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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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199 セレスタへ 後編

「わあ、見てください旦那さま。辺境の南はこんな風になっているのですねぇ!」

 はしゃいでみせる俺の野牛奥さんは、軍船の揺れなどものともせずにぐるりと甲板を一望して振り返った。
 ぱあっと手を広げてみせるとこの星の重力に逆らって持ちあがり、そして沈むのである。
 船の揺れ以上に胸が揺れた。。

「北の大地を出た事の無かったわたしには、何もかもが新鮮ですよう。南の土地は起伏のある山野の景色が広がっていて、とても魅力的です。見てくださいあの小山! 旦那さまの力こぶみたいですっ」

 そうだね、プロテインだね。
 つい調子に乗って腕まくりをして見せた俺は、ムキっと二の腕に力を込めてみた。
 しかしすでにタンヌダルクちゃんの興味は別のところに向いてしまったらしく、甲板の反対側に走って行って、対岸に見える教会堂か何かを差して大喜びしているではないか。
 バツの悪い顔をして振り返ると、そこにはゲッソリした顔のニシカさんがいたのである。

「なあシューターよぅ。オレ様からあまり離れないでおくれよ。おまじないが切れてしまうじゃないか」
「ちょっと待ってくださいニシカさん。ベローチュは奥さんの側に付いていてくれるか、あまり騒いでいて船から転落したら大事だ」
「わかりましたご主人さま。そちらはニシカ奥さま介抱をなさってください」

 流麗な動きで一礼して立ち去る男装の麗人を送り出して、俺はニシカさんに振り返る。
 小舟の時はそうでもなかったのに、大きな船になると一気に弱々しくなるのだろうか。そのあたりのメカニズムはよくわからないが、

「黄色は病弱と……」
「病弱じゃねえや」
「こんな状態で風の魔法、使えますかね」
「だ、大丈夫だ。お前ぇが側にいておまじないをだな、してくれればどうにでもなるぜ。午前中みたいに背中をさすっておくれよ……」
「はいはい、世話の焼ける蛮族さんですね」

 遠くリンドルへと続く河川を力強く遡るその軍船は、大きな帆を目一杯に広げて航行していた。
 帆に送り込まれる風は、この軍船に乗り込んだ三人いる風魔法の遣い手が常時交代で行うのである。

 鱗裂きのニシカさんは言うに及ばず、魔法使いを多く輩出してきた高名なジュメェの氏族と出身の女領主アレクサンドロシアちゃん、そして護符で自在に強烈な魔法を使いこなす女魔法使いマドューシャである。
 普通ならば、貨客船にひとり乗り込んだ専任の魔法使いが、休憩を挟みながら上流へ上流へとゆっくり進んでいくのが常識で、休みなくどころか通常に倍する速度で船を前進させることはありえないのだ。

 ちなみに今はアレクサンドロシアちゃんの当番で、準女爵というお貴族さまの領主にも関わらず魔法で帆に風を送り続けていた。
 近寄ってみると「何でわらわがこんな事をしなければいけないのだお兄ちゃん」と愚痴をこぼしている。
 おかげで仕事を奪われる形になった軍船の若い女性の魔法使いさんは、田舎言葉丸出しのクレメンスたちと甲板の後部でおかしな体操をやっていた。
 怪訝に思って聞いてみると、

「おっぱい体操ですだ」

 ヨガみたいな恰好をした鳩胸のクレメンスが、アホみたいな顔でそう答えた。
 隣で必死にポーズを決めている女性の魔法使いさんは、まだ女子中学生みたいな顔をしているからまだ見込みがあるかもしれない。
 それにぷっくり少しだけワンピースを持ち上げている双丘がある。一方、

「クレメンスくん、きみは今年で幾つになる?」
「もうすぐ年増に数えられるだす。早くしないとおっぱいの成長が止まってしまうのだす」

 きみはもう手遅れだと思うがね……
 希望の無いおっぱいをまじまじと見やった後で、俺の近くに立っている四人の女性の胸を交互に見比べた。
 アレクサンドロシアちゃんの熟れたお胸は言うに及ばず、ダンヌダルクちゃんの野牛胸、それに勝るとも劣らない褐色ぱい。そして辺境随一のマウントニシカ。
 それぞれ順にでかい、すごい、おっきいです。そしてこれはドッヂボールだ!!
 俺も息子も満足したところで少し前かがみになってしまい、続けてひとつため息が飛び出してしまった。

「頑張りたまえ。希望は捨てない事だ」
「んだす。ニシカ奥さまの様にはいかないまでも、おらだってアレクサンドロシア奥さまぐらいにはなりたいもんですだ」

 アレクサンドロシアちゃんは息子を押さえて腰を折った俺を見て呆れた顔をしていた。

「わらわは魔法に集中したいのでな、おかしな体操を一緒にやるのなら余所でやってくれないか」
「はい……」

 俺の息子はうなだれた。

     ◆

 川の流れに沿って魔法の力で逆走する事、二刻あまり。
 交代制で魔法の風を送り続けたおかげで、往路ほど早くはないけれどセレスタの河岸へと俺たちを乗せた軍船は到達するのだった。
 セレスタの街にある河港ではご当地領主の男色男爵にその供回り、そしてゴルゴライやセレスタと隣接するマタンギ領主とその供回りたちが待機していた。
 すべてのひとびとを輸送する事は不可能なので、ここで軍船から男色男爵所有の貨客船に乗り換える事になるので、俺たちはそろって下船する。

「んまあー、ドロシアちゃんお久しぶりじゃないのおお。元気してたああ?」
「何だ暑苦しい。お前は相変わらず眼に染みる服を着ておるな、これから戦争という時にその様な目立つ格好をしておると、いの一番に狙撃されてしまうぞ」
「いいじゃないここは戦場じゃないんだから。さあさ、こちらの船に乗り込むわよお? そうだ!」

 女領主と男色男爵は貴族軍人時代の元同僚だ。
 旧交を温めるべく長い手を広げて喜んで見せる男色男爵に対し、意外にもアレクサンドロシアちゃんはとても嫌そうな顔をして悪態を付いていた。

「だ、旦那さま。あれは紫色の蛮族ですようっ」
「こらこら、慎みなさい。領主さまのご戦友なのだからな」

 タンヌダルクちゃんはとんでもなく派手な角付き肩パットのオネエ貴族に圧倒されて、俺にしがみ付いていた。
 まあ初見じゃ誰でもびっくりするよね。
 そこをいくと正妻カサンドラは、それでも対等に俺の留守中この男色男爵と交渉にあたったというのだから、立派なもんだ。

「そんな事よりも、結婚おめでとう~。ようやく人生に春が来たみたいじゃないのぉ?」
「馬鹿を申すな、これからは戦争の秋だぞ!」
「まったまたぁ。照れなくてもいいのよ?」

 ふと視線を外してみると、ぶすりとした顔の上等なおべべをきた男がひとり。
 部下たちとともにこちらを睨み付けるそれが、恐らくマタンギの領主という騎士爵さまだろう。
 このまま放置しておけば気まずいどころではないのが見て取れた俺は、すぐに男装の麗人に目配せをしながらタンヌダルクちゃんとニシカさんを両脇に並べて歩み出した。
 すぐにも俺の顔にフレンドリーなスマイルが浮かぶ。
 人間、第一印象が大切だもんな。

「お初にお眼にかかります。そちらにおられるのは、もしやマタンギの騎士爵さまではありませんかねえ?」
「ぬ、いかにもわたしはマタンギの領主デルテ騎士爵である。そういう貴様は何者だ」
「自分はサルワタ騎士シューター卿にお仕えするベローチュという者です。わが主をご紹介いたします故、ぜひとも」
「褐色の長耳族、オコネイル卿の配下ではないのか」
「オコネイルさまの遠縁にはあたりますが、今はシューターさまの忠実な下僕。さあこちらへ、」

 相変わらずの不平顔のままマタンギ領主はこちらを見やった。
 ブリガンダインにサーコート、その上から赤のマントを纏った俺をジロジロと見る眼は、どこか小馬鹿にした様な態度でチッと舌打ちすら聞こえてきた。

「ゴルゴライ準女爵アレクサンドロシアの夫、サルワタ騎士シューターです。以後お見知りおきを」
「…………よしなに」

 優雅とはいかないまでも、右胸に手を置いて俺が貴人の礼をとってみせたところで、向こうも形ばかりの礼をしてみせた。
 ちょっとだけ首を縦に振って見せる程度の事だ。
 そのままでは場の空気が最悪なのを察した男装の麗人が「さあ貨客船へどうぞ」と急いで誘ってくれる。

「なあ相棒。オレはヤツが気に食わねえんだが」
「本当ですよ旦那さま。何ですかあの蛮族丸出しの態度は!」

 相棒と奥さんがご立腹だったようだけれど、それはたぶんお互いさまという所だろう。
 マタンギ領主のデルテという男、年齢はだいたい俺と似た様なものだろうと外見からアタリをつけたけれど、きっと本当はブルカ辺境伯の側に馳せ参じるつもりがあったのだろう。
 それがゴルゴライのアレクサンドロシアちゃんとセレスタの男色男爵に領地を挟まれているため、こちらに味方しなければならなかったのだ。
 俺には何となく、その不満が表情に出ている様に感じた。

「裏切るかも知れないが、どうするよシューター」
「少し様子を見ないといけませんね。いざ戦場で戦う時は、先鋒に立てて背後から追い立てるぐらいは必要かもね」
「怖い事をいうな、お前ぇはよ」

 交渉においていささか強引なところのあるアレクサンドロシアちゃんに代わって、俺がその辺り眼を光らせる必要がある。
 表の顔はアレクサンドロシアちゃん、彼女の手の届かないところは俺がやればいい。
 ちょっと接近してみるか、案外その不満に付け込んで上手くコントロール出来るかもしれないぜ。

「しかしそれは最悪の時だ、根気よく口説くぞ。あれは立場が追いつめられているのでああいう態度をしているんだ。槍働きの場所を与えれば、こちらになびく事もある」
次回、五頭会談!!!
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