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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

間章 サルワタ動乱編

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閑話 アレクサンドロシアの野望 風雲禄 7


「俺からあんたたちにしてやれる事はここまでだ。俺はあくまで仲介人だからな、これ以上の肩入れは公平性を欠く。双方開戦となった場合も基本、国王陛下の兵団は中立を保つものだ、アテにはしてくれるなよ」

 公正明大な事を自認しているタークスワッキンガー卿は、そんな言葉を口にして会談終了を宣言した。
 王国の兵団が中立の立場であると言質を取れた事は重要な意味がある。
 けれども、これを機会に開戦時期を探るためのチャンスは、失われてしまったようだ。

「……まいったの。まんまとブルカ伯の徴発に乗ってしまった」

 会見場を後にすると、今更にして天井を仰ぎ見ながらため息がこぼれてしまう。
 剣を抜くつもりなどは、会談を自ら不意にしてしまう様な行為である。
 しかし売り言葉に買い言葉、あのオレンジハゲのじじいの挑発に乗せられてしまったのは事実だ。口惜しいのう。

「これで開戦の時期が一段と速まってしまったのではないか。わらわの外交使節(お兄ちゃん)が辺境諸侯を取り纏めるのが早いか、あのオレンジハゲが戦支度を整えるのが早いか。恐らく連合軍を結成する時間の猶予はないかもしれぬ」
「しかし、あのブルカ伯の自信。何か裏があると余には見えたぞ」
「……自信か。すぐにも領地に戻り、兵力を総動員するべきであろうかの」

 控えの間のすぐそばまでたどり着いたところで、こちらに向かってカーネルクリーフどのが声をかけて来る。

「いやそれは早合点だ。いち度戦力を集結させてしまうと、著しく兵站を消耗させてしまう。時期を見誤ればいざ開戦となった時には、即応状態に置かれていた兵たちが疲弊しているという事になる」
「確かに、非常事態を宣言して根こそぎ戦士に使える者を動員してしまえば、領民の農作業は停滞してしまう」
「余らの様に領地経営から切り離された、純粋な意味での軍隊たる騎士修道会はまた別の話だが、諸侯の領軍にとって、そこは切っても切り離せない問題だからな」

 季節は晩夏に差しかかっており、これから秋分の祝日を迎えるまでの日々は農民どもにとって重要な収穫時期でもある。
 芋、夏麦、トウモロコシなど、主たる収穫物を捨ててまで出来る動員ではないのだ。

 けれどもそれは、わらわにとってそうであるように、オレンジハゲにとっても同じ条件のはず。
 そう思って剣に映り込んだ自分の顔を見やった時、ひどく不機嫌なわらわの表情がそこにあった。
 お兄ちゃんが諸侯を纏め上げているのだ。
 その外交努力を無駄にしないためにも、戦略を見誤ってはいかん。

「だったら、わらわにわざと戦争準備を急がせて、わが軍の疲弊を誘っていた行動とみるべきだな。豪快なオレンジハゲの爺かと思えば、なかなか姑息な事をするではないか」
「余の見たところ、あの余裕には何か別の自信がある。ブルカ伯の行っている物資の買い付けは、今も市場を混乱に導いている。となれば、今のブルカ伯にはまだ戦争をする余裕などないはずだ。アレクサンドロシア卿を、何か釘付けにする切り札を持っていると見るのがいいだろうのう」

 ふむ、釘付けか。
 何かしらわこちらを翻弄させるだけの切り札。
 まさかお兄ちゃんを暗殺する、などという事はないだろうか。
 それをされたら、お兄ちゃんを軸に出来ている血縁同盟はあっさりと崩壊する。
 だが、それはまあ心配しすぎかもしれない。

「切り札か。それがわかっただけでも、今回の会談は意味のあるものだったんじゃないかとわらわは思う」
「余が思うに、ブルカ伯軍が戦の準備を整え終わるのは、早くても十月頃だろう。ミゲルシャール卿も戦場を知らぬ者ではないから、戦支度も整わないうちに無理な攻め方はしない。貴公もゆめゆめ早まらぬように」
「わかっている。こうなってはシューターからの知らせが待ち遠しい……」

 もっとも頼りになる戦力が辺境諸侯の連合軍を創れるか否かで、そしてお兄ちゃんだ。

「シューター卿の働きには、是が非でも期待したいところだ。進捗はどの様なものかな?」
「近くリンドルの御台マリアツンデレジアが、近く辺境諸侯を招いて会合を開こうと提案していると聞く。そう言う流れになれば、諸侯が軍勢をひとつにまとめるだろう。わらわも出席せねばならん」
「その時期が戦争に間に合えば、互角に持ち込めるというものだ。その折にはガンギマリーと騎士修道会をよろしくたのみますぞ」

 余はブルカに残らなければならないのでな。カーネルクリーフどのはそう言って、皺深い顔をゆがめて笑った。
 廊下の窓を見やると、確かに陽は大きく傾いて赤く染まりつつある。
 今夜は修道院で一拍をした後、明日は直ちにゴルゴライへと引き返す事になるだろう。

     ◆

「それで、アレクサンドロシアさま! ブルカ伯というのはどんな男だったんですかあ?!」

 わらわは今、修道院近くにある街道沿いの村の酒場にいる。
 酒に酔った護衛のエレクトラは、景気よく小樽に入ったビールを呑んでは、絡む様にわらわに話しかけて来るのだった。

「ハゲたオレンジ髪だ。六〇過ぎだが、見た目は四〇絡みの脂ぎった男だな」
「ハゲてるのに長髪なんですか? ハゲてるのに?」

 こんな事で本当に護衛が務まるのか怪しいものだが、大きな声をしてそう質問したエレクトラは、ダイソンの頭頂部を見て笑い出した。
 何で俺を見るんだと不快そうにダイソンが抗議したが、エレクトラは笑うのをやめない。
 そんなふたりを無視する様に、タンクロードがわらわに言葉を投げかけて来る。

「それで蛮族の大領主との会談はどうだったんだ、ご領主よ」
「まあ、ヤツのひととなりはわかった。見た目は豪快そうだが狡猾な男だ。さすがに年を食っているだけはあるな」
「フンス、蛮族ならばさもありなんだな。計略好きの男だからご領主も気をつけねばなるまい」
「どうだろうの。あの男は狡猾ではあるが、計略を使っているのは別の部下であろう。細かい事は気にしないタチに見えた」

 タンクロードはあまり酒に酔うタイプではないらしく、ふたりの冒険者あがりの部下に比べればそこは安心できる。
 とは言っても、わらわの囲んでいるテーブルの周辺にいるのは野牛の兵士ばかりだった。

「その計略好きの部下がツジンか?」
「ツジン、あのスルーヌで暗躍していた男は怪しいな。ヤツの側近という事は証言が取れておるし」
「だが会談の場にいなかったのであれば安心だろう。今もこれだけの兵士がいるのだからな」

 街道沿いというだけはあって、この村には宿屋や酒場がいくつか存在していた。
 会見場となったシャブリン修道院だけでは四軍が引き連れてきた兵士すべてを収容する事は当然無理だ。
 野営の準備はしていたけれど、修道院側がわらわたち指導者たちの食事だけは、食堂で用意するという話だったのだ。
 しかし、その場でブルカ伯ミゲルシャールの顔を見ながら食事をする気分にならなかったわらわは、主だった部下たちを引き連れて酒場まで食事をするために村へ顔を出したのである。
 ここならば個室もあるし、見たくもない顔を鑑賞する必要もない。
 少しでも気を休める事が出来ると言うものだ。

「だが、下の階を見れば王国の兵士たちの一部も村の酒場まで顔を出している様だからな。中立を保っている連中を相手に喧嘩沙汰になる事だけは勘弁してもらおうか」
「フンスッスッス、その様な事をするのは蛮族だけだ。ご領主、酒が進んでいないぞ、さあ呑むがよろしかろう!」

 タンクロードは豪快に笑うと、こちらの酒杯にぶどう酒を並々と注いだ。

「わ、わらわの事は気にするでない。お前たちで存分に呑むとよい」

 普段のわらわは、喉の渇きを満たす程度にしか酒を口にする事が無かった。
 村長であるという責任を感じていたのもあったが、ひとりでちびちびやっていても楽しくはないというのもあった。
 そもそも義息子は酒癖が悪いので、あまりわらわの前で呑ませていない。そうすると当然、母親としても呑みにくいのだ。
 少しでもいい母親でいたいものだからな。

「俺たちゃもう呑んでますよ! 戦争前だ、景気よくいこうじゃねえかっ」
「あんたは呑み過ぎだ。そんなんで護衛が務まると思ってるのかい……」

 まったく、ダイソンの酔い方はエレクトラの言う通りである。
 さすがにこれ以上は明日朝一番の出発に差しさわりが出るという事で、一同は修道院に引き上げる事になった。
 しかし暑さからか、わらわも少し酒を飲み過ぎてしまったらしい。

「お前たちはこの金で支払いを済ませておいてくれ。くれぐれもタンクロードは、男気など見せて例のミノ銅貨を出さぬようにな、あれは王国では使ってはならない私鋳貨幣の扱いになる」
「わかったぞご領主。おいダイソン、お前は腰の鍛え方が足らん」
「アレクサンドロシアさまはどちらに?」
「わらわは用を足しに行ってくる。表ででもしばし待っておれ……」

 そう言って部下たちに後を任せたわらわは、少々ふわふわした気持ちのままテーブルを立ち上がると、便所を探して個室を出て、廊下を歩きだした。
 酒場では、階下の喧騒がここまで響いてくる。
 どうやら非番の王国兵士だけではなく、修道騎士の一部もここに顔を出しているのかもしれない。

 街道沿いのそれほど大きくもない村にある便所は、やはりわが開拓村と違いなくただの壺が置かれているだけであろう
 これが王都であればその様な事も無いのだが、さすがにその様な贅沢は望めない。
 通路の奥にある便所にたどり着いて、ドレスの裾をつまんで中に入ろうとしたところ、

「おっと済まねえな、先に用を足させてもらう……ぜ?!」

 そこには先客がいた。
 オレンジ色の長髪のハゲ頭の脂ぎった男だった。

「て、手前ぇは売女騎士ッ」
「こらっ貴様、こちらに振り向いてまき散らすではないわ!」

 そこには酔って顔を真っ赤にしたブルカ辺境伯ミゲルシャールがそこにいたのである。
 どうしてこの場に貴様がいるのだ!
 わらわは混乱した。

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