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異世界に転生したら村八分にされた 作者:狐谷まどか

間章 サルワタ動乱編

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閑話 アレクサンドロシアの野望 風雲禄 5

本日二回目の投稿です!

 目撃情報のあったナメルシュタイナーの消息を追ってゴルゴライ領内に非常線を構築していた頃。
 ブルカにある騎士修道会の本拠地たるブルカ聖堂では大きな問題が立ち上がっていた。

「横死した修道騎士モンテパルロの処遇を巡って、修道会の本部が紛糾しております」

 そう知らせをもたらしたのが、総長の副官という立場にある修道騎士スウィンドウ卿であった。
 総長カーネルクリーフどのとの会談の折にも、常にその傍らに会ってよく総長を補佐していた記憶があり、今回もまた緊急事態に際して総長の言葉を直接に伝えるべく、ゴルゴライの領主館を訪れていたのである。

「しかも一方の人間がサルワタ出身のゴブリンであるからな。どういう方法を使ってッオットッノを味方に引き入れたのかは知れぬが、ミゲルシャールめの悪行は見過ごせないレベルになったと言える」

 安楽イスに座ったわらわを前にして大きくため息をついたスウィンドウ卿は、苦い顔のまま次の言葉を口にする。

「カーネルクリーフさまは大変なお怒り様です。もともとブルカ辺境伯が修道会との様々な協定を無視して、娼館との秘密裏の娼婦供給源となっていたり、町医者の奨励活動などを行い修道会の存在意義そのものを否定するような態度を繰り返していました。しかし、ここに来てその専横は眼に余るものがあります」

 昔からミゲルシャールという男が信用ならない私利私欲を求める人物であったことは違いない。
 しかし、これまでは少なくとも見えない場所でそうした態度をしていたのだ。
 ここ来てブルカ辺境伯の地位と実力が絶対的なものになり、相対的に周辺の領主たちが追いつめられた立場になったので、行動がより大胆になりはじめたという事だろうの。

「ブルカの市場では、堂々と食糧や武器の買い漁りによる大幅な物資不足に陥っています。これは間違いなく戦争を準備して資材の備蓄に入ったと見ていいでしょう」
「こういう場合、普通は戦争準備を悟らせぬために徐々に買い占めを行うのが筋であろう。それをしなかったという事は、ミゲルシャールめは上手く中央で有力な大物貴族を手なずけたのだと見てよいだろうの」
「はい、カーネルクリーフさまも同様のご意見を口にしておいででした。本土にはわれわれ騎士修道会とは別の修道会がいくつもありますが、そのうち総長が親しくされている修道会の首座さまからも、金を使って有力貴族を黙らせたのだという噂をお知らせいただいております」

 すると、本土西の国境から引き上げ始めていたブルカの軍勢は、そろそろ本拠地たる辺境伯領に帰還すると見ていいだろう。
 戦争の秋は近い。

「一触即発の事態だな。それでカーネルクリーフどのは、どうなさるおつもりなのか」
「ブルカ辺境伯に抗議を行うと、強い態度に出ておられます」
「抗議を行う、ふむ。具体的にはどうなさるおつもりかの。書簡を送りつけて遺憾の意を示したところで、今更ミゲルシャールめが抜いた剣を治めるとも思えぬ」

 わらわはよほど胡乱な眼をしていたのであろう。
 スウィンドウ卿は苦しい顔をしてひとつ咳払いを溢すと、

「直接、会談をして事の是非を問いただすご意向です。つきましてはアレクサンドロシア準女爵さまにも、会談に参加していただきたいとのお言葉です……」
「……会談か。ただの会談で終わらぬ可能性もあるぞ、それでもカーネルクリーフどのはやるおつもりなのか」
「はい。実は、ブルカには王国の兵団が駐屯しておりますが、その兵団長を務めておられるタークスワッキンガー将軍が仲裁役を買って出られました」
「王国の将軍が仲裁役だと?」

 ブルカには辺境開拓の当初から王国の兵団が駐屯している。
 ここには辺境諸侯のうち貴族軍人の家系にあたる子女たちが、十歳の成人を迎えると騎士見習いとして入営する慣習があった。
 若い頃にここで数年ほど軍事教練を受け、軍略の基礎と体力錬成に励んだものである。
 けれども、辺境に長く駐在する王国本土出身の将軍ともなれば、その思考は当然ながら辺境寄りのものになるのではないか。
 そして辺境で声の大きい者と言えば、当然の事ながらブルカ辺境伯という事になるのだ。

「その者は信用なるのか、タークス何某(なにがし)は」
「ワッキーンガーです。ワッキンガー卿は長らく本土の要衝を守って来られた方で、また少し前には王都の警衛も務められ、少なくとも我々よりは中央に対する政治向きの事には明るいと思います」
「つまり経歴を見ても、中央の貴族どもに顔が利くというわけか」
「また、王都に流れる噂が本当であるなら公明正大な方だと」

 腕組みしながら考えてしまう。
 もともと、権力闘争に明け暮れる宮廷貴族たちの有様を嫌って、わらわはそれを避けてきたところがあったのだ。
 だからその、タークスワッキンガーという将軍について知識が無かった。

 ここにくると、自分が中央に伝手をあまり持っていないことが悔やまれてしまう。
 頼れるべきものは頼る。しかしそれにあまり拘っていては足元を掬われることになる。
 オコネイルやカラメルネーゼは、貴族軍人時代から親しくしてきた人間だ。
 ふたりともその伝手はあるだろうが、今オコネイルはセレスタの領主であり、カラメルネーゼは奴隷商人として商流開拓のために長く本土を不在にしていた。

 頼れるならば、頼るのが一番なのかもしれんな……

「それが事実ならば、これは乗ってみるのも手なのかも知れぬ……いや、会談や伝手を使う事に失敗したところで、こちらは時間稼ぎが出来るならばそれはいい。わらわの外交使節(お兄ちゃん)が何としても辺境諸侯たちを担ぎ出して、連合軍を組織し終わるまでの時間が手に入れば問題ないのだ」
「その点はカーネルクリーフさまも同意されているので、ワッキンガー卿の提案については時間稼ぎになればそれでいいと」
「フン、そうか。総長どのが同意するのならば問題ない。だがブルカに出向いてみれば、ミゲルシャールめに暗殺でもされたらかなわんぞ?」
「辺境一の武辺をうたわれる守護聖人シューターどのほどではございませんが、その点はわが騎士修道会の精鋭をもって道中お守りいたしますので、ご安心ください」
「そ、そうか。ならばわらわは何も申す事はない……」

 わかったと頷いてみせると、ホっとした表情で修道騎士スウィンドウ卿が胸をなでおろしていた。

「しかし、お前たち騎士修道会はブルカに駐屯しているであろう。いざブルカ辺境伯軍との戦争になれば、最初に狙われる事になるのではないか」
「はい、その点を考えまして、アレクサンドロシア卿をゴルゴライに送り届ける際に、いっそ主力となる騎士隊をゴルゴライに向かわせようと総長さまは考えておいでです」
「なるほど、では残った連中はどうするつもりなのだ?」

 考えたものだが、騎士修道会と下部組織であるブルカ聖堂会の人間全てを、このゴルゴライに連れだす事などは不可能と言うものだ。

「騎士修道会もブルカ聖堂会も、宗教団体として最低限のやるべきことがございますので、これは仕方がありません。カーネルクリーフさまが残る形になり、ガンギマリーさまが代理の指揮官を務めてくれればよいと」

 聞けば、武装教団の本領たる騎士隊主力が、あくまでも勝手に辺境諸侯連合軍に加わったという形式をとるつもりらしい。

「だがそれは所詮、方便と言うものだろう」
「はい。ですから総長であるカーネルクリーフさまが残る必要があります。総長は、ご自身が引責する事になったとしても、これ以上ブルカ辺境伯の修道会に対する手出しは見過ごせないという断固とした態度ですから!」

 徐々に熱弁の色を帯びてきたスウィンドウ卿の言葉に、わらわは待ったをかけた。

「……もうよい、わかった。それでいつ、その会談は行われるのだ」
「明後日、ブルカ領とゴルゴライ領の間にある修道院で行う手はずになっています。場所はわれわれが提供するものですが、会場の警備は王国のブルカ兵団が担当しますのでご安心を……」
「そうかわかった。帰って、わらわも野牛の軍勢を引き連れてまいるとお伝えしてくれ」
「ははっ、それでは明後日お迎えに上がります!」

 よほどわらわが気難しい性格と思っておるのだろう。
 修道騎士スウィンドウ卿は返事を聞いたところで、ようやく安どの表情を浮かべてこちらを見た。

     ◆

 紅のドレスの上から、貴族軍人時代から愛用し続けてきた甲冑を身に付ける。
 現役時代の頃から考えれば、ずいぶんこの甲冑もわが身に重く感じる様になったものだ。
 その上から、高貴な身の上であることを示す特上のマントを羽織った。
 マントはわざわざ、野牛の一族が仕立てた金の刺繍が入った逸品だ。
 野牛の角を意匠にしたそれは野趣味に過ぎるという向きもあるだろうが、しかし繊細な仕上がりは、かえって凄みを与えるやもしれぬ。

 愛馬を駆るわらわの背後を、揃いの甲冑を着こんだ野牛の兵士ども一〇〇名が続いている。
 先頭をエレクトラが、左右をダイソンと族長タンクロードが固める。
 街道の遥か向こうには騎士修道会を示す軍旗をはためかせる修道騎士たちの姿が見えた。
 こちらを迎えに来た騎士隊の連中であろう。

「まもなくわがゴルゴライの領地を抜けます」
「うむ……」
「ここを一刻ほど向かいますと、修道院のあるという場所ですね。予定通り領境まで騎士隊のお出迎えがありました」
「大儀である」

 気が付けば自然と口元に笑みが浮かんでいた。

「そうか……」
「どうされたご領主?」
「ん。何でもない」

 タンクロードがかけた声にわらわは何気ない風に返事をする。

「者どもよ、われらサルワタの軍勢が侮れぬものであると思わせねばならぬ」
「応ッ!」
「会談の場所までは、威風堂々と胸を張って進軍するがよい」
「「「応ッ!」」」

 これより、カーネルクリーフが弾劾のために用意した会談という舞台に向かうのだ。
 それは辺境の雄と呼ばれたブルカ辺境伯ミゲルシャールめが、このわらわを認識したという事に等しい。
 ヤツの顔を拝んでやろうではないか。
 サルワタの売女騎士と侮り、わが領地に手を出したことを死ぬほど後悔させてやるのだ。
 せいぜい会談でのらりくらりとしておればよい。

 最後に笑うのがどちらであるか、人生を賭すのも悪くない。
 のう、お兄ちゃん?
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