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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

第7章 戦場でお会いしましょう

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191 とりあえず話をしようか

本日2度目の更新です!

「キュッキュッキュー?」
「ようし、よしよしよし。おじさんが留守にしている間、ちゃんとしっかりお母さんや家族の事は守ってくれていたみたいだな」
「キャッキャ」
「いい子だ。ひと周りほど大きく成長したんじゃないだろうか。バジル、男は黙って食べ放題だぞ」

 バジルはしばらく見ないうちに中型犬ぐらいの大きさまで成長していた。
 タンヌダルクちゃんは俺の留守の間もしっかりと世話をしてくれていた様で安心した。
 久しぶりに肥えたエリマキトカゲとじゃれ合ったところで、俺はしっかりと本題を切り出さねばならない。

「俺からひとつ、みんなに報告しなければいけないことがある。少しいいか?」

 ようやく旅の荷を解いてひと心地ついたところ。
 俺は自分の執務部屋という場所にみんなを集めてそう切り出した。
 執務部屋などと言っているが、俺はここで仕事をしたことなど覚えが無かった。
 むしろ普段はここでタンヌダルクちゃんが留守中俺の代わりに執務をしていたと言うから、もはやタンヌダルクちゃんの仕事部屋と言った方がいいかもしれない。

「わらわから言うべき事は、あらましもう説明した後だ。細かい事はつど必要を感じた時に切り出す故、重要な話があると言うのならば、お兄ちゃんが説明をしてくれ」

 どこからか持ち込まれた安楽イスに腰を落ち着けながら、アレクサンドロシアちゃんが了承してくれる。

「村長のご許可が出たので続ける」
「お兄ちゃん。わらわはもう村長ではないぞ、今の村長はギムルだ」
「そうでしたねえ。ではアレクサンドロシアちゃんで……」

 改めてそう言う風に呼ぶと恥ずかしいものがあるのだけれど、衆目が詰まっていることを意識しながら周りを見回した。

 この執務部屋には俺とふたりの奥さんのタンヌダルクちゃん、アレクサンドロシアちゃんをはじめとして、男装の麗人に女魔法使い、ニシカさんにハーナディンがいた。

「話と言うのは、俺が女神様の守護聖人だという件についてだ。正確には、俺は雁木マリと同じ元いた世界から、このファンタジー世界へとやって来たわけだが、」

 それをこの世界風に解釈するのならば、女神様の祝福を受けた聖使徒さまであるとか守護聖人という風に言うわけである。
 あるいは全裸を貴ぶ部族とでも言うべきなのかもしれない。
 俺の方は記憶が曖昧だったのでその辺りの事を詳しく覚えていないけれど、雁木マリは一糸纏わぬ全裸の姿でブルカ聖堂に降誕したらしいからな。
 いや、メガネだけは身に着けていたか。メガネは体の一部です。

「他にも、俺と同じ世界からやって来た人間に思い当たるところがある。アレクサンドロシアちゃんやタンヌダルクちゃんからの報告の中で出てきた、ツジンという男だ」

 言葉を区切り、ここに集まっている面々ひとりひとりを見やりながら俺はそう言い切った。
 ついさきほどまで俺が留守にしている間に村で起きた周辺の出来事について、かいつまんでアレクサンドロシアちゃんやタンヌダルクちゃんが説明してくれていたのだが。
 その話の端々にも出てきた人物、それがツジンと言う謎の修道僧である。

「俺が知っている元いた世界には辻政信という男がいる」
「ほう、お兄ちゃんそれはどんな人間だ」

 ゴルゴライ方面からやって来たと言い、スルーヌの村でも傭兵たちを引き連れて現れるとスルーヌの村長を焚き付けたのだと言うではないか。
 そして、ブルカの工作員としてクワズの村に嫁いでいったマイサンドラもまた、ツジンという男に付いては見覚えがある、名前を知っていると言っていたそうだ。

「元は軍人で、作戦参謀をやっていた事で知られている人間だ。まあわかりやすく言うと軍師だな。ある国が起こしたいくつかの戦争で、主導的な役割を担っていた人物だ。少なくともその戦争で開戦劈頭(かいせんへきとう)からあっという間に敵の領土を席巻した作戦を立案したんだが、彼は作戦の神様と言われていた」
「なるほどですよう……」

 この場に女魔法使いを置いておくことには少し躊躇があったのだが、彼女もまたツジンのひととなりを知っている人物のひとりなので、今回はこの告白に参加させることにした。
 相応に金を掴ませるか、脅しをかけるか、あるいはようじょにお願いしてそのうちに支配魔法でもかけてやる必要があるかもしれないが、その辺りは今はおいておく。

「その辻政信という男は、自分が作戦を立案するだけでは無くて、指揮系統を無視して前線に出ては軍隊の直接指導までやっていたらしい。時には暗殺に関わり、時には破壊工作に関わり、その戦争が終わった後では国家転覆(クーデター)まで計画していたような人物だったそうだね。根っからの参謀肌の人間だ。そして最後は政治家をやっていたのだが、やがて行方不明になった」

 本当であればここに雁木マリがいる事が最も望ましかったのだが、彼女は今リンドルで外交交渉にあたっているのだからそれは望めない。
 だが恐らく雁木マリは辻政信なんていう人間は知らないだろう。
 そもそも歴史が好きな人間でも、よほど近現代史に詳しいヤツじゃないと名前を見た事が無いだろう。
 あるいはいくつかの漫画にも登場する人物なので、偶然読んでいた可能性が無いわけではないが。
 だがその事そのものは問題じゃない。
 異世界からやって来た人間という共通項が問題なのだ。

「後の目撃証言では、修行僧の格好をしていたそうだ。ヤツの風貌は写真……絵で見た限りでは坊主頭にガラス珠みたいなのを目に付けているおっさんだ。年齢はわからない、行方不明になった時の年齢はかなりの高齢だったはずだが、この世界に降誕した時に若返っている可能性が無いわけではない。俺も実際、ここでは若作りだとみんなに言われているし、元の世界であったはずの切り傷やなんかの類は、みんな消えていた」

 まくしたてる様に説明したところ、みんなは黙って俺の顔に注目をしていた。
 ゴクリとつばを飲み込む音がしたが、それを発したの修道騎士のハーナディンだった。
 女神様の祝福を受けていない異邦人の存在という事の意味に、理解が及んでいたからだろうね。
 俺や雁木マリは聖使徒やら守護聖人やらと言われているが、ツジンはまず騎士修道会の関知していない存在だ。
 他の修道会派から祝福を受けているというのならまだ話がわかるが、聞いたところでは今のところツジンという人間は女神様のどの会派の信徒でもないらしい。

「ツジン……ツジンマッサーノブ……なるほど語感も似ていますよう」

 タンヌダルクちゃんは考え事をしながら言葉を反芻していた。

「そうだなタンヌダルクちゃん。ツジンと辻政信は語感も似ている。それに顔の造り形もこの辺りの人間みたいな感じじゃなかったんだろう? のっぺりした平たい顔の、そういう風にゴルゴライを預かっていたイディオ卿からは聞いているけれど。どうなんですかねえ、アレクサンドロシアちゃん」
「ツジンの風貌か。確かにお兄ちゃんに似ていたという話は聞いた事がある。そうだのタンヌダルク?」
「はい、確かにマイサンドラもそういう事を言っていましたよう」

 そうなのか? とタンヌダルクちゃんを見やるとコクリと頷いてくれた。
 そのまま女魔法使いにも確認を取るために視線を送ると、やはりこちらも首を縦に振った。
 恐らくここまでくればツジンという男は辻政信そのひとなのだろう。
 ミャンマーで人知れず失踪したという事だけが元いた世界ではわかっていたけれど、その実はこのファンタジー世界へと転生を遂げていたという事だ。

「もとわらわの屋敷の納屋に拘束していたマテルドだが、あれは間違いなく工作員の手で逃がされたものだろうとわらわは思っているがの。その時にまたぞろツジンという男が関わっていた可能が非常に高い。そのツジン、作戦の神様と言ったな。心にとどめておく事にしよう」
「そうしてくれ。俺の記憶にある限り、攻めの作戦をしている時の彼は、すさまじい冴えを見せていたように思う」

 太平洋戦争における開戦序盤の帝国陸軍の快進撃を演出したのは、少なくとも辻政信の作戦計画だったと記憶している。

「女神よりお兄ちゃんは全裸最強の祝福を受けてこの世に降誕した。あるいはガンギマリーは神聖なる癒しの魔法を女神より授けられた。さしずめそのツジンという男は、全能の作戦立案能力を女神から祝福として与えられたのか」

 アレクサンドロシアちゃんはボソリとそんな言葉を口にする。
 全裸最強の祝福というのも、言われてあまり気持ちの良いものではないけれど、神聖なる癒してに全能の作戦能力か。

「もういち度言うが、俺たちの世界での歴史では辻政信という男も完全な人間では無かった様だ。戦いの主導権を握っている間は緻密な作戦計画を立てていたが、彼の立案した全ての作戦で辻が勝利をおさめたわけじゃないぜ」

 ガダルカナルの戦いというのがあった。
 詳しい事は俺の大学での守備範囲じゃなかったので記憶はあいまいだが、彼もその戦いに赴く途中か何かで怪我を負った事があったはずだ。
 一種の天才であったかも知れないが、しょせん神通力が使える女神様というわけではない。
 彼が直接指導をしていない場所では負けもあったはずだ。

「シューターさん。女神様がどういう思し召しで、この世界にツジンマッサーノブという男を降誕させたのかまではわかりません。しかし僕たちにはシューターさんだけでなく、ガンギマリーさまも居ます。数が正義とまでは言いませんが、正義は必ずわれわれにありますよ」
「おい宗教戦士。オレたちゃ正義とかそんな事はどうでもいいんだよ、獲物がわかったんだから、その獲物をどこかの機会で必ず仕留める。オレたちがやるべきことは、それだけだ」

 厳しい顔をしていい事を言おうとでもしたのだろう。
 ハーナディンがそんな言葉を口にしたところで、ちょっと茶化した風にニシカさんが言葉をかぶせた。
 そうだね、ニシカさんの言う通りだ。
 みんなが辺境不敗とか全裸最強だと呼んでいる俺自身が、自分が最強じゃないことは自覚している。
 たぶんツジンだって転生者かもしれないが、ただの人間だ。
 人間なら倒す方法はいくらでもあるって事だよね、いい事言うなニシカさんは。

 そんな風に思いながら俺がニシカさんの顔を見やったところ、ニシカさんはとても嫌そうな顔をして明後日の方向を見ていた。
 どこを見ているのかとその視線の先に眼をやったところ。

「そうね、それが猟人のやるべき事だわ。しばらく見ないうちに成長した様じゃない鼻たれニシカ」
「げっマイサンドラ!」

 そこには執務室の扉の縁に手をかけて、とても偉そうな態度で俺たちを睥睨しているひとりの女がいた。
 カサンドラの従姉にあたる人物で、名前はマイサンドラ。
 そしてニシカさんの師匠という話だったかな。
 マイサンドラの隣には猟師親方のッワクワクゴロさんと、知らない顔の黄色い長耳族の女性がいた。

     ◆

 ッワクワクゴロさんとその奥さんにマイサンドラがやって来た事で、一同はひとまず夕食をしようという段取りになった。
 十数人がぞろぞろと食堂にやってきたわけだが、ここはもともと俺のハーレム大家族が一緒に食事を出来る程度の広さしかない場所だ。
 家中のイスというイスをかき集めてみんなで食卓を囲んでしまえば、そこはとても狭苦しい場所へと早変わりだ。
 どういうわけか女村長を差し置いて、食卓の上座のど真ん中に俺が座らされる。
 普通ここはアレクサンドロシアちゃんの席だろうと話を振ると「馬鹿な事を言うものではない。ここはお兄ちゃんの家で、わらわたちはその妻や客人どもだ」などと生真面目な顔をで言う。

 いやあ、あなた俺の奥さんなんだから客人じゃないし、俺より偉い人でしょう。
 ひと言呆れて言い返そうとしたけれど「そんな事よりも」とアレクサンドロシアちゃんが別の話題を振って来た。

「紹介が遅れてしまったが、お兄ちゃん。こちらはわらわたちの新しい娘になる、タンシエルというものだ」
「誇り高き北のミノタウロス族の氏族の出、タンシエルと申します」

 アレクサンドロシアちゃんに紹介されてペコリと頭を下げた野牛の女は、果たしてギムルと結婚を決めたという野牛の奥さんだった。
 やっぱり名前はタンシエルと言うのかあ。野牛の女性の例にもれず豊か過ぎる胸が印象的ですね!

「旦那さまあ、シエルはもともとわたしの使用人として身の回りの世話をやっていた女なのですよう。身元についてはわたしが保証します。剣の腕も立つし軍事訓練を受けているので体も健康ですね」
「へえ、軍事訓練を受けた事があるのか。あのタンクロードさんのシゴキを受けた事があるのかな?」
「左様でございますお義父さま。タンクロードさまは部族の長として、軍事訓練では必ずいち度はご自身でご指導してくださります」

 そんな風に野牛の女性ふたりがニコニコしているのを見て、俺までたまらず顔がほころんでしまった。
 見ていればアレクサンドロシアさまも「よい嫁を貰ったものだ。孫の顔が早く見たい、なあお兄ちゃん」などと笑っているところを見ると、女村長的にも合格点なのだろう。
 いや、今のアレクサンドロシアちゃんはもう村長ではないので、女領主だ。
 そうして新しい村長であるところのギムルは、とても緊張した顔をして俺に視線を向けてきた。

「お義父上もご健勝で何よりだ」
「いやいや、ギムルさんがお義父上とか、キャラじゃないでしょう」
「黙れ」

 ようやくはにかみ笑いを見せたギムルに、俺はちょっと嬉しくなった。
 むかしこの筋骨隆々の青年と顔とはじめて顔を合わせた頃は、こんな関係になる事が出来るとは予想もしなかったものだ。
 してみると今は義理とは言え親子の仲だ不思議なもんだね。

「黙るのはお前の方だ。義父上に向かってお前は何という口の利き方をしておるのだ。すまんなお兄ちゃん、義息子の育て方を間違えた様だ」
「いやいいですよ、めでたい席だ。ギムルくんも幸せになりなさい」
「わ、わかっている……」

 以前からアレクサンドロシアちゃんが構想していた通りに、サルワタの騎士爵という地位は女村長からギムルへと引き継がれる事になった。
 これで彼女がひとつの村に固執する事なく戦略眼的に立ち回れる立場になったのは大きいと言える。
 問題はこちらだ。

「まったく。食事時に呼び出されると思ったら、軍議とは名ばかりで村長宅で食事会? とんだ迷惑な話もあったものね。そういう事は早くに言ってくれないと、せっかく料理を作っていたわたしたちが馬鹿みたいじゃない。何とか言いなさいよ鼻たれ」
「う、うるせえ。いつまでも師匠面してるんじゃねえ……!」
「ああん? 何か言ったかしら? 聞こえないんですけど。ん?」

 いつもは誰に対しても威勢のいいニシカさんが、どういうわけか大好きなお酒も口にせずに、ひとりの女猟師にいびられまくっているのである。
 マイサンドラはカサンドラの従姉にあたる人物だが、はっきり言ってこの女の印象は俺の中で最悪だ。
 ニシカさんも最悪の気分らしくその顔はとても嫌そうなものだった。

「それで、妹はッワクワクのところに嫁いだ様だけれど、あんたは全裸戦士のところに嫁いだってわけね?」
「お姉ちゃんそうなの?」
「シューターと結婚か。おめでとう」

 何事かッワクワクゴロさんとその奥さんたちがニシカさんたちと言い合いをしているようだけれど、席順の距離が離れているのと雑音が酷すぎて、俺にはあまり聞こえてこなかった。

「ちっ違うまだそういう関係じゃねえ。勘違いしてもらっちゃこまるぜ」

 何かをマイサンドラが口にして、それをニシカさんが拒否して見せる。
 そういえばあの黄色い長耳のお姉さんは、おっぱいが大きかった。あの豊満極まりない胸の事を考えると、ニシカさんの身内に違いないと思ったところだけれど。
 誰も紹介してくれないのでその事をタンヌダルクちゃんに質問してみると、俺のかわいい奥さんは隣の席でニンマリとしながらに説明してくれるではないか。

「ニシカさんの妹さんは、夏に嫁いでいったという話をしていたじゃないですかあ」
「そうだったね確か」
「その嫁ぎ先がゴブリンの親方さんのところだったんですよう」

 わたしも最近知ってビックリしたんですけどね。とヒソヒソと俺に話してくれるタンヌダルクちゃんである。本当に久しぶりに顔を合わせたのだから、かわいい第二夫人のテンションはとても高い。
 正直俺だって右に第二夫人、左に第三夫人と侍らせてお食事をするのだから、嬉しい事には違いが無いのだけれども。

「なるほどなあ。カサンドラの話じゃ、猟師は猟師の家の人間としか結婚できないみたいだから。考えてみればッワクワクゴロさんちとニシカさんちの家で結婚する事になっても当然か」

 ッワクワクゴロさんがニシカさんの妹と結婚していたというのは確かに考えようによっては衝撃の事実だ。
 けど、うちの正妻カサンドラとニシカさん、それにッワクワクゴロさんとオッサンドラが幼馴染だったというのは聞いていた話だし、そうしてみるとニシカさんの妹がッワクワクゴロさんともともと顔見知りだというのも不思議ではない。
 そんな事よりも。
 俺の視線はニシカさん姉妹からふたたびマイサンドラへと戻した。

「マイサンドラが地下牢から出ているという事実が、俺としてはあまり納得できないんですがねえ……」

 この季節に食べてもあまりおいしくない干し芋と野菜をトマトで似たシチューをすすりながら、不満を口にした。
 あの女が擬態の魔法を使うトカゲの親戚ガーゴイルと、サルワタ三〇人殺しを働いた犯人マテルドを倒したという功績があるかどうかなんてどうでもいい。
 カサンドラを辱める様にオッサンドラを仕向けた張本人がマイサンドラなのだ。
 妻を凌辱された原因となった人間に、ニコニコ顔ではいそうですか、なんて顔を出来るわけがないのだ。

「お兄ちゃん」
「何ですかねえ領主さま」
「そんな連れない言い方をしているところを見ると、あの女の事が許せぬ様であるな」
「よくおわかりで……」

 アレクサンドロシアちゃんに咬み付くつもりはなかった。
 ガーゴイル出没がわかった時も、三〇人殺しの事件が起きた時も、アレクサンドロシアちゃんは公務のためにこの村にはいなかったのだ。
 新米村長のギムルを責めるのもたぶんお門違いというものだろう。

 俺は直接ガーゴイルを見たわけではないから判断出来ないが、トカゲの親戚、つまりドラゴンの仲間というだけで相当の難敵なんだろうというのは想像できる。
 俺はワイバーンとバジリスクと戦った事があるんだからな。
 あれを倒すためには、ニシカさんレベルの猟師が味方にいないと厳しいのはわかる。それが無理ならアレクサンドロシアちゃんが選択した様に数を頼みに戦うしかない。
 そして目の前に鱗裂きのニシカや村の猟師親方ッワクワクゴロを育てたという師匠がいるとする。
 たぶん俺でもその人間を利用すようとするだろうし、聞けばッワクワクゴロさんは真っ先にマイサンドラを送り出せと提案したんだとか。
 それは猟師の親方として正しい判断だ。
 だか、気持ちとしてやはり気に入らねえ。

「正直を言えば、わたしもあまり気に入らないのですよう旦那さま。でも、マイサンドラが弟を殺されてわたしたちに協力してくれたのは事実ですから……」
「これは政治であるからの、我慢してもらいたいところだ。ガーゴイルが出没した時、そなたとニシカはこの村におらず、あの女がこの村にいたという事だ。そなたも今は立派な貴族だ、支配者としては鷹揚に受け止めるべきだぞ」

 簡単に割り切れるものではないけれども。
 タンヌダルクちゃんとアレクサンドロシアちゃん、ふたりにそう畳みかけられる様にそう言われては、しぶしぶながら了承するしかなかった。
 しかし教育してやる必要はあるぜ。

「あ? 何だかさっきからこちらを睨み付けているお貴族さまが気に入らないわね。言いたい事があるのならば、ハッキリとモノを言えばいいのにねえ」

 俺が睨みつけていたのに気が付いたのだろう。
 握っていた酒杯をグビグビとやっていた途中でドンと食卓に置いて、ギトリとこちらを睨みつけていた。
 そんなマイサンドラの態度に、一瞬にして食卓が静まり返ってしまったじゃないか。

「お、おいマイサンドラ。ここはシューターの家だぜ」
「そうだ、俺たちは食事に招かれている立場だからそういう事はあまり……」

 困惑した表情のニシカさんやッワクワクゴロさんも、あわてて止めようと小声で注意しているけれども。

「マイサンドラさん」

 落ち着いてください旦那さま、と耳打ちをするタンヌダルクちゃん。
 わかっている。わかっているのだが、ここまで言われれば引き下がるのもね。
 マイサンドラには、マサイサンドラなりの考えや想いがあってこの村を捨てて出たのだ。あるいはオッサンドラの幸せを願っていたのだろう。
 だがね、だからと言ってカサンドラや俺たちの幸せを潰す事は許されない。

 気に入らないと言うなら、ハッキリ言ってやろうじゃないか。

「なっ何よお貴族さま……」
「後で話がある。なあに食事の後で構わないので、少し時間を頂けると幸甚ですねえ」

 さすがに食事会を中断させるのはやりすぎだろうが、謝罪のひとつぐらいはいていただきたいね。
 俺がめいっぱいその意志を眼に宿して見返すと、とても嫌そうな顔をしたマイサンドラは俺から視線を逸らした。

「わ、わかったわ。手短にお願いしたいわね」

 まあ、こういう事は俺も雁木マリで経験済みだ。
 話せばわかる事あるよね、話せば。わかってもらおうじゃないか。

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