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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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204 五頭会談 5

投稿後、修正後に後半パートを少し加筆しました。
 この後に控えている晩餐会のために、空手家のサンタ王と必要最低限の密会を済ませたところで、リンドル御台のマリアちゃんは夜会の準備に取り掛かる事になってしまった。
 王様とは思えないような身軽さで、リンドル宮殿の使用人たちを避けながらコソコソと控室に戻っていくサンタ王を見送った後に、ツンデレのマリアちゃんに謝罪されてしまったのである。

「何だかだまし討ちの様な事をしてしまって、申し訳ありませんの」
「いやあ、どういう結果であれ俺たちに協力を惜しまないと言ってくださる有力者を紹介してくれたんだ。これほどうれしい事は無いからね」
「けれども、まさかわたくしもシューターさまとお手合わせをなさるとは聞いておりませんでしたのよ。……このお詫びは後日何か改めて」

 フヒヒ。
 そういう事でしたら後日改めて。
 俺もこうしてはいられない。晩餐会には俺たちも当然出席するのだから、急いでサルワタの控室に戻らなければならないし、先ほどサンタ王から耳にした情報も共有しておく必要がある。
 そうやって新米官憲のホイヤくんに顔を合わせない様に、俺もこそこそと宮殿の中を移動して戻ったところで、ゴルゴライ領主控室に入ろうとしている雁木マリに遭遇したのである。

「それでバンダレーンタイン陛下が仰るには、マスオという聖使徒が辺境のさらに先、ドワーフたちの岩窟都市周辺で布教活動をしていたのだそうだが……」

 事のあらましをアレクサンドロシアちゃんの控室に集まっていたカサンドラやようじょを交えて報告すると、静かに経緯を聞いていた雁木マリが最後になってこの様に訂正を加えて来る。

「それはマスオではなくて、マスラオと呼ばれた先代の聖使徒さまの事だと思うわ」
「マスラオ?」
「そうマスラオ。ほら、あたしたちの元いた世界に、勇者とか英雄とか強い人間とか、そう言うのを指す言葉で確かマスラオという言葉があったでしょう?」

 そう説明する雁木マリの言葉に、俺はマスラオは漢字で何と書いたものかと思い返した。
 丈夫とか大丈夫とか、あるいは益荒男なんて字を当てていた気がする。
 言われてみれば異世界伝説の空手家にぴったりなあだ名である様な気がした。

「それが辺境中心地のブルカから離れて、辺境のさらに向こう側にある隣国の土地で訛ったという事は考えらるわね。確かにマスラオと呼ばれた、騎士修道会の聖使徒に列せられる人物がいた事は間違いないわ」

 わたしは直接お会いした事は無いし、聖堂に降誕して直後に色々と調べた時に知っただけだけれどね。と、雁木マリは腕を組みながら思案気にそう言った。
 時代は少し遡って、少なくとも二〇年以上前には消息を絶ってしまったらしい。
 マスオ改めマスラオさんは、サンタ王の言葉を信じるのならば岩窟王国の建国戦争の中で命を落とした事になる。

「その方の本名というか、そういうのは伝わっていないのですかあいぼー?」
「聖堂の書庫を調べれば何か出てくるかもしれないけれど、今はそんな事が出来る状態ではないしね。もはや戦時下ですもの」

 いったん言葉を区切ったマリは、次に俺の顔を見て微笑を浮かべながら言葉を続ける。

「あたしやシューターだってそうだけれど、このファンタジー世界風に名前が訛って呼ばれている事もあるじゃない。マリがマリーとか、修太がシューターとか……」
「そうだったの。お兄ちゃんの本当の名前はヨシュア・シューターというのだったか」

 憮然と腕組みをして安楽イスに腰を落ち着けていたアレクサンドロシアちゃんが、唐突にそんな言葉を口にするのだった。
 ヨシュアってその名前、いくらなんでも救世主すぎる名前なので俺はあわてて顔を引きつらせてしまった。
 俺の元いた世界の人間が聞いたら「大げさすぎる」と確実に突っ込みを入れるだろう。
 するとそれを聞いた雁木マリが、面白おかしげに笑い出したではないか。

「ヨシュアじゃなくてヨシダな……」
「ふむ、ヨシュアか。お兄ちゃんの名前は発音が難しいな。女神様の祝福を受けた聖使徒というのは何かと特別らしい」

 俺からするとッからはじまるゴブリンのみなさんのほうが発音が難しいよ!

     ◆

 有力諸侯と実務担当者によって今夜行われる晩餐会にために、リンドル宮殿には俺たちの家族や仲間たちも合流する事になった。
 昼間は情報収集活動に明け暮れていた男装の麗人や修道騎士ハーナディンたちも、タンヌダルクちゃんやけもみみたちを護衛しての登城である。

「あのう、シューターさん」
「何ですか奥さん」
「晩餐会に参加するのはこれで四回目なのですけれども」

 うん。俺は首肯しておずおずと質問をしてくるカサンドラの言葉の続きを待った。

「女性の方でドレスを着ている方はほとんどおられない様に見えるのですけれども、これは気のせいなんかじゃないですよね……」
「まあ確かに。これはお貴族のみなさんが仲良く親睦を深めましょうというだけの晩餐会じゃないしな」

 基本はこれからブルカ辺境伯を打倒するために集まった有力諸侯たちとその軍勢のみなさんだ。
 女性がこの場にも少なからず参加している事は間違いないけれど、彼女たち女性陣の大半が貴族軍人であるのだから、これはしょうがない。
 サルワタ一帯の領主であるアレクサンドロシアちゃんからして、女騎士としてこの場に立っていた。
 雁木マリは修道騎士で、けもみみは俺の護衛も兼ねているし、タンヌダルクちゃんは指揮系統上は俺の副官という事になっていた。

 今回は残念なことに、奥さんたち全員のドレスアップした姿を見る事は出来なかった。
 こういう晩餐会に限らず赤のドレス姿で日常的に生活をしているアレクサンドロシアちゃんは、貴族軍人時代から愛用していた甲冑をその上に纏う姿だったけれど、タンヌダルクちゃんはミノ式軍装とでも言うべき黄金の胸甲姿だったし、けもみみも俺とお揃いの服装だ。
 雁木マリも騎士修道会の代表者という立場から、ブリガンダインこそ俺と同じデザインのだったけれども、その上にはΠのマークが入った法衣姿である。
 ニシカさんはどんな場所でもドレス姿を見た事が無かったし、こうしてみるとカサンドラとようじょだけが美しい、あるいは愛らしいドレス姿でこれから行われる晩餐会に向かうのであった。

 そんな中、有力諸侯の中で唯一と言ってもいい、純粋に豪華で贅沢の限りを尽くした優雅なドレスを身に纏ったリンドル御台マリアツンデレジアが、晩餐会の会場に義息子のシェーンを伴って大広間に姿を現した時。
 彼女を見やる諸侯と供回りたちの中から嘆息ともどよめきとも言える空気が会場に伝播した。

「リンドルの事実上の支配者、マリアツンデレジアか。こうして改めておめかしをした姿を見やると、都会育ちの本物のお貴族令嬢であると言う事がよくわかるというものだな」

 隣接した席にいたアレクサンドロシアちゃんが、唸る様にそう言葉を漏らしたのを俺は耳にした。

 いくつもの円卓が置かれて、それぞれはいくつかの領主とその身内がテーブルを囲む様な形に配置されている。
 着席式のスタイルは、前回行われた晩餐会の時と同じだがそこが違う。
 この辺りの配置席順は、俺が留守にしている間にカサンドラと雁木マリが、リンドル御台と擦り合わせを行ってくれた結果である。
 ちなみに俺たちとテーブルを共有しているのは、ベストレの男爵さまの御一行だ。

 立食式は格式ばったものを捨てて実務的に行うスタイルらしいのだけれど、今回は有力諸侯がこれだけ顔をそろえているので、そういう格式も無視する事が出来なかったのだ。
 しかし宴たけなわとなれば席を立つ事も普通にあるし、今回はちょうどサルワタ代表団とゴルゴライ代表団は席がすぐ背中合わせだ。

「どうだお兄ちゃん。田舎貴族のわらわと、都会派貴族の姫君では、どちらがそなたの趣味であるか」
「ご領主さま、そういう事を言うのは愚問ですよ」

 しごく真面目な顔で俺が女領主を見返すと、一瞬だけキョトンとした顔をした彼女が「聞いたかお前たち」などと嬉しそうにはにかみながらカサンドラやエレクトラを見て微笑を浮かべていた。

 俺は仮にもこのファンタジー世界にやって来た時に、絶対に守るべき事をひとつ決めている。
 それはどんな事があったとしても、この女領主を裏切らないと誓った事だ。
 そして家族は何としても絶対に守るのだ。バイト戦士に過ぎなかった俺が、ここで作り上げてきたものは少なくない。

「わらわの旦那さまも男だからの、眼移りする事はしょうがないだろう。けれども即座にそう返事をしてくれるところは信頼しているさ」
「ありがとうございます、ありがとうございます」

 近頃少しは身に付いてきたんじゃないかと密かに思っているお貴族さま風の優雅な礼をしてみせると、満足げに女領主が笑って見せた。
 カサンドラやタンヌダルクちゃんもニコニコしているから内心とてもホッとした。
 けもみみはぼけぇっとした顔でシェーン子爵の方を見ている。
 俺が常に眼を光らせておけと命じていた事を忘れていないのだろう。
 ニシカさんはすでに呑んでいた。

「どれぇ、ベストレ領主さまの事はッヨイたちに任せてほしいのです」
「はい、よろしくお願いします。こちらは予定通り、マタンギの領主さまを」

 小声でようじょと確認を取りながら、チラリと雁木マリ達の方向を見やる。
 離れたテーブル配置にされた騎士修道会のみなさんは、お揃いの法衣甲冑の姿で憮然とした雰囲気が漂っている。
 マリとハーナディンが身を寄せて何やら話し込んでいる様子だけれども、テーブルを共有するみなさんが有力ではない諸侯、つまりリンドルやセレスタ、オッペンハーゲンの周辺に小さな領地を持っている軽輩諸侯たちの集団のひとつと同席しているのである。
 どうもここから雰囲気を察するに、軽輩諸侯たちは同席する相手としていい雰囲気ではないらしい。

「あちらはあまりいい空気じゃない様ですねッヨイさま」
「軽輩領主というのは日和見なのです。いち度ッヨイたち連合軍が負けてしまうと、たいきょしてブルカ辺境伯に靡いてしまう可能性があるのです」

 そういう意味では面倒な相手だね。
 要はこちらが勝てば軽輩領主たちは従ってくれるというわけだけれども、そのためにはオッペンハーゲンのドラコフ卿たち有力者としっかり堅固な関係にある事をこの場でアピールしないといけないのだ。
 ハーナディンくん、頑張ってくれ。
 雁木マリは女領主の援護射撃に回る余裕が果たしてあるだろうか……

     ◆

 壇上に上がったリンドルの支配者親子が、儀礼に必要な挨拶の言葉を交わした後、一見すると晩餐会は和やかな雰囲気ではじまった。
 ここは誰が味方で誰が敵なのか、反ブルカ連合軍として集まったとは言っても、腹の探り合いが行われるもうひとつの戦場なのだろう。
 最初は着席して向かい合ったり隣り合わせた領主たちと軽いジャブの様な意見交換をしつつ、やがて盛り上がると酒杯を片手に立ち上がり会話が弾む。

「チッ。つまらん……」

 そんな会場の中で、ただ憮然と壇上の御台マリアツンデレジアを面白くなさそうに睨み付けているひとりの人物がいた。
 マタンギ領主である騎士爵デルテ卿だ。
 笑いもせず怒りもせず、ただ顔をしわくちゃにしてムスっとした表情に、騎士と身内の女性と囲んだテーブルで交流など一切しないデルテ卿に近付いた俺は、少し攻略の糸口に戸惑いながら声をかけるのだった。

「デルテ卿、お隣よろしいでしょうか」
「ふん、勝手にせよ」
+注意+
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