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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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196 進発します

 赤のマントに赤のドレス。
 それに煌びやかな甲冑を身に纏った女領主が、さっそうと謁見の広間に登場すると壇上に登った。
 すぐにも広間で待機していた俺たちは片膝を付いて平伏した。

「ご苦労である」

 鷹揚に返事をしたアレクサンドロシアちゃんは、そのまま玉座の元にずいずいと進んで腰を下ろした。
 傍らに控えていたエレクトラが、その際に女領主の長剣を受け取った。

「ただいまリンドル子爵シェーン卿より、わらわのもとに書簡が届けられた!」

 今度はエレクトラに変わってダイソンがふたを開けながら手文庫を差し出す。
 中からは立派な筒に入った書簡が取り出され、アレクサンドロシアちゃんはゆっくりとその巻物を広げて見せた。

「内容はこうだ。近頃度重なるブルカ辺境伯の圧迫により、われらは甚大な被害を受けておる。よってリンドル子爵シェーン卿の発起により、辺境諸侯による盟主会談を行い、反ブルカ辺境伯連合軍の結成を宣言するためにリンドルへの招待状が届けられたのだ!」
「「「おおおっ」」」

 広間の中に部下たちの声がこだました。
 もちろんそうなる事は少なくとも俺は理解していたし、この場に集まっている主要なサルワタの幹部たちも同様だ。
 けれどもここには今、ブルカ聖堂を最後に出立した騎士修道会のイサ騎士隊の修道騎士たちもいる。
 彼らはカーネルクリーフ総長がブルカ辺境伯と敵対すると決めた時に、泣きながら総長と別れを惜しんでこのサルワタに来た人間たちだ。

 通過儀礼めいたこのやり取りではあったけれど、それにはちゃんと意味があるのだ。
 彼らは出来る事ならば、カーネルクリーフ総長を救出したいと思っている。
 そのためにはサルワタと騎士修道会の連合軍だけでは当然勝ち目がない。
 セレスタ、リンドル、オッペンハーゲンといった全ての辺境有力諸侯たちが連合しなければ、これに勝ち目はないのだ。
 その事を指し示す様に女領主は言葉を続けるのだった。

「わらわの他に、セレスタ男爵、オッペンハーゲン男爵、ベストレ男爵、ゴルゴライ準男爵、マタンギ騎士爵などがこの諸侯会合に招待状が送られておる。また隣国である岩窟王国からもドワーフの岩窟王陛下が参集するという旨が書かれておるな」
「それは、つまり隣国の王までがこの戦いに参加すると言う事ですか!」

 若々しい修道騎士のひとりが叫ぶ様に質問した。
 同様に広間に集まっていた人間たちの中からどよめきも起きている。

「そうだの。岩窟王国は岩窟都市を中心とした都市国家で、わらわたちの王国に比べれば国土もさほどではないかもしれぬ」
「しかし辺境一帯と比べた時には伍する領土を持っているのだから、それはブルカ辺境伯にとっても侮れない軍事力という事ですねえ」

 女領主の言葉を受け取って、俺がその続きを説明した。
 どうやらリンドル御台のマリアちゃんは、上手く諸侯を引っ張り出す事に成功したと言う事だ。

「本来この諸侯連合の大会合は、わらわが取り仕切って行う事が望ましかったのだがのう。この城はそのために最適な城であったし、この広間こそがそれに相応しい場所だとも考えた。しかし今回はその大盟主としての役割は子爵シェーン卿にお譲りする事となった」

 言葉を区切ったアレクサンドロシアちゃんは、広間の一同を見渡してからまた口を開く。

「ブルカ辺境伯の軍勢は、すでに集結を開始しておると報告を聞いている。そうであったな?」
「はい。自分の手の者の報告によれば、ブルカ領内の主だった領軍が前線方面、つまりゴルゴライの街道口にむけて参集しているとの事です。ブルカ市中では傭兵の雇い入れも盛んになっているらしく、一部の冒険者もこれに加わっているとのことですッ」
「うむ。だがまだ軍勢を整えつつあるのは、ブルカ領軍の本隊だけである。当然ブルカ領内には王国の辺境兵団が駐留しており、手続きを一つ間違えた戦を仕掛けた場合これは黙っていないだろう」

 アレクサンドロシアちゃんはうんと大きく頷いて見せると、今度は俺の方を見た。
 俺もリンドルで購入したブリガンダイン鎧の上から、タンヌダルクちゃんの実家から取り寄せた、女領主とお揃いのマントを身に纏っている。
 その傍らにはタンヌダルクちゃんもまた、金の煌びやかな甲冑を身に纏っているけれど、こちらはマントではなくポンチョ姿だった。一応は領主とその夫と立場の差を付けるために、わざわざ同じ柄のポンチョにしているらしい。

「騎士シューターに命ずる。これよりわらわはリンドル子爵の招きに応じて、諸侯会談の場に向かう事にする。道中の警護一切は、騎士たるそなたの役割と心得よ!」
「ははあ」
「またその妻タンヌダルクには副官を命じる。道中は大軍を率いてゴルゴライまで進む事になる故、騎士シューターと手分けして、これをうまく取り纏めよ!」
「わかりましたあ」

 ちょっと間の抜けた様な甘ったるいタンヌダルクちゃんのお返事だけれども、確かにこの時を持ってブルカとの本格的な戦いが始まったのだと俺たちは理解したのだ。
 ブルカ辺境伯と敵対するために、辺境の有力諸侯が集結する事そのものが軍事行動だ。
 軍事行動はすなわち、いつでも戦争に突入する状態である。

「わらわがこの本領サルワタより動く事は、ただちにオレンジハゲ……ブルカ辺境伯の元に工作員によって届けられることだろう事は間違いない。軍事力の移動は、すなわち開戦を誘発する事になる」

 サルワタ領軍が動くとなれば、間違いなくブルカ辺境伯のどこかの部隊も釣られて動き出すだろう。
 モノの本によれば、こういう形からはじまる戦闘状態の事を機動戦なんて風に言うらしい。
 戦争は基本的に陣取り合戦だ。
 敵に対してこちらが有利になる様な場所を先に押さえるのだ。
 わかりやすくその場所は周囲を見回せる高地であったり、策源地であったり、都市部であったりする。

 夜が明けてみれば、お互いに有利な場所を抑えようと行動していた部隊同士が朝陽とともにばったり出くわす。
 このパターンではじまった日本史上の合戦と言えば、関ケ原の戦いが有名だったと思う。
 霧が開ければ東軍の井伊隊と西軍の宇喜多・小西隊が激突したのだそうだ。

「旦那さまあ。開戦を誘発するというのは、この隙にブルカの大領主が軍勢を刺しかけて来ると言う事なのでしょうか?」
「可能性はある、何しろ領主不在の時を狙うのは有効な手段だからな。けどサルワタを攻めるためにはゴルゴライの街道口からサルワタを目指さないといけないことになる」
「けど、それだとこの森からスルーヌ経由でブルカの方に続く川は、注意しなくていいのですかあ?」
「川幅がそれほど大きくないのと流れが急だからな。もちろん油断はできないので、スルーヌには野牛の兵士が二〇〇ほど布陣しているんだよ」

 そうなのですかあとタンヌダルクちゃんが納得した様だ。
 実際問題として、サルワタより下流に伸びる河を使って、大軍を送り込む事はむずかしいだろう。
 問題はスルーヌにツジンという男が傭兵を引き入れた様に、少数の工作員めいた人間を警戒した方がいい。
 ブルカ辺境伯はツジンやその他の人間をとにかく工作員として背後で動かして、上手く後方かく乱をこれまでもやってきた経緯がある。
 そこは油断できないのだが、

「その点はお任せくださいご主人さま。マイサンドラをスルーヌの関所に常駐させる様に手配しております」
「関所? そんなものが街道沿いにあったかな?」
「スルーヌ攻略の際に領主のトカイが橋を落としたのだお兄ちゃん。その後はサルワタでブルカの工作員が暗躍していた事もあったので、この際はあの場所に簡易の関所を設ける事にした」
「なるほど、それならば納得です」
「スルーヌの守備は現在わらわの義弟であるエクセルパークに任せておる。いざ会戦となればあの者もゴルゴライ方面へ進軍する事になるだろうが、まだ主戦場がどこいなるかというのはわかっていないからな」

 今回の有力諸侯の盟主会談はリンドルで行われることになる。
 俺たちサルワタ側からブルカ辺境伯に戦争をけしかけるとなれば、これはゴルゴライ方面から一挙に攻め寄せると言うのが常とう手段になるのだが、逆にブルカ伯側から戦争をけしかける事になれば、領主不在のサルワタ領になるのか、辺境の反ブルカ首脳が集まったリンドルを攻める事になるのか、これはふたつの選択肢が生まれる事になるからな。

 モノの本によれば戦力の分散はもっとも避けねばならない戦略の基本だと書かれていたが、その開戦場所を予想する事も、俺たちにとって重要な今後の問題だった。

「さて、本領のであるサルワタの村は、ギムル卿とその妻タンシエルがしっかりと防備せよ」
「ははあ。命に代えましてもアレクサンドロシアさまよりお譲り受けましたサルワタをお守りして見せます」
「うむ。村と周辺の防備はイサ卿の騎士隊に付いてもらう事にする、しっかりと守る様に。何か急報ある時は、この際サルワタよりゴルゴライの一帯はわらわのものだ。狼煙を使う事も検討せよ」
「狼煙ですか。わかりました」

 女領主の言葉に殊勝な態度でギムルとその奥さんタンシエルがおじぎをした。
 すっかり若村長とその妻という感じの雰囲気が漂い出していて、ちょっとうらやましい感じだ。
 若いおふたりで支え合って、幸せになってもらいたいね。
 うんと頷いて見せた女領主も同じ考えの様だ。
 義息子・義娘に幸せになってもらうためには、ここら先何ひとつ失敗の許されない駒の指し合いをするんだな……

「イサ卿。そなたの騎士隊の内から供回りにいくらかは連れてゆくが、お前には留守中の城と、領内の警備を頼むぞ」
「任されました。ブルカ伯の工作員の恐ろしさは、この領内のみなさんからもハーナディン卿からも聞かされています。徹底して見回り隊を組織してパトロールする事にします!」

 うむ、と返事した女領主に青年イサ卿は胸に手を付き腰を折って見せた。

「ご領主よ、俺はどうすればいい」
「タンクロード卿、お前はサルワタ領軍でシューター卿とともに主力の双璧を成す戦士だ。わらわが連合軍の会合の間、ゴルゴライを守備する様に」
「心得た!」

 野牛の族長タンクロードに、騎士修道会から加わった修道騎士たち。
 みんながアレクサンドロシアちゃんに対してこの様な態度を示してくれることは、その場にいた村の幹部たちにとっても安心材料になるに違いない。
 村の人間たちはこれまで、特によそ者を嫌い続けている風潮があったけれども、それはよそ者というのは得体が知れない連中であるからなんだろう。
 こうして首を垂れて臣下の礼をとってくれ、それが引いては自分たちを守るためになる役割を担うのだ。
 安心した顔のジンターネンさんや大工の棟梁たちの顔を見たところで、アレクサンドロシアちゃんも満足げに笑みを浮かべて立ち上がった。

「それでは直ちにわらわは旅に出立するとしよう。ともども、後は任せたぞ!」
「ははあ!」

 俺たちは揃って平伏したのである。
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