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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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212 小さな村の上陸作戦

お待たせしました。
遅くなりましたが更新です!
 リンドルの市街にある河港は盟主連合軍の将兵でごった返していた。
 軍船の中へと強引に引き込まれていく軍馬や荷馬車の作業現場を、俺は軍監としてしっかりと監視する役割が与えられていたのだけれども。
 その隣でニシカさんが、どうにもなよなよとしているのだ。

「なあシューター、いったいオレたちはいつになったら船に乗り込めるんだ。もういっそ、このまま船に乗り込む番は来ないんじゃねえのか。ん?」
「何を言っているんですかニシカさん。戦場は河川の対岸で行われるんだから、渡河の順番は必ず回って来るに決まっているでしょう。そのうちに来ますよ、今は先陣部隊が乗り込んでいる最中なんですからね」
「チッ。ちゃんとオレの側から離れないでおくれよ。な、な?」

 鱗裂きのニシカともあろうひとが、長耳をひくつかせながらビビりまくっていた。
 俺のマントを引っ張ったり袖を引っ張ったりしながら、嫌々をしている姿はかわいいのだけど、

「たのむぜシューター、おまじない。な?」
「わかっていますが、あんまり引っ付いているとあの夜の出来事がバレてしまいますよ……」
「やめろそれはまずい、あれは内密だぜ……」

 ニシカさんにそう言ってたしなめてみると、飛ぶようにして彼女が俺から離脱した。
 先日俺がニシカさんにプロポーズをした事は公然にして内密なのである。
 誰の得にもならない肖像画の完成を急いでいたあの日、俺とニシカさんは居室で抱き合ってしまったわけだ。
 抱き合った以上はもうかわいくて仕方がないので、そのまま押し倒してしまったのは言うまでもない。
 問題はリンドル聖堂の宿舎という場所が俺たちの本拠地であり、すぐ近くの部屋には耳ざといけもみみや男装の麗人たちが、当たり前にくつろいでいたという事だろう。

「あいつらにバレたら大変な事になるからな。オレさまは一生からかわれるに違いねぇ」
「どっかのタイミングでバレるんだから、早かれ遅かれ覚悟を決めておいた方がいいと思うんですけどねえ」
「いいや駄目だ。いいか、オレ様は結婚の披露宴などというものには絶対に出席しないからな」
「するんですよあんたも。だって俺の花嫁なんだから……」
「は、花嫁とか馬鹿言うんじゃねえ。オレ様は鱗裂きだぞ?!」

 このひとは何を言っているんだとという顔でニシカさんを見つめ返すと、またぞろ腰を折っていやいやをしてみせる黄色い花嫁が俺のマントを引っ張って泣きそうな顔をしていた。
 しかも今日はいつもしている右眼ではなく、左眼に眼帯をしている事にようやく気が付いた。
 このひとはファッションアイパッチなのである。
 時々こうして付ける眼を変えたりしている様だけど、理由は謎です。

「ところで何で今日は左眼に眼帯なんですか」
「それがよう。泣きはらして眼が腫れてしまったから、付け替えたんだぜ。これならバレねぇ」
「いや意味ないですよ。そっちも眼が充血してますから」
「なん、だと……?」

 本人は絶対にばれていないと思っているようだけれど、この通り黄色い花嫁の態度はあれ以来明らかにおかしかった。
 当然、何事も順番を大事にしている正妻カサンドラがその事に目敏く気付いて「順番は守られましたね」などとニッコリ笑っていた。
 やっぱりバレてるじゃんと思ったのは内緒である。

「とにかく、渡河してしまえば俺たちは休む間もなく槍働きの毎日ですよ」
「お、おうそうだな。オレたちの目標は何だったかな」
「川の対岸は敵味方入り乱れて諸侯の領土が広がっていますからね。これらを各個撃破してくのが目標です。そのために俺たちはブルカ側の背後に上陸だ」
「ふふん。獲物の裏をかくという事だな。そう、相棒のオレとお前ぇが組めば、怖いもんなんざねえ……」

 そんな事を言う割に、ニシカさんはしっかりと俺の手を握っていた。
 気が付けばマントでも袖でも無く、手だよ。お船が揺れると怖いのかい?
 かわいいね。好きだぜそういうの。

「だからおまじない、ちゃんとやっておくれよ」

 口から出まかせのおまじないだと知ったら、後でニシカさんに押し倒されるだろうか。
 そんな事を考えながら俺はパシンと黄色い花嫁の尻を叩いて注意を促した。

「うひゃん。何するんだよ!」
「いつまでもイチャイチャしてたら、他の奥さんたちに見られてしまいますよ奥さん」
「チッ、これはスキンシップだ!」

 そうだねスキンシップだね。

     ◆

 ひとくちに盟主連合軍の五五〇〇余りの将兵を渡河作戦に参加させると言っても、これは容易な事ではない。
 実際のところ五〇〇の兵力はリンドルの街と大本営を守備に当たる予定だが、残り五〇〇〇の軍勢は大小の貨客船や軍船を参加領主からかき集めて上陸作戦に投入する予定になっていた。
 大きな貨客船でもその定員はせいぜい一〇〇人が載り込めば満載状態になるだろう。
 だが今回に限れば河川の両岸を往復するだけなので、搭載可能なだけの装備を山の様に船庫から甲板に積載し、押しめきひしめきながら兵士が乗り込んでこれを送り出すわけだ。

 目的地は猫の額ほどの広さがある田園地帯である。

 リンドル子爵家の領土は大半をセレスタやベストレ、ドワーフの岩窟王国と接する広大な山岳地帯ほ本拠地としていたけれど、リンドル川の向こう側にも僅かばかりだが領地を有していた。
 そこは河川が運んでくれた肥沃な土地が唯一存在する、リンドルの貴重な耕作地となっている場所だった。

「大軍をここに送り込むとなれば、大きな軍船や貨客船を往復させても都合第七陣まで行う事になるかもです。第一陣は予定通りセレスタ領軍のオコネイル男爵が率いる妖精剣士隊。そして第二陣はオッペンハーゲン領主の荷駄を装備した機動歩兵隊となっているかも、ですねえ」
「船への乗り込みはどこまで出来ているんですかモエキーさん」
「第一陣と第二陣だけは、時間さなく同時に送り込む様に養女さまから指示を受けているかもです」

 かもじゃないですよ、命令なんですよ!
 盟主連合軍の主計官奴隷という地位にある(らしい)モエキーおねえさんを捕まえて作業進捗を確認した俺は「あとはよろしく頼みますよ」と頭をペコペコ下げてその場を後にした。
 モエキーおねえさんは盟主連合軍の主力五〇〇〇が渡河する際の計画詳細を、ようじょとともに立案していたはずだ。
 盟主連合軍の主力と行動をしばらく行動を共にするようじょとモエキーおねえさんとはここでしばらくお別れだった。
 見れば、モエキーさんの方へいそいそと小走りにやって来る女魔法使いとクレメンスの姿が飛び込んでくるじゃないか。その後ろにはようじょもいる。

「どれぇ!」
「おおッヨイさま、アレクサンドロシアちゃんたちは出発しましたか」
「はいなのです。ドロシアねえさまとあいぼーはさっきの船便でしゅっこーしたのです」
「そうでしたか。奥さんたちは何か言っていましたか?」

 リンドル河港のひときわ大きな桟橋を眼にした俺たちは、離岸していった一隻の小型貨客船を見やりながらそんな会話をした。
 ダアヌ第一夫人がプライベートで経営している商会の所有する船を借り上げて、その船で急ぎゴルゴライ近くの河岸へと向かう予定となっていた。

「家族みんなでお子さまは十にんは最低欲しいと言っていたのです」
「ぶはっ、何ですかその事付けは」
「あんごーだょ」
「あっ暗号ですか。つまりどういう事でしょう……」
「この戦争で、それだけ支配領地を広げるという事なのです。お子さまがたくさん出来て財産分与しても困らないだけの支配領地が必要なのです」
「な、なるほど。勝つしかないですね」
「必勝なのです!」

 きっとッヨイさまの見やったあの船が女領主と雁木マリの乗ったそれなんだろうな。
 急速に離岸しながらマストに帆を広げたその軽量船は、たぶん女領主が操作する風の魔法を受けて出港した。

「どれぇたちもそろそろ出発の時間なのです」
「後の事はしばらくお任せします」
「了解なのです。でもホントはッヨイも、どれぇたちと一緒に上陸作戦に参加したかったのです。こういう事は学のあるかしこいどれぇの方が向いていると思うのです……」
「何を言いますかッヨイさま。おりこうさんのッヨイさまの大戦略があればこそ、稲妻作戦が成立するのです」
「わかったのです。頑張るのです!」

 ッヨイさまに向かって貴人の礼をとったところで、待機していた女魔法使いとクレメンスを見やった。
 何故かようじょの側に立って無言でこっちを見ている女魔法使いと、こっちに一歩踏み出したクレメンスでふたつにわかれた。

「おいおい、きみもこっちに来るんだよマドゥーシャ」
「はははご冗談でしょう閣下。わたしは養女さまをお守りするという大命がありますので、それはちょっと……」
「馬鹿を言うもんじゃないですだ。おらたちが槍働きをしなければ、先輩にぶち殺されてしまうですよマドゥーシャ」
「ヒイイ、それは困ります誓って大戦果です!」

 わかりやすい事で何よりだ。
 こうしてようじょに後事を託した俺たちは、自分たちが乗り込むべき別動隊の乗り込む舟へと向かった。

     ◆

「俺たちが上陸するのはモッコの村という小さな漁村だ」

 午後の遅い時間を迎えた頃。
 出港を前に複数の漁船に乗り込んだ別働隊の面子を睥睨しながら、俺は声を張り上げて説明を続けた。

「対岸のリンドル子爵家領には幾つもの軽輩領主たちの村がある。盟主連合軍の主力は対岸のリンドル領から周辺のブルカ伯に味方する敵領主たちを攻める事になるが、領境の隣接する何れの領主も軍事力はたいしたものではない事がわかっている。だが、無視できないものがひとつある」

 俺はいったん言葉を区切ると、それぞれの船に乗り込んでいる奥さんたちの顔を見やった。

「対岸の奥地には砦として利用されていたフクランダー寺院という、いにしえの魔法使いたちの遺した宗教施設の廃墟があります。ここは辺境開拓史にあって王国が軍事拠点に利用した遺構でもあるそうだ。現在は打ち捨てられた場所ではあるが、いざ開戦した場合、ここに立てこもられると厄介きわまりない」

 ひとつ目には剣を抱きしめるタンヌダルクちゃんの姿が見えた。クレメンスや野牛の兵士、ごついサルワタ傭兵のみなさんを引き連れる荒くれ者揃いの殴り込みチーム。
 ふたつ目にはカラメルネーゼさんが槍をしごいている姿が飛び込んで来た。怖い。何だかやる気マンマンの恐ろしい微笑を浮かべているではないか。こちらも近接戦闘チームだ。
 三つ目にはぼけーっと俺を見つめているけもみみの姿があった。無理やり漁船に乗せた馬を上陸させる輸送チームといったところか。
 そして最後に俺たちの乗り込む漁船だが、ここには正妻カサンドラとニシカさんが弓を抱えて乗り込んでる姿が確認できた。女魔法使いもとても嫌そうな顔をして乗っているが、こちらは支援射撃を担当するチームといったところか。

「そこで俺たちの目的は敵の背後にあたるモッコの村に上陸する事になります。モッコ村からフクランダー寺院は近い場所にある。敵を蹴散らしながら一路その先の目標を目指す事になるのです」

 返事がない。
 みんな揺れる出港前の小さな漁船でおしくらまんじゅうをしている様だ。
 ニシカさんに至っては誰構う事無く俺の足にしがみついている有様で、その背中をカサンドラがよしよしと撫でているという無様な姿である。

「ご主人さま、準備完了です」
「う、うん出発しようか……」
「よし奇襲部隊出発! 船頭の指示に従って手の空いた人間は舟をこげッ」

 男装の麗人は右手を胸に付いてばるんと揺らして見せると、それぞれの船に号令を飛ばした。
 まあ、細かい事はどうでもいい。
 俺たちはやがて迎える夕闇に乗じてモッコの村に上陸し、寝静まっている村長屋敷を襲って制圧したら、夜明けと同時にフクランダー寺院の遺構を目指すだけである。

 反対の船にはマタンギ領主のデルテ騎士爵が率いる船と、別の軽輩領主の混成部隊が乗り込んだ船があったけれど、こちらは俺の言葉にニッコリ笑って応えてくれる。
 こちらはまさか軍監の俺まで前線に帯同するとは思っていなかったのか、張りきっちゃって元気はつらつだ。
 モノの本によれば軍監というのは指揮官に作戦を意見具申したり、相談相手になったりするのが役目らしいね。
 さしずめ総司令官を務める御台マリアツンデレジアの軍事顧問といったところで、通常は前線指揮を任される様な立場ではない。
 それからもうひとつの役割があるとすると政治将校か憲兵かわからないが、前線の軍紀違反や勲功褒賞の有無を報告するのがお仕事なのだとか。

「シューター卿、いよいよですな! 俺は今燃えている」

 今回の場合は後者の役割を担って前線に出るものだから、事前の晩餐会で俺たちがその気にさせたデルテ騎士爵などは、ここぞとばかり一番槍を狙っている事が顔からもわかる。
 吠える野太い声が勇ましいけれども、俺の乗った漁船の後尾には、薄幸そうな顔を青白くさせてますますいたいけな奥さんがいる事を忘れちゃいけないよデルテさん。
 多くの諸侯が率いてきた家族たちは、その大半がリンドル市内の宿屋に居残って人質としての役割を担っていたけれど、どういうわけかこのデルテ騎士爵は若奥さんを前線に連れてきたのである。
 自分の妻をわざわざ危険にさらすとか頭おかしい。

 あんた馬鹿だろ?
 などと俺は心の中で思ったのだが、よくよく考えれば俺の奥さんたちはみんな当たり前の様に前線に出て戦うスタイルである。
 大正義カサンドラなどは、知らないうちに俺たちと同じ様なブリガンダインの甲冑を武具屋から仕入れて来て、ちゃっかりサーコートまで羽織っていたからね。
 触滅隊の掃討作戦にも参加した前例があるし、説得を試みようと思ったけれど無駄でした。
 盟主連合軍に参加した軽輩領主のみなさんはどこも戦士が不足していて、若い奥さんなら剣を持って前線にみんな駆り出している有様だからね……

「シューターさん。水先案内をする漁師さんから合図ですよ」

 そんな風にカサンドラに声を駆けられたので、俺はすぐにも反応して船先に視線を向けた。
 俺たち定員オーバー気味の漁船の集団から少し離れた場所を、滑る様に走る小さな小舟が見える。
 夕陽を背負う格好で地元猟師の爺さんに操られるそれが、ゆっくりと回頭する姿が見えた。
 帆も無い小さなその舟のへさきで、孫だろうか小柄な子供が手を振ってこちらだと示しているのが見える。
 事前の取り決めの通り、俺も了解した旨をお返事しなければならない。

 こちらです、こちらです。
 了解しました、了解しました。

 英語で言えば逆Cマークを作っている少年に俺は片足を上げながらY字を作って返事をする。
 傍から見ていたら馬鹿みたいな有様だろうが、俺たちは真剣そのものだ。
 やめてくださいニシカさん、こらやめろズボンを引っ張るな!
 手信号中に足にすがるニシカさんを俺があわてて放そうとしたところで、勢いを速めろと舟の上で万歳を繰り返している少年の姿を認めて俺は叫んだ。

「対岸に近付くぞ、川の流れに船を持っていかれない様に勢いを付けろ!」
「へい、了解しやした全裸卿ッ」

 俺の号令に従ってあちこちの船で反応が次々に返って来る。
 左右に揺れる漁船の具合はひどくなったので、ニシカさんは無様さを増した。
 大丈夫かこのひと、上陸してから使い物になるのかね……

「シューター、オレはもう駄目だ」
「大丈夫ですニシカさん。鱗裂きさまともあろうお方がそんな事では、旦那さまに立派なご奉仕が出来ませんよ」
「なあカサンドラ。オレ様は披露宴に欠席するぜ、ひと足先に異世界へ魂を旅立たせるからよ」
「せっかく家族になれたのですから、そんな事は認められませんよ。さあ元気を出して、あと少しです」

 やっぱりバレてたじゃないか……
 魂の抜け殻になったニシカさんを介抱しながら、ぎゅっと真面目な顔をして俺を見上げた大正義カサンドラだ。
 ゆっくりと葦の河原が迫って来るのを見て、俺たちは上陸の準備を開始した。
 夕闇はさらに深まっていく。
 あと少しで完全に夜となるこの瞬間に着上陸をこのタイミングにギリギリ合わせてくれた地元猟師の爺さんは、さすがだと思った。
 声をすぼめながらもベローチュが船の指揮を執る。

「ヨーソロー、ヨーソロー。ご主人さま、まもなく着岸ッ」
「総員衝撃に備えろ! チーム第一波はただちに上陸して抜剣、周囲を警戒するんだ」
「了解だよ、馬を乗せた船はまだ着岸しないでいいよ」

 おおよそ腰までの水かさ近くまで船が騎士に近付いた辺りで、ガガガガッと船底を岩か何かにこすり付ける音が響いた。

「上陸開始! 行け行け行け!!」

 別動隊のみなさんは、勢い船から飛び出して葦原を前進した。

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