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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第2章 ダンジョン・アンド・スレイブ

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24 俺の村八分が街でも継続される訳がない 中編


 愛らしいようじょは、小首を傾げて俺の顔を覗き込んだ。
 金髪碧眼、ふわふわのカールが柔らかくかかった背の低い女の子。耳は女村長と同じく少しだけ先端が尖った外開き。胸元が編上げになっているワンピースタイプのドレス姿だ。
 金貨十枚もする奴隷を購入するのだから、それなりに身分卑しからぬ立場なのだろう。

「お、俺の名前はシューターです。よろしくお願いしますご主人さま」

 俺は気がつけばいつもの低姿勢でペコペコと自己紹介をした。しかもつい口をついて「ご主人様」なんて言っちゃった。

「いいですねぇ、ッヨイの名前はッヨイハディ=ジュメェだょ」

 おっと来ました読めない名前。
 ッからはじまるという事は、ゴブリンかゴブリンハーフのようじょだ。
 人間の子供の様な容姿をしているが、それはきっと背の低いゴブリンの血筋が濃厚だからだろう。そのあたりは女村長と対極的である。

「はじめまして、ッヨイ……さま。どうぞわたしをお買い上げください」
「こら、ッヨイハディ=ジュメェさまだ! 名前をしっかり覚えないか!」

 無理だ、いちいちこのファンタジー世界の住人は名前がややこしい。
 丸坊主野郎に叱咤されたけど、発音できないものは発音できないのだ。

「いいですよ。ッヨイはあまり気にしないので、細かい事は。どれぇはどこの出身なのですか?」
「辺境の、出です……」

 異世界人ですなどと言って余計な警戒をされてはいけない。
 面接は心象第一だ。いけすかないルトバユスキの元に残されるよりは、高貴な身分のゴブリンにもらわれた方が絶対に幸せになれるはずだ。
 しかも相手はようじょ。隙を見て逃げ出す事もできるかもしれない。
 俺には妻が村で待っているのだ……

「ふむ。ッヨイが求めているのはダンジョンに潜って戦う事のできる優秀などれぇなのです。どれぇは戦う事ができるのですか?」
「は、はい。槍や剣は多少使えます。弓は、修行中です……」
「なるほど。戦士というのは本当なのですね? このどれぇは幾らですかぁ?」

 ふんふんうなずいていたッヨイさまは、微笑を浮かべていた赤いチョッキの奴隷商人ルトバユスキに向き直った。

「さすがッヨイハディ=ジュメェさまはお目が高い。ブルカ辺境伯金貨二〇枚と騎士修道会銀貨十八枚、大変お買い求めやすいお値段となっております」
「うん、悪くない。けどちょっと高いかなあ……」

 流暢にようじょのフルネームを呼んでみせたルトバユスキは、手もみをしながらようじょに胡麻をすった。
 あの奴隷商人め、俺の価値は金貨十枚とか言っておきながら、倍近い値段でふっかけやがって。
 人身売買は割のいい商売だな!
 ッヨイさまは値段が高いと拗ねた顔をしてしまったが、こんなところをさっさとオサラバするためにも、自分で自分を売り込んでおかなければならない。
 ただダンジョンに冒険者という言葉が気になって仕方が無かったが、そこは今聞いたところで教えてもらえるものでもないだろう。

「よ、ッヨイさま。どうかこの俺をッヨイさまの忠実な奴隷としてお買い求めください。何でもしますからッ」
「ふむ。いま、何でもしますからって言った?」
「言いました!」
「さっきも言ったけど、ッヨイはダンジョンに潜るつもりなのです。だからどれぇにはお仕事をいっぱいしてもらう事になります」
「何の問題ありません。肉体労働のバイト経験はいっぱいありますから。へへ」

 満面の笑みを浮かべて俺は返事をした。
 笑った瞬間に潰れた俺のイケメン面が痛みで悲鳴を上げたが、今は我慢だ我慢。

「……ねえ、どれぇ商人。もう少しお値段はまかならないのですか?」
「そうですねえ。少し体が傷物である事を考えて、金貨十九枚と修道会銀貨八枚。これでどうでしょう」
「うーん。いい戦士は欲しいけど、他にはいないですか?」
「他と申しますと、若いゴブリンの男なら何人でもいますよ。その奴隷の代わりにゴブリンをふたり購入するのもありでしょう。でしたらこの半値でふたりが購入できます」
「ゴブリンは嫌だなぁ。だって安いしゴブリンだし」

 自分の事を棚に上げながらッヨイさまは思案していた。ゴブリンは嫌いなのだろうか。
 ゴブリンの奴隷相場は安いものと決まっているらしい。

「ゴブリンがお嫌でしたら、元冒険者という中年の男がいますねえ。こちらは三〇歳と少々年齢がいっていますのでお安くできます。金貨十二枚と、銀貨五枚といったところでしょうか」
「中年はすぐ病気になるから、いらないです」

 残念ながら元冒険者はお断りされてしまった。
 いや、問題はそこじゃねえ。俺はその中年冒険者より年配なんだが、それはいいのか。
 黙っていればわからない事なので俺は聞かなかったことにして無言を貫く。
 それにしても、ッワクワクゴロさんも言っていた気がしたが、俺はこの世界で若く見られるのだろうか?
 こちらに来てから伸ばしっぱなしだった無精ヒゲを剃ったからかも知れないな。

「うーん」
「わかりました。それでしたら辺境伯金貨十八枚と銀貨二枚、これでいかがでしょう」
「それでいいです。どれぇ契約書を」
「賜りました」

 満面の笑みを浮かべたルトバユスキがパチンと指を鳴らして、契約書とやらを取りに走らせた。
 俺はブルカ辺境伯金貨十八枚と騎士修道会銀貨二枚で売却が決定したのである。

「よろしくね、どれぇ!」
「ッヨイさま、ありがとうございます。ありがとうございます」

 俺は全裸でようじょに平伏した。

     ◆

 俺は全裸で街を歩いている。
 首には首輪が巻かれており、そこから鎖が垂れてその先端をようじょが握っている。
 まるで犬だ。散歩をしている犬の様だな、などと俺は思いながらブルカの街を歩いていた。背中にはもともと俺の所持品だった短剣とポンチョを入れたズタ袋がある。残念ながらチョッキと腰巻はルトバユスキの手下どもに乱暴されて、ズタボロになってしまったらしい。愛妻ヒモパンは行方不明のままだった。
 畜生め!

 しかし。
 てっきり複雑な奴隷契約の過程があるとばかり思っていたが、実際にはルトバユスキとッヨイさまが契約証を取り交わしてサインをしただけだ。
 後は俺の血で拇印を取っただけ。この契約書に何か魔法的な呪縛があるというわけではない。
 奴隷が主人を殺せば殺人罪、逃亡は追手がかかり、見つかれば殺される。
 だがそんなのはうまく逃げればいくらでもやりようがあるだろうさ。代わりに俺のヘソに奴隷である事を示す外せないピアスをぶち込まれただけである。
 吉田修太、三二歳はこの齢で初ヘソピアスをしました。
 イケてるかい?

「ッヨイはね、冒険者なのです」
「ほう、ッヨイさまは冒険者だったのですか」
「そうです。これからはダンジョンを攻略するために、護衛ができて荷物運びができて、いざという時に盾になってくれる冒険者のどれぇが必要だったのです」
「荷物運びはお任せください。護衛もお引き受けした経験がありますよ。いざという時の盾は、未経験ですが……こちらは頑張って善処します」

 ダンジョンというのがどういう場所かは知らないが、古代遺跡とか天然の洞窟迷宮とか、そういうのを想像すればたぶん大きくは外れていないはず。
「だからまず冒険者ギルドに行って、どれぇの冒険者登録をします」
「おお、冒険者登録!」
「今日はその後にどれぇの武器と冒険者道具を購入しないといけないからね。それからあいぼーを紹介します」
「ありがとうございます、ありがとうございます」

 本来ならば今頃、ねぼすけニシカさんとふたりで紹介状を持ってギルドに足を運んでいた頃だろうか。
 ニシカさん、今何しているんだろうな。
 宿代は十日分ほど前払いしておいたので寝床には困らないが、ニシカさんはほとんど無一文だったはず。持ち込んだ携帯食料が無くなれば飢える。
 アイパッチやヒモパンを換金してもたいした金にはなるまい。
 落ちぶれて繁華街の裏をさまよう鱗裂きの眼帯女を想像して、ちょっと俺は心配になった。

 それにしても。
 こうして街を歩いていると、ひとつ気が付いた事がある。俺と同じ様な全裸姿のゴブリンが、時折だが目につくのである。あれがギムルの言っていた奴隷身分という事なのだろう。多くはゴブリンだが、中には首輪だけ付けた裸の男女も見かける。彼らはぱんぱんに詰まった麻袋を荷運びしていたり、高貴な身分の人間に付き従っている。
 しかし、全裸に武器を装着している姿はかなりシュールだぜ。 

 そしてこの辺りは高貴な身分の人間ばかりが多いという事、それは見落としてはいけない点だろう。
 ブルカの街に入って来た時には気が付かなかった発見だ。そしてこの界隈は、街に到着して二日目ではじめて足を踏み入れたエリアでもある。
 猥雑で汚らしい感じの初見感想を持ったブルカに対して、ここは人々の行き来こそ多いが、やや清潔で整然とした街並みだった。
 ぎちぎちに石造りの建物が並んでいる点は同じだが、それでも建物の高さはどこも三階建て以上という感じ。

「大変失礼な事をお聞きしてしまうかもしれませんが、ッヨイさま」
「何ですかどれぇ?」
「ッヨイさまは高貴なお方なのでしょうか? その、決して安くない金額で俺を買い取ってくださいましたし。冒険者というのはそれほど儲かるのでしょうかね」
「うんと。ッヨイはもともと魔法使いなのです」
「魔法使いですか」
「うん魔法使いは希少価値だからね。どこにいってもお仕事に困らないのです。それに冒険者は成功すれば儲かるのです」

 魔法使いというとあれか、ニシカさんみたいに風の魔法を操ったりするのかな?
 いやニシカさんが使っていたのは風の魔法だけ、とすると魔法使いの定義は複数の魔法を使いこなす事なのだろうか。

「ッヨイさまはいくつもの魔法が使えるのですか」
「んと、そうです。ッヨイが得意にしているのは土の魔法。それから火の魔法や水の魔法も使えます」
「風の魔法はどうですか?」

 俺もニシカさんみたいに弓矢を駆使して獲物に一撃を与えてみたいものだと常々思っていた。可能ならば教えてもらう事はできるのだろうか。

「土の魔法ほど得意じゃないけど、できますよ?」
「おお、そうですか。それはすばらしい!」
「だから、冒険者パーティーでは火力の中核を担っていたのです。エッヘン」

 立ち止まったようじょが腰に手を当て胸を張った。
 無い胸は、何の主張もしなかった。

「さ、さすがですねッヨイさまは。ぜひ俺にも教えていただきたいものです」
「ふむ。どうですかねぇ」

 歩きながら考え込んでいたッヨイさまだったが「まあそのうちね」と返事を短くした。今の俺はこのようじょの奴隷だ。まあ、悲しいけれど学ぶ時間はあるるだろうさ。
 しかし奴隷か。
 この世界における奴隷とはどの程度の過酷さなのだろうか。

 モノの本によれば、一概に奴隷と言っても様々な形態があったというのは読んだ記憶がある。古代ローマの時代では奴隷はわりと余裕があったらしく俺たちの元いた時代、元いた世界の派遣労働者みたいなものだったはずだ。
 しかし翻って大航海時代らか産業革命にかけての奴隷とはすり潰されるための労働力だったはず。
 理由は簡単に推測できる。
 戦争捕虜や破産したり食い詰めて奴隷となった連中というのは、自国や隣国など基盤となる生活圏とその周辺に存在する人間だからな。

 しかし、大航海時代以後の奴隷というのははるか遠くアフリカ大陸やアジア、南北アメリカにそれを求めて、植民地での消費が前提だったものだ。
 鉱脈や荘園の運営に、これら単純労働の使い捨て労働はとても便利だったのだろう。
 してみると、俺は奴隷ライフにワンチャンあるかもしれない。少なくとも奴隷を使った鉱脈採掘なんて事をさせられるわけではない。
 たかがダンジョン行きのパーティーで荷物持ちか、いざという時の捨て駒だ。

「普段はあいぼーとふたりでダンジョンに潜っているんだけど、それだと出かけられるダンジョンも限られるし、あまり深層に向けて前進できないのです。だからどれぇが頑張ってくれたら、きっといい結果を出せるのです」
「はい。時には荷物を運び、時には剣を取って戦います!」

 ようじょは金貨一八枚も払って俺を買ったのだ。
 金貨二〇枚でワイバーンの骨や皮一式。ニシカさん曰く十年贅沢な飯が食える額と言ったかな。
 だとしたら捨て駒で終わってしまうわけにはいかない。もちろん捨て駒にされるわけにはいかない。
 そして、ようじょには悪いが何とか逃げる算段でも考えるべきか。

 俺たちは冒険者ギルドにやってきた。

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