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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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194 サルワタの城が落成しました 前編

遅くなりましたが更新です!
 ここ数日、俺はサルワタの近況を書簡にして綴る作業に注力をしていた。
 ひとりではむずかしい政治的な言い回しが出来ないために、そこはタンヌダルクちゃんとベローチュの手を借りて書類のまとめ作業を行う。
 リンドルで外交交渉にあたっているようじょからは、こちらの状況が知りたいと矢の様に催促が来ているのだ。
 彼女はサルワタ領にとっては、もはや軍師さまの扱いだからな。
 俺も簡単な短い報告だけは五月雨式に送り続けていたが、これでは本格的かつ事細かな情報を送り出すには不安があった。
 魔法の伝書鳩で情報を飛ばすという事は、以前俺たちがツダの村近郊で目撃した様に、ブルカ辺境伯の工作員と思われる鷹匠か何かに、情報を奪われる可能性があるからだ。
 そこで詳細な報告を記した書簡については、武装飛脚を使おうという話になったのだけれど、

「旦那さまあ、武装飛脚のひとが手配できましたよう!」
「おおっ。ありがとうございます、ありがとうございます。もしかしてゴブリンの少年だったかな?」
「いいえ違いますよう。蛮族修道会の騎士さまです、ドロシアさまと一緒に本館でお待ちになっていますよう」

 俺が小さな机にかじりついてベローチュと書類にサインを施していたところで、タンヌダルクちゃんからの報告が届いたのである。
 てっきり例のショタゴブリンの武装飛脚エースくんが現れると思ったが、違った様だ。

「ご主人さま。後はこちらとこちらに署名をしてくださりますか? 封をする作業はこちらでやっておきますよ」
「ベローチュや、いつもすまないねえ……」
「何を仰いますか。この程度の書類仕事はご主人さまの忠実なる下僕である自分にお任せください。さあ、アレクサンドロシア奥さまがお待ちでしょうから後はお任せを。準備出来次第、直ちに追いかけますので」
 そんな殊勝な言葉を口にしてくれた男装の麗人が直立不動になり、たおやかなお胸の方がばるんと揺れて俺を促してくれた。

「すまん。では頼めるか」
「旦那さまあ! どこにお返事しているのですか」
「ついおっぱいにですね……」

 ここはサルワタの湖畔にある城館だった。
 外交使節団を率いて俺が夏の初めに辺境歴訪の旅に出かける前は、まだまだ足場だけが組まれている建設途上のお城だったけれども、今は湖畔の丘陵にその威容を称えているのだ。
 女領主アレクサンドロシアちゃんは騎士修道会のカーネルクリーフ総長との会談を終えると、この城の建設を急ピッチで推し進めていた様だね。
 すでに外装はお城の体を成している様に見えるけれど、実際のところはまだ城内のあちこちで人足たちが内装工事の作業に従事していた。
 生活空間としては一部の水場周りがまだまだ施工途中であったけれど、ひとまず防御施設としてのサルワタの城は落成(らくせい)したと思っていいかもしれない。

 俺はこれまでにセレスタとリンドルのふたつの城を見てきたけれど、このサルワタの城はそのどれとも明確に違う雰囲気が漂っていた。
 セレスタの城は、城の機能よりも明らかに居住性とデザイン性を重視した領主館だったからな。何しろピンクだったりパープルだったりの彩鮮やかな壁面だ。城としての機能はもともとが辺境の軍事拠点から街に発展したはずだから、市壁そのものが強固かつ戦略的に作られていたのを思い出す。
 そしてリンドルの場合は、階段の白き麗城というべきたたずまいだった。贅沢の限りを尽くした城府の館と、内装もまた技巧の粋を尽くしたものだと言えるだろう。

「こうしてみると、まがまがしいばかりの武骨な城だな……」
「ドロシアさまの性格をそのままカタチにしたら、こうなったのですよう」
「いやあ、色々と城の設計には俺もアイデアを挟んだからな。どちらかというと俺の好みが反映されているかもしれない」

 そこをいくとサルワタの城は、文字通りの軍事施設というイメージしか沸かなかった。
 石造りの外観で円筒の大きな塔を持つ本館と、そこから飛び出る形で隆起した小さな丘陵には別館という構成をしている。
 それぞれふたつの城館を橋渡しする様に石造りの廊下が走っていて、本館の内門に向かうためには必ずこの渡し廊下を通らなければならないのだ。
 ここからであれば城門を突破して本館を目指すだろう侵入する寄せ手を、魔法や弓を使って制圧する事が出来る。
 むかし俺が元いた世界の城に行楽に行った際の曲輪(くるわ)の構造を思い出しながら、少しばかりささやかな口をはさんだ部分である。
 この二棟の他には堅牢な石造りの倉庫群が城館の裏手側に存在していて、いつでも籠城する事が可能なように食糧物資を蓄えているという構造だった。


「すでにあの倉庫には食糧が運び込まれているそうだな」
「そうですよう。少し前に野牛の兵士や村の幹部たちが、せっせと夏麦やトウモロコシの入った麻袋を運んでいましたからねえ」
「野牛からも物資を運び込んでいるのか! こりゃいよいよ負けられない戦だ」
「当然ですよ旦那さま。まさか旦那さまはこの戦争に負けるとでも、思っているのですか……?」
「いやいやいや、誰だって負けるために戦争をする人間なんていないさ。どういう結果になるか何て、最後の瞬間まで何を努力したかというのが大切なんだよ」

 別館と本館の間を走る渡し廊下を歩きながら、野牛の奥さんが胡乱な眼で俺を見上げて来るではないか。
 あわてて否定の言葉を口にしながら手を振って説明したところ、腰にエッヘンと手を当てたタンヌダルクちゃんのポーズとともに揺るぎないお胸がぶるんと揺れた。
 余は満足じゃ……

「まあ、旦那さまは全裸を貴ぶ辺境不敗の戦士さまですから安心ですけれども。戦場で勝てる事と、戦争そのものに勝てる事は違うのだと兄さんが言っていました」
「その通りだね。戦場で何度負けても最後に勝てばいいんだ」

 ブルカ辺境伯にはさんざん煮え湯を飲まされてきた。
 それこそろようじょや雁木マリ宛に書いていた先ほどの書簡には、ゴルゴライでナメルシュタイナーがまたぞろ姿を見せていた事や、その周辺で修道騎士と野牛の兵士が殺された事。
 さらにはスルーヌでのツジンの暗躍にサルワタ三〇人殺しの件だ。
 サルワタの森で目撃されてマイサンドラが仕留めたガーゴイルに至っては、どうやらデブが支配魔法で使役していたという事がわかっている。
 ガーゴイルと言えばである。

「そう言えばドロシアさまがですね。ガーゴイルの死体を解体し終わったから、リンドルに向かう時は売りに行こうと言っていましたよう」

 首だけ持ち帰られたガーゴイルの死体からは判別できなかったが、マイサンドラの目撃証言で変な紋様があったというのだ。
 回収してリンドルに売りつけるための素材にしようと村の人間たちが向かったところ、まさにあのデブがやっていたものと同じ紋様がそこに書かれていた。
 つまり俺の背中にあるタトゥーと同じ呪いめいた魔法陣と勅令からはじまる呪文である。

「旦那さまと同じ紋様があるというのも気持ち悪いですが、タトゥーが入っていても売れるのでしょうか?」
「素材としては別に強度が落ちるわけでもないだろうからな。多少値引きはされるかもしれないけど、売れると思うぞ」
「それなら売ってしまうのがいいですね。ドロシアさまもお金が必要だと言っていましたよう」
「戦争はお金がかかるからな……」

 そんなやり取りをしながら石造りの本館の中へと俺たちは吸い込まれていった。
 この城内は、サルワタの村長屋敷や俺の新居がそうであった様に、土壁でしっかりと内装が施されていて、サルワタの厳しい冬の寒さにも熱を逃さない様に工夫されていた。
 外が灰色の何となく武骨なものである代わりに、内装だけはどこか暖か味の感じられる作りだ。
 俺はこの新しい城の構造を熟知していたわけでは無かったから、タンヌダルクちゃんの後ろに付いて歩きながら迷子にならない様にした。

 内装施工中の職人さんたちとすれ違う度に「どうも奴隷騎士のだんな」とか「やあおつかれさんです!」などと声を駆けられながら、アレクサンドロシアちゃんの待つ本館へと入った。

「それにしてもここが俺たちの新居なんだなあ。俺さ、部屋が四つ以上ある部屋に住んだことが無いんだ……」
「開拓村のお屋敷は、シエルとギムルの愛の巣になってしまいましたからねえ」
「あ、愛の巣。そうだね」

 猟師小屋からせっかく引っ越した前の屋敷も、今は村長屋敷が焼け落ちてからは仮の村長邸宅として使われている。
 住んでいた時期はほんのわずかな時間しかないので正直を言えばあまり愛着も無いしな。
 などと本館の廊下を通りアレクサンドロシアちゃんの待つ場所へと到着する。
 そこはファンタジー世界にいかにもありがちな、吹き抜けになった謁見の間そのものが広がっていた。

「おお、お兄ちゃん来たか。どうだわらわたちの城は!」

 すごく武骨で立派です!
活動報告にて朗報を更新しました。
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