに筋肉ムキムキのマッチョレディーだろうと、アゴ先を引っ掛けるように蹴りつけてやれば脳みそが揺れる。
 弧を描く様に走り抜けた俺のつま先が、しっかりと守衛官のアゴを捕らえたのだ。

「残念だったな、俺を脱がせていいのは奥さんだけだぜ」

 ドサリと倒れる守衛官に決め台詞を残したけれど、カランとナイフを転がして倒れた彼女は聞いちゃいなかった。

「おいシューター、何を女相手に遊んでいるんだ。上はどうなっている?」
「あっ遊んでるんじゃないですよ。死闘を演じていたんですッ」

 背後から声を駆けられてビクリとしたところ振り返ると、呆れた顔をした眼帯女が螺旋階段の下側から見上げていた。
 弓に矢をつがえた状態でコツコツと小走りして来たカサンドラも、心配そうに顔を覗かせている。

「閣下、上は制圧完了です! こんちくしょう、死に際にわたしに唾を吐きつけてこようとしたのでウォーターボールを口からぶち込んで溺死させてやりましたよ」

 上からもビショビショの女魔法使いがそんな報告をしてくれたので、俺たちは揃って石塔の最上部にある監視台へと出た。
 外は満天の星空が広がる夜だったけれど、いくつかの集落を見やれば火の手が上がっているのが見える。
 風に乗って合戦の声が聞こえてくるのがわかるが、どれも味方の万歳三唱の様なものだった。

「カサンドラ、頼む」
「はいシューターさん」

 俺の合図を待っていたカサンドラが、空に向かって信号笛を飛ばした。
 キュルキュルという独特の響きは、石塔を制圧完了したという事前に取り決めておいた知らせだ。
 すると同様に中心集落のあたりでもキュルキュルと鳴る矢が放たれたのがわかり、別の場所からそれが続く。
 カサンドラの放ったそれと合わせれば、聞こえた矢笛の数が五つ。
 モッコの村は制圧完了したという事だろう。

     ◆

 ところでリーハートマン屋敷に攻撃をかけたカラメルネーゼさんの襲撃について。
 後からデルテ卿のご夫人が仲良くなったカサンドラに語って聞かせてくれたそうだから、少し小耳に挟んでおこう。

 槍に触手の出で立ちという蛸足麗人は、デルテ卿とともに集落全体を包囲する様に兵士たちを配置すると、有無を言わさずに村長宅を強襲したのだそうだ。
 まさに力づく。
 贅沢に村で唯一ガラス張りになっている部屋の窓に石を放り込んで内部を混乱させたところ、野牛の兵士たちに屋敷の扉を打ち壊させ、その中に松明や藁をどんどんぶち込んだらしい。
 藁葺きの屋根であるから、火をかければあっという間に炎上する屋敷からは、リーハートマン騎士爵が怒声を浴びせながら剣を片手に飛び出して来たのだそうだ。

「貴様ら、ここをリーハートマン騎士爵の屋敷と知っての狼藉か!」
「おーっほっほっほ、もちろん存じ上げておりますわよ。国王陛下に弓引く逆臣め、スルーヌ騎士爵シューター卿の夫人カラメルネーゼ騎士爵が、夫に成り代わり成敗いたしますわ」
「待ったカラメルネーゼ卿、そいつは俺の獲物だ!!」

 勲功一番を取り合っていたカラメルネーゼさんとデルテ卿は、ほとんど同時にお互い槍を突き立てるからリーハートマン騎士爵もたまったものではない。
 本来であれば、彼もその武功でささやかな領地が与えられたというものだろうから、戦場の空気を知っていると考えた方がいいのだ。
 けれども槍捌きに自信を見せるふたりの貴族軍人が同時に攻撃をしてきたものだから、彼の役に立たない配下の武装農民はまたたくまに刺し殺された。
 そしてリーハートマンもまた数撃を剣で振り払い抵抗した後に、あっさりふたりがかりで両の肺臓を潰されてしまったと言うから壮絶だ。
 勲功を欲する騎士というのは勢いも恐ろしいね……

「みなさん、この勢いを駆って残りの集落も揉み潰してしまいますわよ!」

 こうしてあっという間に集落を襲撃したカラメルネーゼさんの指揮した兵士たちは、無抵抗の村人たちをそれぞれ集落の広場に集めて武装解除に成功した。
 仲間の層が厚い事を、俺は感謝しなければならない。
 夜明けまでのわずかな時間を大休止に充てた俺たちは、交代で体を休めながら仮眠を取ったり傷を癒すのだ。
 このモッコの村を占領するのは、リンドル領から侵入を開始するオッペンハーゲン領軍のお仕事だ。
 次の戦場へと旅立つ時間は近い。

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