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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

間章 サルワタ動乱編

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閑話 サルワタの優しい掟 8

 その夜、最初に付け火のされた村の家屋は冒険者ギルドの施設群だった。
 元々はいくつかの倉庫だったものを、この春の終わりにブルカからやって来た冒険者たちにのためにとギルド出張所の施設へと改装したものだ。
 事務棟と宿泊施設、それから資材を集積していた小さな倉庫とあったけれど、出火したのは事務棟だった様ですねえ。

 せっかく冒険者たちを受け入れるために作ったこの施設群も、少し前にドロシアさまが街からやって来た冒険者たちを疑って大量に解雇したらしいので、今は無人の建物だった。
 それが不幸中の幸いだったのか、やはり不運そのものだったのかは今の段階ではわからない。
 けれどもこの付け火が、人為的に行われたことは間違いなかったのだ。
 そして無人である事がわかっていたので、冒険者ギルドの施設群は後回しにされる事になった。
 だから結果的に全焼してしまった。

 次に付け火が行われたのは村長さまのお屋敷で、最初に出火した場所はお屋敷裏だった。
 村で利用する薪の束がそこにはたくさん積まれていた場所だったので、いったん火が回ると大変な燃え盛ようだった。
 結果的に村長屋敷はあっという間に燃え落ちた上に、火の回りはそこだけに収まらず納屋もすっかり全焼してしまう。
 納屋の中にはブルカ辺境伯の身内でスパイだった助祭マテルドが軟禁されていた場所だ。
 けれども、どうやら助祭マテルドはここから逃げ出してたらしく、焼死体が見つかる事は無かった。
 ここでも死者が出るという事は無かった。

 問題はこの先なのです、旦那さま。
 元村長の下女だったメリアの家、それから冒険者ギルドに娘を働きに出していたふたつの家、酪農家ジンターネンの家、他にもいくつかの家々が燃やされ、そして焼け落ちた。
 これらの家々に共通している事は、なんとなくだけれどすぐに想像できたものだ。

「農家の家々では、若い娘が必ず殺されているのですね……」

 そう。そこでは殺人事件が行われていたのだ。
 ドロシアさまの元下女メリアは体をめった刺しにされた上に、魔法か何かで丁寧に顔を焼きつぶされていたらしい。
 ついでに目撃者は全員皆殺しときたものだ。
 彼女たちはブルカ辺境伯の送り込んでいたスパイの冒険者カムラや助祭マテルドなどと、恐らく深くかかわりのあった娘たちなのである。
 美中年の冒険者カムラは、その容姿と甘言で村の若い娘たちを謀っていたというのは旦那さまから聞いていた事だから。

 夏に連続殺人と付け火があった時には知れていなかった
 ジンターネンさんが関わり合いがあったのは知らないけれど、きっとあのおばさんの事だから何か恨みを買ったのかもしれない。

「明らかに火の周りが早くって、少し離れて立っている建物まで直ぐに燃え広がっただす。おらがいた村でも、隣村のクワズでも去年だか一昨年だかに食料を収めた倉庫で不審なボヤ騒ぎがあっただすけども、そん時も建物が全焼して大変な事になったのを記憶しているだ。ただ人間だけは殺されちゃいなかっただす」

 夜が明けて焼け落ちた家々をぐるりとひと周りしながらわたしが現場検証をしていると、側に付いていたクレメンスがそんな事を口にしながら周囲を見回していた。
 わたしはその言葉を耳にしたところで焼け落ちた家から視線を外し、クレメンスの方を見やる。

「ギムルさんやシエルが殺されなかった事は不幸中の幸いですよう。それに最後に付け火をされたらしいジンターネンさんのお家も、消火が間に合って何とか全焼だけは免れましたからねえ」
「んだす。あすこは、ミノタウロスの兵士さんが詰めている家だったのがよかっただすねえ。それにジンターネンさんは戦士みたいに立派な腕っぷしを持っているから、犯人も殺しにかかるのを躊躇(ためら)ったに違いないだすよ」

 まるで巨大な女猿人間だすからねえ。などと、ジンターネンさんが聞けば棒切れで襲いかかってきそうな事をボソリとクレメンスが言っていた。
 わたしたち村のよそからやって来た人間に、ジンターネンさんは厳しい。
 だからこちらからは出来るだけ近寄らない様にしていたものだけれど、それでもなお新しい移民さんやわたしたち、クレメンスなんかはキツく当たられていた。
 そりゃあ恨みも買うというものです。旦那さまも苦手そうでしたしねえ。

「とにかく生存者がいる事はよかったのです。今、司祭さまが手当をしているのですよね」
「そうだす。今はギムルさんとゴブリンの親方さんが向かっているはずだから、おらたちも急ぎましょうだ」
「少しでも事情が聴けるのはありがたいですよう。犯人を探し出さなくては」

 明け方になって、ようやく全ての火災を消し止める事が出来た頃合い。
 わたしとクレメンスは急ぎ足で教会堂のある建物に向かって歩み出した。
 周囲には居留地からやって来たミノタウロスの兵士や、村長宅に詰めていた戦士たちが駆け周っていた。
 道具を使って貴重品を掘り起こそう試みていたり、付け火そのものは終わっても後片付けするべきことはいくらでもあるのだ。

     ◆

「わたしの家族を襲ったのは、教会堂の助祭さまでした」

 その言葉を口にしたのは村長の使用人だったメリアの妹さんだ。
 豪農として、周辺にいくつもの小作ゴブリンを抱えている裕福な家庭だったらしいのは、煤けてしまっても多少は上等な服を着ている事からもわかる。
 むかしわたしがこの開拓村に嫁いできた頃に義姉さんが着ていたものを考えると、ずっといい服だもの。

「はじめドカンと大きな入り口のあたりからして。何が起きたのかわからなかったのですけど、夜中で寝入ったばかりだし、家族の誰かが寄合から戻って来たのかと思ったのです」

 姉のメリアは自宅から出る事を許されない立場であったけれど、父や家の跡を継ぐ予定の兄などは、近所の豪農たちと定期的に寄合と称する飲み会を開いていたので、その日もそんな事があるのだろうと女は思ったらしい。
 姉のメリアとふたりで寝室を共有していたので、ふたりそろって顔を見合わせたのだとか。

「けれど、どうも様子がおかしくて入り口で激しく争う音が聞こえたんです。わたしたちは恐ろしくなって、急いで寝台の下に隠れようと思ったのですけれど……」

 すると玄関付近で人間の悲鳴そのものの激しい絶叫が聞こえて、たぶんそれは跡継ぎの兄だったのだろうと女は思った。
 次にその声に恐怖を覚えた姉のメリアは、部屋の扉の前につっかえ棒や箪笥を運んだりして、中に誰かが入ってこない様にと行動を起こした。
 女本人はそんな事よりも寝台の下に隠れた方がいいと咄嗟に判断したらしい。

「すぐにも父と母が助けてくれと懇願する声や、女神様と泣き叫ぶ声が聞こえたんです。姉は半狂乱になりながら一生懸命祈り、扉の前でしがみ付いて、こちら近付いてくる悲鳴や怒号をどうにかしようとしていたのですけど。わたしは恐ろしくなって隠れる方を選んだんです」

 寝台の中に身を隠したところで、扉が魔法か何かで強制的に吹き飛ばされたんだという。
 姉メリアはその一撃で扉や箪笥ごと吹き飛ばされたらしく、大きな絶叫とともに床に転がったらしい。
 その後は異臭を放ちながら飛び込んで来た女の足が、隠れた寝台の下から見えたんだと教えてくれた。

「怖かったのですが、何かのやり取りを何度も繰り返して、姉は剣か何かでめった刺しにされました。その後これも女神様の思し召しだからとか何とか、そんな声が聞こえて許してちょうだいと締めくくられたんです」

 最後に魔法で顔を焼かれた姉を見て、次は自分だと彼女も覚悟を決めたらしいのだけれど。

「結果的にわたしは生き残りました。何度も犯人が姉の胸に剣を突き下ろす時、確かに助祭さまの顔を見ました。髪も振り乱していたし、人相も別人みたいに恐ろしかったけれど、声も教会堂で聞いた事のある助祭さまのもので間違いありません」

 助祭マテルドはそのまま姉メリアを殺した後に、炎の魔法と何かの粉末をこの部屋にまき散らしてから立ち去って行った。
 このままでは自分も焼き殺されてしまうと焦りながら、結果的に助かった妹は恐る恐る寝台から這い出すと、姉の死を再確認してしまう。
 廊下では父と母が同じ様になっていて、玄関口あたりでは兄が明後日の方向に首を向けて倒れていた。

「あれは助祭マテルドさまの行いです。女神様の使者である助祭マテルドさまを、村長さまが軟禁していた事に、きっと女神様がたいへんお怒りになったのに違いないのです。そうして女神様が助祭さまを御救いになり、復讐の機会を与えたのに違いありません……」

 虚ろな目をして、診療所の寝台に身を預けていた女はそう言葉を締めくくった。
 治療のためにポーションをこの女に使ったために朗々と話をしていたけれども、何かの副作用があったに違いないのです。
 不気味なほどにはきはきとモノを言う姿は、あまりにも居たたまれないとわたしは感じてしまった。

     ◆

 これと似た事件があちこちの農家で発生したらしい。
 ほんのひと晩で殺された村人の数は三〇人にものぼったというから、夏にあった凄惨な出来事など霞んでしまう様な恐ろしさだった。
 他の生存者からも似た様な証言が得られたけれど、みなさん目撃していたのは助祭のマテルドさんだったらしい。
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