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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

間章 サルワタ動乱編

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閑話 サルワタの優しい掟 7

前回更新分の内容を一部加筆修正しました。
 サルワタの森に分け入ってまる三日。
 狩猟道具を手に取ってそのまま行方をくらましてしまったマイサンドラのその後は(よう)として知れなかった。
 その間も、知らせはまだかとギムルさんは村長としてますます怒りを募らせていたらしい。
 ブルカ辺境伯との駆け引きの中でゴルゴライまで飛び出していったドロシアさまからも、同じ様に連絡が無い。
 あちらは連絡が無いという事は大きな問題が発生していないという事だから、せめてその間にガーゴイルの問題は片を付けたい。
 そんな風にギムルさんは考えているので、ますます焦っているのだそうだ。

「信号に使われる矢笛の知らせも、森の中でガーゴイルと争う様な響きも、この二日まるで聞こえていないという事で、ギムルさまがとても心配されている様です」

 わたしが様子を伺いに村長屋敷に顔を出したところ、すっかり肩を落としたタンシエルがそう教えてくれた。
 村長夫人として嫁いできた先からガーゴイル騒動に巻き込まれて、かつてのわたしの使用人だった彼女も大変なものだ。
 そんな風にお屋敷の裏口で女同士の会話をしていたところ、

「マイサンドラは元々、獲物を仕留めるために単独で長時間にわたって獲物を追いかける狩りのスタイルをしていた。一日や二日で結果が出ればいいが、酷い時は十日でも獲物が油断するまであとをつけ続けるからな……」

 同じ様にギムルさんが心配だったのか、村長屋敷に様子見にやって来てくれたッワクワクゴロさんがわたしたちを見つけるとそうやって説明をしてくれたのだった。

「だ、旦那さまに聞いたことがありますよう。全裸を貴ぶ部族の猟師は、何日も食事を執らず、時にはおトイレも気にせず獲物にじわじわ接近して、風向きや距離などの条件が全て揃うまで、森の一部になってずっとやり過ごすんだって」
「まさに猟師の鑑だな。それこそが森の頂点捕食者らしい狩猟スタイルだ」

 あわててそんな風にタンシエルを慰めてみるけれど、この場には肝心のギムルさんがいないのだから、何を言っても意味が無かった。
 同意を示してくれたゴブリンさんのすぐ横に視線を送ってみると、

「あの、そちらの女性は?」
「はっはじめまして。ッワクワクゴロの妻シオですっ」

 タンシエルが怪訝な顔をしたところで、その女性があわてた様に頭をペコリと下げて自己紹介をした。
 青味がかった黒髪に黄色い肌、それに長耳をしている姿はニシカさんを思わせるものだった。
 それにおっぱいが大きい。
 ニシカさんほどではないけれど、わたしたちミノタウロスと比べても遜色の無い大きさなものだから、わたしもタンシエルも何だか急に親近感が沸いてくるのだった。

「こ、こちらこそ。わたしはこの度、野牛の居留地からこの村に嫁いできたタンシエルと申します」
「タンシエル村長夫人さま。どうぞよろしくお願いします」

 両手を前で組んでおじぎをするふたりを見ていると、おっぱいが強調されるものだから、この場に旦那さまがいなくてよかったと思ってしまった。
 旦那さまは世の男とは違い、おっぱいばかりジロジロ見るひとですからねえ。

「お前たち、屋敷の裏で何をしているのだ! 用事があるのなら中に入って来い」

 すると執務室の窓から外を見ていたらしいギムルさんがこちらに気が付いたらしい。
 身を乗り出してひと声かけてくださったので、わたしたちは執務室に向かう事にした。

「ギムルさまもああ仰ってますから、すぐにもお茶を用意しますね。さあ中へ」

     ◆

「もう三日だぞ。期限を切らずにマイサンドラを送り出したことは俺の失敗だったかもしれない」

 難しい顔をしたギムルさんは聞いた通りに不機嫌なご様子で、肩を怒らせながら安楽イスに座って腕組みをしていた。
 何となく、不機嫌な時の顔や仕草がドロシアさまに似てきたような気がする。
 血の繋がりはまるでないと聞いていたけれど、やっぱり一緒に生活していると親子になってくるのですかねえ。
 そのうちバジルちゃんが旦那さまみたいになったらどうしましょ。

「しかし猟果というものは焦って結果を出せるものではないからな。俺はあれでよかったと思うがね村長さんよ」
「ご領主がお戻りになるまでにガーゴイルを仕留めておかねば、村長として俺の顔が立たん。この非常時だ、アレクサンドロシアさまの御心を煩わせるわけにはいかないのだ」
「持って行った非常食はせいぜい五日ばかりの事だ。食糧をやりくりしながらその先しばらくは獲物の追跡をするという事はあるが、それでも待って帰ってこないのであれば見に行くというのならば同意するがね」

 ゴブリンさんの反論を聞いて、ギムルさんは唸る様にして言葉を引っ込めた。

「ギムルさんはどうもドロシアさまに良いところを見せたいのか焦り過ぎですよう。シエルも大変ですねえ……」
「焦ってもはじまらんだろう。前の村長さまも激情家の癇癪持ちだったが、そんなところばかりが義親子でそっくりだ」

 わたしとゴブリンさんがソファに座ってこそこそと会話をしていると、目敏くギムルさんにギロリと睨まれてしまった。

「ならば今夜になっても戻ってこないのであれば、明日様子を見に行くことにする。もしもマイサンドラがガーゴイルにあべこべにやられてしまっていては、待っている間の時間を完全に無駄にしてしまう」
「ううん。俺としてはマイサンドラがしくじる様な事は想像できないんだが。どうしても様子を見に行くというのならば大人数で行くのは絶対に駄目だ」

 下手に人数を頼みに森の目撃場所付近に足を踏み入れて、それが結果的に隠れて餌を待っているガーゴイルを逃がしてしまう様な事になれば。
 間違いなくマイサンドラは激昂して、ギムルさんに食ってかかるだろう。
 ついでにガーゴイルはまたどことも知れず森の中で擬態魔法を使って潜伏してしまう。

 しかもギムルさんが自分の目で確かめると言い出すと一番厄介ですよう。
 そういう雰囲気を感じ取ってわたしとッワクワクゴロさん、それにタンシエルが互いに目配せをする。
 ギムルさんが行くとなれば、その護衛のために村の警備責任者のわたしも行く事になりそうだし、そうなるとギムルさんを守ると言ってタンシエルも志願するかもしれない。
 これじゃ少人数にはならない。

「少人数で、マイサンドラの足取りを追ってみる事にするか。シオ、お前は付いてこい」
「わ、わたしで役に立つかな?」
「姉譲りのお前の強弓は当てに出来るから、いざという時のために必要だ。ふたりでマイサンドラの足取りをしばらく追ってみるので、村長それでいいな」
「……わかった、それでいい」

 ゴブリンさんの提案にギムルさんもようやく納得した様だった。

     ◆

「ねえッワクワクゴロ、マイサンドラさんは本当にガーゴイルを仕留めて村に戻ってくることはできるかな?」
「俺にはあの女が失敗する姿はちょっと予想できないな。何しろお前の姉ちゃんですら、狩りの腕では及ばないと口にしていたぐらいだ」
「姉さんが? ちょっと信じられないな」
「ニシカは魔法が使えるから確かに強いだろうが、マイサンドラは魔法が使えないぶん時間をかけて追い詰めて、絶対に無理をしないで最後には仕留める。そういう執着があるからな。ニシカなら自分ひとりでは無理だと思えば、案外にあっさりと引き上げて来るヤツだ」
「そうなの? じゃあッワクワクゴロより凄い?」
「経験だけなら俺ではさすがに比較にならんだろうぜ。俺とシオ、ふたりあわせてようやく……」

 それぞれの家への帰り際。
 そんなやり取りをッワクワクゴロ夫妻がやり取りしているのを後ろからわたしは目撃した。
 礼儀はニシカさんと違ってしっかりしているという印象があったシオさんだけれど、きっとふたりきりの時はこの話し方が普通なのですよう。うふふ。

「うおほん、まあ明日の朝になってもマイサンドラが戻らない時は、俺たちふたりが森に入る事にする。その際はギムルの旦那が暴走しない様にタンヌダルクにはお目付け役をお願いしたいと思っている」
「わかりましたよう。おふたりも無理だけは絶対に駄目ですからね」
「もちろんだ。俺たちはニシカでもマイサンドラでも無い事をちゃんと心得ているからな」

 急に恥ずかしくなったのですかあ?
 ふたりはそろってちょっとうつむき加減になりながら、顔を赤らめいそいそと引き上げていった。
 今夜はきっとお盛んですねえ。

     ◆

 けれども、お盛んにはならなかったと思う。
 早めの夕食を済ませてお風呂を先に頂いたわたしは、いつの間にかまるで奉公人みたいにしているクレメンスが夜の戸締りを終わらせたという報告を聞いたところで、就寝する事にしたのだけれど。

 わたしとバジルちゃん、ふたりだけで贅沢に大きな寝台に横になったところで、ほんの少し前に報告に顔を出していたクレメンスが飛んで知らせを持ってきたのだ。

「奥さま、奥さま大変だす!」
「何があったのですクレメンス、アンギッタは寝つきが悪いので静かにしてもらわないと困るのですよ」

 寝室の扉の向こう側。
 くぐもった旧主従のやり取りを聞いたところで、わたしは就寝時にいつも寝台脇に潜ませていた懐剣を引き寄せながら立ち上がった。

「キュイ?」
「あかちゃん起きますよう。クレメンスが何か良くない知らせを持ってきたみたいです……」

 ついつい緊張から押し殺した声になりながら、ネグリジェの腰にベルトを巻いて懐剣を差す。
 どうしてもこれだけでは心が不安になったので、気持ちを落ち着かせるつもりで旦那さまのメイスも手に取ってみた。

「奥さま、タンヌダルク奥さま。村長さまから知らせが来ています、起きてください!」
「何事ですか。わたしは起きていますので、落ち着きなさい」

 扉を開けると血相を変えたクレメンスが、荒い息を繰り返しながらわたしを見上げている。

「付け火ですだ! 冒険者ギルドに火が回ったのを皮切りに、村長のお屋敷や豪農の家や他の家でも次々に火の手が回っていて、大変なことになってるだす!!」
「村長のお屋敷にまで? とにかく落ち着きなさい、ギムルさんとタンシエルは無事なの?」
「んだす。村長さんは今、あわてて使用人や詰めてる戦士たちと火消しをやっているだども……」
「村の幹部にはその事をもう知っているのですか? すぐに村の幹部に知らせて回るのです」
「ハァハァ。ここへはタンシエルさまが知らせてくれたんだども、ゴブリン親方さんのところにはまだ」
「わたしは構いません、とにかく知らせをッワクワクゴロさんに! そこから手分けして村のみなさんを起こして回るのです!」

 わかりましただ。と返事もそこそこに飛び出していったクレメンスを見送ると、すぐにオロオロとしているアンギッタを見やった。

「アンギッタ、井戸から水を汲んできてくれますか!」
「わたしがやるのかしらタンヌダルクさん? わたしは騎士爵の娘、場が場ならお姫ですよ?」
「あなたは人質なのですよ。馬鹿な事を言っていたら、火に呑まれて逃げ遅れても助けませんからね!」
「それは困るわタンヌダルクさん。井戸はどこかしら、水を汲んだらどうすればいいの?」
「頭からかぶって、火災現場に向かうのですよう! ご自分が被ったら、わたしの分も持って来なさい!」

 いつまでも口論している場合ではないので、わたしはアンギッタおばさんを無視すると先ほどまで持っていた武器を放り出して、すぐにもお屋敷の外に飛び出す。
 気が付けばバジリスクのあかちゃんも、ちょろちょろとわたしの後を追って足元を走って付いてくる。

 外に出た時。
 そこには夜の帳で本来ならば星空だけが輝いているはずの村の景色は、明々と火の手によって照らされたいくつもの家屋が浮かび上がっていたのだ。
 村長のお屋敷、豪農のお屋敷、それから今はがらんどうになった冒険者ギルドの建物と、いくつかの倉庫のあった方角も燃えている。
 旦那さまのお屋敷が燃やされなかったことは不幸中の幸いだったけれど、このまま手をこまねいている場合ではない事は間違いない。

「どうしましょう旦那さま。まだみんなは火事に気が付いた様子が無いのだわ……」

 足元で不思議そうに顔をこすり付けて来るバジルちゃんを見た時、わたしは急いで抱き上げて見せた。

「あかちゃん。義姉さんの助けを呼んだ時みたいに、大きな声で鳴いてみなさい」
「キュイ?」
「ママのためですよう。ほら、後で足をいっぱい舐めさせてあげるから、お願いします!」

 あかちゃんにこの言葉で伝わるのだろうか。
 わたしは必死になってバジルちゃんに訴えかけると、あかちゃんがコクリと頷いて見せた様な気がした。

 付け火があった事は間違いない。
 ただの家事ならどこかひとつが燃えればいい事で、それなのに村のいくつもの離れた家屋が燃えている。
 村長のお屋敷に、豪農の家、冒険者ギルドや倉庫群という事は、どれも村にとっては重要な建物ばかりなのだ。
 陽が落ちればすぐに寝入ってしまうこの開拓村の人間は、きっとまだ大多数が付け火があった事に気が付いていないのだ。
 タンシエルやッワクワクゴロさん夫妻の手を借りて村人を起こしてもらっていたのではとても時間が足りない。
 少しでも早く火を消さなくっちゃ……
 さあ、あかちゃん。ひと思いに方向をするのですよう。

「ギュイイイイイイイイイ!」

 そんな風に心であかちゃんにお願いした次の瞬間。
 その犬ほどの大きさしかない体のどこから声を出したものか、耳をつんざく重たい方向をバジルちゃんは口にしていた。
 これで間違いなく、村や周辺集落の隅々にまで村に異変があった事を知らせてくれるはず。

「タンヌダルクさん、タンヌダルクさん。お水持って来ました」
「これっぽっち! でも無いよりはマシですね。行きますようおばさん」
「お、おばさん……!」

 隣で騒ぐアンギッタおばさんの言葉なんかには構わず、わたしはあかちゃんを抱きしめたままとにかく村長屋敷に駆け走った。
 ここでギムルさんが死んでしまう様な事があれば。
 それこそ村の警備責任者として騎士夫人のわたしは旦那さまにも、ドロシアさまにも顔向けができない。

 何で旦那さまがお留守の時に、次々と問題ばかり起きるのですかぁ!
 これも旦那さまとの愛を深めるための試練なのですかぁ?!
「閑章の継続についてお詫びと今後」という内容の活動報告を掲載しました。
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