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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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201 五頭会談 2

本日2回目の投稿です!

 いかにも新参と思われるお仕着せの新米官憲に案内されて、俺たちサルワタの一行は城館の中に招き入れられて会場の控室へと向かった。
 このリンドル宮殿には都合何度も招待された身ではあるけれど、この日はリンドル子爵領にとって一世一代の晴れ舞台だ。
 何しろリンドル子爵家の名の元に八人の指導者が参集するという辺境外交の一大イベントだ。
 オッペンハーゲン男爵領、セレスタ男爵領、ベストレ男爵爵領、サルワタ騎士爵領、ゴルゴライ準女爵領、マタンギ騎士爵領、騎士修道会、そしてドワーフの岩窟王国の指導者たち。そのうち俺は名目上は義息子ギムルの送り出した大使という立場で、雁木マリもカーネルクリーフ猊下の代理人だけどね。
 これらが御台マリアツンデレジアの檄文によって顔を合わせるのだから壮観と言わずして何というのだろう。
 しかし問題がひとつあった。
 代表者として俺たちの面子はゴルゴライとサルワタ、騎士修道会という三つの組織に跨っていた事だ。

「何だ、わらわたちはそれぞれ別の部屋に案内されるのか。非効率的だ」
「こちらがサルワタの大使閣下の控室になります。そのお隣は騎士修道会のみなさまがた、少し離れまして向うの部屋がゴルゴライ準女爵さまの御控えの間となります故、どうぞアレクサンドロシア卿ははそのままお進みください」
「……あいわかった。案内せよ」
「ささ、こちらに」

 動員令によって新たに雇用された新人の官憲は、まるで融通の利かない頭の固い男の様だ。
 以前からマリアちゃんが侍らせていた文武両官と家令の爺さんなどは、きっと辺境有力者たちとの会談の準備に奔走していて、案内役などは新人のお仕事というわけである。

 ムスリとした顔のアレクサンドロシアちゃんは、大人しく護衛のエレクトラとダイソンを引き連れて先の部屋へと立ち去って行く。
 雁木マリも修道騎士の仲間たちとともに、サルワタ控室の隣へと案内された。
 俺たちも大人しく、カサンドラとようじょの手を取って控えの前に入るしかない。
 こればかりは味方の数をでっちあげた弊害と、諦めるしかないね。

     ◆

 いったんそれぞれの代表団ごとに控室に分離された俺たちは、改めて案内の者が顔を出すのを待って会見場へと進む事になった。
 その場所は以前に晩餐会の催された宮殿の大広間だったけれど、どこからか巨大な食卓みたいな長テーブルがいくつか持ち込まれて、それぞれの代表団の従者のための席もその背後にある。
 上座には当然ながら会談発起人であるリンドル子爵シェーンの席が用意されていたが、それ以外は家格にあわせて席順が決められているらしい。
 左列が岩窟都市のドワーフ王陛下、セレスタ、ベストレ、サルワタと並んでいる。
 右列が騎士修道会にはじまり、オッペンハーゲン、ゴルゴライ、マタンギだ。

 代表団全員が自分たちの席に腰を落ち着けたのを見計らって、大広間の袖からリンドル子爵のシェーン少年と、その後見人であるマリアツンデレジアの登場だ。
 シェーン子爵の着席とともに、背後に立った御台としてマリアツンデレジアが諸侯一同に向けて挨拶の言葉を投げるのだった。

「この度はブルカ辺境伯の数々にわたる悪行を正すため、諸卿らがリンドルの子爵シェーンの言葉にご賛同し、こうして軍勢を引き連れ集まった事を、子爵にかわりこのわたくしがあつく御礼申し上げますの」

 ここからは儀式めいた多分に政治的な紹介の時間に割かれて、俺たちはマリアちゃんが口上を述べる度に紹介された偉いひとに頭を下げて回った。
 代表者たち全員が基本は口を発することなく、最後にひとこと名前を言って終わる。
 それによってこの場の主導権をマリアツンデレジアが握っているのだと、みんな感じていた事だろう。
 よく出来たシナリオだが、これも俺がサルワタへと急ぎ引き返していた間に、ようじょとカラメルネーゼさんがマリアちゃんと顔を突き合わせて計画していた事だと聞いている。
 つまらない発言を領主毎にさせてしまっては、口の立つ者がその中にいると、イニシアチブを奪われかねない。

 それにしても今日初めてお顔を拝見したオッペンハーゲンの男爵さまは彫りの深い、しかし糸目のおじさんだった。これは軍人タイプの人間で間違いない。
 名前はドラコフ。強そう。
 クロードニャンコフ氏の父だというから何とかニャンコフと言うのかと思ったら違うのね。

 もうひとり。岩窟都市のドワーフ国王陛下は、バンダレーンタインというらしい。
 サンタクロース然としているくせに、語感はチョコレート記念日だね。

「リンドル軍勢一一〇〇余名は内訳、領軍四〇〇、傭兵七〇〇。オッペンハーゲン軍勢三〇〇〇余名は内訳、領軍一五〇〇、傭兵一〇〇〇、その他。騎士修道会一二〇〇余名は内訳修道騎士五〇〇騎、他武装修道士……」

 そんな紹介と諸侯たちの率いてきた、あるいは本領て待機している動員兵力についてマリアツンデレジアが説明を加えたところで、最後にこの様に儀式めいた宣言が行われる。

「わたくしたち辺境諸侯は、これより辺境諸領を(わたくし)し暴虐無道の限りを尽くし、国王陛下より与えられた領地安泰と開拓の責務を放棄して私利私欲を追求するブルカ辺境伯を打倒するため、ここに反ブルカ辺境伯討伐軍を結成する事を宣言しますの!」

 それぞれの代表者が用意された起請文に署名を入れ、そのうちの一通は王都中央に向けて送り出されることになる。
 署名の最中、ドワーフのサンタ王とマリアちゃんがわずかに目配せをしているのをチラリと確認した。
 最後にそのふたりの視線が俺に向けられたところで「?」という気分になったのだが、何か俺がしでかしただろうか。

 それにしても。お貴族さまの代表者のひとりとして、このファンタジー世界の地方史に名前を残しそうな会見の場に俺がいて、そして俺が名前を残す。
 同時にこの決起の文面はありとあらゆる辺境書き地へと撒かれて、戦いは決定的なものとなるのだった。
 これはもう後には引けないね。

     ◆

 署名捺印を追えて軍事担当者による具体的な作戦の計画立案をした後。
 晩餐会までの時間、俺たちはふたたび控室へと戻って少しの休憩を取る事になっていたのだけれども、

「聖使徒シューター卿におかれましては、御台さまが奥の間で閣下がご帰城なさるのを今か今かとお待ちでございました。さあ奥さまである御台さまの御心を休ませるためにも、早くお顔をお見せください」

 登城した時と同様に案内役をしてくれた新米官憲が、そんな事を口走ってくれたのである。

 お前は何を言っているのだ?!
 新米官憲の言葉が発せられた途端に、俺たちの面子は完全に凍り付いたような顔をしてしまう。
 御台さまというのはマリアツンデレジア夫人の事だ。リンドルの実質的な支配者で、この有力諸侯会談の発起人である事は間違いない。
 一方の俺はサルワタの大使としてここにいる事になっている。
 アレクサンドロシアちゃんの旦那さんであり、カサンドラの旦那さんだ。
 俺はサルワタの人間である。
 にもかかわらずこの官憲はわけのわからない事を口走っていた。俺が「ご帰城なさる」のをマリアちゃんが待っていて「奥さまに早くお顔をお見せください」と言ったのだ。

 その言葉を聞いたアレクサンドロシアちゃんが、ぴたりと足を止めてゆっくりと振り返った。
 とても恐ろしい笑みを浮かべて、俺を見つめている。
 隣のカサンドラも、とても嫌そうな顔をして俺を見上げて来るではないか。

「カサンドラよ」
「はい、アレクサンドロシアさま」
「貴族の妻と言うものはこういう時にニッコリ笑って送り出すのがならわしであろうか」
「はい。夫を信じる事はとても大事だと思います」

 う、うん。
 アレクサンドロシアちゃんもカサンドラも、これが何かの意図がある事なのではないかとちゃんと怒らずに理解してくれている。
 しかし火に油を注ごうとする新米官憲だ。

「御台さまにおかれましては、シューター閣下をご信頼されておりますからな。側室のみなさまがたは、御控え目されるがよろしいでしょう。ご理解ありがとうございます」

 誰だよこの官憲雇ったの!!

「側室だと?! お兄ちゃんはわらわたちの夫であり、わらわたちは妻である。断じて現地妻ごときのマリアなにがしのものではないわ!」

 ついに怒りを爆発させた激情家の女領主にも「困りましたね」などと、まるで空気を読めない新米官憲がため息を漏らす。
 俺は何も聞いていない。
 これは何かの意味が込められた合図ではないのだろうか。
 きっとこの機会に何か秘密の報告があって、俺を呼び出す必要性があったのではないかと俺は考える。
 そうであってください。
 ここでマリアツンデレジアちゃんが何かの独占欲でも発揮しようものなら、激情家のアレクサンドロシアちゃんが怒り沸騰するところである。

「ど、どれぇ。これはシェーンお坊ちゃまのりかんこうさくかもしれないのです」
「りかんこうさく、離間工作!」

 モノの本によれば、離間工作あるいは離間の計というのは、標的となった人物の仲を引き裂く心理作戦の一種である。
 三国志や戦国時代の読み物では良く出てくる言葉だけれども、強固な関係を結んだ敵を内部から弱体化させて関係崩壊をもくろむ手段だったはずだ。
 さしずめ母を独占したいリンドル子爵シェーン坊ちゃまからすれば、俺が奥さんたちとの関係がこじれてツンデレのマリアちゃんどころでなくなれば、クソガキの作戦大成功となるのだろうか。

「とにかく、本当に御台さまが何かのご用があるのかもしれないわよ」
「ねえさまも、ドロシアねえさまも、ここは大人しくこの官憲さんの言葉に従ってマリアねえさまのところにどれぇを送り出すのがいいのです!」

 あわてて雁木マリとようじょが取り成したおかげで、少しみんなが落ち着きを取り戻す。
 それにひとつ思い当たる事もあった。

「みんな聞いてくれ、ドワーフのサンタ王とマリアちゃんも何かさっき目配せをしていたみたいだし、その件かもしれない。まあ、とにかく俺が行ってくるから安心して報告を待っていてくれ!」

 前途多難な巨頭会談である……
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